欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

文字の大きさ
210 / 298
第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三七二話 熾天使

しおりを挟む

 俺が目に付いた魔人を片っ端から倒していると、防戦一方だった教会騎士団に動きがあった。
 先程までは及び腰だったはずなのに、突如水を得たクラーケンのように猛り、充分な気合いが迸っている。
 しかし騎士達の視線をやたらと強く感じるのは気の所為だろうか。
 そして九人目の魔人を葬った時、薄々感じていた事が間違っていない事を確信した。
 確かに魔人達の身体能力は高いが、俺からしてみればさほど脅威だとは感じない。
 実力で言えばトムやキメラルクリーガー隊の方が強いだろう。
 竜巻魔人や槍魔人もそうだっけたど、動きが速い割に隙が多く、技術も雑な印象だった。
 メタルラインは何人もの低級冒険者が、ノーザンクロスの持ち掛けた話に乗ったと言っていた。
 言い方は悪いが、実力の低い者達が魔人化したはいいものの、実力が肉体に追いついていないんじゃ無いだろうか。
 勿論一般的な強さからは掛け離れている。
 しかし幼い時から森を出るまで、化物レベルの実力者に揉まれてきた俺からすれば雑魚でしかない。
 自分が強いと過信し、技も磨かず相手を見下し、結果敗れる。
 大きな力の上に胡座をかくだけでは成長しない。
 ラプターが言ったウルベルトの言葉が脳裏を過る。
 これは魔人達にも当てはまるが、俺だって他人事じゃない。
 全ての魔人の実力が低いとは限らないし、相手をしてきたのがたまたま運良く雑魚の魔人だっただけかも知れない。
 油断という名の隙間を埋め、気を引き締め直した俺は残りの魔人達へ目を向ける。
 
「これで三分の一は倒したか……」

 俺がこれだけ倒しているにも関わらず、周囲の状況はあまり好転していない。
 魔人達の気を引ければと思っていたが、教会騎士団を相手取る魔人達は己の戦いと力に酔い、俺の事など気にも止めていないようだった。

「あの……貴方は天使様ですか……?」

「は?」

 近くにいた女騎士の一人に唐突にそんな事を言われ、俺の頭の中は天使? なにそれ? 状態になった。
 
「天使様! どうか我らと共に!」

「えっ、あのいや、は?」

「地の底より這い出した魔人の軍勢は、恐らく混乱に乗じてこの国を乗っ取る算段です。革命軍も正規軍も見境なく攻撃をしております。さらにあの恐ろしい姿の巨獣……どうか! 我らの枢機卿とこの国をお救い下さい!」

「天使様!」

「どうかお力を!」

 一人の女騎士が胸の前で手を組み、跪くとそばに居た騎士達も同じような所作をとり始めた。
 懇願という言葉が見事に当て嵌るその姿と、彼女らが口にした言葉を聞いて喉が詰まる。

「枢機卿……」

「はい! 我らが枢機卿は革命軍に囚われてこの国の何処かに幽閉されているのです。我らは枢機卿をお救いする為にこの戦いに参加しているに過ぎません……魔人達は非常に強力で、このままでは非力な我ら、皆が志半ばに倒れてしまいます……どうか……お力添えを……!」

 女騎士は話しながら感極まってしまったのか、大粒の涙を流しながら祈るように俺を見る。

「枢機卿……」

 ラプターの話ではその人はもう……この世にいない。
 宗教の内部事情はよく知らないけど、彼女達がここまで敬愛する枢機卿はどのような人物だったのだろうか。
 しかしそれを知る術は既に無く、枢機卿と騎士団が再び顔を合わせる事も永久に訪れない。
 再会出来るとしても……雲の上、天上の世界でしかない。
 だが今それを伝えれば彼女達は戦意を失い、魔人達の殺戮の玩具になってしまう。
 
「……分かりました! 共に戦い、枢機卿とこの国を魔の手から守りましょう!」

「天使様……!」

 今は少しでも多く犠牲を減らすべきであり、俺が旗頭となれば騎士達にも心の余裕が生まれるはずだ。
 現に俺が言った言葉を聞いて、女騎士達の表情に活力が生まれているのが見て取れる。

「私の名はフィガロです。よろしくお願い致します」

「フィガロ様……! 熾天使セラフィムフィガロ様!」

「いやだから私は天使などでは」

「皆の者聞け! 神は我らを見捨てはしない! 熾天使フィガロ様が我らを導いて下さる! 神の名のもとに命という旗をはためかせろ!」

「ちょっ! はぁ……またこれか」

 ウルベルトもそうだったけど、この国の人達は人の話を聞かない気質でもあるんだろうか? 
 教会騎士達からは鬨の声が上がっており、俺の声は見事に掻き消されてしまった。
 もうこの際ハイエルフでも天使でも何でもいいよ。
 好きに呼んで下さい。
 あと旗をはためかせるのは結構ですけど、騎士道とは死ぬ事と見つけたり、みたいな事言わないで下さい。
 華々しく散られても、神の身元へお連れする事なんて俺には出来ませんよ。

「皆さんは守りを固め、受けに回って下さい! それと視覚強化、反応強化の魔法が使えるならそれを! 攻撃速度を追えれば被害も少なくなるはずです!」

「なるほど……! 聞こえたか! 各自実行に移れ!」

 俺のアドバイスが騎士を通じて伝播していき、円陣を組んでいる騎士達は徐々に魔法の輝きを発し始めた。
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。