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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

三〇四話 偵察

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 作戦会議は滞りなく進んだ。
 というのもロンシャン兵を動かすのはアーマライト王であり、俺達ランチア勢はロンシャン側が立てた作戦に沿って行動するまでだからだ。
 この場にいるロンシャン兵の中で、唯一アーマライト王に進言出来るのがアストラだが、特に異議を申し立てることも無かった。
 アーマライト王としては王城を死守しつつ、作戦領域を広げていくつもりだ。
 だがこちらの戦力は驚くほど少ない。
 王城奪還作戦で思いのほか兵力を削られてしまったのもあるが、元々の絶対数が少ないのだ。
 王城があるこの中央都市部はかなりの広さがある。
 路地は入り組んでいたり、地図に記載されていない再開発区域すらあるというのだ。
 しかも再開発に際して無人となった建物もあり、どこに革命軍や正規軍、冒険者に住民などの生き残りがいるとも分からない。
 捕縛した革命軍の捕虜達からは現在情報を引き出している途中だ。
 口を割らない者達には拷問や薬物投与も辞さない考えだ、とアーマライト王は強い口調で言っていた。
 そして少ない戦力をどう捌き、どう配置するかで皆が頭を抱え始めた時、リッチモンドから提案が出た。
 先程俺と話していたスケルトンホースを配備する案だ。
 対してアーマライト王や各隊長達の反応は様々だったが、やはり忌諱ききする者もいて物議を醸した。
 しかし、結局背に腹は変えられない事、スケルトンホースの優れた性能に頷く者が増え、結局五十体のスケルトンホースが配備される事となった。
 戦争における馬の優位性は高く、戦闘、伝達、運搬、様々な場面で重宝する存在だ。
 その馬が決して死なず、食糧や疲れを考慮しないで済むとなればどうだろうか。
 考えるまでもなく、非常に強力な戦力となる。
 スケルトンホースが闇の眷属だと言っても、存在自体はアンデッドなのだ。
 俺もそうだが、皆が微妙に思っているのはそこだろう。
 
「リッチモンド殿、信じて宜しいのですかな?」

「大丈夫だよアストラさん。危害は無いと断言出来るよ」

「では早速頼みたい。アストラよ、リッチモンド殿を連れ、兵の選抜を行え。完了次第スケルトンホースを与えよ。しかるべく説明をするのだぞ」

「は!」

 配備されるスケルトンホース五十体は騎馬隊として編成される事になった。
 五十の騎馬兵は十の小隊に分けられ、街に伸びる大通りを走る段取りで偵察、及び生存者の救出が目的となる。

「して、フィガロ様もよろしいですかな?」

「はい、任せてください」

 俺に与えられた役目、それは空からの偵察任務だった。
 ヘカテーがアーマライト王に俺が空を飛べる事を話したらしく、是非にとお願いされたのだ。
 俺としては何の問題も無いので快諾しておいた。
 偵察するエリアとしては、王城を中心に半径一キロ以内となっている。
 明日から遂行される環状作戦はその名の通り、アーマライト王率いる正規軍と俺達が王城から円状に制圧エリアを広げていくものだ。
 そして同時に王城の敷地内も制圧していく。
 王城の敷地も市街地同様に広く、全長約三キロメートルはある。
 敷地内の中には軍備施設や武器の保管庫、食料庫なども存在しているので早めの制圧を行いたいらしく、 俺達は明日の作戦に備えて就寝するが、敷地内の制圧は新たに編成された別働隊により今日の夜から開始される。
 報告によると王城奪還作戦で生き残ったロンシャン兵は百五十人、時刻塔の防衛に当たっていた人員を加えると二百五十人となる。
 屋敷から出発した兵力から考えると、百五十人の兵士が命を落とした事になる。
 もちろんその半数以上はショゴスによるものだ。
 王城の防衛にはドライゼン王を主軸に置き、ランチア兵に守護騎士、強化兵三人を充てがう。
 残りの兵は四方に分割され、緊急連絡用としてスケルトンホースがそれぞれ配備される事になった。
 リッチモンド、ブラック、大人シャルル、タウルスは遊撃隊としてスケルトンホースに騎乗する手筈になっている。
 空から攻めてくる、なんてことは無いと思うけどウルベルトを逃した時に現れた巨大な鳥型のモンスターが懸念材料の一つだ。
 鳥型モンスターは魔獣の線が濃厚だが、あれ以来姿を見せないでいる。
 市街地に散らばっている革命軍の本拠地すら特定出来ていない今、どの方面でどのタイミングでかち合うのかも分からないというのはかなり痛い。
 俺が空から偵察を行い、めぼしい場所を見つけたらウィスパーリングで即時報告、遊撃隊が先発隊として攻め込むという作戦も指示されているのだけど……。

「本当にやるんですか?」

「ホッホ。お任せ下さいませ、この老骨まだまだ戦えるという事をお見せいたしますぞ?」

 遊撃隊にタウルスが組み込まれている理由、それは単純に彼が立候補したからだ。
 毒矢から回復したタウルスは肌ツヤも良く、心無しか気迫というか、オーラのようなものが違う。
 シャルル専属執事とは言え、シャルルが言うにはタウルスも結構な強者だと言うのであまり無下には出来なかった。
 からからと笑うタウルスを含め、作戦概要の再確認を行い作戦会議はそこでお開きとなったのだった。
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