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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
三〇三話 ミロクの処遇
しおりを挟む「そんなワケなんだけど……どうする? 殺しとくかい?」
「待て待て待て、結論が早すぎるってば! いやまさかこんな所でクリムゾン公爵の名前を聞くことになるとは思わなかった……」
「僕だって同じだよ。この戦争中に空気の読めない男だねまったく」
「それは関係無いんじゃないか……? だがまぁ……怪我の功名という事にしておくか……とりあえずこの男はドライゼン王に引き渡す」
「今かい!? それこそ空気を読まない行為だと思うけどなあ……」
「今なわけないだろ。国に帰ってからだよ」
俺は焦点の合っていないミロクの虚ろな瞳を見ながらそう言った。
この男をドライゼン王に突き出した所で、ここはロンシャンであり、戦争の只中にある。
これ以上問題事を持ち込んでも解決には成らない事ぐらい俺にだって分かってる。
今はその時じゃない。
だがこれでクリムゾン公爵の、ひいてはランチアの闇に蔓延る貴族達の悪事を暴く一端を掴む事が出来た。
「なら僕達が帰るまでこいつはどこか適当な所に隠しておくよ」
そう言ったリッチモンドの眼が怪しく光ると、ミロクは再び雨風吹き荒れる闇の中に消えて行った。
「でだね。もう一つ提案があるんだけどいいかい?」
「ん? 何だ?」
ミロクが完全に闇の中へ溶け込んだのを確認した後、リッチモンドが人差し指を上げて言った。
「あのスケルトンホース、使わないかい?」
「使わない」
「返事が早すぎやしないかい!? もう少し考えてもいいと思うんだけれどね?」
「いやだって、馬使うよりフライの方が早いし」
「そうじゃないよ……いつ僕が君にと言った? 君に馬なんて必要無いのは分かってるさ。君じゃなくて王室やロンシャンの人達にだよ」
「あー……なるほど……ってそれ本気で言ってるのか!?」
リッチモンドは呆れたように肩を竦め、首を左右に振った。
そして王城の外壁に寄り掛かり、腕を組んで俺を見る。
「もちろん本気で言ってるさ。考えてもみなよ、馬があれば移動速度も早くなるし積荷だって移動出来るようになる。騎馬戦だって可能だ」
「それはそうだけど……」
「まさかとは思うけど、フィガロが常時全ての兵に強化魔法を掛けて回るつもりじゃないよね?」
「まぁ……な」
「だろう? なら足はあった方がいい。何よりスケルトンホースは疲れを知らないし、生身の馬よりも数倍早い。そして、死なない」
「言葉を返すようだけど、リッチモンドが全ての兵にスケルトンホースを与えるつもりじゃないよな?」
「僕が召喚出来る眷属の数は百体までだ。王室の人達にそれぞれ与え、次は隊長格に、残りは騎馬兵を組みあげればいいだろうね」
「だけど……」
考えとしては妙案だとは思う。
しかし生身の人間が闇の眷属に跨るというのはなんとも……。
「何を躊躇する必要があるんだい? スケルトンホースが無害なのは君も見たろう」
「分かったよ。ならそれをアーマライト王やドライゼン王に話さなけりゃな」
「渋々って感じだね。我ながら良い案だと思うんだけど……僕が平気でスケルトンホースが駄目な理由が理解出来ないよ」
「俺自身よく分かってないんだ。別に聖職者でも何でも無いのにな。なんでかな……」
「不思議な男だね、君は」
「うるせいやい」
頭上にあるテラスのおかげで雨はそんなに当たらないが、吹き荒れる風は俺とリッチモンドの服をバタバタとはためかせる。
雷鳴は相変わらず激しく轟き続けており、空を覆う暗雲が晴れる様子も無かった。
〇
俺が王城の中に戻るとシャルルがキョロキョロと周囲を見回しており、目が合うとシャルルはすぐにこちらへ駆け寄ってきた。
「フィガロ! どこ行ってたの? 作戦会議をするからすぐに来てくれってお父様が言っていたわ」
「リッチモンドと少し話をしてた。分かった、すぐに行くよ。ついでにリッチモンドも連れてく」
「いいわ。こっちよ」
リッチモンドを手招きし、俺とリッチモンドとシャルルで荒れ果てた王城内を歩く。
ロンシャン兵やランチア兵が共同で瓦礫などの撤去作業を行っていたが、彼らからは不安や絶望などの負の感情は感じられない。
国のシンボルとも言える王城を奪還出来た事が、兵達の士気に良い影響を及ぼしているのは間違い無かった。
「シャルルです」
臨時の作戦会議室であろう部屋の前に立ったシャルルは、ノックを一つした後そう告げた。
すると扉は内側からロンシャン兵により開けられ、部屋の中にはドライゼン王とアーマライト王を筆頭に各部隊の隊長とアストラ、タウルスに守護騎士、そして四人の強化兵がいた。
皆の視線を浴びながら俺は軽く頭を下げ、部屋に入る。
部屋は横に長く、それに応じた長いテーブルと背もたれの高い椅子が置かれており、俺より先に集まっていた人達は既に着席している。
「お待たせ致しました。フィガロ及びリッチモンド、ここに」
「よしよし、これで揃いましたな? では明日からの行動を決めていきたいと思うが……」
俺とシャルルとリッチモンドが席に着いたのを確認したアーマライト王が口を開き、作戦会議が始まったのだった。
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