191 / 298
第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
三五三話 冒険者の男
しおりを挟む
「どうも、初めまして。フィガロ・シルバームーンと申します」
「ご丁寧にありがとよ。俺っちはラインメタルってもんだ。見てわかると思うがドワーフだ」
ラインメタルはそういうと手を差し出し握手を求めてきた。
断る理由もないので差し出された手を握り、軽く上下に振った。
掌の皮は暑く、小柄だががっしりとした身体付きで全体的に色黒だ。
頭には手ぬぐいを巻いており、うなじに見える髪色は濃い茶色をしている。
「ドワーフの方には初めてお会いしました」
「そうかいそうかい。にしてもニーちゃんは家名持ちかぁ、どうりで品がいいと思ったぜ。対してあの表六玉はダメだな。早死にするタイプだ」
「ひょう、ろくだま?」
「間の抜けたやつとかバカみたいなやつって意味さ。たった一人でこの場所に乗り込んでくるたぁ中々出来ることじゃあねぇ。それも分からんような馬鹿はほっとけほっとけ。冒険者の中には自分は凄いと勘違いしてるやつがゴロゴロいるが……大体は死んじまうか挫折して故郷に帰るかだ」
「あー……そういう意味なんですね。勉強になります」
掠れたような声で話すラインメタルに肩を力強く叩かれるが、悪い気はしなかった。
「いい家名だな。銀の月、か」
「はい」
「だがロンシャンでは聞かねぇ名だ。どこのモンだ?」
「私はランチア守護王国の人間です。そこで辺境伯の爵位を頂いております」
「っはー……ランチアのか。おまけに辺境伯サマかい……こりゃ失礼致しました。若いのになぁ」
「まぁまぁ、そんな事は置いておきましょう。それより何かご用ですか?」
「うんにゃ、別に用があったわけじゃあないんですよ。興味を惹かれただけの話で」
「なるほど。ならついでに今回の顛末はご存知ですか?」
「革命軍て名乗る奴らから聞いた話だけだが……やばいことになってるみたいですね」
ラインメタルは頭を乱雑に掻きむしりながら床に腰を下ろした。
俺もそれに習いあぐらをかいて座る。
「今ロンシャン国内は、あちこちで革命軍と正規軍の戦闘が起きて荒れに荒れています。私達ランチア勢力はアーマライト王陛下に助力している状態なんですよ」
「革命、ねぇ。する必要なんてねーと俺っちは思いますがね。あいつら急にこの迷宮管理塔に押しかけて来たと思ったら、あっという間に占領しちまった。管理塔内部にいた一部の連中が反対勢力として抵抗したらしいが……全滅したと革命軍の奴らは可笑しそうに笑ってた。自由冒険組合の支部長や幹部連中、冒険者達も抵抗したが殺された。モンスター相手に戦ってきた連中さ、人殺しとして訓練されたやつらに勝てるはずもねぇ……おまけに相手はあの赤龍騎士団と黒龍騎士団、逆らう方が無茶ってもんさ」
「ですが助かった人達もいるのでしょう?」
「助かったのは一般人やこの塔の職員達、大人しく投降した冒険者達だけだ。そしてその半分は革命軍に肩入れしてどっかに行っちまった。ここにいるのは抵抗もせず協力もしなかった連中さ。あの表六玉だって最初はブルブル震えてたってのによ、助けがくる可能性が出たらあーやってデカイ顔し始めたんだ。同じ冒険者として情けねぇったらありゃしねぇ……」
「まぁまぁ……過ぎたことですし、私としてもあの人には興味ありませんから大丈夫です。実は私も冒険者なんですよ?」
「何だって!? そいつあ意外だな! 酒はいける口ですかい? よかったら今度どうですクィっと」
「お誘いはありがたいのですがお酒はちょっと……」
「そうかい、残念だ」
肩を落とし見るからにしょげるラインメタルだが、やはりドワーフという種族は酒が好きなのだろう。
