7 / 7
前兆
しおりを挟む
街に近づけば近づくほど大きくなる、音の奔流が耳を打つ。
雑踏。歓声。嬌声。怒鳴り声。雑多な話声。
そこにある人の営みが活気で溢れているのがわかる。
ディリンギルの街全体の作りはあまり洗礼されてはいなく、大きな通りに合わせて店が並んでいるなんてこともないので迷路の様相を呈している。初めて来た旅人や、商機を見て訪れた商人が一度は必ず迷うというのがこの街の笑い話の一つだ。迷いたくなければ地図は必要だが、地図があれば間違いなく迷わないというわけでもないのが何ともいかんともしがたい。どうしてそんなことになっているのかと言えば、今までそこまで栄えていたわけでもなく、もとは大きな村くらいの規模だったものだから整備が必要でなかったし、だから街を運営している人間もその手のノウハウを何も持っていなかった。何も手を打てないままにディリンギルという街の価値ばかりがどんどんと上がっていき、人は増え交流は盛んになって建物が後付けでどんどん増えていくものだから、最早どうにも手を付けられない現状になっていたのだった。交易が盛んな街なのに商売に関連する建物が各地に点在しているというのだから、もう目も当てられない。商人はモノを卸して現金に換え、それを元手に新しい商材を仕入れたり、他国からきているなら貨幣の両替などもしなければならないし、持ってきた商材が土地柄でどれくらいで売れるかを調べるために場合によっては鑑定も必要だったりするわけだが、一工程終わらせるのに街の反対側まで行かなければいけないなんてのはざらだ。それでも人が集まるのは、労力に見合ったもうけが手に入ることも同時に意味しているが。
「えっと……ガシーナ婆の革工房がここなので……次の道をこっちです!」
尊はリズベットに先導されるままに街を歩く。
補足しておくのなら、リズベットはなにも方向音痴というわけではない。先刻迷ってしまったのは森の中で目印がろくに無かったからで、尊が強くリズベットを責めない理由の一因もそこにあった。寧ろ、一度見ただけの地図の全容を暗記して迷いなく尊を先導できる辺りリズベットは文句なく優秀と言えた。
「で、これはどこに向かっているの? さっき、おじいさんに教えてもらった建物なんだよね」
「はい、酒場です! こういう街で一番情報が集まる街と言えば酒場ですから、初めての街なら真っ先に赴くべきは酒場なのです! あとは宿とかも教えてもらったんですがこれは後で大丈夫そうなので」
「え、お店の類い? 僕、お金もお金になりそうなものも持ってないけど」
幾ら目的が情報とはいえ、酒場に行って何も注文もせずに情報だけ得られる、というのは都合がよすぎるだろう。情報料だって必要になるだろう。無一文でどうにかなるとは思えない。
尊が流石に心配になって尋ねると、リズベットが大丈夫ですよ、と柔らかく微笑む。
「流石にお金を稼いでいる余裕は私達にはないですから、女神さまからそれなりの金額を預けてもらっています。ですから当面はお金の心配は大丈夫です! 勿論無尽蔵というわけではないのですが、旅の途中で否応なしにある程度はたまるものですし」
「ん、そう?」
「はい、そうです!」
自信満々に胸をそらすリズベット。その様子に、尊は任せても大丈夫かな、と若干の不安を掻き立てられる。人間、調子に乗っているときほどミスをしやすいものだ。リズベットは天使だが。
「……まあ、僕が気を付けていれば大丈夫か」
「? 何か言いました?」
「何でもないよ。ところで、此処に居るっていう《転生者》の持っている《神器》はどんなのか、わかったりしないの?」
「う、申し訳ないのですがそれはできないのです。というのも、私は《転生者》が此処に居る、というのがわかるだけであって此処に居るのがそのうちの誰か、というのまではわからないのです。誰が何を持っている、というのは知っているので顔を見れば判るかと思うのですがー……」
(′・ω・`)と顔を落ち込ませるリズベット。
尊としては、十分有用だと思っていたが……自分で不甲斐なさを感じているところにかける励ましは、ともすれば相手を傷つけることにもつながるので何も言わない。
「……まぁ、じゃあ相手を視れば《転生者》なのかどうかもわかるってことなんだよね」
彼なりに気を遣って、尊は話題を変えた。
「あ、はい。わかりますけど……多分そっちの方は心配ないと思いますよ」
それが当然のことであるかのように、リズベットは言う。
その物言いに不可解なものを感じて、尊は首を傾げた。
「……なんで?」
「それは、まあ……絶対悪目立ちしていますもん、彼ら」
その言葉を言い終わるのが早いか。
遥か遠方から、地を低く響かせる爆音が街中を轟いた。
