欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三五四話 切り裂く風

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「お上の気心なんてもんは知らねぇけど、国をよくしようって気はあったと思うぜ。第一王女様が事故で無くなっちまってからは特にな」

「その第一王女というのは……?」

「ベルトーチカ様って言ってな。そりゃあ美人な王女様がいたのさ。五年前の話だ、ちょっとした事故に巻き込まれて治療の甲斐無くベルトーチカ様は天に昇られた。内紛が終わり、事後処理が終わり、さぁこれからって時だ。国全体が悲しみに暮れたよ。そして二年前、お妃様も原因不明の病に倒れて……」

「そんな事が……」

「終わっちまった事だが……ありゃあ王陛下もしのびねぇよ」

 遠くを見つめ、悲しそうな表情を浮かべてラインメタルは言った。
 何と言えばいいのか分からず押し黙っていると、その沈黙を切り裂くような音が鳴り始めた。
 王城からの砲撃が開始されたのだろう。

『フィガロ、始まったわ』

「おかえり、そうみたいだな」

「甲冑のねーちゃんもよろしくな。ラインメタルだ」

『ん? あ、はい初めまして』

「ねーちゃん声はわけーのにイカチーもん着てんな」

 ラインメタルはにっこりと笑ってから甲冑姿のシャルルへ手を伸ばし、シャルルもまたそれに応じて握手を交わした。
 窓際にいた人々は音に驚き、中には腰を抜かす人もいた。
 
「な! なんだぁ!?」

「正規軍の一斉砲撃です。まもなくこの迷宮管理塔への砲撃も始まります」

「ここにだと!? 俺達がいるのにか!」

『安心して下さい。貴方達を守る為のこのシェルターです』

「お、おう……にしても大胆な事するなぁ」

『アーマライト王も苦渋の決断だったようですよ』

「だろうなあ。この迷宮管理塔はロンシャンのシンボルみてーなとこ、あっからな」

 砲撃の音は断続的に数分間続き、静かになった所で外にいるリッチモンドへ思念を繋ぐ。
 
「リッチモンド、状況はどんな感じだ?」

「いやはや、見事なもんだよ。馬鹿みたいに進軍してきた革命軍は壊滅してしまったよ。現場はかなーりエグい事になってる、残党は散開したようだけど……ヘカテー王女のトラップとラプターの上空からの攻撃で虫の息だね」

「そうか、それなら——」

「ああ、もうすぐ管理塔への砲撃が始まる。備えるんだよ」

「分かった、ありがとう」

 ウィスパーリングを切ってからシャルルを見ると、何故か俺をじっと見つめている。

「どうした?」

『私、上手く説明出来るかな。これからここが攻撃されますって』

「俺が言おうか?」

『ううん、これは私の任務。やらせて。少し不安になっちゃっただけ』

 シャルルはガントレットを強く握り、その場から一歩踏み出した。
 そして冷静な口調で静かに語り始めた。

『皆さん、落ち着いて聞いて下さい』

 シャルルの真剣な声色を聞いてシェルターの人々が一斉にこちらを向いた。

『まずはこの私が作り出したシェルターですが、これはかなりの強度を誇ります。それを踏まえた上でお聞き下さい。もうすぐ正規軍の一斉砲撃が始まります、目標は革命軍の本拠地とされるこの迷宮管理塔です』

「ふざけるな! 俺達がいるのを知ってて決行するのか!」

 人々の中から抗議の声が上がり、そうだそうだ、と同調する声も上がる。
 ちなみに抗議したのは、先程俺にいちゃもんを付けてきた自称白金等級の青年だった。

『はい。その為の私とシェルター【アーククレイドル】です。ここにいるのは不安だという方々がいらっしゃるのなら申し出て下さい。引き止めませんし、ご希望通り外へとご案内致します。ですが、このアーククレイドルから出た瞬間、保護は無くなると思って下さい。我々正規軍から敵対勢力として見なされ、排除対象になっても私は関知しませんのであしからず』

 しかしシャルルは毅然とした態度を崩さずに全てを言い切ると、人々の顔をゆっくりと見回して反応を伺う。
 
「俺は出ていくぜ」

『正気ですか?』

 白金等級の青年がシャルルを睨み付けながら言った。
 青年は壁に向かって進み、その後から仲間だと思われる冒険者風の男女が付き従う。
 
「当たり前だ! 一般人がいるのを分かった上で攻撃を仕掛ける国なんてまっぴらだ! 革命軍の気持ちがよく分かったよ、こんなクソッタレな国に未来なんてないって事がな! 他に俺に付いて来たいヤツはいるか? 俺は白金等級の冒険者、エリートだ。必ずこの国の暴挙から守ってみせる!」

 何だか妙な空気になってきているが、この青年の勘違いは甚だしいな。
 思い込みが激しいのか短気なのか、どちらにしても青年はこちらの言っている事を一ミリも理解していない事だけは分かる。
 白金等級に上がるには実力も伴わなければならないが、それがエリートかと聞かれたら俺は違うと答える。
 冒険者が相手取るのは、人間ではなく凶悪なモンスターや自然の脅威だ。
 仮に、訓練された上級兵士と実戦経験の多い冒険者が一対一で戦ったとしたら、勝つのは訓練された上級兵士だ。
 だが場の空気は微妙に青年の方に傾いており、一人二人ポツポツと手を挙げ始めたと思えば、結果的に十数人の男女が手を挙げていた。

「こういう事だ。俺達はここを出る、人の命を何とも思ってない国なんて知った事か!」

『……分かりました。それではこちらへ、時間がありません、急いで下さい』
 
 先程の言葉通りシャルルは引き止める事もせず、壁に穴を広げてその横に立った。
 青年が先頭に立って穴を潜り、その後ろから賛同する者達が侮蔑の表情を浮かべて出ていったのだった。
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