111 / 298
第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二七二話 時刻塔
しおりを挟む
白旗が掲げられている家屋の二階部分へ飛び移ると、途端に死の臭いが漂っている事に気付いた。
「私はロンシャン連邦二等兵、歩兵部隊所属であります! こちら怪我人三名! 治療薬がない為打つ手がありません、幾ばくか分けては頂けないでしょうか!」
窓から手を振っていた兵が敬礼をし必死に訴えてきた。
床には兵が一人と一般人と見られる男女が横たわっており、みな体の各所に包帯がまかれているがその包帯には血が滲み、顔色もいいとは言えなかった。
「小隊長さん、怪我人は私が治しますので小隊長さんはその方とお話を」
「は!」
横たわる怪我人を一瞥し、命が消えかかっている兵士を優先して治癒魔法のキュアを掛ける。
脚部には添え木が当てられ開けた腹部には包帯が巻かれている。
弱弱しい呼吸だったが、だんだんと呼吸が元通りになったのを確認するとすぐに男女へキュアを掛ける。
魔法の余波を受けたのか、男性の耳と左腕は欠損してしまっており右目もつぶれてしまっている。
女性の腕にも添え木が当てられており、肌が剥き出しになった脚部は酷いやけどを負っていた。
「ひどいな」
キュアでは体の欠損部位までは修復が出来ない。
男性にはキュアを中断し、ハインケルの時のように【リジェネレイション】を発動して欠損部位の再構築を試みる。
「う、腕が……あの少年は一体……?」
「ランチアの辺境伯様だ。あの若さでウルベルト中将を下し、ガバメント様をも退けたお方だ」
「な……そんな事が……」
小隊長と話していた兵士が息をのんで呟くのが聞こえ、小隊長が俺の説明をしてくれた。
リジェネレイションの効果で徐々に腕と耳が再構築されていき、数分後にはちゃんとしたモノが生え揃ってくれた。
意識を取り戻した負傷兵に水と携帯食料を与え、ゆっくり休むよう指示をした。
次に意識を取り戻した男女はどうやら夫婦だったようで、逃げ遅れた所をここにいる兵士達に助けられたのだが、避難中に敵と遭遇、その際に六人いた兵士のうち四人が犠牲になった。
犠牲になった兵士達の奮闘のおかげで敵を殲滅できたが、最後に敵が放った魔法の爆発を受けてしまったのだという。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……」
無くなったはずの耳と手が生えている事に気づき、俺が説明をすると奥さんも旦那さんも涙を流して握手を求められた。
「フィガロ様、いかがしますか?」
「私達と同行してもらったほうが安全です。他にも逃げ遅れた方々がいる可能性も考慮したほうがいいですね」
「了解致しました」
夫婦にも水と携帯食料を与え、生き残った二人の兵士にも強化魔法を掛けたのち、兵士が夫婦を背負う形で外に待っている本隊と合流した。
一般人である夫婦はアーマライト王らのいる最後方に預け、俺たちは再び最前列へと戻っていった。
アーマライト王とヘカテーを見た夫婦は恐れ多いと遠慮していたのだが、ヘカテーに諭され同行することとなった。
「別動隊を作りますか?」
「いえ、一度この本隊を時刻塔まで送り届けたほうがいいでしょう。あと一時間もしないうちに着けるはずです。その後周囲の警戒と、生存者を探す部隊を組織しましょう」
「わかりました」
小隊長にそう告げ、当初の目的通りまっすぐに時刻塔を目指すルートを取り、火の手や黒煙が燻る市街地を進んで行った。
その後は生存者も敵兵もおらず、少し拍子抜けしながらも俺達は無事に時刻塔へ辿り着くことが出来た。
俺とランチア勢、アーマライト王とヘカテーは時刻塔の地下へと進み、他の部隊は時刻塔の各所や近くの家屋に潜むこととなった。
「タウルス!」
「おやおやシャルル様、随分とお色直しをされたようで。よくお似合いですよ」
「ふふ、ありがと。でも回復して本当によかったわ」
「私めも死んだかと思いましたぞ? ですがさすがはフィガロ様ですなぁ! この老骨、もうしばらく生き永らえることが出来ますぞ」
「あはは……」
再会を涙ながらに喜ぶシャルルとタウルスだったがそれ以外の周囲は委縮してしまっている。
なんせ突如現れた両国の王と二人の王女だ。
一般兵達は最敬礼をして、緊張の面持ちで王家の動向を見守っていた。
「おう。久しぶりだなドライゼン、王だけにな」
「はて……? どこかでお会いしたか……?」
簡素な椅子に腰かけて休んでいたドライゼン王のもとに、ワンドを肩に担いだクライシスが進み出た。
「ハッハー! だろうな! わからねーだろ? びっくりだろ? 王様にタメ口なんざ不敬罪でとっ捕まっちまうなぁ! だっはっは!」