クロムの時もそうだったけど、大人になるとお酒の付き合いも増えるだろうし、いつかは通らなければならない道だ。
少しずつ鍛えていくしかないだろうなぁ、とぼんやり考えているとランチアには銘酒と呼ばれる物が無い、とクロムが嘆いていたのをふと思い出した。
だからこそ新しい作物を育て、そこから地酒などの産出していきたいのだと力説していた。
「俺っちはよ。この国がどっちに転ぼうと出ていくつもりなんだ」
「なぜですか?」
「他の国を見てみたいと思ったんさ。何となくな」
「そうですか……あの。ラインメタルさんから見てアーマライト王はどのような人物ですか?」
頭によぎった疑問をそのままぶつけてみる。
現地の住人から見える王のビジョンというのは身近にいる人間とは異なるものだ。
この際だから聞いてみるのも悪くないだろう。
「いいお人だと思うぜ? 人柄は悪くないし税率もちょうどいいし、経済も上手く回ってた。まぁ貧困層やスラム街はどうにも出来なかったみたいだがな。この国が広すぎるせいもあるだろうし、まともに働きたくねぇ連中だって少なからずいるがそこは王陛下一人だけで解決出来る問題じゃあねぇしなぁ」
「反対派というか、そういう方々はいなかったのですか?」
「そりゃいたさ。王陛下が打ち出す政策や法案に悉く噛みつくやつらはいた。過激派みたいなのは居なかったが世論がどうだの若者がどうだの高齢者がどうだのと一々突っかかってな。だがそれは内紛が収まったから出来たことだ。武力闘争が無くなれば今度は言論闘争、人ってもんは争わずにはいられねぇのかもな」
「そう、ですか……」
「だが俺っちは王陛下が間違ったことをしてきたとは到底思えねぇ。革命軍がどんな国を目標にしているのかは知らないが、ここまで国を荒らして改革も何も無いもんだ」
ラインメタルは苦虫を噛み潰したような顔をして窓に群がる人々を見た。
「ご丁寧にありがとよ。俺っちはラインメタルってもんだ。見てわかると思うがドワーフだ」
ラインメタルはそういうと手を差し出し握手を求めてきた。
断る理由もないので差し出された手を握り、軽く上下に振った。
掌の皮は暑く、小柄だががっしりとした身体付きで全体的に色黒だ。
頭には手ぬぐいを巻いており、うなじに見える髪色は濃い茶色をしている。
「ドワーフの方には初めてお会いしました」
「そうかいそうかい。にしてもニーちゃんは家名持ちかぁ、どうりで品がいいと思ったぜ。対してあの表六玉はダメだな。早死にするタイプだ」
「ひょう、ろくだま?」
「間の抜けたやつとかバカみたいなやつって意味さ。たった一人でこの場所に乗り込んでくるたぁ中々出来ることじゃあねぇ。それも分からんような馬鹿はほっとけほっとけ。冒険者の中には自分は凄いと勘違いしてるやつがゴロゴロいるが……大体は死んじまうか挫折して故郷に帰るかだ」
「あー……そういう意味なんですね。勉強になります」
掠れたような声で話すラインメタルに肩を力強く叩かれるが、悪い気はしなかった。
「いい家名だな。銀の月、か」
「はい」
「だがロンシャンでは聞かねぇ名だ。どこのモンだ?」
「私はランチア守護王国の人間です。そこで辺境伯の爵位を頂いております」
「っはー……ランチアのか。おまけに辺境伯サマかい……こりゃ失礼致しました。若いのになぁ」
「まぁまぁ、そんな事は置いておきましょう。それより何かご用ですか?」
「うんにゃ、別に用があったわけじゃあないんですよ。興味を惹かれただけの話で」
「なるほど。ならついでに今回の顛末はご存知ですか?」
「革命軍て名乗る奴らから聞いた話だけだが……やばいことになってるみたいですね」
