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第十二話 おうち
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俺たちは今までと同じように楽しくおしゃべりしながら駅に向かう。風が少し強い。空は曇り空。少しだけぐずつきそうな天気が広がり、折り畳み傘を持ってきていないことを後悔させられる。
「ちょっと天気悪いね。雨、降るのかな」
「──この空を見るに、そうなのかもしれないね」
美宙は空を見上げながら、見えない青空に思いを馳せる。俺は、美宙の視線に、若干の疑問を浮かべた。
「ねぇ、テレパシーができるから、予知能力もあるのかなって期待した?」
「──えっ、まあ、ちょっとは」
「ボクには心を読むくらいの力しかないさ」
俺は、思いがけず思考を読まれたように感じ、冷や汗を垂らした。別になにかやましいことをしているわけではないのだが。
まだ雨は降っていないが、皮膚表面に広がるジトっとした湿度がほんの少しの不快感を連れてくる。
◇ ◇ ◇
乗り込んだ列車にはチラホラと空席が目立ち、立っている人はほぼ居ない。昨日はあんなに混んでいたのに、随分空き具合が違うものだ。
二人は車両の右端の席に並んで腰かけた。
「──柊真くんの家、楽しみだなぁ」
「ねぇ、ホントにいくの?」
「なんだよ。柊真くんから誘ったんじゃないか。いまさら『無理です』なんて通らないぞ?」
「──そうだよね」
俺の懸念はただひとつ、部屋の片付けを済ませていないということだ。
美宙は返答を聞いて目をつぶり、俺の肩に寄りかかる。俺は「わかった」とだけ呟き、彼女の頭を受け入れた。ボブカットの滑らかさが服越しにも伝わる。それが俺に、さまざまな躊躇を与えてしまう。
◇ ◇ ◇
そのまま二人は同じ駅で下車し、徒歩十二分の距離をスタスタと歩いた。
俺はこの春一人暮らしになったばかり。高校に入ってからは、女性どころか、男友達すら自分の家に入れたことがない。
緊張で鍵を持つ右手が震える。片付けをしていないとはいえ、そこまで汚していないはずだから大丈夫……のはず。
鍵を上の鍵穴と下の鍵穴に差し、それぞれ左に回す。取っ手を持ちながら手前に引き、後ろの少女に「入っていいよ」、と言う。
荷物を自分の部屋に置き、洗面所で手をしっかりと洗う。咲良さんは既に手を洗っているようだった。彼女の目を見ると、美宙から心亜に変化しているのが見て取れた。
「へぇ~。生活感は割とあるけど、意外と綺麗にしてるのね~」
「まあ、せめて家事くらいはしっかりやらないとなって思うからさ」
「いいわね、そういうの。ポイント高いわよ」
紫色の瞳の少女はリビングを見渡しながら言葉を紡ぐ。
「……というか、男子高校生のお部屋なのに面白いものあんまり無いわね」
「──え? 面白いものって……なに? 貴重なものだとか変なものだとかを買う趣味はないよ」
心亜は俺の返答に不満を感じたのか、頬をふくらませた。
「柊真くんってそういうとこは面白みがないのね~。ほら、ベッドの下とか、本棚の奥とかに隠すアレよ」
「んなもんないよ。というか隠すべきものは周り見渡しただけじゃ見つからないだろ。隠してるはずだし」
「それが分かっちゃうんだなぁ。わたしは、なんとなく雰囲気で『そういうものがあるな』ってのを感じ取っちゃうわけ」
リビングのソファに座った心亜はテレビ横の本棚やレコーダーを見ながら言った。
「そうだったとしても、ベッドの下とか本棚を探したってこの家にはないぞ?」
「この家には? じゃあ他のところにはあるんだぁー。例えば……スマホとかパソコンとか?」
「……どうだろうな」
柊真はなんとはなしに間を作ってから答えた。窓の外にはポツポツと大きめの雨粒が落ち始めていた。
「あれ、ビンゴ?いいんだよ~、バレたって恥ずかしいことじゃないって!」
「そういう問題じゃないだろ?男としてのプライドだよ」
……俺はそう回答したが、そのせいで先程までの濁しは全く意味がなくなってしまった。
★ ★ ★
心亜は、柊真をどうしてやろうかと思考をめぐらせていた。押し倒してやろうか、焦らしてやろうか。柊真に仕掛けさせるように仕向けるか。どの方法がうまくいくはわからないが、どの選択肢を取ろうが今後の人生に関わるような事になるのは間違いない。まずは、頭の中の別人格に聞くことにした。
(ねぇねぇ、柊真くんをどうしようか?)
