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第一章

三人の隊長

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「つっても、どうすっかなぁ……取り敢えず、情報をくれるか?」

 斥候からの報告はまずルディアンヌに行くようになっているので、俺はルディアンヌに尋ねる。

「おう。望遠鏡持たせた斥候からの報告だが……まず方角は南東から、北西に抜けていく形で行軍しているらしい。行軍速度はそこそこだ。急行軍(名前の通り、休憩を少なくし、歩度を早めて行軍する)ってほどじゃあない。十分後に最も接近する見込みだ。一番近いときで東に二分弱ってところだな。警戒が見て取れる。戦備行軍(常に敵との接触を想定して武装や警戒を緩めることなく行軍する)だな。行軍に際して周囲に斥候も走らせているだろうから、ここに座して待っていたら流石にバレるだろうな」
「動いてるんだな……進軍先になにかあるのか?」
「流石に俺にはわかりかねるが……この試験で初日に動くっつったら協力者との合流じゃねえか?」
「うーん、此処はできれば確証を得たいところだったんだけどな……望遠鏡の倍率が足りなかったか」

 急に用意させたこともあってか、用意した望遠鏡の倍率はそこまで高くはない。レンズの作り方、とかの技術面は俺にはわからないこともあって、そこまで細かい要求は出来なかったのだ。まあ、倍率は低いなら低いで遠くを見るには適さないが近くを見るには取り回しがいい。

「しかし、この望遠鏡ってのは便利で仕方ねえな。これ一本で戦争がガラッと変わっちまうぞ」
「まあ、この世界からすれば明らかなオーバーテクノロジーだからな……これが大量生産されて戦争に投入されたらだいぶ戦線は前に押し出せるんじゃないか?」

 ルディアンヌとそんな他愛のない会話をしていると。

「……………安易に、進路を塞いで待ち受ける、とかは?」

 ルーが小さく手を挙げて意見を述べる。
 俺は流石にその意見には首を横に振った。

「敵も前方は特に警戒しているだろうから、奇襲にもならねえしな。単純な力押しでも勝てるだろうが、被害を少なくする意味ではちょっと控えたいところだな……」
「……うん。まぁ、言ってみただけ」

 多分、なんでもいいから意見を言って会議の潤滑油にするつもりだったのだろう。よく気が回る。

「うーん、前は無理でしょう? それに、横も流石に警戒が強いでしょうし、かといって後ろは論外でしょうし……」

 タルトが唸る。マンガとかなら『なら下だぁ!』とかいう場面だなあとかどうでもいいことを思いつつ、しかしどうするかと顎を擦る。
 警戒が強い敵を倒すことが最も困難なのは当然のことで、有効な手段としてはやったように油断させて警戒を緩めさせるとかだが、まず警戒を緩めさせる手段がない。

「………………これ無理じゃね?」
「……無理なら、力押しで倒しておいたほうがいいかもしれないですね。合流するために動いているのなら先に倒しておいたほうが、後々楽ですし」
「それはあるな。戦力は分散しているうちに叩くのが基本だし」
「…………こんなに警戒されてるなら、出来なくてもしょうがない」
「そうだな。こんなに警戒されてちゃ……いや待てよ?」

 その言葉に、なにか引っかかるものがあった。
 その引っ掛かりを手放さないよう、必死に頭を回す。

「……ルディアンヌ。俺たちが今敵に対して有利な点を、なんでもいい。挙げ連ねてくれ。少し思考をかき乱したい」
「ん? おう……まず、当然だが望遠鏡のお陰で敵の位置が分かっている。あと単純に数も多いな。旅次行軍で来たから体力も回復していて、俺の部下は速さを取り戻している。まず敵が俺の部隊より速いことはねぇわな。ルー嬢ちゃんの部隊が工作も出来るな」
「ふむ……そういえば、タルトはどんな部隊を選んだんだ?」
「申し訳ないですけど、重歩兵です。戦争では猛威を振るうでしょうが、今回の当たったら負けのルールだとちょっと、ただの取り回し悪い部隊ですね。此処で選んだ部隊が後の私の部隊になるので選びたくて」
「成る程な………………よし。考えが纏まった」
「マジか!?」
「大マジだ。だが犠牲がゼロって訳には行かないだろうな。真っ正面から突っ込むよりは幾分マシ、程度だ」
「いやぁ、充分だろ。俺元々ゼロとか無理だと思ってたし」

 大口叩いといて出来ないとは我ながら情けないと思いつつ俺がいうと、平然とルディアンヌがそうぬかした。

「はぁ!? じゃあさっきの発破はなんだよ!?」
「最善を目指せってのは当然だろ? 最初から次善を考えてたら、最終的に思いつくのが次次善って事もある。逃げ道を最初から作んなって事だよ。指揮官がそうそう考える前から無理なんて言うもんじゃねぇ」

 しゃあしゃあと反論するルディアンヌに、俺は唸った。こいつ、やっぱり頭いいな。正論すぎて反論の余地もない。

「……で、どうするの?」
「あぁ、取り敢えず兵たちを全員を揃えてくれ。そこまで複雑な作戦じゃないから、一回言えばわかるはずだし。こればかりは指揮官だけじゃなくて全員が作戦を理解している必要がどうしてもあるからな。時間がないから吟味してる暇はない。説明の時に無理そうだった時だけ、俺に言ってくれ。その時は正面から突撃する」

 口を動かし、身振り手振りなどを加えながら指示を飛ばして淡々と準備を進めていく。
 我ながらちょっと慣れて来たな、と思った。
 少し前まで当然のようにあった学校や日常が遠い夢のようだ、と少し感慨に浸った。
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