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第八章①②③おまけ
③大暴露大会
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俺の裁判と南の国との一件に区切りがつき、慌ただしいその事後処理も大筋がついて来た頃、俺達はやっと第三別宮警護部隊の仲間内全員で集まる機会を持てた。
それは何故か、ギルの家のディナーに招かれるという形で実現した。
初めて来たが何なんだ??この屋敷は??
これを見て俺はやっと、ギルのどこかトンチンカンな部分が育ちのせいだと理解した。
話に聞いてはいたが、納得した。
こんな家を別宅として持っているような貴族様のお坊ちゃんなら、そりゃ何かズレてるよな。
しかも家にはメイドさんと執事さんがいて、お出迎えから上着の預かりから何から何までついてくれるのだ。
こりゃ、感覚もおかしくなるわ。
常識がないとか思っていたが、こいつの常識と俺の常識がかけ離れて違うだけだ。
食事も普通だとギルは言ったが、これが普通の食事だったら、俺はぶくぶく太った自信があるね。
よくその筋肉質な肉体を維持できてるよ。
モゴモゴ頬張って食べてたら、ウィルが笑ってお行儀よくしなさいって叱ってきた。
うふふ、ちょっと嬉しい。
「そこ~、いちゃつくなよ~。」
ライルが呆れて声をかけてきた。
いいじゃん!
俺達、結婚前のめちゃくちゃラブラブな時期なんだから!!
「それはそうと……本当なのか??」
「ああ。」
「シルクさんはちょっと……何となくまぁそうかなぁと思ってましたけど……。」
「うん、だよね~。でもウィルのこれは本当なのか?!」
「本当です。信じがたい話だとは思いますけど。」
おとぎ話が実は本当で、ここにそこから来た人がいますって言っても中々信じられないよなぁ。
シルクの事はレオンハルドさんも絡んでるから、何となく皆、察していたようだ。
でも流石にウィルの話はおおっぴらに話せないので、紙に書いて読んでもらう形で教えた。
読んた皆は驚いたり、無表情に固まったりとちょっとおかしかった。
でも俺が離職覚悟でウィルを探しに行ったのを皆知ってるし、その後ヴィオールを見てるし、何より今回の裁判で呪いで死にかけた俺をウィルが何かしらの方法で救ったのを目の当たりにしている。
だから信じられない話ではあったが、真実である事はわかってくれたみたいだ。
回り回った紙が帰ってきたので、俺はそれを回収した。
「クッソっ!!こんな大事なら先に言えよ!!馬鹿野郎っ!!何かあるとは思ったが、こんな裏があるとは思わなかったぞ!!予想以上にヤバかったんじゃねぇか!!あの時っ!!」
「悪かったよ、ガスパー。タイミングがなくてさ。」
「でもガスパーのとっさのあの話のお陰で、ヴィオールを必要以上に隠さなくても良くなったから、助かってるよ。」
ウィルはそう言って笑って、テーブルの下で俺の手を握った。
ウィルも皆に話す事になったのを少し不安に思っていたのだろう。
でも受け入れられてほっとした様だった。
「気に入らない~!!」
「は?!何怒ってるんだよ?!シルク?!」
皆はやっと俺が秘密を打ち明けたので、怒ったり呆れたりしていたがそれなりに満足してくれていたのだが、何故かシルクだけがプンスカと頬を膨らませている。
「シルク、ごめんね。言わなくて。」
「ウィルは良いの~!!俺も本当の事、言ってなかったし~!!」
「なら、何で怒ってるんだよ?!お前は?!」
「主!嫌いっ!!大嫌いっ!!俺にまで秘密にしてっ!!」
「何で俺にだけ?!」
いつも通りというか、シルクは俺に腹を立てているようだ。
何なんだよ?!なんでいつもそうやって俺にだけ怒るんだよ?!お前は?!
