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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二五九話 カミングアウト
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「どう?」
「ダメだね。フィガロも別働隊と鉢合わせて戦闘中らしい」
僕はウィスパーリングを切り、逃げ込んだ廃屋内からそっと外を伺いながら得た情報をそばに居るシャルルへと伝えた。
「そっか」
王城からほど近くにあった屋敷の廃屋内には僕、シャルル、ドライゼン王に守護騎士のランチア勢と、ヘカテー王女にアーマライト王とアストラ、ロンシャン兵を含めたロンシャン勢の大所帯が隠れていた。
時刻は深夜だというのに、様々な場所で戦闘が行われており、この人数で下手に動けば簡単に見つかってしまうだろう事は容易に想像出来る。
それほどまでに敵の目は厳しく、革命軍が持つ戦力の大きさは予想以上の規模だった。
「王城を抜けたはいいけど……なんなのよこの包囲網! さすがロンシャン連邦国ね! 自分の国ながら裏切った兵力のその一部がこれとは恐れ入るわよ」
「ヘカテーよ、あまりそう言うな。悲しくなるわい」
「アーマライト王よ。この反乱は少しばかり規模が大きすぎるのではないか?」
王族達は廃屋の中に転がっていた比較的無事なソファに座り、色々と話をしているがシャルルだけは僕のそばに来て、同じように外の様子を伺っていた。
「随分と元気なんだね。君も座って休んでいたらどうだい?」
「お気遣いどうも、でもいいの。フィガロが戦ってるのに休んでるわけにもいかないでしょ」
「休むのも一つの戦法だと思うけれどね。まぁいいよ、しかし随分と衣装替えをしたものだね」
「どう? 似合うかしら? メイドの格好なんて生まれて初めてよ」
「フッ……だろうね」
「リッチモンドさんは……フィガロとどういう関係なの? フィガロはこの国に来るまで、クライシスさんと二人で生活してたから……友達や仲間はいないはず。それと、貴方が冒険者として登録したのもフィガロと同時期よね」
「リッチモンドでいいよ、シャルルちゃん。さすがに王族だね、よく調べている」
目の前で鋭い眼差しを向けてくる小さな少女、シャルルが王族だとしてもアンデッドである僕には関係の無い事だ。
そういえば、この子とちゃんと話す機会はこれが初めてだった。
フィガロからシャルルの話は聞いていたけど、お互いにすれ違いで中々マトモに顔を合わせた事がなかった。
「一緒に冒険する人の事を予め調べるのは当たり前だと思うわよ」
「調べられる情報網があるからそう言えるのさ。何にせよ、僕も君と同じくフィガロに恩がある者さ。決して怪しい者じゃないし、お師様、クライシスさんに世話になった事もある」
「そうなのね。じゃあ聞くけど……」
「何かな?」
シャルルは一瞬目を泳がせ、聞くべきなのかを思案しているように見えたものの、その迷いはすぐ断ち切られたらしく、再び強い眼差しで僕を見つめてきた。
「貴方……人間じゃないわよね。一体何者なの?」
「へぇ……こりゃ驚いた。どうしてそう思うんだい?」
「どうしても何も貴方、息をしていないじゃない。肌だって冷たいし、それに……纏っている雰囲気がその……人間のものじゃないわ」
「よく見ているんだね。本当に驚きだ」
シャルルの問いに驚いたのは事実だ。
お師様が僕に教えてくれた変異の術はおいそれと見抜けるようなものじゃないし、アンデッドの気配はなるべく遮断しているはずなのに……この子は少し共にいただけであっさりと見抜いてしまった。
これが王族の力だとでも言うのだろうか。
確かに僕には呼吸も食事も睡眠も必要無いし、外気温の変化も全く関係無い。
それに着ているローブだってゆったりとした物で、呼吸をする時の胸の上下は分かり辛いはずなのだ。
「私ね、観察眼がいいのよ。昔から他人の顔色や動向を見ながら生きてきたから……ちょっとした変化もすぐ分かるの」
「それは誇らしげに言う事じゃないと思うけれどね?」
「うるさいわね。人には色々と事情があるのよ、さぁ話して。貴方は何者なの?」
「こんな時に聞く事かい?」
「こんな時だから聞くのよ。貴方を信用していないわけじゃないけど、ハッキリさせておくべきよ」
少しだけ頬を膨らませ、腰に手を当てて僕を睨むその姿がとてもコミカルで小動物のように見える。
本人からすればそんな事は無いのだろうし、凄んでいるつもりなのだろう。
そんなシャルルがとても微笑ましく、フィガロはきっとこういう所に惹かれたのかな、などという場違いな考えが頭に過ぎった。
「聞いてるの?」
「あぁはいはい。フフフ……聞いているさ。でも一つだけ約束して欲しい」
「何よ?」
「僕の本当の姿を知っても怖がらないで欲しい。そして仲間でいて欲しい」
「……分かったわ」
「ありがとう」
「じゃあ私も最後に聞くけど、貴方はフォックスハウンドの仲間で、ここにいる皆の味方なのね?」
「勿論さ。フィガロとお師様に誓うよ」
シャルルが僕の前に小さな手を差し出した。
その意図が分からず、差し出された手とシャルルの顔を交互に見ていると、彼女は強引に僕の手を取り強く握った。
「さぁ、教えて」
「やれやれ、君がこんなに強引だとは思わなかったよ……僕はね……」