まず、心亜が自分の中にいるほか三人に投げかける。
(……柊真くんはどう思ってるのかな?)
咲良が問いに対して最初に返す。
(どう思ってるか、じゃないでしょ。ボクたちが能動的にやらなきゃいけないことでしょ? たぶん、柊真くんはヘタレだから、今日のうちは何も無いよ)
美宙は自分の意見を述べる。咲良、美宙、心亜の三人はこの中で唯一話していないチアキの方へ視線を向ける。
(アタシは全部嫌よ! どれもしたくないわ!)
(そうは言いましても、彼氏の家なんだよ? 割といい雰囲気なんだよ? これからカップルになるんだから、ボクはここで仕掛けるべきだと思うよ)
(わたしはどんな仕掛け方でも上手くいくと思うわよぉ?)
美宙と心亜がチアキを説得する。咲良は静かに下の方を見ていた。
(だから! カップルになるのも認めてないっての! あんな男と一緒に過ごしたくない!)
チアキは断固として否定の方向だ。
(あんなに美味しそうに血を吸ってたのに?)
チアキは美宙に痛いところを指摘される。チアキは黙ってしまった。
(あ、あの、雨が降ってるんだし、「お泊まりしたいな」っていうのは……どう……かな?)
咲良が提案する。美宙と心亜はそれで行こうと互いを見つめる。ここまでの脳内会議は現実時間で十秒ほどであった。
★ ★ ★
「ねぇ、柊真くん。雨、降ってきちゃったね」
「……心亜はどうしたい?」
「お泊まり……したいかな?」
俺は予想外の反応に驚く。てっきり家まで送って、という反応が帰ってくると思っていたのだ。
「んな事言ったって、着替えとかないだろ?」
「──あら、まあ、そうね」
「なら、送ってくよ。ほら、家も近いわけだし」
「──そうね」
心亜は苦い表情をした。正直、こう回答しない方がいいことなんて分かりきってる。しかし、なんとなく──というか、確信的に「怖い」と思ってしまったのだ。相手が普通の女子ならまた別だが、彼女は吸血鬼──と、その他の種族が混ざっている。なにが起こるか分からないのである。
俺は傘をさし、心亜を家まで送ることにした。分かりきっていたことだが、彼女は不機嫌そうな表情をしているし、問題を先送りにしているだけなのは分かる。しかし、今はまだ早いように感じたのだ。
「ちょっと天気悪いね。雨、降るのかな」
「──この空を見るに、そうなのかもしれないね」
美宙は空を見上げながら、見えない青空に思いを馳せる。俺は、美宙の視線に、若干の疑問を浮かべた。
「ねぇ、テレパシーができるから、予知能力もあるのかなって期待した?」
「──えっ、まあ、ちょっとは」
「ボクには心を読むくらいの力しかないさ」
俺は、思いがけず思考を読まれたように感じ、冷や汗を垂らした。別になにかやましいことをしているわけではないのだが。
まだ雨は降っていないが、皮膚表面に広がるジトっとした湿度がほんの少しの不快感を連れてくる。
◇ ◇ ◇
乗り込んだ列車にはチラホラと空席が目立ち、立っている人はほぼ居ない。昨日はあんなに混んでいたのに、随分空き具合が違うものだ。
二人は車両の右端の席に並んで腰かけた。
「──柊真くんの家、楽しみだなぁ」
「ねぇ、ホントにいくの?」
「なんだよ。柊真くんから誘ったんじゃないか。いまさら『無理です』なんて通らないぞ?」
「──そうだよね」
俺の懸念はただひとつ、部屋の片付けを済ませていないということだ。
美宙は返答を聞いて目をつぶり、俺の肩に寄りかかる。俺は「わかった」とだけ呟き、彼女の頭を受け入れた。ボブカットの滑らかさが服越しにも伝わる。それが俺に、さまざまな躊躇を与えてしまう。
◇ ◇ ◇
そのまま二人は同じ駅で下車し、徒歩十二分の距離をスタスタと歩いた。
俺はこの春一人暮らしになったばかり。高校に入ってからは、女性どころか、男友達すら自分の家に入れたことがない。
緊張で鍵を持つ右手が震える。片付けをしていないとはいえ、そこまで汚していないはずだから大丈夫……のはず。
鍵を上の鍵穴と下の鍵穴に差し、それぞれ左に回す。取っ手を持ちながら手前に引き、後ろの少女に「入っていいよ」、と言う。
荷物を自分の部屋に置き、洗面所で手をしっかりと洗う。咲良さんは既に手を洗っているようだった。彼女の目を見ると、美宙から心亜に変化しているのが見て取れた。
