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第九章 穏やかな日々
四二九話 お使い
しおりを挟むロンシャン連邦王国は色々な種族が集まる坩堝のような国だった。
反乱軍や正規兵、冒険者に避難民に至るまで通常人種、亜人、獣人がいた。
その人達は皆手を取り合い、協力して戦争を集結に導いた。
それでもやはり確執はあったはずだ。
差別や偏見というのは、完全に取り除く事の出来ない人間の業のようなものだと俺は思っている。
通常人種である人間は力や能力が一番劣っているがゆえに優劣を付け、安心感や優越感を得ようとする。
考えてみれば反吐が出るような話だけれど、今はそれが現実だ。
平等を唄う国家はあるにはあるが数的には少ない方で、獣人至上主義の国や亜人と獣人が共存する国、通常人種のみで構成されているランチア守護王国のような所も多い。
獣人や亜人の国では、通常人種が奴隷や家畜のような扱いを受けている所もあると聞く。
詳しくは知らないけれど、獣人や亜人が力の劣る通常人種を奴隷として取引するのは、労働力の確保や自らの権威を誇示するという理由もあるらしい。
ランチア守護王国は人の平等を掲げているが、それでも貧富の差は出て来てしまう。
ただ奴隷制度を廃止、禁止した事により周囲の国家からは不思議な目で見られているそうだ。
ドライゼン王の政策により、路上生活者はほぼゼロになり、職にあぶれる事の無いよう常に仕事を斡旋するアロットワーカーという機関もある。
ランチア守護王国がなぜ通常人種のみで構成されているのかは明言されていないけれど、他種族を招き入れる事により置きる差別や偏見、それによって起きるトラブルを未然に防ぐ意味合いもあるのでは、と俺は勝手に考えている。
それなのに亜人であるアハトを街に送り出す事にしたのは、偽善論かもしれないけれど、俺はこの国を信じているからだ。
現にシスターズが買い物に行った際、何かトラブルがあったという報告は受けていないしな。
「いや……だからと言って一人で送り出すのが正解とは言えないか……考え無しなのかなぁ……うーん……」
考えれば考えるほど、俺の考えが甘いのでは、無責任なのでは、というマイナスな考えが浮かんできてしまう。
やはり人を使うという事は非常に難しい。
考えれば考えるほど送り出した二人が心配になってきた。
「よし! おーいラプター! いるかー?」
玄関から庭に出て、ラプターがいつも止まっている木に向けて声を上げる。
『呼んだか親父殿』
「ちょっと使いを頼まれてくれないか?」
『かまわんぞ。暇だからな』
「サンキュ」
木の上から滑空して俺の目の前に降り立ったラプターに、アハトとハンヴィーの護衛を命じた。
空から二人の動向を見守って貰い、危険が生じたらすぐに助けに入るよう伝えると、ラプターは颯爽と空へ舞って行った。
「何も無いといいんだけどな」
以前に買い物を頼んだ時は全く意識していなかったゆえに、ハンヴィーからの懇願で気付かされたこの問題。
これから先、色々な所に気を配らなければならなくなる。
そしてふと、闇オークションが開催されている酒場の裏手で出会った奴隷商を思い出した。
名前は思い出せないけれど、このランチアにも奴隷が未だ存在している事を表す奴隷商。
「今度……行ってみるか」
一体どのような人物が奴隷として扱われているのか、それが気になったのだ。
無理に領民を増やすつもりは無いし、金銭的にも住居的にも現状領民を増やすのは無理な話だ。
俺がもし奴隷を買ったとすれば、それはランチアの法に背を向ける事であり、ドライゼン王やシャルルを裏切る事になる。
シスターズのように無理矢理奴隷に落とされた人がもしいるなら……助けてあげたくなってしまうだろうな。
しかし、なら訳ありで奴隷になった人達は見捨てるのか、と言われてしまうと困ってしまう。
「全てを救う事は出来ない、か」
正義感に囚われているわけでも、いい人ぶりたいわけでもない。
でも出来るなら助けてあげたい。
俺はクライシスに救われて、まともな人間として生きる事が出来るようになった。
シスターズが歩んで来たような過酷な境遇にいるのなら……救ってあげたい。
全てを救う事は出来ないかもしれないけど、辺境伯という地位があるなら、多少は救う事が出来るかもしれない。
聞く人が聞けばそんなものは偽善だと嘲られるだろう。
お人好しだと笑われるだろう。
でも俺はそういう考えしか出来ない甘ちゃんなのだ。
「はぁ……ダメだなぁ、俺」
ため息を吐き、屋敷の中へ戻る。
自動で閉まる扉の音を聞きながら、俺は自室へと戻って行ったのだった。
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