僕は握られた手をそっと離し、その手の部分だけ変異の術を解き、静かに差し出した。
「アンデッド、リッチなのさ」
「ダメだね。フィガロも別働隊と鉢合わせて戦闘中らしい」
僕はウィスパーリングを切り、逃げ込んだ廃屋内からそっと外を伺いながら得た情報をそばに居るシャルルへと伝えた。
「そっか」
王城からほど近くにあった屋敷の廃屋内には僕、シャルル、ドライゼン王に守護騎士のランチア勢と、ヘカテー王女にアーマライト王とアストラ、ロンシャン兵を含めたロンシャン勢の大所帯が隠れていた。
時刻は深夜だというのに、様々な場所で戦闘が行われており、この人数で下手に動けば簡単に見つかってしまうだろう事は容易に想像出来る。
それほどまでに敵の目は厳しく、革命軍が持つ戦力の大きさは予想以上の規模だった。
「王城を抜けたはいいけど……なんなのよこの包囲網! さすがロンシャン連邦国ね! 自分の国ながら裏切った兵力のその一部がこれとは恐れ入るわよ」
「ヘカテーよ、あまりそう言うな。悲しくなるわい」
「アーマライト王よ。この反乱は少しばかり規模が大きすぎるのではないか?」
王族達は廃屋の中に転がっていた比較的無事なソファに座り、色々と話をしているがシャルルだけは僕のそばに来て、同じように外の様子を伺っていた。
「随分と元気なんだね。君も座って休んでいたらどうだい?」
「お気遣いどうも、でもいいの。フィガロが戦ってるのに休んでるわけにもいかないでしょ」
「休むのも一つの戦法だと思うけれどね。まぁいいよ、しかし随分と衣装替えをしたものだね」
「どう? 似合うかしら? メイドの格好なんて生まれて初めてよ」
「フッ……だろうね」
「リッチモンドさんは……フィガロとどういう関係なの? フィガロはこの国に来るまで、クライシスさんと二人で生活してたから……友達や仲間はいないはず。それと、貴方が冒険者として登録したのもフィガロと同時期よね」
「リッチモンドでいいよ、シャルルちゃん。さすがに王族だね、よく調べている」
目の前で鋭い眼差しを向けてくる小さな少女、シャルルが王族だとしてもアンデッドである僕には関係の無い事だ。
そういえば、この子とちゃんと話す機会はこれが初めてだった。
フィガロからシャルルの話は聞いていたけど、お互いにすれ違いで中々マトモに顔を合わせた事がなかった。
「一緒に冒険する人の事を予め調べるのは当たり前だと思うわよ」
「調べられる情報網があるからそう言えるのさ。何にせよ、僕も君と同じくフィガロに恩がある者さ。決して怪しい者じゃないし、お師様、クライシスさんに世話になった事もある」
「そうなのね。じゃあ聞くけど……」
「何かな?」
シャルルは一瞬目を泳がせ、聞くべきなのかを思案しているように見えたものの、その迷いはすぐ断ち切られたらしく、再び強い眼差しで僕を見つめてきた。
「貴方……人間じゃないわよね。一体何者なの?」
「へぇ……こりゃ驚いた。どうしてそう思うんだい?」
「どうしても何も貴方、息をしていないじゃない。肌だって冷たいし、それに……纏っている雰囲気がその……人間のものじゃないわ」
「よく見ているんだね。本当に驚きだ」
シャルルの問いに驚いたのは事実だ。
お師様が僕に教えてくれた変異の術はおいそれと見抜けるようなものじゃないし、アンデッドの気配はなるべく遮断しているはずなのに……この子は少し共にいただけであっさりと見抜いてしまった。
これが王族の力だとでも言うのだろうか。
確かに僕には呼吸も食事も睡眠も必要無いし、外気温の変化も全く関係無い。
それに着ているローブだってゆったりとした物で、呼吸をする時の胸の上下は分かり辛いはずなのだ。
「私ね、観察眼がいいのよ。昔から他人の顔色や動向を見ながら生きてきたから……ちょっとした変化もすぐ分かるの」
「それは誇らしげに言う事じゃないと思うけれどね?」
「うるさいわね。人には色々と事情があるのよ、さぁ話して。貴方は何者なの?」
「こんな時に聞く事かい?」
「こんな時だから聞くのよ。貴方を信用していないわけじゃないけど、ハッキリさせておくべきよ」
少しだけ頬を膨らませ、腰に手を当てて僕を睨むその姿がとてもコミカルで小動物のように見える。
本人からすればそんな事は無いのだろうし、凄んでいるつもりなのだろう。
そんなシャルルがとても微笑ましく、フィガロはきっとこういう所に惹かれたのかな、などという場違いな考えが頭に過ぎった。
「聞いてるの?」
「あぁはいはい。フフフ……聞いているさ。でも一つだけ約束して欲しい」
「何よ?」
「僕の本当の姿を知っても怖がらないで欲しい。そして仲間でいて欲しい」
「……分かったわ」
「ありがとう」
「じゃあ私も最後に聞くけど、貴方はフォックスハウンドの仲間で、ここにいる皆の味方なのね?」
「勿論さ。フィガロとお師様に誓うよ」
シャルルが僕の前に小さな手を差し出した。
その意図が分からず、差し出された手とシャルルの顔を交互に見ていると、彼女は強引に僕の手を取り強く握った。
「さぁ、教えて」
「やれやれ、君がこんなに強引だとは思わなかったよ……僕はね……」
僕は握られた手をそっと離し、その手の部分だけ変異の術を解き、静かに差し出した。
「アンデッド、リッチなのさ」
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