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第九章 穏やかな日々
四四九話 リッチ、講師になる
しおりを挟むリッチモンドは地ならしを終えた後、巨大な岩石を空中に呼び出したかと思えば、それを縦横十五メートル程の板に引き伸ばし、地面に叩きつけ始めた。
ダァン! ダァン! と言う鈍い音が鳴り、同時に地面から振動が伝わってくる。
板状に引き伸ばした岩の重みで地面をプレスしているのだが、感じる音と振動からは、まるで大きな魔導ゴーレムが地面を踏みしめているかのようだった。
「ふぅ。こんなもんかな」
「サンキュー」
俺としてはやる事がないと言っていたリッチモンドのいい暇つぶしになるのではないか、と考えていたのだけど……。
「こうも早く終わるとはな……」
「ふっふん」
リッチモンドをオーブに連れて来てまだ二時間も経っていない。
驚くべき早業、感心する程の魔法技術。
これが天性の大魔導リッチの実力なのだ。
早くこんな風に自由自在に魔法を操ってみたいと、俺は強く思った。
先程よりもさらに得意げなキメ顔をしてみせるリッチモンドには、構成員達の熱い視線が注がれている。
この後はリッチモンド大先生による魔法講座。
魔法を使えない構成員達にしてみれば突然舞い降りた大チャンスだ。
本来、魔法は俺みたいな存在を除けば誰でも使える。
けど使えるようになるには、然るべき人から然るべき指導を受けなければ見に付かない。
貴族や富裕層に生まれ、五歳になった頃には必ず専属の講師が付けられる。
一般人であれば、親が講師代わりになったり家庭教師を雇って基礎技術を身に付けた後、近所の魔法教習所であったり魔導塾に通い、お金を消費してその力を伸ばしていく。
だが所得の低い者達、所謂貧民達は、そういった指導を受けることが出来ずに育つ為、魔法を扱える者が少ないのだ。
構成員達の育った環境は知らないけれど、全員魔法を使えないのなら、そういう事になるんだろう。
中には独学で魔法の才を伸ばす者もいるけれど、それはごく少数派だ。
因みになぜ五歳かと言うと、そのくらいの年齢になると、体に開いた魔素経穴という見えない穴の拡張が可能になるからだ。
常人ならば大抵一つか二つの魔素経穴を持つが、天賦の才を持つ者は元々魔素経穴が大きかったり、数が多かったりする、らしい。
魔素経穴が開く場所は額、首の両脇、右肩、左肩、胸、脇腹、鳩尾など人それぞれにバラバラであり、開いた場所によってどの系統の魔法が得意かが大雑把ではあるが分かるそうだ。
俺の場合は数多くの魔素経穴が体中に開いているので、クライシスからは使用不可な魔法が無いとまで言われた。
ちなみにシャルルは体質が変異した事により、四つの魔素経穴が開いたとクライシスが言っていた。
「全員せいれーつ! 有難いことに! これからリッチモンドさんが我々に魔法について教鞭をとって下さる! 傾聴せよ!」
「「「おう!」」」
「何だか凄い事になってるんだけど……?」
構成員達は全員休めの体勢を取り、綺麗に整列してリッチモンドの前に立っていた。
全員から並々ならぬ熱意を感じ、喜びに満ち溢れていた。
「ま、そうなるよな。俺だって魔法が使えない体だったんだ。使えるようになるって分かったら……そりゃ嬉しいさ」
「そっか。そうだね。なら僕も彼等の期待に応えようじゃないか」
「頑張ってくれよ」
「すこーし反則を使うけど、いいよね?」
「……何をする気か分からないけど殺すなよ?」
「あっはっは! 僕が殺すわけないだろう。安心して見ててくれよ」
「わーかったよ」
会話を聞いていた構成員達はごくりと喉を鳴らし、俺達の挙動を目で追っていた。
「さて諸君、改めて自己紹介をさせてもらうよ。リッチモンドだ。得意な魔法は全般、好きな属性は地、闇、風だ。これから諸君は僕の教え子、頑張って付いてきてもらうよ」
「「「オス! 宜しくお願いします!」」」
「早速だけどみな一列になって僕の前に縦一列で並んでくれたまえ」
「「「オス! 宜しくお願いします!!」」」
構成員達は威勢よく返事を返すと駆け足で並び直し、綺麗な列が出来上がった。
先頭の構成員は期待と緊張で顔が引き攣りかけていて、ちょっと面白い顔になっている。
「今から君達に強制的に基礎技術を焼き付ける。多少キツいかもしれないけど我慢してくれよ」
「お……オス!」
何やら不穏な事を言い出したリッチモンドは、さらに顔を引き攣らせた構成員に一歩踏み出してその額に人差し指をトン、と重ねた。
その光景に見覚えがあった俺は構成員に同情の眼差しを向け、構成員は俺の視線に気付いたのかチラリとこちらを見た。
そして次の瞬間、構成員の体は何かの衝撃を受けたかのように体を小刻みに震わせて——。
「あばばばば」
フライを教えてもらった時の俺と、全く同じ反応を示していた。
一つ違うのは構成員は白目を剥いて口から泡を噴き出している事だ。
その時間は二十秒ほどだったが、構成員はリッチモンドの指が離れると途端に地面に転がり、打ち上げられた魚のようにビクンビクンと体を跳ねさせていた。
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