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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
三一六話 天翔るウルベルト
しおりを挟む「くそ、どーする? もう一度空に上がるか? それとも地上の応援に回るか?」
リッチモンドと連絡を終えた俺は、手近な建物の中に身を隠していた。
結局あれからは一度も攻撃を受けておらず、敵もこちらを視認した上で攻撃に移っていると見て間違いない。
今でも遠くで爆発音が聞こえるので、敵による攻撃は継続中なのだろう。
俺が落とされてから軽く三十分は経過しているのだが、一向に敵発見の報も無い。
そんな時だった。
「隊長、見つけたぞ。ここだ」
「ブラック! ここだって……あー……なるほど、こんな事も出来るのね……」
突如ブラックからの思念が飛んできたと思ったら、脳内にあるビジョンが浮かび上がった。
ブラックの見ている景色が思念に変換されて、ダイレクトに俺に送られているらしい。
思念って凄い。
俺は素直にそう思った。
「フライ!」
フライを発動させ、一気に加速した俺は上空へ上がり太陽を背にしてブラックから送られてきた場所目掛けて飛翔した。
目的地は王城から遥か遠くにある塔のような建物。
四角く縦に長いその建物の上からは二本の尖塔が伸びており、その尖塔の一本がブラックから送られた景色だった。
最高速で尖塔へ近付くと、展望台のような場所に見覚えのある白塗りの顔が銀色の何かを構え、驚愕の表情を浮かべて激昂している所だった。
「そんなに怒ると血管切れちゃいますよ? お久しぶりですね、ウルベルト中将さん。お元気そうで何よりです、ようやく見付けました。こんな所から撃ってくるなんて想定外過ぎますよ」
「な……そんな……!」
ゴーストでも見たような顔をしたウルベルトが、俺を呆然と見つめている。
「貴様は撃ち落としたはずだ! 直撃だったはずだ! 何故生きている!」
「それはお答え出来ませんね。何分国家機密なもので」
なるほど、俺を撃ち落としロンシャン兵たちを蹂躙した見えない魔法の術者はウルベルトだったわけか。
ようやく見つけた、という思いが込み上げ、不思議と笑みが零れてしまう。
「おのれ……! ハイエルフウウウウ!」
突如叫びを上げ、猛るウルベルトの声に応じるように五個の火球が生まれ、即座に俺へと向かい着弾する。
ほぼゼロ距離で火球は爆発し、濃い黒煙を吐き散らした。
「ラウンドツー、開始ですね!」
しかしフライを発動中の俺の周りには、風の障壁のようなものがある。
ウルベルトの火球を完全に無効化した俺は、声を高らかに宣戦布告を宣言した。
「こうなれば貴様を捕らえ、空飛ぶ魔法やらなんやらハイエルフの秘術一切合切を吐かせてやる!」
「やれるものなら、ね!」
黒煙の中から飛び出し、ウルベルトに向けて大上段から剣を振り下ろす。
ウルベルトは手にしていたモノで俺の剣を受け止め、十個の火球を俺に向けて放ってきた。
今さっき爆発を無効化してみせたと言うのに……学ばない人だな。
再び黒煙が上がり、一時的に視界が妨げられるがすぐに横に飛び黒煙の中から脱出する。
しかし黒煙を抜けた先にウルベルトの姿は無い。
なるほど、今の火球はただの目くらましというわけか。
滞空しながら周囲を見回してもウルベルトはおろか、展望台にいた数名の兵士の姿も無い。
逃げられたか、と思ったその時肩に激痛が走り痛みで僅かに体勢が崩れる。
痛みを感じた刹那、後方で再び爆発が起きる。
「いっづ! くそ! またかよ!」
「空を飛べるのが貴様だけとは思うなよ! ラプター!」
どうやらウルベルトは展望台に通じる扉のある壁の影に隠れ、俺を撃ち抜いたらしい。
肩は浅く掠っただけなので即座にキュアをかけ、ウルベルトの姿を追う。
「おい待てよ! 死ぬ気か!」
なんとウルベルトは展望台の柵を乗り越え、一息にダイブしたのだ。
「はーっはっは! 吾輩は死なん!」
風に身を任せ、服やマントをたなびかせて落下していくウルベルトだがその顔は死ぬ気などなく、目はギラギラと輝いていた。
そしてウルベルトの下からは、大きな影が凄まじい速度で上昇してくるのが見えた。
影は落下するウルベルトを背中で受け止め、俺を追い抜いてさらに上空へと飛び退った。
『主人が世話になったな、少年』
「喋った!?」
太陽を背に大きく羽ばたきを繰り返す大きな影、猛禽類のような足と爪、ずんぐりむっくりな胴体を支える巨大な翼。
逆光で細かな造形は分からないが、間違いなく目の前に浮かぶ巨体から声は発せられた。
「はーっはっは! こやつこそが吾輩の相棒【魔獣ラプター】よ!」
『そういう訳だ、少年。人の身でありながら空を飛ぶとは中々に驚きだ。このラプター、魔獣として変異する前にも後にもそのような存在は初めてだぞ』
「ど、どうも。フィガロです。こんにちは」
やはりリッチモンドの見立て通り、ウルベルトの使役するこの巨大な鳥は魔獣だったようだ。
まさかとは思っていたけど……本当に魔獣だったとはな。
クーガとはまた違った感じの魔獣だな。
『ご丁寧な挨拶だな、こんにちはフィガロ。所で……この私が怖くないのか? 一応魔獣なんだぞ?』
「ええ、まぁ。魔獣なら一匹知り合いがおりますので……」
『んな! ど、どんな魔獣だ!? 仲間がいると言うのか!』
どんな表情をしているのかは分からないけれど、ラプターと呼ばれた魔獣はゆっくりと羽ばたきながらも身を震わせているのが分かる。
「おいこらラプター! 何を世間話しているのだ! 吾輩とお前のコンビネーションでハイエルフを叩くぞ!」
『は! ですが少しだけ、後生ですので少しだけお時間を!』
「お前がそこまで言うのは珍しいな……うむ、いいだろう」
「いや、いいのかよ!」
ラプターの背中でやいのやいのと騒いでいたウルベルトだったが、自分の相棒の頼みには弱いのかもしれないな。
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