欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四三〇話 アハトとハンヴィー

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 フィガロが色々と考え込んでいる時、アハトとハンヴィーは仲良く手を繋いで市街地の大通りを歩いていた。
 上空には二人に気取られぬように滞空するラプターの姿もある。
 本日は雲ひとつない晴天であり、お出かけをするには絶好の日だった。

「ねぇハンヴィー」

「なぁに?」

「フィガロ様はさ……どうしてこんなに良くしてくれるんだろうね」

「何でだろうね。そればっかりは私にも分からないよ」

「だよねぇ」

 二人はお揃いのメイド服を着ており、これはシスターズが屋敷に迎えられた次の日に仕立てられた物だった。
 プル以外の三人はお尻から尻尾が生えているので、小さなクリノリンを使用してややふんわりとした形状のスカートになっている。
 こうすれば尻尾を外に出さずに過ごす事が出来る。
 しかしハンヴィーの耳は立派な立ち耳で、アハトの耳はやや尖り、肌には亜人独特の鱗のような模様が入っているので一目で通常人種ではないと分かってしまう。

「ハンヴィーは……この前シロンと買い物に行ったじゃない? その時は何もなかった?」

「うん。無かったよ。でも変な男からちょくちょく声をかけられたんだけど……」

「だけど……?」

「辺境伯様の使いだって言ったら大人しくどこかへ行ってくれたんだ」

「そうなんだ……」

「でも……好奇の視線は嫌でも浴びるけどね。昔みたいに理不尽な暴力や中傷がないだけこの街はいいよ」

「そうなの? でもハンヴィーはさっきフィガロ様に」

「あぁでも言わないと出してもらえないかと思ってさ」

「そんな事ないよ。フィガロ様はとてもお優しい方だし、きっと出してくれたよ」

「うん。かもね」

「ハンヴィーが付いて来てくれるって言うまではすごい不安だったけど、一緒に来てくれるって分かって凄い嬉しかった」

「アハトはちっこいし可愛いからさ。変な男共に乱暴されるんじゃって……思っちゃってさ」

「あ……うん……ありがとう」

 手を繋いだ二人は大通りを過ぎ、商業区画へと足を踏み入れた。
 商業区画は荷馬車や人の往来が多く、百五十センチに満たないアハトの体はすぐに人混みに隠されてしまう。
 ハンヴィーは以前シロンと共にこの区画を訪れており、変な男に声を掛けられたのもこの近くだった。
 きっとアハトはこの人混みに隠れてしまい、攫われてしまうかもしれない、という不安がハンヴィーにはあった。
 それゆえにハンヴィーはアハトとの同行を願ったのだった。
 亜人と獣人という組み合わせはこの国にとって異端でしかない。
 ハンヴィーは以前買い物に出かけた際、それを痛いほど感じていた。
 石などを投げられる事はなかったけれど、通行人や店主の驚いたような不思議なものを見るような視線は心に刺さる。
 シロンが一緒にいたからこそ平然を装えたが、これがアハト一人であればきっと嫌な思いをするだろう、とハンヴィーは感じる不安とは別にそんな事を考えていた。
 そしてアハトはきょときょとと視線を動かし、不安そうに周りを見ながら歩いていた。
 よそ見をしながら歩けば、当然前方に向ける注意も疎かになってしまう。

「きゃっ」

「あ……」

 前方から歩いて来た少女とぶつかってしまい、少女の持っていたバスケットが地面に転がってしまう。
 慌ててアハトがバスケットを拾い上げて少女へ手渡し、深々と頭を下げた。
 状況を見ていたハンヴィーも慌てて頭を下げて謝罪の言葉を口にした。

「も、申し訳ございません!」

「お怪我はございませんか?」

「ん……大丈夫。こっちも不注意、ごめんね」

「なんや? 亜人のメイドはんかいな! ごっつ珍しなぁ!」

「だなぁ! 流れの冒険者ならともかく、ランチアで他種族のメイドさんを見るなんてなぁ!」

 ぶつかった少女の横から騒々しく現れたのは大柄な男性と、細身ながらもしっかりとした筋肉を付け、変わったデザインのガントレットを嵌めている男性だった。

「獣人も亜人も……珍しくないよ……不謹慎」

「そういう事ちゃいまんねん。メイド服っちゅーんが珍しいやて」

「あ、あの……」

「うるせーぞカーチス! 亜人ちゃんがびびっちまってるじゃねぇか」

「ほんと……図体でかいんだから……考えて」

「なんやて!? ウチ悪者でっか!? ノースはんがボケェっとしとるからやないでっか!」

「私のせい……ひどい……タッカーぶん殴って」

「あぁ!? 俺がか!?」

「ちょっ、ちょっと待ってください! 悪いのはこちらです! 申し訳ございません!」

「その通りです! 仲違いはおやめください!」

 唐突に始まった仲間内での言い合いに焦りを感じたハンヴィーとアハトは、慌てて間に入り頭を下げた。

「いいんだよ。いつも通り、平常運転だ。俺はタッカー、冒険者だ、言い合ってる二人も同じく冒険者。もっと言えばノース、あのチビ助な。あいつも獣人だ」

「「はぁ……? えぇっ!?」」

 二人の肩を掴み、後方へ下がらせた男性が自己紹介をはじめ、それを聞いた二人は揃って同じ反応を見せた。

「聞こえた……チビって言った……それと私はハーフ……情報は正しく伝達するべき」

「げっ! わ、分かったよ! 悪かったって」

 タッカーはおどけるように肩をすくめ、ハンヴィーとアハトをみてニコリと笑い「んな?」と言った。
 だがノースは口論の矛先をタッカーへ向け、ヘイトがずれたカーチスはやれやれと首を振っている。
 しかしノースが放った一言により口論は終わりを迎えた。

「二人とも……治さないから」

「「大変申し訳ございませんでしたっ!」」

 ジト目のノースに対し、流れるような動きで深々とお辞儀をするタッカーとカーチス。
 それをハンヴィーとアハトは呆気にとられた顔をして見つめていたのだった。
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