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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二九四話 拍子抜け
しおりを挟む今日で平成が終わりますね。
平成は色々な事がありましたが、平成最後の月にこの作品【欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。】が書籍化出来た事を心から嬉しく思います。
これも投稿し始めてから今まで読み続け、応援してくれた読者の皆様のお力添えがあっての事です。
明日からは令和が始まります。
文殊使いが完結するのはまだまだ先の事となりますが、完結まで毎日投稿を続けて行きたいと思っております。
これからも拙作【欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。】とフィガロ、シャルル、クーガ、リッチモンドのフォックスハウンドを始め、キャラクター達は精一杯駆け抜けて行きます。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
では本編をどうぞ。
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三階へ向かう階段に足をかけ、手にした剣の柄を固く握りしめる。
意外な事に三階は静まり返っており、上から革命軍が下りてくる様子も無い。
下りてくるのは舐めるような静寂の気配だけだが、罠という可能性もあるので俺達は階段の端をゆっくりと登っていく。
そして階段を登りきり、踊り場から通路を覗いてみるが敵の姿は皆無だった。
慌ただしい気配も声も何も聞こえない、不気味な静けさだけが三階を満たしていた。
「誰も……いないんですかね?」
「分かりません。息を潜めているやも知れません、油断は禁物ですが……少し先見に参ります、お待ち下さい」
「お気を付けて」
大人数が三階に上がれる階段はここ一つだけ、ヘカテーと共に王の救出で使った階段は先の戦闘で壊れており、通行できなくなっていたので、出るも入るもここを通らなければならない。
しかし三階から降りてきた革命軍を見た者は誰も居ない。
横を歩くアストラに声を掛けると、アストラは剣を納め代わりに刃渡り二〇センチほどのダガーを取り出して壁に張り付いた。
いつでもダガーを突き出せるように構えながら、ゆっくりと壁際を進んで行った。
俺とシャルルは固唾を飲んでアストラを見守る。
いつでも援護出来るよう、俺の掌には魔力弾が生成されている。
俺達の後ろには三階を制圧すべく意気込んだ兵士達が控えており、士気は高い。
だがあまりの静寂に戸惑いを隠せないようで、顔を見合わせてはヒソヒソと何かを話し合っている。
『何か変ね……』
「ああ。静かすぎる」
「放棄された可能性も考えた方がいいかと」
「そうだな。ブラックの言う可能性も捨てきれない」
静寂の海をゆっくりと進むアストラから目を離さず、ブラックの言い分を飲み込む。
ブラックは長剣を床に突き立てて直立の姿勢を崩さない。
アストラは一番近い扉を少し開けている所であり、扉の隙間から室内を覗き見ていた。
そして扉を完全に開き中へ入り、数分後部屋から出てきたアストラは俺の方に向き直って手招きをした。
「行こう」
手招きに応じ、足早にアストラの所へ向かった俺達は開かれた扉の中で衝撃的なものを見た。
「……全員、死んでおります」
四方一〇メートルほどの室内には、無造作に転がった八人の死体があり、何故か一様に体の厚みが薄い気がする。
その死体の顔は、死の直前恐ろしい存在を前にしたかのような恐怖で固まっていた。
「そんな……」
「しかも……その……」
アストラが数分戻らなかったのは死体の確認をしていたのだろう。
チラリと大人シャルルを見て言葉を濁した。
『私は大丈夫』
口に手を当てたシャルルは真っ直ぐにアストラを見詰め、小さく頷いた。
「体中の血液と、内臓が抜き取られています」
アストラはそう言った後、顔を顰めて床に転がる死体の一つをひっくり返した。
体が薄く見えたのは内臓が無いからだったのだろう、腹部はベッコリと凹み、肋骨で支えられている胸部はそのままの厚みを保持している。
ひっくり返された死体の背中は大きく切り開かれており、中はがらんどうで肋骨や背骨が剥き出しになっていた。
『う……酷い……』
小さく呻き声を上げたシャルルの顔は蒼白だった。
突撃時、魔法で革命軍の命を奪ったシャルルだったが、目の前で人間の体内を見た衝撃はやはり強かったらしい。
正直俺も凄惨すぎる光景に目を背けたくなるが、何故こうなったのかが非常に気になる所だ。
「血液が先に抜かれ、その後解体されたのでしょう……しかし何故……」
「この人達は革命軍、ですよね」
「はい。それは間違いありませんね、問題はその抜き取られた血液と臓物が何処にいき、何に使われるのかという事です」
「知っているんですか!?」
「いえ、申し訳ありませんがそこまでは把握しておりません……」
「で、ですよね……すみません」
死体に手を合わせた後、吐き気が自然に込み上げてくる室内から抜け出して次の部屋へ向かった。
ロンシャン兵達は階段の踊り場で待機させ、俺、シャルル、強化兵、アストラの七人で先に進む事にした。
部屋を開け、通路を進みさらに部屋を開け、さらにさらに進み続け、最終目的地である玉座の間へと至った。
結論から言おう。
全滅だった。
玉座の間には約五〇人分の死体があった。
通過してきた各部屋にも死体は転がっており、その全ての血液と内臓が抜かれ、表情も全て恐怖に歪んでいた。
「何が起きてるんだ……」
「死体を見る限り我々が王城に踏み込んだ時点では生きていたと思われます。何故皆殺しになっているのかは分かりませんがね」
死臭が立ち込める玉座の間から出た俺達は、割れた窓から吹き込む風に当たっていた。
風は冷たく、混乱する頭を冷やしてくれる。
何故、その言葉だけが騒がしく頭の中でグルグルと走り回っている。
「血液……臓物……まさか」
それまでずっと黙り込んでいたブラックが、王城の外を見ながら何かを思い出したかのようにポツリと呟いた。
ブラックが呟いたと同時に、窓から吹き込む冷たい風が生暖かい異臭を纏ったモノへと変わっていった。
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