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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
三七二話 熾天使
しおりを挟む俺が目に付いた魔人を片っ端から倒していると、防戦一方だった教会騎士団に動きがあった。
先程までは及び腰だったはずなのに、突如水を得たクラーケンのように猛り、充分な気合いが迸っている。
しかし騎士達の視線をやたらと強く感じるのは気の所為だろうか。
そして九人目の魔人を葬った時、薄々感じていた事が間違っていない事を確信した。
確かに魔人達の身体能力は高いが、俺からしてみればさほど脅威だとは感じない。
実力で言えばトムやキメラルクリーガー隊の方が強いだろう。
竜巻魔人や槍魔人もそうだっけたど、動きが速い割に隙が多く、技術も雑な印象だった。
メタルラインは何人もの低級冒険者が、ノーザンクロスの持ち掛けた話に乗ったと言っていた。
言い方は悪いが、実力の低い者達が魔人化したはいいものの、実力が肉体に追いついていないんじゃ無いだろうか。
勿論一般的な強さからは掛け離れている。
しかし幼い時から森を出るまで、化物レベルの実力者に揉まれてきた俺からすれば雑魚でしかない。
自分が強いと過信し、技も磨かず相手を見下し、結果敗れる。
大きな力の上に胡座をかくだけでは成長しない。
ラプターが言ったウルベルトの言葉が脳裏を過る。
これは魔人達にも当てはまるが、俺だって他人事じゃない。
全ての魔人の実力が低いとは限らないし、相手をしてきたのがたまたま運良く雑魚の魔人だっただけかも知れない。
油断という名の隙間を埋め、気を引き締め直した俺は残りの魔人達へ目を向ける。
「これで三分の一は倒したか……」
俺がこれだけ倒しているにも関わらず、周囲の状況はあまり好転していない。
魔人達の気を引ければと思っていたが、教会騎士団を相手取る魔人達は己の戦いと力に酔い、俺の事など気にも止めていないようだった。
「あの……貴方は天使様ですか……?」
「は?」
近くにいた女騎士の一人に唐突にそんな事を言われ、俺の頭の中は天使? なにそれ? 状態になった。
「天使様! どうか我らと共に!」
「えっ、あのいや、は?」
「地の底より這い出した魔人の軍勢は、恐らく混乱に乗じてこの国を乗っ取る算段です。革命軍も正規軍も見境なく攻撃をしております。さらにあの恐ろしい姿の巨獣……どうか! 我らの枢機卿とこの国をお救い下さい!」
「天使様!」
「どうかお力を!」
一人の女騎士が胸の前で手を組み、跪くとそばに居た騎士達も同じような所作をとり始めた。
懇願という言葉が見事に当て嵌るその姿と、彼女らが口にした言葉を聞いて喉が詰まる。
「枢機卿……」
「はい! 我らが枢機卿は革命軍に囚われてこの国の何処かに幽閉されているのです。我らは枢機卿をお救いする為にこの戦いに参加しているに過ぎません……魔人達は非常に強力で、このままでは非力な我ら、皆が志半ばに倒れてしまいます……どうか……お力添えを……!」
女騎士は話しながら感極まってしまったのか、大粒の涙を流しながら祈るように俺を見る。
「枢機卿……」
ラプターの話ではその人はもう……この世にいない。
宗教の内部事情はよく知らないけど、彼女達がここまで敬愛する枢機卿はどのような人物だったのだろうか。
しかしそれを知る術は既に無く、枢機卿と騎士団が再び顔を合わせる事も永久に訪れない。
再会出来るとしても……雲の上、天上の世界でしかない。
だが今それを伝えれば彼女達は戦意を失い、魔人達の殺戮の玩具になってしまう。
「……分かりました! 共に戦い、枢機卿とこの国を魔の手から守りましょう!」
「天使様……!」
今は少しでも多く犠牲を減らすべきであり、俺が旗頭となれば騎士達にも心の余裕が生まれるはずだ。
現に俺が言った言葉を聞いて、女騎士達の表情に活力が生まれているのが見て取れる。
「私の名はフィガロです。よろしくお願い致します」
「フィガロ様……! 熾天使フィガロ様!」
「いやだから私は天使などでは」
「皆の者聞け! 神は我らを見捨てはしない! 熾天使フィガロ様が我らを導いて下さる! 神の名のもとに命という旗をはためかせろ!」
「ちょっ! はぁ……またこれか」
ウルベルトもそうだったけど、この国の人達は人の話を聞かない気質でもあるんだろうか?
教会騎士達からは鬨の声が上がっており、俺の声は見事に掻き消されてしまった。
もうこの際ハイエルフでも天使でも何でもいいよ。
好きに呼んで下さい。
あと旗をはためかせるのは結構ですけど、騎士道とは死ぬ事と見つけたり、みたいな事言わないで下さい。
華々しく散られても、神の身元へお連れする事なんて俺には出来ませんよ。
「皆さんは守りを固め、受けに回って下さい! それと視覚強化、反応強化の魔法が使えるならそれを! 攻撃速度を追えれば被害も少なくなるはずです!」
「なるほど……! 聞こえたか! 各自実行に移れ!」
俺のアドバイスが騎士を通じて伝播していき、円陣を組んでいる騎士達は徐々に魔法の輝きを発し始めた。
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