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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二九五話 惨劇の結末
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「ブラック……? どうした?」
「いや、そんなハズは無いと思うのだが……」
不動の体勢を崩さず外を見ているブラックだが、その声には明らかな戸惑いが含まれている。
俺の質問に答えるというよりは、自問自答をしているようにも思える。
「有り得ない。有り得るはずが無いのだ。アレは……アレを創れるのは……」
外から吹き込む風は死臭を含み、体に纏わりつくようなねっとりとした気持ちの悪いモノに変異してしまっている。
変異しているのは風だけでは無い。
空に浮かぶ雲は急速に集まって巨大なストームへと変わっていき、太陽を包み込んでしまった。
暗雲立ち込める空は不安を掻き立てるように渦巻き、風もどんどんと強くなっている。
何かが起こっているのは確実なのだが、それが何か分からない歯がゆさともどかしさだけが募っていく。
「陛下! 急いで王城に避難してください! 良くない事が起きそうです!」
「か、かしこまった! 王城は制圧出来たのですな!? 急ぎ向かいます!」
ウィスパーリングでアーマライト王に連絡を取り、続けてリッチモンドへ思念を繋ぐ。
「リッチモンド! そっちはどうだ!」
「変だね。敵の襲撃は無かったんだけど、空が、というよりこの国自体がおかしい。気を付けるんだよ、応援が欲しかったらすぐに言ってくれ」
「分かった!」
時刻搭の、リッチモンドやドライゼン王の無事を確認した俺は、皆を引き連れて二階へと戻った。
待機していたロンシャン兵達も、外の異様さに気付き慌ただしくなっていた。
各隊に伝令を走らせ、二階の兵達と俺達は革命軍の負傷者が集められていた大広間へと移動する。
捕縛していた革命軍も外の様子に戦々恐々としており、皆が不安に染まっていた。
「フィガロ様! ご無事でなにより!」
「陛下!」
俺達が大広間で様子を伺っていると、扉が勢い良く開け放たれてアーマライト王が護衛と共に姿を現した。
外は気候が変動し、大粒の雨と強風、絶え間なく光る雷光と電の炸裂音が激しく聞こえてくる。
「ブラック! 何か知ってるなら教えてくれ!」
「……もし、もしもアレが出たら大変な事になる。アレは駄目だ、あの【ショゴス】は……」
「ブラック!」
上の空のようにブツブツと呟くブラックの腕を揺すり、声を荒らげる。
「隊長、俺の考えが正しければこの後出てくるのはショゴス。人間やモンスター、生物の内臓と血を材料にした人造モンスターだ」
「人造モンスターって……そんな話聞いた事も……」
「だろうな。あれは帝国のトップシークレットであり、戦力の一つだ……俺が強化兵として所属していた帝国のな」
「なっ!」
「帝国のモンスターだと!?」
俺の横で話を聞いていたアストラが信じられない、といった表情で話に割り込んできた。
「なぜ帝国の技術がこのロンシャンにあるのだ!」
「アストラさん、ブラックに聞いても答えは出ません。落ち着いて下さい」
「く……! そうなんだが……!」
アストラは拳を固く握り、眉間に深いシワを寄せながら言った。
彼の気持ちも分からないでもない。
身内の争いだと思っていたら、遥か遠方にある帝国のモンスターが出るという。
混乱するのも無理は無い。
俺も同じだけどな。
「ショゴスは……かなりの強さと再生能力を持つ人造スライムだ。性能は……そうだな、子供と同程度の大きさのショゴス一匹で村一つが滅びると言えばいいか。強力な酸、打撃攻撃の無効化、生物を飲み込み自らの体組織へと変換させて大きさを増していく。魔法などは体内の核に刻まれた防御魔法陣により弾かれる……悪夢のような存在だ。倒すには核を壊すしか無いが、その核すらも硬質な障壁で保護されている」
「何だよそれ……めっちゃタチ悪いじゃないか……」
「臓物と血で造られたモンスター……考えるだけでおぞましい」
『見た目は勿論可愛くないわよね? ちょっと想像するだけで吐き気がするわ』
ブラックの絶望的な説明に途方に暮れていると、アストラが動きを止めた。
「どうしました?」
「地下牢に居た老魔導士をおぼえておりますか?」
「あ、はい。魔導士長さんでしたっけ」
夜襲により地下牢へ侵入した際に、檻の中にいた老人、外に出る事を拒んだ人だ。
「はい」
「その人がどうかしたんですか?」
「……魔導士長は、確か帝国出身のハズです……ですが……」
「魔導士長は帝国の軍部に?」
「分かりません、細かい事は聞いておりませんので」
「そうですか……」
仮に魔導士長が帝国出身だとしても、彼が帝国トップシークレットだと言われる技術を丸々持ち込んだとは考えにくい。
他国に技術を横流しにしたとなれば命を狙われる事になる。
「隊長、ヤツには剣で立ち向かうしか方法はありません。不定形種特有のトリッキーな攻撃に気を付けてくれ」