「へぇ~。生活感は割とあるけど、意外と綺麗にしてるのね~」
「まあ、せめて家事くらいはしっかりやらないとなって思うからさ」
「いいわね、そういうの。ポイント高いわよ」
紫色の瞳の少女はリビングを見渡しながら言葉を紡ぐ。
「……というか、男子高校生のお部屋なのに面白いものあんまり無いわね」
「──え? 面白いものって……なに? 貴重なものだとか変なものだとかを買う趣味はないよ」
心亜は俺の返答に不満を感じたのか、頬をふくらませた。
「柊真くんってそういうとこは面白みがないのね~。ほら、ベッドの下とか、本棚の奥とかに隠すアレよ」
「んなもんないよ。というか隠すべきものは周り見渡しただけじゃ見つからないだろ。隠してるはずだし」
「それが分かっちゃうんだなぁ。わたしは、なんとなく雰囲気で『そういうものがあるな』ってのを感じ取っちゃうわけ」
リビングのソファに座った心亜はテレビ横の本棚やレコーダーを見ながら言った。
「そうだったとしても、ベッドの下とか本棚を探したってこの家にはないぞ?」
「この家には? じゃあ他のところにはあるんだぁー。例えば……スマホとかパソコンとか?」
「……どうだろうな」
柊真はなんとはなしに間を作ってから答えた。窓の外にはポツポツと大きめの雨粒が落ち始めていた。
「あれ、ビンゴ?いいんだよ~、バレたって恥ずかしいことじゃないって!」
「そういう問題じゃないだろ?男としてのプライドだよ」
……俺はそう回答したが、そのせいで先程までの濁しは全く意味がなくなってしまった。
★ ★ ★
心亜は、柊真をどうしてやろうかと思考をめぐらせていた。押し倒してやろうか、焦らしてやろうか。柊真に仕掛けさせるように仕向けるか。どの方法がうまくいくはわからないが、どの選択肢を取ろうが今後の人生に関わるような事になるのは間違いない。まずは、頭の中の別人格に聞くことにした。
(ねぇねぇ、柊真くんをどうしようか?)
まず、心亜が自分の中にいるほか三人に投げかける。
(……柊真くんはどう思ってるのかな?)
咲良が問いに対して最初に返す。
(どう思ってるか、じゃないでしょ。ボクたちが能動的にやらなきゃいけないことでしょ? たぶん、柊真くんはヘタレだから、今日のうちは何も無いよ)
美宙は自分の意見を述べる。咲良、美宙、心亜の三人はこの中で唯一話していないチアキの方へ視線を向ける。
(アタシは全部嫌よ! どれもしたくないわ!)
(そうは言いましても、彼氏の家なんだよ? 割といい雰囲気なんだよ? これからカップルになるんだから、ボクはここで仕掛けるべきだと思うよ)
(わたしはどんな仕掛け方でも上手くいくと思うわよぉ?)
美宙と心亜がチアキを説得する。咲良は静かに下の方を見ていた。
(だから! カップルになるのも認めてないっての! あんな男と一緒に過ごしたくない!)
チアキは断固として否定の方向だ。
(あんなに美味しそうに血を吸ってたのに?)
チアキは美宙に痛いところを指摘される。チアキは黙ってしまった。
(あ、あの、雨が降ってるんだし、「お泊まりしたいな」っていうのは……どう……かな?)
咲良が提案する。美宙と心亜はそれで行こうと互いを見つめる。ここまでの脳内会議は現実時間で十秒ほどであった。
★ ★ ★
「ねぇ、柊真くん。雨、降ってきちゃったね」
「……心亜はどうしたい?」
「お泊まり……したいかな?」
俺は予想外の反応に驚く。てっきり家まで送って、という反応が帰ってくると思っていたのだ。
「んな事言ったって、着替えとかないだろ?」
「──あら、まあ、そうね」
「なら、送ってくよ。ほら、家も近いわけだし」
「──そうね」
心亜は苦い表情をした。正直、こう回答しない方がいいことなんて分かりきってる。しかし、なんとなく──というか、確信的に「怖い」と思ってしまったのだ。相手が普通の女子ならまた別だが、彼女は吸血鬼──と、その他の種族が混ざっている。なにが起こるか分からないのである。
俺は傘をさし、心亜を家まで送ることにした。分かりきっていたことだが、彼女は不機嫌そうな表情をしているし、問題を先送りにしているだけなのは分かる。しかし、今はまだ早いように感じたのだ。
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