欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四五六話 小屋へ

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「フィガロ様よ、そりゃどういう事だ?」

「そのままの意味だよ。帰ってきたらウチの領地で店を出してみないか? 中央市街地までもそこまで遠くない」

「んん……願ってもねぇ提案だが……まだ纏まった金がねぇんだ」

「店舗資金は必要ないさ」

「何だって!? 本当の本当か!?」

「ああ。恥ずかしながら俺も領地を頂いたばかりでね、実は……」

 目を丸くするラインメタルにオーブのことや事業計画、整備、建築などの諸々を掻い摘んで話していった。
 興味深く全ての話を聞き終えたラインメタルは一つ頷いた後、ゴツゴツとした掌を差し出してきた。

「話は分かった。そのオーブって所に俺の店を出していいんだな?」

「そういうことだ。家屋はこれから建てる、もしラインメタルの希望があればその通りに作ってもらう」

 俺は返すようにラインメタルの掌を握り、軽く上下に振る。

「何から何までありがてぇ……閣下、恩にきるぜ」

「俺はオーブに人が欲しい、ラインメタルは店を出したい、利害の一致ってやつだよ」

「それでもだ。この恩は必ず返しますよ閣下。店舗資金が掛からないとなりゃ話は早い、今すぐにでも出発出来るぜ」

「大丈夫なのか?」

「ある程度の旅費は溜まってる。もし足りなきゃ近場の自由冒険組合でちょちょっと稼げばいいからな」

「そうか……大体どれくらいで帰ってくる予定だ?」

「ランチア守護王国から俺の故郷キャデーラドワーフ共和国まで行くにゃざっと一ヶ月強はかかる。んで仲間に声掛けたりなんだりで……遅くても四ヶ月以内には帰ってくると約束するぜ」

「分かった。なら俺もその間に色々と形にしてみせる」

「頼むぜ閣下」

「ラインメタルもな」

 俺とラインメタルは再び固い握手を交わしてから、お互いの拳骨を軽く合わせる。

「良かったわね、ラインメタル」

「あぁ。願ったり叶ったりたぁこのことですよ。殿下」

 それを見守っていたヘカテーが微笑みながら言った。

「寂しくなるわね」

「へへ、そう言って貰えるのは嬉しい。ありがとうございます」

「こんな所でダンケルクと二人だなんて……貞操の危機よ」

「えぇ!? どういう事ですか殿下! そんな事恐れ多くてできませんよ!」

「むしろそんな事したらちょん切るわよ?」

「ひゃい! しません!!」

「だっはっは! ダンにそんな甲斐性ありゃしねぇって! がははは!」

「笑いすぎだよライン……」

「俺はそろそろ行くよ。ヘカテー王女、何かあればウチに来てくださいね。俺が不在でも対応出来る人間はいますので。ラインメタルも出発が決まったらウチに来てくれ、門出くらい見送りたいからな。ダンケルクにはパーティーメンバーに話を通したらまた迎えに来る」

「分かりました。何から何まで本当にありがとう」

「見送りだと? わかった。必ず顔を出す」

「お待ちしてますフィガロ様! いやぁロンシャン戦の英雄と同じパーティーだなんて緊張します」

「それじゃ!」

 俺は和気あいあいと話す三人と別れ、地上に出てから次の目的をどうするかと思案する。
 トムの残した強化兵、ブラックとピンクは自我を取り戻した。
 だがブラウンとホワイトは未だ覚醒せず人形のような存在のままだ。
 
「様子を見に行くか」

 キメラルクリーガー隊と名付け、最初は領地に招こうと思っていた。
 けどブラックはいちど拠点に帰ると言ったきり何の音沙汰も無い。
 何かあると心配しているワケではないけれど、気になっていたのは確かだった。

「フライ」

 路地裏から上空へ飛び上がり、初めて強化兵達と出会ったトムの拠点へ向けて速度を上げた。



 拠点の前に降り立つとロッジ風の小屋はまるで変わりがなく、時が止まってしまっているかのように思えた。
 一瞬脳裏にトムの最後の顔がチラついて切なくなる。
 そんな時俺の前の扉がカチャリと開き、ブラックが顔を出した。

「誰かと思えば隊長じゃないか。突然どうしたんだ?」

「よっ。最近どうしてるかなって思ってさ。不在だったらどうしようかと思ってた所だ」

「なるほど。俺達は大丈夫だ、ピンクは元気にやっているか?」

 ブラックは鎧などは身に付けておらず、ツナギのような作業着を着て、頭にはタオルを巻き付けていた。
 不覚ながら初めて見るブラックの私服に、俺はちょっとした感動を覚えてしまった。

「ああ、元気に子供の世話とか買い出しとか、色々手伝ってくれてて助かってるよ」

「そうか……」

「リンクしてるんじゃないのか?」

「非常時以外は繋げないようにしている。もとが強化兵といえど覚醒すれば人と変わらん。それにピンクは女だ。女のプライベートに思念を繋いでいるほど無神経ではないつもりだ」

「なるほど、な」

「そんな事より隊長、中に入るか? 立ち話もなんだろう」

「あ、じゃあお邪魔しよっかな」

「わかった。片付けてくるからすこし待っていてくれ」

「はいよ」

 そう言い残してブラックは小屋の中に引っ込み、ものの数分もしないうちに扉から頭をのぞかせた。

「入ってくれ」

「お邪魔します」

 
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