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8◆マリウス
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スラムで生まれたその子供は、物心つく頃に唯一の家族である母を亡くした。
子供はとてもか弱くて小さくて、けれど生きたいと望んでいた。
だけど、スラムではたぶん生きられない。
それを本能で悟り、街から出て森に辿り着く。
けれど、無力な子供には何もできない。
獣か魔物に食い殺されて終わるか、甚振り殺されて終わるか……。
そんな子供に、姿のみえない何者かが囁いた。
『生きたいのか?』
子供は肯定をする。
『じゃあ、契約しようよ。生きる術をあげる代わりに………』
その何者かを何かに例えるならば、きっとそれは闇だろう。
子供は一本のナイフを手に入れた。
それは普通のナイフにみえるけれど、この子供にしか使えない特別なナイフ。
その真の姿は、まだみせる時じゃない……。
子供は、生きる術を手に入れた。
だが、契約のことを覚えてはいない。
時が満ちるまで、思い出す必要はないから。
そして、時が満ちたなら……。
生きる術を貰った代わりに、子供は何を要求されるのか……?
それはわからない。
闇の正体も、わからない。
子供は、マリウスは、大人になってもあまり姿が変わらなかった。
栄養が足りなかったのだろうか。
でも、小さいことをマリウスは気にしない。
生きることに身長なんてあまり関係ないから。
ただ、美味しいものが食べたいという思いだけは抱く。
時には、毒キノコだろうと生魚だろうと、美味しくないとわかっている魔物の肉だろうと食べていた。
倒れることは何度もあったが、不思議と死ぬことはなかった。
騎士団に入ったことで、マリウスはやっと人としてのまともな食を得ることができたのだ。
お給料も貰えるから、どんな美味しいものを食べようかつい考えてしまう。
表情筋が死滅しているから無表情だが、マリウスは内心食事の時間と給料日が楽しみなのである。
団長が何故かよく構ってくることにマリウスは不思議だなとは思っているが、とくに怖いとかは思っていない。
団長の顔や気配が怖いとよく周りが言っているけれど、そんなに言うほど怖くないとマリウスは思うのだ。
まぁ、マリウスは肝が座っているからといったらそれまでなのだが……。
まさか団長がマリウスに初恋しているとは、マリウスは気づいていない。
でもマリウスは、団長のことをお菓子くれるいい人ぐらいの認識ではあるが、好ましく思っている。
……ちなみに王太子のことは、美味しいものをくれた変人と思っているぞ。
食堂のおばちゃん達に貰った焼き菓子を食べながら、美味しさに心が舞い踊る。
無表情なのに花が舞い散っている幻覚がみえるほど、美味しそうに食べていて他の騎士達に可愛い可愛いと頭を撫で撫でされてしまう。
いっぱい食べて大きくおなりと、それはそれは優しく見守られているマリウスだった。
子供はとてもか弱くて小さくて、けれど生きたいと望んでいた。
だけど、スラムではたぶん生きられない。
それを本能で悟り、街から出て森に辿り着く。
けれど、無力な子供には何もできない。
獣か魔物に食い殺されて終わるか、甚振り殺されて終わるか……。
そんな子供に、姿のみえない何者かが囁いた。
『生きたいのか?』
子供は肯定をする。
『じゃあ、契約しようよ。生きる術をあげる代わりに………』
その何者かを何かに例えるならば、きっとそれは闇だろう。
子供は一本のナイフを手に入れた。
それは普通のナイフにみえるけれど、この子供にしか使えない特別なナイフ。
その真の姿は、まだみせる時じゃない……。
子供は、生きる術を手に入れた。
だが、契約のことを覚えてはいない。
時が満ちるまで、思い出す必要はないから。
そして、時が満ちたなら……。
生きる術を貰った代わりに、子供は何を要求されるのか……?
それはわからない。
闇の正体も、わからない。
子供は、マリウスは、大人になってもあまり姿が変わらなかった。
栄養が足りなかったのだろうか。
でも、小さいことをマリウスは気にしない。
生きることに身長なんてあまり関係ないから。
ただ、美味しいものが食べたいという思いだけは抱く。
時には、毒キノコだろうと生魚だろうと、美味しくないとわかっている魔物の肉だろうと食べていた。
倒れることは何度もあったが、不思議と死ぬことはなかった。
騎士団に入ったことで、マリウスはやっと人としてのまともな食を得ることができたのだ。
お給料も貰えるから、どんな美味しいものを食べようかつい考えてしまう。
表情筋が死滅しているから無表情だが、マリウスは内心食事の時間と給料日が楽しみなのである。
団長が何故かよく構ってくることにマリウスは不思議だなとは思っているが、とくに怖いとかは思っていない。
団長の顔や気配が怖いとよく周りが言っているけれど、そんなに言うほど怖くないとマリウスは思うのだ。
まぁ、マリウスは肝が座っているからといったらそれまでなのだが……。
まさか団長がマリウスに初恋しているとは、マリウスは気づいていない。
でもマリウスは、団長のことをお菓子くれるいい人ぐらいの認識ではあるが、好ましく思っている。
……ちなみに王太子のことは、美味しいものをくれた変人と思っているぞ。
食堂のおばちゃん達に貰った焼き菓子を食べながら、美味しさに心が舞い踊る。
無表情なのに花が舞い散っている幻覚がみえるほど、美味しそうに食べていて他の騎士達に可愛い可愛いと頭を撫で撫でされてしまう。
いっぱい食べて大きくおなりと、それはそれは優しく見守られているマリウスだった。
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