ラインメタルは頭を乱雑に掻きむしりながら床に腰を下ろした。
俺もそれに習いあぐらをかいて座る。
「今ロンシャン国内は、あちこちで革命軍と正規軍の戦闘が起きて荒れに荒れています。私達ランチア勢力はアーマライト王陛下に助力している状態なんですよ」
「革命、ねぇ。する必要なんてねーと俺っちは思いますがね。あいつら急にこの迷宮管理塔に押しかけて来たと思ったら、あっという間に占領しちまった。管理塔内部にいた一部の連中が反対勢力として抵抗したらしいが……全滅したと革命軍の奴らは可笑しそうに笑ってた。自由冒険組合の支部長や幹部連中、冒険者達も抵抗したが殺された。モンスター相手に戦ってきた連中さ、人殺しとして訓練されたやつらに勝てるはずもねぇ……おまけに相手はあの赤龍騎士団と黒龍騎士団、逆らう方が無茶ってもんさ」
「ですが助かった人達もいるのでしょう?」
「助かったのは一般人やこの塔の職員達、大人しく投降した冒険者達だけだ。そしてその半分は革命軍に肩入れしてどっかに行っちまった。ここにいるのは抵抗もせず協力もしなかった連中さ。あの表六玉だって最初はブルブル震えてたってのによ、助けがくる可能性が出たらあーやってデカイ顔し始めたんだ。同じ冒険者として情けねぇったらありゃしねぇ……」
「まぁまぁ……過ぎたことですし、私としてもあの人には興味ありませんから大丈夫です。実は私も冒険者なんですよ?」
「何だって!? そいつあ意外だな! 酒はいける口ですかい? よかったら今度どうですクィっと」
「お誘いはありがたいのですがお酒はちょっと……」
「そうかい、残念だ」
肩を落とし見るからにしょげるラインメタルだが、やはりドワーフという種族は酒が好きなのだろう。
クロムの時もそうだったけど、大人になるとお酒の付き合いも増えるだろうし、いつかは通らなければならない道だ。
少しずつ鍛えていくしかないだろうなぁ、とぼんやり考えているとランチアには銘酒と呼ばれる物が無い、とクロムが嘆いていたのをふと思い出した。
だからこそ新しい作物を育て、そこから地酒などの産出していきたいのだと力説していた。
「俺っちはよ。この国がどっちに転ぼうと出ていくつもりなんだ」
「なぜですか?」
「他の国を見てみたいと思ったんさ。何となくな」
「そうですか……あの。ラインメタルさんから見てアーマライト王はどのような人物ですか?」
頭によぎった疑問をそのままぶつけてみる。
現地の住人から見える王のビジョンというのは身近にいる人間とは異なるものだ。
この際だから聞いてみるのも悪くないだろう。
「いいお人だと思うぜ? 人柄は悪くないし税率もちょうどいいし、経済も上手く回ってた。まぁ貧困層やスラム街はどうにも出来なかったみたいだがな。この国が広すぎるせいもあるだろうし、まともに働きたくねぇ連中だって少なからずいるがそこは王陛下一人だけで解決出来る問題じゃあねぇしなぁ」
「反対派というか、そういう方々はいなかったのですか?」
「そりゃいたさ。王陛下が打ち出す政策や法案に悉く噛みつくやつらはいた。過激派みたいなのは居なかったが世論がどうだの若者がどうだの高齢者がどうだのと一々突っかかってな。だがそれは内紛が収まったから出来たことだ。武力闘争が無くなれば今度は言論闘争、人ってもんは争わずにはいられねぇのかもな」
「そう、ですか……」
「だが俺っちは王陛下が間違ったことをしてきたとは到底思えねぇ。革命軍がどんな国を目標にしているのかは知らないが、ここまで国を荒らして改革も何も無いもんだ」
ラインメタルは苦虫を噛み潰したような顔をして窓に群がる人々を見た。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。