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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二六三話 リッチモンドの推理

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 屋敷から半径五〇〇メートル以内の敵を全て殲滅出来た事を確認した僕は、屋敷の上に立ち考え事に耽っていた。
 時刻はもう朝方になっており、朝日がうっすらと差し始めている。
 アンデッドだからといって、僕が朝日に弱いわけはない。
 朝を知らせる小鳥の囀りが軽やかに聞こえる中、朝日に照らされながら僕は考える。

「革命軍の目的は何だ……? そして首謀者は誰なんだ」

 フィガロに頼まれるままこの国を訪れ、なし崩し的に参戦した今回の戦争だが、敵の目的が全く分からない。
 革命には血が付き物ではあるけれど、ここまで徹底的にやるだろうか。
 ロンシャン連邦国という国は連邦と言うだけあり、かなりの国土を持っているようだ。
 王城を中心として広がる街並みは、ランチアと比べるのが馬鹿らしくなるぐらいの規模を誇る。
 今いる屋敷から見渡せる範囲だけでも、ランチア市街が四つは軽く収まるだろうけど、見える範囲で煙や火の手が上がっていない場所の方が少なかった。
 ロンシャンの街は川や城壁などで細かく区分されているようだが、その中を走る道路は曲がりくねり、路地や小道が入り組んでいる。
 高低差も顕著であり、窪地から丘の上にまで住宅街が広がっている。
 長い煙突を何本も生やした工業地帯は砂漠に隣接しており、その砂漠はいくつもの堀抜かれた後があり、まるで巨大な蟻地獄のように見える。
 堀抜かれた場所は採石場なのか、それとも地下に眠る希少鉱物を掘り出す為の場所なのか。
 聞いた所によれば、ロンシャン連邦国の地下には迷宮も存在するようで、この街のどこかにその入口を管理している建物があるという。
 
「迷宮の主権を巡った争いもあったらしいけど……今回は別だろうね。国王とドライゼン王だけじゃなく、両王女をも手にかけようって言うんだから、徹底してるよね。ドライゼン王とシャルルちゃんを殺害するなんて、ランチアに宣戦布告をしているようなものだし……まさか敵の狙いは戦争そのものなのか……?」

 ただ革命を起こすだけなら、自国の王を処刑出来れば勝ちだ。
 革命というのは大体が政治体制や国の経済体制などに不満を持つ者達が、抜本的解決を目指す戦いだ。
 思想や身分制度なども大きく関わってくる難しい問題だけれど、他国を巻き込んでまで強行する革命など聞いたことも無い。
 しかし、革命という大義名分を掲げた上で、本当の狙いが国家間の戦争だとすればどうだろう。
 そう考えれば、先程飛び去って行った巨大な鳥型の魔獣らしきモンスターや、国が保有する兵力の三分の一が離反するという事態にも辻褄が合うのではないだろうか?
 ただの革命にしては戦力が大きすぎると思う。

「暴論かなぁ。でもいい線行ってると思うんだけどね。……仮に戦争を起こした所でメリットは何だ? こんな大規模な兵力を動員させられるのが、いち騎士団の団長だけとは思えない。例え国最強の剣士だと言えど、政治関連が絡んでくるのなら黒幕は一人じゃないはずだよね。国最強の剣士を旗頭とした大規模な革命……本当の黒幕はきっと他にいる」

 だとしたらその黒幕は誰だというのか。
 アーマライト王という線はほぼ無いだろう、戦争をしたいのに自作自演をしてわざわざ自国の兵力を落とす意味が無い。
 この国の第二王女であるヘカテーの線も薄いだろう。
 父親である王を処刑して自分が女王になった所で、戦争に何の意味を見出すというのだろうか。
 となれば……軍部の暴走、という線が一番高いだろうね。
 ガバメントとかいう騎士団長も軍部に所属しているはずだし。

「僕の勝手な推測だけど、そう考えれば納得がいくね。まぁ僕一人が結論を出したところで戦局が変わるわけでもないけど」

 そこまで考えた所で頭の中に仲間の声が届いた。

「リッチモンド、聞こえるか?」

「やぁフィガロ、待ちわびたよ。一体どこで油を売っていたんだい?」

「色々とごたついてな。方が付いたからそっちに合流したいんだけど……今どこにいるんだ?」

「今はとあるお屋敷の廃墟にお邪魔しているよ。シャルルちゃんを含め全員無事だ。ゆっくり寝ている所だから静かにね。ほら、ここだよ」

 僕はフィガロへ思念を送ると、スタッフを空に掲げ、黒い炎を打ち上げた。
 こうすれば明るくなってきた空でも見えやすいだろう。

「あぁ、確かに確認した。あの黒いもやもやだろ? すぐいくよ」

「はいよ。ここら一帯の敵は全部片付けておいたから安心していい」

「そうか。ありがとう」

「どういたしまして。あ、そうだ。数時間前に巨大な鳥が飛んでいったんだけど何か知らないかい?」

「リッチモンドにも見えてたんだな。それ、逃げられた獣魔兵の親玉だよ。ウルベルト中将とかいう隊長が使役してるっぽい鳥だ」

「中将ね……軍のほぼトップじゃないか。フィガロが取り逃がすなんて……」

「勘違いするなよ? 殺すのにビビっていたわけじゃない。不意を突かれて対応できなかったんだよ」

「そこまで言ってないけど……なるほどね。あの鳥からはクーガくんと同じような魔力を感じたんだけど……フィガロは感じなかったかい?」

「いや……分からなかった。クーガと同じって事はまさか!」

「そう。もしかしたらだけど、あの鳥は魔獣かも知れない。予測だけどね」

「魔獣を使役できる人間なんて……聞いた事ないぞ……」

 驚いた様子のフィガロだが、その魔獣をペットのように扱う人間が自分だという事はわかっているのだろうか?
 確かにクーガは魔獣にしてはかなり小型の部類にはいるが、ヘルハウンドという地獄の猟犬は魔獣の中でもかなり高ランクの存在だ。
 僕が本気で戦って五分五分か、もしかすると完全に敗北を喫するかも知れない。
 クーガの場合はまだ幼生体だと思うし、そこまでの大敗はないと思いたいけど、実力が未知数なのは間違いない。

「俺だってクーガが魔獣になったって聞いた時は驚いたし、魔獣に主人扱いされるなんて思わなかったけどさ……他にもそんな人間がいるなんて、信じられない」

「あ、自覚はしているんだね」

「何がだ?」

「いや、何でもないよ。それじゃ僕は屋敷の中に戻るから勝手に入ってきてくれよ」

「わかった。あと数分で着く、それじゃあ」

 ウィスパーリングを切り、人の姿へ戻った僕は屋敷にかけていた魔法を全て解除し、静かに扉を開けた。
 幸い誰も起きていないようで、屋敷の中は静寂に包まれていた。
 
「熟睡出来たようだね。約束は守ったよ、シャルルちゃん」

 ヘカテーと肩を寄せあって眠りこけるシャルルは、スヤスヤと安らかな寝息を立てていた。
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