拝啓、いつかの僕達へ ~枯澄高校天文学部活動記録~

一☆一

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先輩

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 少しだけ遅刻をして、俺は自分の教室に着いた。元々、俺の都合にはあまり深入りするつもりのない教師は理由を追及することはなく、あの少女……ハルナの案ずる様なことは、起きなかったが。

 授業中、少しだけ上の空になって彼女の事を考えた。先輩がどうの、と言っていたから多分同級生か一個下だろう。俺は二年生だから。
 存在しない天文部を名乗り許可も取らずに屋上に入り浸り、星を眺めている。相当な変人だ。陽気で明るく、荒っぽくて杜撰で暴力的。およそ女子の言動じゃない。幼馴染の彼女とは、似ても似つかない。
 そんな彼女と、一緒にいるのがやけに楽しく感じられたのは何故だろう。
 腫れ物を扱う様な周りの反応が、いい加減煩わしかったからだろうか。

「…………また、彼処に行けば」

 会えるだろうか。ポツリと呟き、そんな事を考えて教師の紡ぐ言葉と共に流れる時間を無為に過ごした。
 ──チャイムが鳴った。


 ◇◆◇◆◇◆


 放課後、あの教室へともう一度向かう。
 一切の光が遮られ、外からは真っ黒に見えるその教室のドアをコンコンと叩く。
 ガタリ、と中で何かが動く音がした。誰かいるのだろう。
 少し待つと、扉が開いた。

 そこに立っていたのは、朝に別れたハルナではなく──頭に鉄製のバケツを被った、見上げる程の大男だった。

「…………えぇ……」

 思わず、声が漏れる。
 それを聞いたからか、大男がむぅ、と唸った。随分と低く、嗄れた声だ。

「…………まぁ、いい。何か、用か」
「いや、用というか……ハルナ、っていう女子がいたら少し話がしたいな……と」
「………………入るといい」

 のし、と効果音のつきそうな重々しい足取りで、部屋の中に入る大男。
 外から差し込む光はないが、中は電気が付いていて真っ当に明るい様だった。

「…………客、の様だ」
「ふむ? 此処に客など珍しい……」

 中に入ると、先の大男と目の眩むような美しさの女生徒が話している。
 意外な事にその女生徒を、俺は知っていた。

「……生徒会長?」
「おや、その通りだよ、お客人。君は……ふむ、私が知らないということは同学年ではないのかな。後輩かい?」

 黒く濡れたような髪、宝石のような瞳、雪のような肌、朱をさしたような唇……と、ありとあらゆる美辞麗句は彼女を賞賛する為に出来たのだと謳われるほど美しい、奇跡の女子高生。それが生徒会長、夢洲ゆめしま美雪みゆきだ。モデルなんかもやっていて、常に学年二位をとるという学力も持つ。スポーツも万能。華道や音楽、書を嗜み家も金持ちという、欠点無しの超高校級の超お嬢様。高校でダントツの有名人だ。
 そんな人間が、なぜこんな処に……?

「もしもし、後輩かな、と聞いているんだけど」
「……ええ、まぁ……」
「…………ハルナに、会いに来た、と」
「ふぅん。じゃあ其処にかけて待つといい。彼女の事だ、どうせ直ぐに来るさ」

 興味を失ったように……いや、よく見ると幾らか不機嫌に見える様子で、生徒会長はパイプ椅子の背もたれに体を預けた。
 ギシリ、と鉄が軋む音。
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