欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二七七話 不意打ち

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 衝撃を受けた後頭部に手をやると、硬い物質に触れた。
 どうやら僕は背後からミロクに強襲されたようだ。

「どういうつもりかな?」

「なんで倒れないんだ!? 思い切り殴ったんだぞ!」

 ガラン、という大きな音がなり、地面には僕を殴ったのであろうひん曲がった鉄の建材が落ちていた。

「もう一度聞くよ、どういうつもりかな?」

「ふん、運良く頭を魔法で防御していたのだろうが次はそうはいかねぇ」

「答えるつもりはないようだね」

 ミロクに向き直り、同じ事を聞いても彼はてんで違う事を言い出した。
 その手にはナイフが握られており、刃先は真っ直ぐ僕に向いていた。

「お前は死ぬんだ、どうせなら聞かせてやる。俺は商人でも何でもねぇ……いや、死んだ奴らの金品を売り払ってるんだ、ある意味商人かもなぁ!」

「なるほど、君は死体漁りか。あの奴隷達もかい?」

「相変わらず察しがいいなぁ! そうだよ、人手は多い方がたくさん拾えるからな!」

 ミロクの言葉のおかげで、僕が感じていた違和感が晴れた。
 商人のフリをしていたのだ、道理で違和感があると思ったよ。
 商人の息子としての勘っていうやつかな? 人間だった時の記憶が最近チラホラと蘇ってきているせいもあるだろうけど、まさかこんな所で僕の生い立ちが役に立つとは。
 かと言って用心もしていなかったけれどね。
 ミロクが死体漁りならば奴隷達の状態が悪いのも納得出来る。
 奴隷達は道具として使い潰すつもりだったからであり、ろくに世話もしていなかったのだろう。
 そして彼女達に付いていた血は死んだ者達のもの。
 ナップザックに入っていたのは死体から剥いだ金品だろう。
 そして今のターゲットはこの僕という事だね。
 だからあの時、身なりがどうのと言っていたわけか。

「へぇ。それで、僕を殺して身ぐるみを剥ぐつもりなんだね」

「その通りさ。どうだ? 命乞いでもしてみるか?」

「ふむ。それもいいだろう。だが命乞いをするのは我ではない、貴様の方だがな」

「はぁ? 強がってもおせぇんだぞ? 兄ちゃんが詠唱している間にこのナイフでブスリだ」

「やってみるがいい。この姿を見てもなお、殺れると思うのならな」

 ミロクの攻撃は生者であれば確実に死んでいたであろう一撃だ。
 しかし僕はその一撃を食らっても平気でいるというのに、この男は何を見ているのだろうか。
 金に目が眩んでいるのか、はたまた本当に予め防御魔法をかけていたとでも思っているのか。
 別に死体を漁るのは悪い事だとは思わない。
 それも生きる糧の一つには違いないのだからね。
 ただこの男はやり過ぎた。
 超えてはいけない一線を超えたのだ。
 戦場だからと言って、金品の為に生きている者まで手にかけていいわけじゃない。
 そんな事をしたら盗賊や野盗と同じ犯罪者と成り果てる。
 もしかしたらこのミロクという男は、そういう類のヤカラなのかも知れない
 そんな事を考えながら僕は変異の術を解いた。
 人の姿であるリッチモンドから、アンデッドのリッチへと変わる僕の姿を見ていたミロクの目はどんどんと開かれていき、強気だった態度も次第に恐怖に侵されていく。
 
「あ……あ……まさ、まさか……そんな……」

「我が名はリッチ、死の恐怖を振りまく者なり。ミロクよ、どうしたのだ? そのナイフでブスリと殺るのではないのか? 掛かってくるがいい。その強気に免じて三回は大人しく攻撃を受けてやろうじゃないか」

「ひ、ひいい! くそ! くそぉ! 死ねぇ!」

 顔を真っ青に染めながらも、ミロクは半狂乱で手に持ったナイフでを振り上げた。
 僕の頭と腹部、そして胸に一撃ずつ入れたミロクがナイフを取り落として後ずさる。

「残念だな、我はまだこの通りだ」

「ばけ、化物! なんでこんな所にリッチがいるんだ!」

「言っただろう? ランチアから来た、とな」

「デタラメを言うな! どこの世界にアンデッドを冒険者にさせる組合があるってんだ!」

「信じなくてもかまわんぞ? どちらにしても貴様は死ぬのだ」

「俺に手を出したらあの方が黙ってねぇぞ! ランチアのやつならあのお方には逆らえないはずだ!」

「あのお方?」

 ミロクは後ずさりをしたものの、心の全てが恐怖に染ったわけではないようた。
 手や膝は震えているが、視線はしっかりと僕を捉えている。

「そうだ、俺のバックにはランチアのお偉いさんがついてるのさ。クリムゾン公爵と言えば分かるだろう?」

「知らん……いや、貴様、今クリムゾン公爵と言ったのか?」

 ミロクが漏らしたその名には聞き覚えがあった。
 いつだったかフィガロが話していた中に、その名があった気がしたのだ

「そうだ! もし俺を殺せば公爵様はきっと報復に出るだろうなぁ」

「死んだよ」

「……は?」

 僕の反応が変わったのを見て、クリムゾン公爵の名を出した事で怯んだと勘違いしたのか、徐々に強気さを取り戻し始めたミロクだったが、僕の一言でささやかな強気さもすぐに霧散した。
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