欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三七六話 崩壊の序曲

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「あ……あぁ……!」

「おい……しっかりしろ、とは言い難いが……」

 アザトースが放った極光は周辺の市街地を消滅させ、王城を呑み込んだ。
 数秒に渡る極光の照射が終わり、姿を見せた王城は一階の僅かな部分を除いて消滅という無残なものだった。

「そんな……そんな……!」

「馬鹿野郎! 立て! 腑抜けてんなガキ!」

「だって……だってあそこには……皆が、シャルルが……」

 俺は目の前で起きた惨劇に呆然となり、全身から力が抜けてその場に座り込んでしまった。
 それを好機と見て魔人達が寄って集ってくるが、シュミットが罵声を飛ばしながらも防戦に回ってくれている。
 頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなる。
 シュミットの声が段々と遠のき、目の前の光景がひどく緩慢に見えてくる。
 笑い声のようなアザトースの鳴き声がゲタゲタと耳障りな程によく響く。

「立て! 今は戦え! お前が死んだら王城の連中の安否が分からねえだろ! 完全に消滅したわけじゃねぇんだ! よく見ろスカポンタン!」

 グラグラと揺れる視界、反響するように響くシュミットの声、瞼の裏に浮かぶシャルルの笑顔、ドライゼン王の不敵な笑み、俺の中の感情が濁流のように暴れ、心臓の鼓動が激しい。
 
「あ……うぁ……」

 口を開いてシュミットに何か言おうとするも、上手く声が出てくれない。
 どうしたらいいのかが分からない。

「あぁ……あ、シャ、ルル……」

 消滅した王城を見つめながら、うわ言のように言葉にならない呻きを上げる。
 その時だった。
 王城の方角から数十発の魔導砲弾が発射され、アザトースの胴体へと突き刺さった。
 魔導砲弾は絶え間なくアザトースの巨体に降り注ぎ、爆発を重ねていく。

「あ……!」

「そらみろ! へにゃってる暇があんならさっさと引くぞ! 立てボケ!」

『GYOUUUUAAAA!』

 砲撃が効いているのか、アザトースは体をくねらせながら叫び声を上げる。
 軌道の逸れた砲弾が地面を割り、近くにいた魔人達を吹き飛ばすのが見える。
 目の前ではシュミットが血を流しながら奮戦しており、俺の周りには十数人の魔人の亡骸が転がっていた。
 
「シュミット、さん……すみません!」

 急速に頭が冷えていき、我に返った俺は急いでシュミットに治癒魔法をかけた。
 
「多勢に無勢ってやつだ。中々に出来るやつもいてな、何発か貰っちまった」
 
 俺が茫然自失になっていたのは数分のはずだ。
 その数分の間に俺を守りつつ、これだけの魔人を相手取ってくれていたとは。
 シュミットが居なければ、俺は茫然自失のまま魔人に殺されていただろう。
 
「ありがとう、ございます……」

「城が吹き飛んだぐれぇでメソメソしてんな。こちとら管理塔やられてんだ、お互い様だろ」

「あそこには……私の婚約者がいたもので……」

「……チッ、そうかよ」

 シュミットは地面にどかりと腰を下ろし、バツの悪そうな顔をこちらに向ける。
 どうやら戦闘はひとまず収まったようであり、周囲に魔人は見当たらない。
 砲撃は絶え間なく続いており、それはつまり王城側に生存者がいると言う事に他ならない。
 今いる地点から王城までは約五キロあり、ここからでも残った部分が見えるのはそれなりに形が残っている証拠でもある。
 苦し紛れかも知れないけど、諦めるにはまだ早い、心を奮い立たせようと拳を握ると、小さな光の玉が低空で飛びつつこちらに向かって来ているのが見えた。

「あれは!」

 光の玉は俺の前に辿り着くと、俺の周りを二、三周クルクルと回ってから肩に止まった。

『フィガロ! 無事!?』

「シャルル! シャルルも無事か! 俺は大丈夫!」

 光の玉は簡易発動したシキガミであり、心底聞きたい声がそこから発せられ、再び体中の力が抜けそうになる。

「良かった……! でもどうして……」

『勝手に殺さないでくれる? 忘れたの? ロンシャンに来てから大した出番も無く、王城で悶々としていた人が居るでしょ?』

「悶々って……あ、そうか! ドライゼン王の力か!」

『ご名答。やっと出番が来たってさっきから高笑いよ。あの程度の攻撃でお父様の絶対防壁が破られるものですか。多少……振動が凄くて怖かったけどね』

「そうか……そうか……!」

『あれ、泣いてるの?』

「ぐすっ……泣いてない!」

『ふふ、安心して。あの大きい異形が出てきた時にお父様が城内の皆を集めてたの。こっちの死傷者は一人もいないわ』

「よがっだ……ほんどうに……ううう……!」

「……チッ、泣いてんじゃねぇよ……バーカ」

 止めようと思っても瞳から流れる涙は抑えきれず、後から後から湧き出てくる。
 呆れたように言うシュミットだが顔は笑っており、蔑むような表情では無かった。
 
『その異形は何なの?』

「こいつは……敵の一人が造り出した最悪の存在、人造魔獣アザトースだ」

『アザトース……』

「体内にはロンシャンの秘宝、久遠の紫魂がある。ヘカテーは戻って来てるか?」

『ううん。まだよ。でも帰ってきたら伝えておくわ、気を付けてね』

「ああ、もう大丈夫だ。そっちも気を付けて」

 光の玉はふわりと浮き上がり、王城方面へと帰って行った。
 
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