欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二三六話 女性の正体

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「安心してください! 怪しい者ではありません! ランチア魔導王朝の者です! ほらこれ!」

「ランチアの……? 王家の紋章!? あ、貴方は?」

 部屋の隅で震えていた女性を刺激しないよう、慌てて王家の宝剣を見せると信用してくれたのかおずおずと前に出て来てくれた。

「私はフィガロ、フィガロ・シルバームーンと申します。ランチア魔導王朝の辺境伯を頂いている者です。あなたは?」

「フィガロ、様ですね。申し訳ございませんが私に名はありません、私はロンシャン連邦国第二王女の影武者でございます」

 女性は小さく震えながらも毅然とした態度で言い切ると、深々と礼をして再び部屋の隅で小さくなってしまった。
 
「あの、どうしてそんな隅に? それに影武者ってバラしちゃ不味いんじゃないですか?」

「端っこが好きなんです。ほっといて下さい、そして助けて下さい。バラしたのは貴方なら問題無いと見えたからです」

 影さんは小さく丸まりながらそう言った。
 先程の毅然とした態度はどこへやら、既に部屋の隅にいるにも関わらず後ろへ後ろへと体を壁に押し付けている。
 ほっといてくれ、でも助けてくれとは新手の哲学かなにかか?

「見える……? ちょっとよく分かりませんが、申し訳ございません。私はシャルルヴィル王女とドライゼン王を助けに行かなればなりませんので。それでは」

 俺を警戒しているのか、助けを求めているのか不明瞭な眼差しを向ける影さん。
 しかし今向かうべきはシャルルとドライゼン王であり、言ってしまえば影武者を助ける義理はない。
 非情だとは思うが、下で頑張っている兵士達もいる、それに恐らく入口にいた兵はきっと「上にいるのはランチア関係者では無く、王女殿下の影」だと言いたかったのだろう。
 兵達は影武者だと知っていながら、命を懸けて守っている。
 つまりは兵達からの親愛や支持が高いという事に他ならない。

「ちょっとぉ! 置いてくの!? 非道! 鬼! 悪魔!」

「はい、置いていきます。ですが私の味方も置いておきます、これでいいですか?」

 俺の背後からのそりと姿を表した黒髪強化兵に思念を送り、入口に座り込んで待機するよう命じた。
 
「え? いいの? ありがとう!」

「いいんだ……? それでは失礼致します」

 部屋の窓を開け放つと新鮮な風が吹き込んでくる。
 当たり前だが眼下では未だに戦闘が続いており、リッチモンドとクライシスが背を合わせて戦っているのが見える。
 視線を前方に移し、一番近い塔に向けて大体の距離を目算する。
「ちょっ、ちょっと待って下さい! どこ行くんですか!?」

「え? 向こうの塔ですが何か?」

「何か? じゃないですよ! ここから一番近い塔までだって二〇メートルはあるんですよ!?」

「はい。なのでジャンプで行けるかと、それでは!」

「ちょっ! ええええ!?」

 常人では二〇メートルの距離を跳ぶことは叶わないが、ちょっと工夫すればそれくらいどうと言うことは無い。
 【ブラストガッシュ】を発動させ、窓のヘリから塔の側面へジャンプで飛び移った。

「【ストーンエッジ】」

 塔の外壁目掛けて魔法を放ち、外壁に突き刺さった石の刃を足場にする。
 こうすれば取っ掛かりのない壁面でも立っていられる。

「よし、せーのっ!」

 拳に魔力を集中させイメージするのは強固な槌。
 【地】のルーンの輝きと共に塔の外壁を破壊して中へと転がり込んだ。
 どうやらここにも敵は来ていないらしく、静かなままだ。
 
「シャルル! 返事をしてくれ! 塔が多くて時間がかかる! 聞こえてたら合図か何かを送ってくれ!」

 最上階まで駆け上がってみてもそこはもぬけの殻であり、またしても正解を逃してしまった。
 焦りと同時に苛立ちが募り、思わず壁を叩き壊してしまう。
 だが壁が崩れたその時、群塔の一番外れにある塔の最上階付近を周遊している鳥のようなものを見つけた。

「あれはシキガミか! 【フライ】」

 俺の思念が伝わったのかは分からないが、シキガミがあそこにいるという事はシャルルもそこにいると見ていいだろう。
 風を纏い空に躍りでると一直線にシキガミの元へと向かった。
 シキガミも俺を見つけたのか、俺の周りを数度旋回したのち塔の中に吸い込まれるように入っていった。
 それを追うように塔の窓を開け、中へと入り込んだ。

「フィガロ!!」

「シャルル! 無事か!」

 中には所々破れたドレスを身にまとったシャルルがいた。
 よかった、無事だったようだ。本当に良かった。
 
「フィガロ様!? 何故ここに!? いえ、申し訳ございません、ご助力願えませんか!」

 部屋の中にはシャルルの他に五人のランチア兵と一人の騎士がいた。
 鎧の色を見ると一三守護騎士団のようだが、始めて見る顔だ。
 とは言ってもほぼ全員知らないので当たり前だが。
 
「そのつもりで来ました! 状況はどうなってるんです? 相手は何者なのですか!」

「フィガロ! お願い! タウロスを助けて!」

 守護騎士に質問を投げ掛けたのだが、そこにシャルルの悲痛な叫びが割って入った。

「タウロスさんを?」

「お願い! お願いよ! お父様の代わりに毒矢を受けて意識が全然戻らないの!」

「落ち着いて、深呼吸して、分かったから、大丈夫」

 泣いて俺の服にしがみつくシャルルの肩を優しく掴み、ゆっくりと擦る。
 嗚咽を漏らしながらも呼吸を整え、懸命に喋ろうとしているのがわかる。
 部屋は思いのほか広く、先程訪れた塔より二回りほど大きい。
 
「あそこに、タウロスが……」

 震える指で部屋の隅をさすシャルルの指の先を見ると、そこには顔面を土気色に染めたタウロスが寝かされていた。

「あの……シャルルヴィル様は懸命に治癒魔法をお掛けくださっておりました。今は少し休憩なされておりましたが……かれこれ四時間は治癒魔法を行使されており……」

「四時間だって!? そんな事したらシャルルが危ないじゃないか!」

「も、申し訳ございません。我々も止めたのですがお聞き入れして貰えず……」

 報告をくれた守護騎士に思わず掴みかかりそうになるが、その激情を理性で押さえ込みなるべく冷静に話を続ける。

「まずはタウロスさんだ。シャルルも来てくれ。と言っても俺に何か出来るかは分からない」

「分かったわ……でも、お願い……」

 俺が来た事によって緊張の糸が切れたのか、項垂れて嗚咽を漏らすシャルルの手を引いて寝かされているタウロスの横に座った。
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