欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四二三話 走れ

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 翌日、昼前に目を覚ました俺はいつも通り顔を洗い、歯を磨き、軽い服装に着替えてから庭に出た。
 空は快晴とまではいかないけれど、澄んだ青空の所々に小さな綿雲が浮いている。
 外を駆け回るには丁度いい気温で、囁き声のような風が時折肌を撫でた。
 鼻歌を歌いながらクーガに魔装具を取り付け、少し大きくなったその背中に飛び乗る。

「よし! 行くか!」

『オン!』

 久しぶりの魔装具の乗り心地と操作性に戸惑いながら、屋敷の周りの庭をグルッと一周、今度は早足で一周、次に駆け足で一周し、ウォーミングアップを終えた俺は屋敷に声をかけた。

「開けてくれ!」

『かしこまりました、ご主人様』

 特に手入れもしていないのに、門は音もなく開き少しだけパタパタと動いている。
 屋敷なりの見送りナノだろうか。
 手を振るように動く門を軽く叩き、手を振り上げて俺とクーガは街中へ歩を進めた。

「ママー! みてー! おっきいワンワン!」

「こら! 指差しちゃダメよ!」

 道を行き交う人々はクーガを見て驚く人が多かったが、魔装具を付け、胸元に下がる自由冒険組合のプレートがクーガへの警戒心を薄れさせてくれているのだろう。
 このプレートは、俺が不在の間に自由冒険組合から届いたものだ。
 これがある事により、自由に街中を歩けるようになった。
 もちろん俺が騎乗しなければならない、という制限はあるけれど、それを踏まえても非常に便利になったのは言うまでもない。
 テクテクというよりはノシノシと歩くクーガもどこか嬉しそうで、俺二人分はありそうな巨大な尻尾が小刻みに揺れていた。
 途中道端の匂いを嗅いだり、クーガの巨体に恐れもせず寄ってきた子供に撫でさせてあげたりと、実に長閑な道中だった。
 
「ご苦労さまです」

「は! あな! 貴方様は!」

「え?」

 ランチア森林公園に繋がる門に差し掛かり、警備をしている衛兵に軽く挨拶をした所、思いもよらない反応をされてしまった。
 直立不動の体勢で手にしていた槍をカツン、と地面に置いた衛兵はお手本のような敬礼をして俺を見る。

「シルバームーン辺境伯閣下! 閣下のご武勇は聞き及んでおります! 厚かましい願いとは思っておりますが、どうか握手を願えませんでしょうか!」

「え、あはい……構いませんよ」

「ランチアの英雄である閣下とお言葉を交わし、かつ悪魔を屠ったその御手を握らせて頂き光栄であります!」

「あ、はい……」

 衛兵から迸るような熱量を感じ、どこか一歩引いた態度になってしまったが、握手を交わした後、俺とクーガは森林公園へと入っていった。





「随分と久しぶりな気がするよ」

『以前、シャルルと来た時以来、ですね』

「あぁ。始めてシャルルを抱いて飛んだ日以来だ」

 森林公園には久しぶりに来たというのに、周囲は変わらない静謐さをたたえており、少し湿度の高い空気が俺達を歓迎してくれているようだった。
 森の街道を進みながら、スカーの作ってくれた地図の複写を広げた。
 地図は昨日の夜、ドンスコイ達と話している時に届けられ、俺のテーブルの上に置かれていた。
 パピルス紙に描かれた図はシンプルだが分かりやすく、地図の下には王宮の印が描かれている。
 地図と照らし合わせるように森を進み、目的の場所に行く為に街道を逸れて木々の生い茂る中へと進む。
 森の中は葉擦れの音とクーガが歩くサク、サク、という二つの音だけが優しく流れていく。

「クーガ」

『何でしょうかマスター』

「走りたいか?」

『恥ずかしながら……マスターが良しとするならば全力と言わずとも駆け出したい心持ちでございます』

 やはりクーガはこの大自然の中、走り回りたい気持ちを抑え込んでいたようだ。
 魔装具を外してもいいのだけれど、あると無いとではやはり装着していた方が騎乗性も違うし、何より安定して乗っていられる。
 
「魔装具を付けたままでもいいか?」

『構いません』

「よし、なら走れ! ほど」

『は!』

 程々にな、と言いかけた瞬間、首が後ろに持っていかれた感覚がした。
 突然の加速にも関わらず地面が抉れるような事はなく、突風が生き物であればこのような加速をするのだろうか、と思わせる静かなものだった。
 地面を音も無く駆け抜け、気分が乗ってきたのか段々と地面に足が着く間隔が長くなってくる。
 やがてクーガの足は地面を完全に離れ、周囲に乱立する木々を踏み台として中空を駆け抜けていった。

『オゥオウーーーン!』

「そうか! 楽しいか! 良かった!」

 クーガの瞳には強い光が輝き、弾むような走りは喜びを全身で表しているかのようだった。
 ふと後ろを見れば抜けてきたランチアの城門が遠くに見え、クーガの加速力を改めて認識させられる。
 ここまでの加速であれば、普通なら風圧などがあってもおかしくは無いのだけど、そこはシルフィードブレスを掛けて完全に無効化しているので問題は無い。
 目的地とはてんで違う場所に達しつつあるけれど、まだ太陽は頂点に登ったばかり。
 クーガの足であれば多少寄り道をした所で軌道修正は容易い。
 ここの所自由に遊ばせてあげられなかった分、今は存分に走り回ってストレスを発散させてもらいたいものだ。
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