76 / 298
第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二三七話 タウルス
しおりを挟む
タウロスの容態は最悪だった。
何度も吐血したのであろう血痕が燕尾服の胸元に広がっており、相当な量の血を吐いた事が伺える。
顔色はもはや死人同然の血色で、息も絶え絶えといった状態だった。
何の毒かは分からないが、出来る限りの事をするべきだ。
「【キュア】」
毒に侵されている場合、治癒魔法では完全に回復させることは不可能だが確かにその場しのぎにはなる。
中級治癒魔法である【キュア】を強めに発動しなからタウロスの手を握る。
「解毒、魔法、使えなくて、ひぐっ……すこっ少し、でも楽、にさせってっあげ、だぐで……」
俺の横で溢れ出る涙を懸命に堪えながらシャルルが言った。
シャルルの判断は間違ってはいないが、四時間も治癒魔法を発動し続けるって……下手したらシャルル自身の魔力が枯渇して命の危機に陥る所だ。
しかしシャルルは泣きじゃくっているところ以外は至って普通であり、血色も悪くない。
森から王宮に帰って以来、ずっと魔力プールの底上げをしていたという話は伊達では無いようだった。
これが王族の力なのだろうか。
「クライシス、聞こえますか? 急ぎです、毒に侵されて四時間以上経った場合の回復方法はありますか?」
「あん? 四時間以上だって? その言い方だと誰か毒にやられたんか。んー……難しいやなぁ。毒を受けた初期なら解毒魔法で楽勝だけんども、四時間以上だろ? 体の中はボロボロだぞ、ってかよく生きてるな」
「シャルルが治癒魔法を掛け続けていたようです」
「シャルルちゃんが? ひゅー、成長したなぁ。ちと待ってろそっち行くわ。場所は?」
「一番外れの塔です。今魔法を外に飛ばします」
ウィスパーリングによりクライシスと連絡を取り、入ってきた窓へ向けて魔法を放つ。
放った【ファイアブラスト】の爆発により空中で煙があがり、狼煙の役割を果たしてくれる。
爆発が起きた数秒後、俺と同じように窓から飛び込んできたクライシスがシャルルの頭を撫でた。
「久しぶりだなシャルルちゃん。おう、この人か……ふむ……」
「クライシスさぁん……うぇぇえ……」
「かなり危険な状態です。正直な話、私では荷が重すぎます」
「こりゃひでーな……かなり強力な毒薬を盛られたらしい。生きてるのが奇跡だ」
クライシスの手が発光し、タウロスの頭からつま先までをゆっくりと撫で、そして呻くように言った。
「プラスで呪術も組み込まれてやがる。仮に解毒魔法で毒を抜いたとしても呪術のほうで命が取られる」
「そんな!」
「呪術ですって!?」
シャルルの悲痛な声と、俺の声が同調して部屋に響く。
心配そうにこちらを見る兵達と、守護騎士の顔が一気に曇ったのが見えた。
「コレやったやつは……かなり用心深いな。解毒されることを見越しての術だろうぜ」
「呪術は発動しているんですか?」
「いや、毒が抜ける事が術式のトリガーになってる。不用意に解毒してもダメだ。俺は解呪に回る、フィガロはそのまま治癒魔法を継続していろ、補助、強化も同時にな」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
「始めるぞ!」
クライシスが目を閉じ、タウロスの額と腹部に手を当てて集中し始めたのを横目に俺はタウロスへ全力で魔法を掛ける。
【キュア】で体内の損壊部位を癒しつつ、【ポテンシャルアップ】で肉体の強化活性をはかり、痛みを和らげるために【ペインディスペル】をかけた。
シャルルは俺の服をしっかりと握り、涙を溜めた瞳をタウロスへ向けていた。
一分か一〇分か、はたまたそれ以上か、予断を許さない状況がしばらく続いた。
「終わったぞ。くっそめんどくさい術式編んでいやがった。解毒もしといた……問題はこの後だ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
シャルルがクライシスへ飛び付き、胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。
しかしクライシスの言う通りまだ気は抜けない。
毒に蝕まれた肉体は細胞単位で壊されており、治癒魔法で回復させたとしても元通りになるという訳では無い。
下手をすれば後遺症が残り、言語障害や不随、意識が戻らないこともある。
単純な切り傷から致命傷までであれば、損壊した部位を治すだけで事足りる。
しかし毒の場合は肉体を構成している全ての細胞、いわゆる臓器や筋肉、神経にまで被害を及ぼすために、治ったかどうかの判断が難しいのだ。
毒というのはそれほどまでに危険な薬物であり、悪魔の薬、死者の薬などとも言われている。
現にタウロスの顔色は戻らず、呼気も弱々しい。
これは……ダメなんじゃないか。
「おめーも泣きそうな顔してるなよ。諦めんな、魔法は偉大だ、出来ないことなんて無い。そうだろ?」
「クライシス……ですが……」
タウロスとは数度の面識しか無いが、祝勝パーティーでは何かと世話になっている。
含みを込めたニヒルな笑顔が脳裏に浮かび、胸が苦しくなる。
「細胞には自己治癒力ってのがあるんだ。知ってるだろ?」
