欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三四九話 四本の槍

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「何だ貴様らあっ……」

「敵襲! 敵襲だー!」

 迷宮管理塔の正面扉を蹴り開けて敵の真っ只中に雪崩込む。
 近くに居た兵士の体を横薙ぎにして分断し、その後は声を上げる者を優先的に斬り飛ばしていった。
 横で突風が起きたと思えばブラウンがバトルアックスの腹で、敵を壁に打ち付けていた。
 ホワイトとピンクは軽装ゆえの素早さで敵を翻弄している。
 ピンクは二本のショートソードで踊るように敵を斬り倒し、ホワイトはファルシオンで次々と敵を屠っていく。
 正門前のロビーにいた敵は少なく、一分も掛からずに全ての敵を処理出来た。
 ロビーからは四つの通路が伸びており、どの通路に行こうかと逡巡し右手の通路へ飛び込んだ。
 後ろからの追っ手はまだ見えない。
 強化された脚力にものを言わせ、疾風の如く通路を走る。
 見つけた敵は見敵必殺、有無を言わさずに首を胴を斬り放し、返り血を浴びる前に駆け抜けた。
 俺達の目的は立ち止まって立ち回る事じゃない。
 敵の意識をこちらに向け、なるべく多くの革命軍を引きずり出す事だ。
 自分の体を槍と化して、管理塔の中を突き進んでいく。
 
「俺はここにいるぞ! 出てこい革命軍! 貴様等は臆病者の集まりか!」

 そう叫びつつ、一階から二階に駆け上がって同じ事を繰り返す。
 チラホラと冒険者のような風体をした者達もいたが、武器をこちらに向けている以上は俺達の敵だ。
 立ち塞がる敵を問答無用で斬り捨てて、閉じられた扉を開けては斬り、開けては斬りを繰り返した。
 二階、三階、と進んで行き四階に辿り着いた時、目の前に兵士の集団が現れた。

「貴様等か! たった四人で乗り込んでくるとは愚の骨頂! この俺が……っておい待て! 逃げるな!」

「追って来い、貴様らのような雑魚が何人集まろうと俺達の敵では無い。もっと数を集めて来るんだな」

「ざ、雑魚だと!? 許さん! 直ちに応援を要請しろ! 奴らをこの階から逃がすな!」

 何やら朗々と語り始めた兵士の言葉を最後まで聞くことなく俺達は踵を返し、捨て台詞を残して違う通路へと駆け込んだ。
 俺の挑発は上手くいったらしく、応援を呼びに行ったのだろう、兵士の集団は散り散りになっていった。
 作戦では建物内のどこかでシャルル王女がシキガミを使って奔走しているはずだ。
 

「上手くやってくれるといいのだがな」

「そうは問屋が卸さない。ここは黒龍騎士団六番隊隊長のこの俺が相手だぺゃっ」

 通路を走る俺達の前に、騎士風の男がたった一人で立ちはだかり、何やら言っていたがそれを無視して首を飛ばす。
 正直今の俺達に敵はいない。
 人の体が、骨がまるで紙を切るような柔らかさだ。
 甲冑を付けていたとしても、関節部分の隙間程度があれば的確に刃を滑り込ませられる程に動体視力や反応速度が上がっている。
 強化兵に強化魔法をかける、なんていう馬鹿げた考えをするのは隊長ぐらいのものだろう。
 だがそのお陰で俺達は今、比類なき力を手にしている
 このまま撤退せずに全ての敵を斬り捨てられるのでは、という考えが頭をよぎったが即座に捨てた。
 これは単独行動では無く、ロンシャン連邦国の威信をかけた戦いなのだ。
 たとえ自国でなくとも作戦に従事している以上、下手な考えは邪魔なだけだ。
 作戦通り敵の意識をこちらに向け、戦略的撤退を選べばいい。
 四階から五階、五階から六階へと順調に侵攻を続け、六階はもぬけの殻だったのでそのまま七階へ。
 淡々と進んでいるように見えるが、各階を隅々まで回っている訳では無く、適度に暴れ、注意を引いた所で次の階へ進んでいる状態だ。
 七階はどうやら宿泊施設だったらしく、敵の姿はあまり見えなかった。
 階下ではかなりの大騒ぎになっているようで、探せ! だの殺せ! だのという物騒な言葉が飛び交っていた。

「頃合か」

 後は俺達が外に脱出し、建物内の敵を引きずり出す出せばいい。
 手近にあった窓を叩き割り、のそりと身を乗り出す。
 地面は遠く離れており、ここから飛び降りれば強化兵と言えどそれなりに怪我を負うのは必然だ。
 しかしそれは通常であればの話。

「全員降下!」

 俺達は武器を収め、外壁に沿うように窓から飛び降り、落下速度に合わせるように足の裏を外壁に軽く当て、そのまま下に駆け下りた。
 時間にしては数秒程度だったが、地面と垂直に走るなどという希少な体験に呆れた笑いを浮かべて足を離し、俺達は地面に着地した。
 勿論怪我など無い。
 
「どうした革命軍! 俺達はここだぞ間抜け共が!」

「外だ! 正門と裏口から二手に分かれて挟み込め!」

 俺が長剣を地面に突き刺して大声で叫ぶと、敵はご丁寧に作戦を教えてくれた。
 
「もう戦わないんだがな。くっくっく……踊れ踊れ、そして食い付いてこい!」

 作戦はかなり上手くいったらしく、正門からは革命軍の皆様が猛烈な勢いで溢れ出てきた。
 恐らくは裏口とやらも同じような事になっているに違いない。
 後は苦戦するふりをして徐々に後退して行けばいい。
 大通りと化した更地の両側には正規軍の同士が潜んでいるはず。
 敵を引き出せるだけ引き出した後は、魔導砲の斉射を待つのみだ。
 さぁ凡愚共よ、せいぜい頑張って追ってくるがいい。
 このキメラルクリーガー隊が貴様等を絶望の底へ案内してやろう。
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