欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

文字の大きさ
238 / 298
第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

四〇〇話 帰路へ

しおりを挟む


「ドライゼン王陛下、シャルルヴィル王女殿下、そしてフィガロ様。たび重なるご迷惑と共に、本当に世話になりました。本当に……言葉では言い表せないほどに」

 四方八方から集められたロンシャン連邦国の軍馬が繋がれた、ランチア守護王国の王族専用馬車の前でアーマライト王とヘカテー、アストラにシュミット、各騎士団の幹部などが揃って跪き頭を下げている。
 ランチアの兵は既に馬へと跨り出発の時を静かに待っている。

「こればかりは仕方のない事だったのだ。陛下が気に病む必要などない」

「そうですよ陛下。私達は全員無事、被害が大きいのはロンシャンの方ではありませんか。どうかお顔を上げてください」

「いいんですよ。それよりもこれからの事、大変かとは思いますけれど頑張ってください」

 跪くアーマライト王の前に立つのは俺とドライゼン王にシャルルの三人だけだ。
 リッチモンドとクライシスを始めとした他の面々は、別に用意された馬車の方で待機している。
 もちろん俺もシャルル達を送り出したらそちらの馬車に合流する予定だ。
 俺とリッチモンド、クライシスは空を飛べるのだがどうせなら皆と一緒に馬車で帰ろうということになったのだ。
 ロンシャンからシルバームーン領に亡命するのはシスターズ、ヘカテー、メタルラインにダンケルクと……この度の戦争で親を亡くした戦争孤児が数人いる。
 これはピンクとヘカテー、そしてシャルルから熱心に頼み込まれ、俺が気迫負けしてしまった結果だった。
 家がないのにどうするのかと聞いたところ「フィガロの家は大きいじゃない。子供が数人いたって問題ないでしょ?」と言われてしまった。
  ピンクは子供の世話は自分が責任を持って行うと言って聞かず、それはつまりピンクと一つ屋根の下になるというわけなのだが、シャルルは意外にもあっさりとオーケーを出した。
 正確に言えば我が家にはクライシスもいるし、そういう所も加味した上で許可を出したのだろうと思う。
  しかし住まいが無いのは子供達だけではなく、シスターズやメタルライン、ダンケルクも同じだった。
 どうしようかと悩んでいる俺に、颯爽と助け舟を出してくれたのはコブラとドンスコイであり、先客がいるもののトロイの旧アジトを使えばいいと言ってくれた。
 先客というのはハインケルとコルネットらしいのだが、あの二人ならまぁ、上手くやってくれるはずだ。
 ピンクを除いたキメラルクリーガー隊は、トムと暮らしていたあの丸太小屋に戻るそうだ。
 
「それでは行こうか、シャルルよ」

「はい、お父様」

 ドライゼン王とシャルルが馬車に乗り込み、静かに扉が閉められた。
 ピシリという鞭の音が鳴り、嘶きを発したロンシャンの軍馬がゆっくりと歩調を早めていく。
 車輪の音は徐々に遠ざかって行くものの、跪いた面々は顔をあげようとはしなかった。
 
「うぅ……感謝を……! 寛大なる御心と、気高きそのお考えに……深い感謝をぉ……!」

 アーマライト王は跪きながら呻き声が混じった言葉を発し、それが何を意味するのかを分からない俺では無かった。





 ドライゼン王とシャルルを送り出した俺は、亡命組と帰還組の待つ場所へと来ていた。
 用意されたのはホロのついた大きめの荷馬車が三台と、ベッドシーツを加工した大きな布が掛けられたスケルトンホースの群れだった。
  スケルトンホースであれば体力を気にする事なく日中夜走り続けることが出来るし、なにより砂漠の影響を全く受けずに悪路を抜けられる。
 ランチアの兵士達や王族の馬車をスケルトンホースに引かせるわけにはいかないけど、俺達だけなら話は別だ。
 布をかけているおかげで側から見てもスケルトンホースだとはわからない。
 まぁ……ちょっと不自然であるのは否めないけど……街道を避けて帰るつもりだし、問題は無いだろうと思う。
 子供達が怯えるかと思ったが、リッチモンドの丁寧な紹介のおかげであまり抵抗無く馴染んでくれた。
 一台の荷馬車に食料や水、雑貨や個人の持ち物を積み込んでから、亡命組と帰還組が次々と荷馬車へ乗り込んでいく。
 本来人が乗るようには設計されていない荷馬車には、アーマライト王の好意でベッドのマットレスが敷かれていて結構乗り心地はよさそうだった。

「よし! 行くぞー!」

 先頭のスケルトンホースに跨った俺は拳を振り上げて振り返る。
 見送りに来てくれているのは先ほどと同じアーマライト王とシュミット、アストラに各騎士団の面々だ。
 唯一違うのはヘカテーがいない事。
 荷馬車の中から顔を出し、大きく手を振るヘカテーの瞳には大粒の涙が浮かんでいる。

「父様! みんな! 元気で! 必ず帰ってくるから!」

「達者でな!」

「じゃあな王女様! いい男見つけろよー!」

「行ってらっしゃいませ! 殿下! 総員抜剣!」

 アストラの掛け声と共に、各騎士団員達が素早く剣を引き抜いて天に掲げる。
 晴天の中に浮かぶ太陽の光を浴び、煌びやかに輝く無数の剣は力強く、それを見るヘカテーの表情もまた力強いものだった。
 かっぽかっぽと鳴る蹄の音と背後で聞こえる見送りの声は、なし崩し的に巻き込まれた革命戦争が本当に終わったのだと、今一度俺に教えてくれるのだった。
 数多くの犠牲を出し、連邦国という巨大な国を崩壊に追い込んだ今回の戦いはきっと後世に長く伝えられる事だろう。
 諦めずに最後まで戦い抜いた英雄達と、それを率いたアーマライト王の武勲と共に。
 終わらない夜は無く、止まない嵐は無い。
 始まりがあれば終わりもある。
 けど俺の、俺達の人生はまだまだ続く。
 吹き抜けるようなこの晴天のようにどこまでも、どこまでも続いていくだろう。
 
「はぁ……気持ちいい風だ。なぁお前ら!」

『オン! 私はマスターと共にいられるだけで幸せです!』

『親父殿は呑気なものだな……さらばだご主人。健やかに眠ってくれ。いつかまた、この長い寿命が尽きた時、相見えよう。本当に、ありがとう』

 俺の横を並んで走るクーガと、風を切って滑空するラプター。
 後ろにはリッチモンドとクライシス、キメラルクリーガー隊、亡命組と帰還組の馬車が並ぶ。
 来た時よりも人数が増えてしまったけれど、新たな仲間と共に過ごす日々を胸に思いながら俺はスケルトンホースの足を早めたのだった。


✳︎シルバームーン領民
・トロイ
・StG傭兵団
・シスターズ
・キメラルクリーガー隊
・冒険者メタルライン
・魔人ダンケルク
・子供達
・ロンシャン連邦国第二王女ヘカテー・アーマライト
 
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。