鼻をすする俺にクライシスがそんな言葉を投げかけてきた。
何度も吐血したのであろう血痕が燕尾服の胸元に広がっており、相当な量の血を吐いた事が伺える。
顔色はもはや死人同然の血色で、息も絶え絶えといった状態だった。
何の毒かは分からないが、出来る限りの事をするべきだ。
「【キュア】」
毒に侵されている場合、治癒魔法では完全に回復させることは不可能だが確かにその場しのぎにはなる。
中級治癒魔法である【キュア】を強めに発動しなからタウロスの手を握る。
「解毒、魔法、使えなくて、ひぐっ……すこっ少し、でも楽、にさせってっあげ、だぐで……」
俺の横で溢れ出る涙を懸命に堪えながらシャルルが言った。
シャルルの判断は間違ってはいないが、四時間も治癒魔法を発動し続けるって……下手したらシャルル自身の魔力が枯渇して命の危機に陥る所だ。
しかしシャルルは泣きじゃくっているところ以外は至って普通であり、血色も悪くない。
森から王宮に帰って以来、ずっと魔力プールの底上げをしていたという話は伊達では無いようだった。
これが王族の力なのだろうか。
「クライシス、聞こえますか? 急ぎです、毒に侵されて四時間以上経った場合の回復方法はありますか?」
「あん? 四時間以上だって? その言い方だと誰か毒にやられたんか。んー……難しいやなぁ。毒を受けた初期なら解毒魔法で楽勝だけんども、四時間以上だろ? 体の中はボロボロだぞ、ってかよく生きてるな」
「シャルルが治癒魔法を掛け続けていたようです」
「シャルルちゃんが? ひゅー、成長したなぁ。ちと待ってろそっち行くわ。場所は?」
「一番外れの塔です。今魔法を外に飛ばします」
ウィスパーリングによりクライシスと連絡を取り、入ってきた窓へ向けて魔法を放つ。
放った【ファイアブラスト】の爆発により空中で煙があがり、狼煙の役割を果たしてくれる。
爆発が起きた数秒後、俺と同じように窓から飛び込んできたクライシスがシャルルの頭を撫でた。
「久しぶりだなシャルルちゃん。おう、この人か……ふむ……」
「クライシスさぁん……うぇぇえ……」
「かなり危険な状態です。正直な話、私では荷が重すぎます」
「こりゃひでーな……かなり強力な毒薬を盛られたらしい。生きてるのが奇跡だ」
クライシスの手が発光し、タウロスの頭からつま先までをゆっくりと撫で、そして呻くように言った。
「プラスで呪術も組み込まれてやがる。仮に解毒魔法で毒を抜いたとしても呪術のほうで命が取られる」
「そんな!」
「呪術ですって!?」
シャルルの悲痛な声と、俺の声が同調して部屋に響く。
心配そうにこちらを見る兵達と、守護騎士の顔が一気に曇ったのが見えた。
「コレやったやつは……かなり用心深いな。解毒されることを見越しての術だろうぜ」
「呪術は発動しているんですか?」
「いや、毒が抜ける事が術式のトリガーになってる。不用意に解毒してもダメだ。俺は解呪に回る、フィガロはそのまま治癒魔法を継続していろ、補助、強化も同時にな」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
「始めるぞ!」
クライシスが目を閉じ、タウロスの額と腹部に手を当てて集中し始めたのを横目に俺はタウロスへ全力で魔法を掛ける。
【キュア】で体内の損壊部位を癒しつつ、【ポテンシャルアップ】で肉体の強化活性をはかり、痛みを和らげるために【ペインディスペル】をかけた。
シャルルは俺の服をしっかりと握り、涙を溜めた瞳をタウロスへ向けていた。
一分か一〇分か、はたまたそれ以上か、予断を許さない状況がしばらく続いた。
「終わったぞ。くっそめんどくさい術式編んでいやがった。解毒もしといた……問題はこの後だ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
シャルルがクライシスへ飛び付き、胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。
しかしクライシスの言う通りまだ気は抜けない。
毒に蝕まれた肉体は細胞単位で壊されており、治癒魔法で回復させたとしても元通りになるという訳では無い。
下手をすれば後遺症が残り、言語障害や不随、意識が戻らないこともある。
単純な切り傷から致命傷までであれば、損壊した部位を治すだけで事足りる。
しかし毒の場合は肉体を構成している全ての細胞、いわゆる臓器や筋肉、神経にまで被害を及ぼすために、治ったかどうかの判断が難しいのだ。
毒というのはそれほどまでに危険な薬物であり、悪魔の薬、死者の薬などとも言われている。
現にタウロスの顔色は戻らず、呼気も弱々しい。
これは……ダメなんじゃないか。
「おめーも泣きそうな顔してるなよ。諦めんな、魔法は偉大だ、出来ないことなんて無い。そうだろ?」
「クライシス……ですが……」
タウロスとは数度の面識しか無いが、祝勝パーティーでは何かと世話になっている。
含みを込めたニヒルな笑顔が脳裏に浮かび、胸が苦しくなる。
「細胞には自己治癒力ってのがあるんだ。知ってるだろ?」
鼻をすする俺にクライシスがそんな言葉を投げかけてきた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。