ドライゼン王は怪訝な視線をクライシスに向け、それを受けたクライシスは実に上機嫌に笑い飛ばしたのだった。
「私はロンシャン連邦二等兵、歩兵部隊所属であります! こちら怪我人三名! 治療薬がない為打つ手がありません、幾ばくか分けては頂けないでしょうか!」
窓から手を振っていた兵が敬礼をし必死に訴えてきた。
床には兵が一人と一般人と見られる男女が横たわっており、みな体の各所に包帯がまかれているがその包帯には血が滲み、顔色もいいとは言えなかった。
「小隊長さん、怪我人は私が治しますので小隊長さんはその方とお話を」
「は!」
横たわる怪我人を一瞥し、命が消えかかっている兵士を優先して治癒魔法のキュアを掛ける。
脚部には添え木が当てられ開けた腹部には包帯が巻かれている。
弱弱しい呼吸だったが、だんだんと呼吸が元通りになったのを確認するとすぐに男女へキュアを掛ける。
魔法の余波を受けたのか、男性の耳と左腕は欠損してしまっており右目もつぶれてしまっている。
女性の腕にも添え木が当てられており、肌が剥き出しになった脚部は酷いやけどを負っていた。
「ひどいな」
キュアでは体の欠損部位までは修復が出来ない。
男性にはキュアを中断し、ハインケルの時のように【リジェネレイション】を発動して欠損部位の再構築を試みる。
「う、腕が……あの少年は一体……?」
「ランチアの辺境伯様だ。あの若さでウルベルト中将を下し、ガバメント様をも退けたお方だ」
「な……そんな事が……」
小隊長と話していた兵士が息をのんで呟くのが聞こえ、小隊長が俺の説明をしてくれた。
リジェネレイションの効果で徐々に腕と耳が再構築されていき、数分後にはちゃんとしたモノが生え揃ってくれた。
意識を取り戻した負傷兵に水と携帯食料を与え、ゆっくり休むよう指示をした。
次に意識を取り戻した男女はどうやら夫婦だったようで、逃げ遅れた所をここにいる兵士達に助けられたのだが、避難中に敵と遭遇、その際に六人いた兵士のうち四人が犠牲になった。
犠牲になった兵士達の奮闘のおかげで敵を殲滅できたが、最後に敵が放った魔法の爆発を受けてしまったのだという。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……」
無くなったはずの耳と手が生えている事に気づき、俺が説明をすると奥さんも旦那さんも涙を流して握手を求められた。
「フィガロ様、いかがしますか?」
「私達と同行してもらったほうが安全です。他にも逃げ遅れた方々がいる可能性も考慮したほうがいいですね」
「了解致しました」
夫婦にも水と携帯食料を与え、生き残った二人の兵士にも強化魔法を掛けたのち、兵士が夫婦を背負う形で外に待っている本隊と合流した。
一般人である夫婦はアーマライト王らのいる最後方に預け、俺たちは再び最前列へと戻っていった。
アーマライト王とヘカテーを見た夫婦は恐れ多いと遠慮していたのだが、ヘカテーに諭され同行することとなった。
「別動隊を作りますか?」
「いえ、一度この本隊を時刻塔まで送り届けたほうがいいでしょう。あと一時間もしないうちに着けるはずです。その後周囲の警戒と、生存者を探す部隊を組織しましょう」
「わかりました」
小隊長にそう告げ、当初の目的通りまっすぐに時刻塔を目指すルートを取り、火の手や黒煙が燻る市街地を進んで行った。
その後は生存者も敵兵もおらず、少し拍子抜けしながらも俺達は無事に時刻塔へ辿り着くことが出来た。
俺とランチア勢、アーマライト王とヘカテーは時刻塔の地下へと進み、他の部隊は時刻塔の各所や近くの家屋に潜むこととなった。
「タウルス!」
「おやおやシャルル様、随分とお色直しをされたようで。よくお似合いですよ」
「ふふ、ありがと。でも回復して本当によかったわ」
「私めも死んだかと思いましたぞ? ですがさすがはフィガロ様ですなぁ! この老骨、もうしばらく生き永らえることが出来ますぞ」
「あはは……」
再会を涙ながらに喜ぶシャルルとタウルスだったがそれ以外の周囲は委縮してしまっている。
なんせ突如現れた両国の王と二人の王女だ。
一般兵達は最敬礼をして、緊張の面持ちで王家の動向を見守っていた。
「おう。久しぶりだなドライゼン、王だけにな」
「はて……? どこかでお会いしたか……?」
簡素な椅子に腰かけて休んでいたドライゼン王のもとに、ワンドを肩に担いだクライシスが進み出た。
「ハッハー! だろうな! わからねーだろ? びっくりだろ? 王様にタメ口なんざ不敬罪でとっ捕まっちまうなぁ! だっはっは!」
ドライゼン王は怪訝な視線をクライシスに向け、それを受けたクライシスは実に上機嫌に笑い飛ばしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。