欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二七八話 畏怖

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 そもそもの話。
 リッチへ変化した僕を見て、ここまで啖呵を切れるというのは賞賛に値すると思う。
 ミロクはそれなりに場数も踏んでいると見て間違いないだろうね。
 もしくは僕に対抗出来ると思えるほどの実力者か。
 実際、目の前のミロクは弱気になっているものの、ナイフはしっかりと握られて僕に向けられている。
 たかがナイフ一本でどうこう出来るとは思えないけれどね。

「貴様が頼りにしているクリムゾン公爵は死んだと言ったのだよ」

「馬鹿な……公爵には最強の護衛が付いてたはずだ!」

「それも死んだ。残念だが貴様の後ろ盾はもう無いのだよ。あった所で我には関係の無い事だがな」

「そんな……話……信じられるかああ!」

 僕が告げた事実を認めようともせず、ミロクは声を荒らげて僕にナイフを振り下ろした。 
 しかし悲しいかな、ナイフが幾度刺さろうが何度切りつけられようが僕にダメージは無い。
 多少は腕が立つのかも、と考えた僕が馬鹿だった。
 少し鬱陶しいので、滅茶苦茶に振り回されるナイフの刃を親指と人差し指で挟み込んでへし折った。
 パキン、という軽い音が路地裏に響き、それと同時にミロクの心も折れてしまったようだ。

「へへ……へへへ……殺せよ、リッチから逃げられるなんて思ってねぇ。殺せ」

 路地裏に座り込むミロクを見下し、僕は言った。

「潔いな。だがその願いは却下だ」

 僕がなぜクリムゾン公爵の件を知っているか、簡単な事だ。
 フィガロからデビルジェネラルの話を聞いた時に、クリムゾン公爵という人物に冠する話も聞いていたのだ。
 その時フィガロは情報が欲しいと言っていた。
 ならこの男はクリムゾン公爵と繋がりのある情報限として有用だろう。
 殺すなどもってのほかだ。

「【ダークマニュピレート】」

「何を! っがあああ!」

 へたり込むミロクの頭に手をかざし、闇属性魔法を発動させた。
 ダークマニュピレートは【チャーム】と違い、自我や意識を断絶させ強制的に闇の傀儡とする魔法だ。
 こちらの聞きたい事を聞くにはこれが一番手っ取り早いからね。

「行くぞ」

 口から涎を垂らし、光のない眼をしたミロクは僕の言葉を受け、ノロノロと立ち上がる。
 僕の操り人形と化したミロクを連れ、路地裏から奴隷達の待つ場所へと戻った。

「おう、遅かったじゃっ」

「悪いな、貴様に用はないのだ」

 隠れている家屋に踏み入り、寛いでいた男の眉間にストーンエッジを打ち込んで即死させた。
 すると、力なく崩れ落ちた男の傍にいた奴隷達の目に光が宿ったのを感じた。
 一人の奴隷なんて片方の口角を限界まで引き上げてニヤついていた。
 そして奴隷達の視線が倒れている男から僕へと動き、奴隷達は顔を真っ青にして床にへたりこんでしまった。
 ニヤついていた奴隷もそうだけど、みんなして口をパクパクとしているのを見ると、まるで池にいる鯉のようで滑稽に見えた。

「くくくく……」

 思わず笑いが漏れてしまったのだけど、それを見た奴隷達はみな一様に白目を剥いて気を失ってしまった。
 
「仲がいいね」

 この場で意識があるのは僕の傀儡と化したミロクだけ、演技する必要も無くなったので、いつもの口調に戻して人型へと戻った。
 男の死体を路地裏へ投げ捨て、血溜まりを水属性の魔法で洗い流し、火属性の魔法で乾燥させる。
 ここまでする必要も無いけど、奴隷達が目を覚ました時に血溜まりと死体があるのは目覚めが悪いだろうしね。
 ついでにミロクも邪魔なので男の死体の傍で待たせる事にした。

「さて、でもこの奴隷達、どうしようか?」

 比較的無事な椅子に腰を落ち着け、背もたれにもたれ掛かりながら気絶中の奴隷達を眺める。
 四人とも種族も年齢もバラバラだが、さすがに幼女はいないようだ。
 通常人種、亜人、残りの二人は獣人のようだけど耳やしっぽからして種族は違うようだ。
 
「う……」

 気絶してから五分ほどたったろうか、亜人の奴隷が目を覚まし額に手を当てている。

「やぁこんにちは。言葉は分かるかい?」

「は、はい……貴方は? そうよ! アンデッドは!? あの男が死んだと思ったら目の前に恐ろしい気配のアンデッドが!」

 気を失う前の光景を思い出した亜人は、壁に張り付くように身を小さくして周囲を見回した。
 勿論そこには何も無い。

「なんのことだい? 僕が帰ってきた時にはきみ達だけだったよ? ミロクもどこかに行ってしまったし、困ったもんだよ」

「でも確かに……えっと……リッチモンド様、ですよね」

「そうだよ。君に名前は?」

「私に名前はありません……」

 不思議そうに首を傾げていた亜人は僕に向き直り、ポツリと言った。

「なら奴隷になる前の名前は?」

「プル、です」

「改めてこんにちは、良かったら他の子達も起こしてもらっていいかな?」

「は、はい! 気が利かず申し訳ございません!」

 僕がお願いするとそれまでの態度が嘘のように、顔を引き攣らせ蒼白な表情を浮かべて他の奴隷達の肩を揺すった。
 手や唇は震え、横目で僕の動向を観察しているように見えた。
 これは恐らくミロク達による影響だろう。
 彼等はこの奴隷達に常日頃暴力を振るっていたと見られる。
 そうでもなきゃ、この怯え方は異常だ。
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