雑踏。歓声。嬌声。怒鳴り声。雑多な話声。
そこにある人の営みが活気で溢れているのがわかる。
ディリンギルの街全体の作りはあまり洗礼されてはいなく、大きな通りに合わせて店が並んでいるなんてこともないので迷路の様相を呈している。初めて来た旅人や、商機を見て訪れた商人が一度は必ず迷うというのがこの街の笑い話の一つだ。迷いたくなければ地図は必要だが、地図があれば間違いなく迷わないというわけでもないのが何ともいかんともしがたい。どうしてそんなことになっているのかと言えば、今までそこまで栄えていたわけでもなく、もとは大きな村くらいの規模だったものだから整備が必要でなかったし、だから街を運営している人間もその手のノウハウを何も持っていなかった。何も手を打てないままにディリンギルという街の価値ばかりがどんどんと上がっていき、人は増え交流は盛んになって建物が後付けでどんどん増えていくものだから、最早どうにも手を付けられない現状になっていたのだった。交易が盛んな街なのに商売に関連する建物が各地に点在しているというのだから、もう目も当てられない。商人はモノを卸して現金に換え、それを元手に新しい商材を仕入れたり、他国からきているなら貨幣の両替などもしなければならないし、持ってきた商材が土地柄でどれくらいで売れるかを調べるために場合によっては鑑定も必要だったりするわけだが、一工程終わらせるのに街の反対側まで行かなければいけないなんてのはざらだ。それでも人が集まるのは、労力に見合ったもうけが手に入ることも同時に意味しているが。
「えっと……ガシーナ婆の革工房がここなので……次の道をこっちです!」
尊はリズベットに先導されるままに街を歩く。
補足しておくのなら、リズベットはなにも方向音痴というわけではない。先刻迷ってしまったのは森の中で目印がろくに無かったからで、尊が強くリズベットを責めない理由の一因もそこにあった。寧ろ、一度見ただけの地図の全容を暗記して迷いなく尊を先導できる辺りリズベットは文句なく優秀と言えた。
「で、これはどこに向かっているの? さっき、おじいさんに教えてもらった建物なんだよね」
「はい、酒場です! こういう街で一番情報が集まる街と言えば酒場ですから、初めての街なら真っ先に赴くべきは酒場なのです! あとは宿とかも教えてもらったんですがこれは後で大丈夫そうなので」
「え、お店の類い? 僕、お金もお金になりそうなものも持ってないけど」
幾ら目的が情報とはいえ、酒場に行って何も注文もせずに情報だけ得られる、というのは都合がよすぎるだろう。情報料だって必要になるだろう。無一文でどうにかなるとは思えない。
尊が流石に心配になって尋ねると、リズベットが大丈夫ですよ、と柔らかく微笑む。
「流石にお金を稼いでいる余裕は私達にはないですから、女神さまからそれなりの金額を預けてもらっています。ですから当面はお金の心配は大丈夫です! 勿論無尽蔵というわけではないのですが、旅の途中で否応なしにある程度はたまるものですし」
「ん、そう?」
「はい、そうです!」
自信満々に胸をそらすリズベット。その様子に、尊は任せても大丈夫かな、と若干の不安を掻き立てられる。人間、調子に乗っているときほどミスをしやすいものだ。リズベットは天使だが。
「……まあ、僕が気を付けていれば大丈夫か」
「? 何か言いました?」
「何でもないよ。ところで、此処に居るっていう《転生者》の持っている《神器》はどんなのか、わかったりしないの?」
「う、申し訳ないのですがそれはできないのです。というのも、私は《転生者》が此処に居る、というのがわかるだけであって此処に居るのがそのうちの誰か、というのまではわからないのです。誰が何を持っている、というのは知っているので顔を見れば判るかと思うのですがー……」
(′・ω・`)と顔を落ち込ませるリズベット。
尊としては、十分有用だと思っていたが……自分で不甲斐なさを感じているところにかける励ましは、ともすれば相手を傷つけることにもつながるので何も言わない。
「……まぁ、じゃあ相手を視れば《転生者》なのかどうかもわかるってことなんだよね」
彼なりに気を遣って、尊は話題を変えた。
「あ、はい。わかりますけど……多分そっちの方は心配ないと思いますよ」
それが当然のことであるかのように、リズベットは言う。
その物言いに不可解なものを感じて、尊は首を傾げた。
「……なんで?」
「それは、まあ……絶対悪目立ちしていますもん、彼ら」
その言葉を言い終わるのが早いか。
遥か遠方から、地を低く響かせる爆音が街中を轟いた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる