欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二三五話 塔下の攻防戦

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「決して退くな!」

「おぉぉぉぉ!!」


 群塔の下では苛烈な攻防戦が繰り広げられていて、そこかしこから兵達の声が聞こえる。
 この戦闘地域を任されているのであろう兵が、血に濡れた剣と甲冑を揺らして檄を飛ばす。
 武装集団がどれほどの規模なのかは分からないが、かなりの人数が攻め立てているのだろう。
 敵の中には魔法を行使する者もいるらしく、次々と前線に撃ち込まれている。
 前線とは言っても既に陣形は無いに等しく、アストラと出会ったあの広場のような乱戦具合だった。

「フィガロ様! 本当にここで宜しいのですか!」

 走る速度を緩めず敵の背後にぶちかましを掛けながらアストラが吠える。
 ぶちかましを受けた敵はバランスを崩してつんのめり、その隙を逃さずアストラの剣が首を跳ね飛ばした。

「はい! 大丈夫です! 先導ありがとうございました! すぐ離脱を!」

「何を仰いますか! ここで退いてはロンシャン機動歩兵部隊長の名が泣きます! 最後までご助力させて頂きましょう!」

「分かりました! 心遣い感謝です!」

「さあてさて、狙う必要なんてないなこりゃ。そりゃそりゃそりゃ!」

「お師様は余裕そうだけど味方に魔法をぶつけないようにするって、結構難しいんだよ、ねっ!」

 ロンシャン王城はかなりの敷地面積があり、今いる群塔付近だけでも数百メートルの横幅がある。
 その敷地をめいいっぱい使って乱戦しているため、リッチモンドが言う通りピンポイントで狙うのは至難の業だと思う。
 だがクライシスはそんな事はお構い無しと魔法の雨を降らせている。
 クライシスのロッドから射出された一五本の氷槍は一度空へと舞い上がり、狙いを定めた鷲のように敵へ襲いかかる。
 リッチモンドも負けじと魔法を放つも、やはりコントロールが難しいのか三本の岩槍のみで敵を撃ち抜いている。
 しかし敵も黙って殺られるような者達ではないようで、魔法障壁を張ったりギリギリで避けてみせたりと、中々に手練揃いのようだ。

「敵追襲! 魔法を使ってくるぞ! 障壁隊! 気を抜くな!」

 武装集団の中からそんな声が響いた。
 俺達の事を言っているのは間違いないのだけど、なんだか統率の取れた者達のように感じるのは気の所為だろうか。
 声が響いた途端、武装集団の動きがこちらを意識したものになり、クライシスやリッチモンドが放つ魔法が防がれ始めてきたのだ。
 少なくともただのならず者というわけじゃ無さそうだ。
 背後を強襲したおかげか、初手で結構な敵を減らしたと思ったのだが。

「【ファーストエイド】」

 敵の中に治癒魔法を使う術者がいるのだ。
 一人二人ならまだしも、五人に一人くらいの割合で存在するようで、生半可な攻撃はすぐに回復されてしまう。
 それはつまり、確実に命を奪わなければ駄目ということだ。
 明確な殺意を持って立ち向かう、殺らなければこっちが殺られるだけ、覚悟を決めなければならない。

「行きます!」

 マナアクセラレーションを全開にし、全感覚を研ぎ澄ます。
 爆発、悲鳴、魔法、多くの足音、剣戟の音、剣が、槍が、斧が、棍棒が振り回され、その都度命の灯火が揺れ動く。
 目指すは一番近くにある塔、入口には多くの敵味方がいる。
 抜き身の剣の柄を強く握り剣先を地面と並行にして後方へ、そして地面を思い切り蹴り飛ばし敵陣の中へ切り込んで行った。
 
「ありがとう! 頼んだ!」

 突撃を始めたと同時に黒髪の強化兵が数メートル後方にピタリと付いた。
 援護するという思念を受け取り、その気持ちを有難く使わせてもらう。
 黒髪は二振りのウォーアックスを自在に操り、ウォーアックス自体の重さを利用して近寄る敵を屠っていく。
 防具はプレートアーマーであり、全身を覆う板金は鈍く漆黒に輝き、敵の振るう剣を弾き飛ばしている。
 全身を覆うプレートアーマーを着装しているのは黒髪だけであり、その分分かりやすい。

「はぁぁああぁ!!」

 俺の突撃に気付いた敵が立ち塞がるが、下段からの切り上げで片腕と首を切り飛ばした。
 全身に返り血が降り注ぎ、生暖かく血生臭い匂いが否応なしに鼻腔へ入り込んでくる。
 今度は返り血を浴びないようにしないと……匂いで気が狂いそうになる。
 【アクアボール】を頭上で破裂させ、体に着いた血を洗い流しながら戦地をかけて行く。
 一人、二人、三人、一〇人と切り捨てるうちに返り血を浴びない切り方が分かってきた。

「すいません! どいて下さい!」

「な、なんだ貴様は!」

「この者の身柄は私が保証する! ランチアからの援軍だ!」

 塔入口付近の敵を一掃し、入口で防衛していたロンシャン連邦国兵に声をかける。
 兵は俺を見るなり警戒を強くするが、アストラのおかげですんなりと塔内に入る事ができた。
 どうやら塔内にはまだ敵の侵入を許していないようで、上階に続く螺旋階段は外の喧騒と真逆の静寂さを保っていた。

「あ、あの! 上階にいらっしゃるのは!」

「フィガロ様! ここは私に、ロンシャン兵にお任せを!」

「ありがとうございます!」

 ロンシャン連邦国兵が何かを言おうとしたが、それを遮るようにアストラが大声で叫んだ。
 言おうとした内容を聞き直そうかとも思ったが、上に行けば分かることだ。
 螺旋階段を数段飛ばしながら、最上階を目指して走る。
 
「シャルル!」

 目の前に現れた鋼鉄製の扉を開け放ち、その名を呼んだのだが。

「ひゃっ! だ、誰!?」

 シャルルでは無く、見たことの無い女性が部屋の隅で小さく震えていた。
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