異世界にてドヤ顔で現代知識TUEEEEしてたらいつの間にか最高位軍師にされてました!?

一☆一

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第一章

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 日もそろそろ落ち始める頃だろうか。
 進軍を指揮するテメーユは、先に仲間との合流地点に行くのがいいか、此処らで野営でもするのがいいかと頭を悩ませていた。
 淡々と命令に従って行進する兵達。警戒を常に厳にさせているせいか、兵にも疲労が見て取れる。
 当初の予定ではそこそこのペースで行軍を続ければ合流地点に問題なく着くはずだったのだが、流石に森林地帯という事もあり、半ば遭難にも近い迷走に時間を費やしてしまったりもして、どうにも時間が足りるかがわからなくなってきていた。何より、兵の疲労も深刻だ。疲れた兵は警戒力も行動力も激減する。
 なら間に合わないと開き直って野営するか、というと難しい。合流できなければ単純に頭数が足りず、襲撃に対応する術がないからだ。とても広い森林地帯に対してチームは二十。加えて、幾チームかは既に合流もしている事だろうから実質動いている団体というくくりではもう少し少ない。となると、遭遇は確率的には低いと思われるが……無視できるほど低いか、と言われるとそうでもない。第一、早くに合流しなければこちらは助かってもあちらが全滅させられている可能性だってある。

「むっつかしいにゃー……どうするかにゃぁん」

 頭から生えた猫のような耳をピクピクと動かし、よく研がれた鋭い爪で頰を掻くテメーユ。テメーユは亜人の獣人種、その中でももっとも数の多い猫人族だ。人間との違いは、外見的なもので言うのならその猫のような耳と腰の下あたりから生えた尻尾。猫のように細い眼に伸びやすい爪などだ。能力で言うと夜目が利きやすさと、五感の鋭さ。あとは機動力の高さだろうか。しなやかな足は小動物のようなすばしっこい行動を可能にし、斥候などによくみられる種族でもあった。成長も早く、七歳で成人に至るというのも特徴の一つで、成長度合いを度外視した単純な年齢で言うのであれば、この試験の最年少は十歳のテメーユだ。もっとも、その外見は人間で言うと二十代のそれであり、豊満な胸は一応年上のルーなどには全く見られない要素であったが。
 因みに。にゃ、という語尾は猫人族だからではなく、テメーユ本人の趣味である。

「んー……やっぱり行くとこまで行って休むのがあと腐れないかにゃ? 寝る前になって『まだ歩かないといけないんだにゃぁ~』なんて思いたくにゃくにゃい? 気持ち的にー」
「そうですな……副官として申し上げるのであれば、やはりこのまま行軍するのがよいかと。この試験では、やはりどれだけ早期に相方と合流できるかが勝敗の分かれ目と言ってもいいですから。歴代の合格者の遺されたデータから考えましても」
「データなんて只の数字、あてになるもんじゃにゃいとおもうんだけど?」
「おっしゃる通りかと存じますが、岐路に立たされた時の道しるべとしてはこれ以上のものはないかと存じます」

 ふむぅ、とテメーユは唸る。隣に立つ年老いた副官、ダクレスは話すこともなく適当に選んだのだけれど、この堅物さが奔放なテメーユと合っている。テメーユは自分の運の良さを改めて認めた。

「急行軍には兵の体力がついていきませんからペースは上げられませんが、先ほどのように迷ったりしなければ辛うじて光があるうちに合流地点に到着できるかと。まだ相手方が到着しているかはわかりかねますが」
「んー、まあそこにかんしては大丈夫だとおもうかにゃ。シトラチャンは天然だけど、ウチほど奔放じゃにゃいから。シトラチャン自身斥候の経験もあるし、迷ったりはしてないはずだし」
「では、やはり合流を急いだほうがよさそうですな。一か所に長時間とどまらせておくような真似は容認できかねますし」
「そうだにゃ……うん?」

 瞬間、テメーユの五感……聴覚に何かが引っかかった。
 草や葉をかき分けて進む音。テメーユの隊のものではない。数も多いうえに、それはこちら側に高い速度を保ったまま近づいてきて──!!

「敵にゃ! 総員弓構え! ペイントは付けなくていいにゃ、矢をつがえ次第左手の方角に撃て!」

 テメーユの命令が飛び、厳戒態勢を維持していた兵たちは素早く弓を構えて矢を放つ。
 矢が高速で左手の茂みに消えていく。悲鳴はない。誰にも当たってはいないのだろう。速度を優先させてそもそもペイントを着けさせていないのだから、当たっても痛い程度でしかない。
 だが、それでいい。自分たちは気づいている、と敵に示すことが第一であり、敵に二の足を踏ませるための第一射なのだから。

「これで逃げてくれるといいんだけどにゃ……! 総員警戒! 今度はペイントを着けた矢をつがえたまま待機! 警戒をさらに厳にして左手の陰から何かが見えたらすぐに撃つこと!」
「足を止めるのは危険かと思われますが。それよりも速度を上げて突破するのがよいかと。このままでは敵のいい的です」

 ダクレスが当然の疑問を呈し、しかしそれにテメーユは首を横に振る。

「駄目にゃ。敵は真っ直ぐこっちに向かってきていた。その人数は……正確なところはわからにゃいけど大体五十人。一小隊規模じゃにゃい。かといって二小隊というほど多くもにゃい。つまり、敵は何らかの方法でこっちを場所を把握したうえで、隊を二つに分けてるのにゃ。ウチはそれが進行先での待ち伏せに思えてにゃらにゃい。だからここは警戒を全力でして、戦ったら被害が大きくなるから諦めた方がいいと思わせるのにゃ」

 ダクレスはゴクリと唾をのんだ。
 あの一瞬でそこまで思考を至らせていたとは、と。
 鋭い五感と、それを最大に生かす直観。
 ダクレスは認識を改める。奔放で、迷子になってしまうなど抜けたところもあると思っていたが……目の前の上司は、確かにこの過酷な試験に挑戦する権利を持ったエリートなのだ、と。

「でも、ただ敵にいいようにされるってのも気にくわにゃいよにゃぁ? さぁて、どう噛みついてやろうかにゃ……!」

 テメーユがざらざらとした下で小さく舌なめずりをする。
 宝石のような黄色い眼が、らんらんと輝いていた。
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