欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二七二話 時刻塔

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 白旗が掲げられている家屋の二階部分へ飛び移ると、途端に死の臭いが漂っている事に気付いた。

「私はロンシャン連邦二等兵、歩兵部隊所属であります! こちら怪我人三名! 治療薬がない為打つ手がありません、幾ばくか分けては頂けないでしょうか!」

 窓から手を振っていた兵が敬礼をし必死に訴えてきた。
 床には兵が一人と一般人と見られる男女が横たわっており、みな体の各所に包帯がまかれているがその包帯には血が滲み、顔色もいいとは言えなかった。

「小隊長さん、怪我人は私が治しますので小隊長さんはその方とお話を」

「は!」

 横たわる怪我人を一瞥し、命が消えかかっている兵士を優先して治癒魔法のキュアを掛ける。
 脚部には添え木が当てられ開けた腹部には包帯が巻かれている。
 弱弱しい呼吸だったが、だんだんと呼吸が元通りになったのを確認するとすぐに男女へキュアを掛ける。
 魔法の余波を受けたのか、男性の耳と左腕は欠損してしまっており右目もつぶれてしまっている。
 女性の腕にも添え木が当てられており、肌が剥き出しになった脚部は酷いやけどを負っていた。

「ひどいな」

 キュアでは体の欠損部位までは修復が出来ない。
 男性にはキュアを中断し、ハインケルの時のように【リジェネレイション】を発動して欠損部位の再構築を試みる。
 
「う、腕が……あの少年は一体……?」

「ランチアの辺境伯様だ。あの若さでウルベルト中将を下し、ガバメント様をも退けたお方だ」

「な……そんな事が……」

 小隊長と話していた兵士が息をのんで呟くのが聞こえ、小隊長が俺の説明をしてくれた。
 リジェネレイションの効果で徐々に腕と耳が再構築されていき、数分後にはちゃんとしたモノが生え揃ってくれた。
 意識を取り戻した負傷兵に水と携帯食料を与え、ゆっくり休むよう指示をした。
 次に意識を取り戻した男女はどうやら夫婦だったようで、逃げ遅れた所をここにいる兵士達に助けられたのだが、避難中に敵と遭遇、その際に六人いた兵士のうち四人が犠牲になった。
 犠牲になった兵士達の奮闘のおかげで敵を殲滅できたが、最後に敵が放った魔法の爆発を受けてしまったのだという。

「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……」

 無くなったはずの耳と手が生えている事に気づき、俺が説明をすると奥さんも旦那さんも涙を流して握手を求められた。

「フィガロ様、いかがしますか?」

「私達と同行してもらったほうが安全です。他にも逃げ遅れた方々がいる可能性も考慮したほうがいいですね」

「了解致しました」

 夫婦にも水と携帯食料を与え、生き残った二人の兵士にも強化魔法を掛けたのち、兵士が夫婦を背負う形で外に待っている本隊と合流した。
 一般人である夫婦はアーマライト王らのいる最後方に預け、俺たちは再び最前列へと戻っていった。
 アーマライト王とヘカテーを見た夫婦は恐れ多いと遠慮していたのだが、ヘカテーに諭され同行することとなった。

「別動隊を作りますか?」

「いえ、一度この本隊を時刻塔まで送り届けたほうがいいでしょう。あと一時間もしないうちに着けるはずです。その後周囲の警戒と、生存者を探す部隊を組織しましょう」

「わかりました」

 小隊長にそう告げ、当初の目的通りまっすぐに時刻塔を目指すルートを取り、火の手や黒煙が燻る市街地を進んで行った。
 その後は生存者も敵兵もおらず、少し拍子抜けしながらも俺達は無事に時刻塔へ辿り着くことが出来た。
 俺とランチア勢、アーマライト王とヘカテーは時刻塔の地下へと進み、他の部隊は時刻塔の各所や近くの家屋に潜むこととなった。

「タウルス!」

「おやおやシャルル様、随分とお色直しをされたようで。よくお似合いですよ」

「ふふ、ありがと。でも回復して本当によかったわ」

「私めも死んだかと思いましたぞ? ですがさすがはフィガロ様ですなぁ! この老骨、もうしばらく生き永らえることが出来ますぞ」

「あはは……」

 再会を涙ながらに喜ぶシャルルとタウルスだったがそれ以外の周囲は委縮してしまっている。 
 なんせ突如現れた両国の王と二人の王女だ。
 一般兵達は最敬礼をして、緊張の面持ちで王家の動向を見守っていた。

「おう。久しぶりだなドライゼン、王だけにな」

「はて……? どこかでお会いしたか……?」

 簡素な椅子に腰かけて休んでいたドライゼン王のもとに、ワンドを肩に担いだクライシスが進み出た。
 
「ハッハー! だろうな! わからねーだろ? びっくりだろ? 王様にタメ口なんざ不敬罪でとっ捕まっちまうなぁ! だっはっは!」

 ドライゼン王は怪訝な視線をクライシスに向け、それを受けたクライシスは実に上機嫌に笑い飛ばしたのだった。
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