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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
四〇〇話 帰路へ
しおりを挟む「ドライゼン王陛下、シャルルヴィル王女殿下、そしてフィガロ様。たび重なるご迷惑と共に、本当に世話になりました。本当に……言葉では言い表せないほどに」
四方八方から集められたロンシャン連邦国の軍馬が繋がれた、ランチア守護王国の王族専用馬車の前でアーマライト王とヘカテー、アストラにシュミット、各騎士団の幹部などが揃って跪き頭を下げている。
ランチアの兵は既に馬へと跨り出発の時を静かに待っている。
「こればかりは仕方のない事だったのだ。陛下が気に病む必要などない」
「そうですよ陛下。私達は全員無事、被害が大きいのはロンシャンの方ではありませんか。どうかお顔を上げてください」
「いいんですよ。それよりもこれからの事、大変かとは思いますけれど頑張ってください」
跪くアーマライト王の前に立つのは俺とドライゼン王にシャルルの三人だけだ。
リッチモンドとクライシスを始めとした他の面々は、別に用意された馬車の方で待機している。
もちろん俺もシャルル達を送り出したらそちらの馬車に合流する予定だ。
俺とリッチモンド、クライシスは空を飛べるのだがどうせなら皆と一緒に馬車で帰ろうということになったのだ。
ロンシャンからシルバームーン領に亡命するのはシスターズ、ヘカテー、メタルラインにダンケルクと……この度の戦争で親を亡くした戦争孤児が数人いる。
これはピンクとヘカテー、そしてシャルルから熱心に頼み込まれ、俺が気迫負けしてしまった結果だった。
家がないのにどうするのかと聞いたところ「フィガロの家は大きいじゃない。子供が数人いたって問題ないでしょ?」と言われてしまった。
ピンクは子供の世話は自分が責任を持って行うと言って聞かず、それはつまりピンクと一つ屋根の下になるというわけなのだが、シャルルは意外にもあっさりとオーケーを出した。
正確に言えば我が家にはクライシスもいるし、そういう所も加味した上で許可を出したのだろうと思う。
しかし住まいが無いのは子供達だけではなく、シスターズやメタルライン、ダンケルクも同じだった。
どうしようかと悩んでいる俺に、颯爽と助け舟を出してくれたのはコブラとドンスコイであり、先客がいるもののトロイの旧アジトを使えばいいと言ってくれた。
先客というのはハインケルとコルネットらしいのだが、あの二人ならまぁ、上手くやってくれるはずだ。
ピンクを除いたキメラルクリーガー隊は、トムと暮らしていたあの丸太小屋に戻るそうだ。
「それでは行こうか、シャルルよ」
「はい、お父様」
ドライゼン王とシャルルが馬車に乗り込み、静かに扉が閉められた。
ピシリという鞭の音が鳴り、嘶きを発したロンシャンの軍馬がゆっくりと歩調を早めていく。
車輪の音は徐々に遠ざかって行くものの、跪いた面々は顔をあげようとはしなかった。
「うぅ……感謝を……! 寛大なる御心と、気高きそのお考えに……深い感謝をぉ……!」
アーマライト王は跪きながら呻き声が混じった言葉を発し、それが何を意味するのかを分からない俺では無かった。
○
ドライゼン王とシャルルを送り出した俺は、亡命組と帰還組の待つ場所へと来ていた。
用意されたのはホロのついた大きめの荷馬車が三台と、ベッドシーツを加工した大きな布が掛けられたスケルトンホースの群れだった。
スケルトンホースであれば体力を気にする事なく日中夜走り続けることが出来るし、なにより砂漠の影響を全く受けずに悪路を抜けられる。
ランチアの兵士達や王族の馬車をスケルトンホースに引かせるわけにはいかないけど、俺達だけなら話は別だ。
布をかけているおかげで側から見てもスケルトンホースだとはわからない。
まぁ……ちょっと不自然であるのは否めないけど……街道を避けて帰るつもりだし、問題は無いだろうと思う。
子供達が怯えるかと思ったが、リッチモンドの丁寧な紹介のおかげであまり抵抗無く馴染んでくれた。
一台の荷馬車に食料や水、雑貨や個人の持ち物を積み込んでから、亡命組と帰還組が次々と荷馬車へ乗り込んでいく。
本来人が乗るようには設計されていない荷馬車には、アーマライト王の好意でベッドのマットレスが敷かれていて結構乗り心地はよさそうだった。
「よし! 行くぞー!」
先頭のスケルトンホースに跨った俺は拳を振り上げて振り返る。
見送りに来てくれているのは先ほどと同じアーマライト王とシュミット、アストラに各騎士団の面々だ。
唯一違うのはヘカテーがいない事。
荷馬車の中から顔を出し、大きく手を振るヘカテーの瞳には大粒の涙が浮かんでいる。
「父様! みんな! 元気で! 必ず帰ってくるから!」
「達者でな!」
「じゃあな王女様! いい男見つけろよー!」
「行ってらっしゃいませ! 殿下! 総員抜剣!」
アストラの掛け声と共に、各騎士団員達が素早く剣を引き抜いて天に掲げる。
晴天の中に浮かぶ太陽の光を浴び、煌びやかに輝く無数の剣は力強く、それを見るヘカテーの表情もまた力強いものだった。
かっぽかっぽと鳴る蹄の音と背後で聞こえる見送りの声は、なし崩し的に巻き込まれた革命戦争が本当に終わったのだと、今一度俺に教えてくれるのだった。
数多くの犠牲を出し、連邦国という巨大な国を崩壊に追い込んだ今回の戦いはきっと後世に長く伝えられる事だろう。
諦めずに最後まで戦い抜いた英雄達と、それを率いたアーマライト王の武勲と共に。
終わらない夜は無く、止まない嵐は無い。
始まりがあれば終わりもある。
けど俺の、俺達の人生はまだまだ続く。
吹き抜けるようなこの晴天のようにどこまでも、どこまでも続いていくだろう。
「はぁ……気持ちいい風だ。なぁお前ら!」
『オン! 私はマスターと共にいられるだけで幸せです!』
『親父殿は呑気なものだな……さらばだご主人。健やかに眠ってくれ。いつかまた、この長い寿命が尽きた時、相見えよう。本当に、ありがとう』
俺の横を並んで走るクーガと、風を切って滑空するラプター。
後ろにはリッチモンドとクライシス、キメラルクリーガー隊、亡命組と帰還組の馬車が並ぶ。
来た時よりも人数が増えてしまったけれど、新たな仲間と共に過ごす日々を胸に思いながら俺はスケルトンホースの足を早めたのだった。
✳︎シルバームーン領民
・トロイ
・StG傭兵団
・シスターズ
・キメラルクリーガー隊
・冒険者メタルライン
・魔人ダンケルク
・子供達
・ロンシャン連邦国第二王女ヘカテー・アーマライト
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