「あぁ。だけどそのショゴスってのが出てくるって決まったわけじゃない。気負いすぎるな」
と俺が言った直後、一際大きな電が王城敷地内の一角に落ち、強烈な炸裂音が鳴り響いた。
「いや、そんなハズは無いと思うのだが……」
不動の体勢を崩さず外を見ているブラックだが、その声には明らかな戸惑いが含まれている。
俺の質問に答えるというよりは、自問自答をしているようにも思える。
「有り得ない。有り得るはずが無いのだ。アレは……アレを創れるのは……」
外から吹き込む風は死臭を含み、体に纏わりつくようなねっとりとした気持ちの悪いモノに変異してしまっている。
変異しているのは風だけでは無い。
空に浮かぶ雲は急速に集まって巨大なストームへと変わっていき、太陽を包み込んでしまった。
暗雲立ち込める空は不安を掻き立てるように渦巻き、風もどんどんと強くなっている。
何かが起こっているのは確実なのだが、それが何か分からない歯がゆさともどかしさだけが募っていく。
「陛下! 急いで王城に避難してください! 良くない事が起きそうです!」
「か、かしこまった! 王城は制圧出来たのですな!? 急ぎ向かいます!」
ウィスパーリングでアーマライト王に連絡を取り、続けてリッチモンドへ思念を繋ぐ。
「リッチモンド! そっちはどうだ!」
「変だね。敵の襲撃は無かったんだけど、空が、というよりこの国自体がおかしい。気を付けるんだよ、応援が欲しかったらすぐに言ってくれ」
「分かった!」
時刻搭の、リッチモンドやドライゼン王の無事を確認した俺は、皆を引き連れて二階へと戻った。
待機していたロンシャン兵達も、外の異様さに気付き慌ただしくなっていた。
各隊に伝令を走らせ、二階の兵達と俺達は革命軍の負傷者が集められていた大広間へと移動する。
捕縛していた革命軍も外の様子に戦々恐々としており、皆が不安に染まっていた。
「フィガロ様! ご無事でなにより!」
「陛下!」
俺達が大広間で様子を伺っていると、扉が勢い良く開け放たれてアーマライト王が護衛と共に姿を現した。
外は気候が変動し、大粒の雨と強風、絶え間なく光る雷光と電の炸裂音が激しく聞こえてくる。
「ブラック! 何か知ってるなら教えてくれ!」
「……もし、もしもアレが出たら大変な事になる。アレは駄目だ、あの【ショゴス】は……」
「ブラック!」
上の空のようにブツブツと呟くブラックの腕を揺すり、声を荒らげる。
「隊長、俺の考えが正しければこの後出てくるのはショゴス。人間やモンスター、生物の内臓と血を材料にした人造モンスターだ」
「人造モンスターって……そんな話聞いた事も……」
「だろうな。あれは帝国のトップシークレットであり、戦力の一つだ……俺が強化兵として所属していた帝国のな」
「なっ!」
「帝国のモンスターだと!?」
俺の横で話を聞いていたアストラが信じられない、といった表情で話に割り込んできた。
「なぜ帝国の技術がこのロンシャンにあるのだ!」
「アストラさん、ブラックに聞いても答えは出ません。落ち着いて下さい」
「く……! そうなんだが……!」
アストラは拳を固く握り、眉間に深いシワを寄せながら言った。
彼の気持ちも分からないでもない。
身内の争いだと思っていたら、遥か遠方にある帝国のモンスターが出るという。
混乱するのも無理は無い。
俺も同じだけどな。
「ショゴスは……かなりの強さと再生能力を持つ人造スライムだ。性能は……そうだな、子供と同程度の大きさのショゴス一匹で村一つが滅びると言えばいいか。強力な酸、打撃攻撃の無効化、生物を飲み込み自らの体組織へと変換させて大きさを増していく。魔法などは体内の核に刻まれた防御魔法陣により弾かれる……悪夢のような存在だ。倒すには核を壊すしか無いが、その核すらも硬質な障壁で保護されている」
「何だよそれ……めっちゃタチ悪いじゃないか……」
「臓物と血で造られたモンスター……考えるだけでおぞましい」
『見た目は勿論可愛くないわよね? ちょっと想像するだけで吐き気がするわ』
ブラックの絶望的な説明に途方に暮れていると、アストラが動きを止めた。
「どうしました?」
「地下牢に居た老魔導士をおぼえておりますか?」
「あ、はい。魔導士長さんでしたっけ」
夜襲により地下牢へ侵入した際に、檻の中にいた老人、外に出る事を拒んだ人だ。
「はい」
「その人がどうかしたんですか?」
「……魔導士長は、確か帝国出身のハズです……ですが……」
「魔導士長は帝国の軍部に?」
「分かりません、細かい事は聞いておりませんので」
「そうですか……」
仮に魔導士長が帝国出身だとしても、彼が帝国トップシークレットだと言われる技術を丸々持ち込んだとは考えにくい。
他国に技術を横流しにしたとなれば命を狙われる事になる。
「隊長、ヤツには剣で立ち向かうしか方法はありません。不定形種特有のトリッキーな攻撃に気を付けてくれ」
「あぁ。だけどそのショゴスってのが出てくるって決まったわけじゃない。気負いすぎるな」
と俺が言った直後、一際大きな電が王城敷地内の一角に落ち、強烈な炸裂音が鳴り響いた。
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