253 / 298
第九章 穏やかな日々
四一五話 ピンク
しおりを挟む目録を見ながら中身の確認をしていると、金庫室の奥からパタパタと足音が聞こえてきた。
「フィガロさまー!」
「なんだ、居たのですかフィガロ様」
「お、お疲れ様。どうだった?」
足音の方へ向き直ると、シロンとハンヴィーが小走りで寄ってきてぺこりとお辞儀をしてきた。
二人の表情は対照的でニコニコ顔のシロンと、どこか不満そうな顔のハンヴィーだが二人揃って全身埃だらけであり、指先なんかは真っ黒になってしまっている。
「フィガロ様、ハンヴィーが凄いんですよ!」
「ばっか! 別に凄くないよ!」
「でもでも! ハンヴィーが見つけたんですよ!」
「見つけた? 何をだ?」
「秘密のお部屋です!」
「えっ!? 部屋!? 通路じゃなくてか?」
シロンが小踊りをしながら嬉しそうに話しているのだけど、俺は出てきた言葉に驚きを隠せなかった。
隠し通路があるとは聞いていたけど、部屋の存在までは聞いていない。
いったいどういう事なのだろうか?
非常に気になる所ではあるが、もう時間も遅くなってきているし、そろそろ食事の買い出しに行かないといけない。
「二人とも、話は後で聞くから今は上にあがって綺麗にしてきてくれ。埃だらけだぞ?」
「分かりましたー!」
「はい」
「体を綺麗にしたら夕飯の買い出し行くぞ」
「わほ! わーい!」
「良かった。お腹空いてたから、ありがとうございます」
「んじゃ行くか」
「「はい!」」
元気の良い返事をする二人を連れ、金庫室を閉じて階段へと向かう。
階段の途中でプルとアハトとも合流し、皆で一階へと上がって行ったのだった。
〇
「隊長! お待ちしてました!」
「えっ! 何これ」
一階に上がり、シスターズを風呂に突っ込んでから飲み物を取りにダイニングへと向かったのだが……。
雑品の買い出しに出たはずのピンクが、ダイニングテーブルの前で食事の支度をしていた。
テーブルの上にはサラダや焼き物を始めとして、例の串焼きやパンが並べられていた。
ピンクは白いエプロンを身につけており、実に楽しそうな表情を浮かべている。
「ピンク、買い出しは?」
「はい! ピンク以下子供達は無事に買い出し任務を終え、帰投致しました!」
「えっ、はやっ」
「すぐ近くに商業区画がありますし、お夕飯の支度もあると思い早めに切り上げて参りました。ですが目的の物はしっかり手に入れましたので!」
「そ、そうか? ならいいんだけど……子供達は?」
「子供達は部屋でラプターさんと遊んでいますよ。遊んでいるのか遊ばれているのか分かりませんけれど、ふふ」
にこやかに微笑むピンクは強化兵になって何年経つのか分からないけれど、実に若々しく、それでいて母親の貫禄が溢れ出る不思議な雰囲気だった。
しかし不思議だ。
ピンクが買い出しに出てから今まで、三時間程度しか経っていないのだけど目的の物を買った上、ここまでの料理をこしらえるとは……これが母親というものなのだろうか。
きっと時間の使い方が非常に上手なのだろうな。
子供達と遊んでいるラプターというのも、中々可愛らしいものがありそうなのでピンクに断りを入れてから子供達のいる大部屋へと向かった。
『ほらほらこっちだ!』
「あぁっ! くっそー!」
「待てー!」
『矮小なチビ助達よ頑張るがいい!』
大部屋の前に来ると、中から実に楽しそうな声が聞こえてきたので気付かれないように扉をそっと開けた。
中ではラプターが壁や天井、床を縦横無尽に飛び回り、子供達がボールを投げたり掴みかかろうと躍起になっていた。
食事の事を伝えようと、薄く開けた扉を声をかけて押し開いたのだが……。
「入るぞーうぶっ!」
「「「あ……」」」
『あ……』
誰の投げた物かは知らないが、俺の頭部ほどもある柔らかなボールか顔面にぶち当たり変な声が出てしまった。
『お、親父殿! 大丈夫か!』
「ボスごめんなさい! 僕が投げました! 他のみんなは悪くありません!」
てん、てん、と転がるボールと入れ違いに、銅色の髪をした子供が俺の前に進み出て深々とお辞儀をした。
「大丈夫大丈夫。大して痛くないし、びっくりしただけだよ。それにしても……偉いな、君は。確か……」
「アーサーです! 歳は今年で十になります!」
「そっか。自分から謝るのはとても偉い事だよ」
「はい! ありがとうございます!」
身長はそこまで高くないが、歳相応の高さではあるアーサーが顔を上げて口を真一文字に結んでいた。
意志の強そうな瞳だが、素直に謝れる心を持っているのは素晴らしい事だと俺は思う。
「さて、皆、そろそろ食事だ。手を洗ってダイニングにおいで」
「「「はい! ボス!」」」
子供達は皆揃って幼く可愛らしい返事をして、我先にと部屋から飛び出して行った。
「ありがとうな、ラプター」
『いえいえ。私も暇だったのでな、相手をしてもらっていただけの事。さて、子供達もいなくなった事だし、私は街を一回りしてこよう』
そう言ったラプターは片翼で器用に窓を開け放ち、黄昏と夜の交じる大空へと飛び立っていったのだった。
「さて、俺も行くかな」
部屋に立て掛けてある、ピンクが買ってきたであろうベッドの骨組みを見て微笑みつつ、俺は大部屋の扉を閉めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。