シルクはツンっと俺から顔を背けた。
そしてギルにひっついて泣き真似をしだす。
「ギル~。俺、もう主が信じられないよ~。」
「……なら、俺だけを信じていればいい。」
「ギルは俺を裏切らない?!」
「俺がお前を裏切った事があるのか?」
「ん~??なくはない。」
甘ったるい会話に全員が砂を吐きかけた中で、シルクは平然と言った。
ガスパーがワインを吹きそうになって噎せている。
俺もびっくりして二度見三度見の勢いで二人を見てしまった。
「なくはないの?!」
「なくはない。」
「……待ってくれ、シルク。それはいつだ?!」
「ギルはねぇ~主が絡むとやばいよねぇ~。俺も主の事になるとギルの事どうでも良くなるから人の事言えないけど。」
「どうでもいいは言いすぎじゃないか?!凹んでんぞ?!そいつ!!」
「あ~、でもわかる~。隊長、サークが絡むとちょっとヤバい時あるね~。フザケてるのかと思ってたけど、目がマジだから、怖っ!て思ってた。」
「そうなんですよね……。隊長にはたまに俺も危機を感じます……。サーク、浮気は駄目だからな?」
「しないから!!俺もコイツ、そういう意味では怖いから!!」
「でも主、何気にギルには油断するんだよねぇ~。他の人にはそういうのないのに。」
「してない!!常にコイツには警戒マックスだぞ?!俺!!」
「……皆に酷い言われような気がするのは、気のせいか??」
「気のせいじゃないよ??ギル。何気にギルが変態なのって、皆、わかってるんだねぇ~。」
「変態……。」
本人は自覚がなかったのか、信じられないと言った表情で固まっている。
そんなギルをシルクはよしよしと撫でている。
「でも俺はそんなギルの変態チックな所もぜんぶひっくるめて、大好きだよ♡俺の本当にヤバい部分も受け入れてくれるのギルだけだもん♡」
そしてムギュッと抱きしめる。
うわぁと皆がちょっと引いた。
ただ一人、そのやり取りにイヴァンだけは困ったように淋しげに笑った。
ああ!もう本当!!
シルクはイヴァンにもう少し気を使ってやれよ!!
見てらんないんだよ!!マジで!!
何とかしてやれないのかなぁ~コイツ……。
いいやつなんだよ!!本当!!
そう言えば宮廷魔術師のあの人、イヴァンの好みっぽいよなぁ~。
真面目でしっかりしてるし、ちょっと気が強いし。
ただな、どうなんだろう…う~ん??
「そう言えば、シルク、発情期があるって本当なのか?」
「うん、あるよ。あると言うか、あったと言うか。」
「は??今はねぇのかよ??」
「何かねぇ~、ギルが俺のつがいだったから、ギルの側にいれば自然発生的な発情期は起こんなくなった。でも今回の旅で、離れると起こるって事がわかってびっくりした~。」
「つがい??」
「うん、発情期のある人間にはこの人って人がいるんだよ。その人に会うとその人じゃないと駄目になる。めちゃくちゃその人が欲しくなる。しかもね~♡物凄くいいんだよ~♡もう、この人とエッチする為に俺は生まれたんだな~みたいな~♡俺の場合、匂いに反応するんだけどさ~つがい特有の~……。」
「ストップ!!シルク!ストップっ!!」
ベラベラとシルクが赤裸々な話を平然とし出したもんだから、俺は慌てて止めた。
本当待てよ、お前は!!
イヴァンの気持ちを考えろ!!
そしてエロ耐性のないガスパーが真っ赤になって俯いてぷるぷるしてんだろうが!!
しかし当のシルクはあまりわかっていない。
この程度、シルクにとったらエロにもならんから仕方がないと言えば仕方がないのだが……。
「へ??」
「そこまで詳しく今ここで話すな!!」
「何で??」
「食事中だろうがっ!!発情期の事は俺が今後、研究していくから!詳しく聞きたかったら俺に聞いてくれ!!以上!!この話は終わりっ!!」
俺はそう言って誤魔化した。
シルクはよくわからないようで、頭に疑問符を浮かべている。
ギルの方は何を考えているのか、いつも通り無表情だ。
ライルが苦笑いしてガスパーの背中を擦っている。
イヴァンはというと、何か真面目な顔で遠くを見つめていた。
『おい、大丈夫か?!イヴァン?!』
隣の席の俺はそう小声で声をかけた。
イヴァンは薄く笑って俺に顔を向けた。
『大丈夫です。むしろどうしてあの時フラレたのか納得できました。よくわからないけど、どうしようもなかった事なんですね、あれは……。』
『詳しくすぐに教えてやれなくてすまない……。事情が事情だけに、シルクもあまり人に話したい事じゃなかったからさ……。』
『いえ、知れて良かったです。踏ん切りがついた気がします。』
『ならいいんだけど……。』
『まぁあのまま生々しい話をされたら流石に凹んだと思うんで、止めてもらえて助かりました。』
『いや、普通、お前の立場のヤツがいて、あんな話はしないんだけどな……。』
『ふふふ、オープンなシルクさんらしいですよ、それも。』
そう言ってちょっとぎこちなくイヴァンは笑った。
何かもう本当、ごめんよ、イヴァン……。
俺はそう思いながら、ロールキャベツを口に押し込んだ。
こんな時なのに、旨いよ、ロールキャベツ……。
「……それはそうと、もう、隠しだてはないのか?サーク?」
それまでの話の流れを理解しているのかいないのか、ギルが言った。
相変わらずの無表情だが、じっと俺を見る目は重い。
その言葉を受け、他のやつも俺に目を向けてくる。
何、俺、そんなに信用ないのかよ?!
「今まで隠し事をしてたのは悪かったよ!だからってそんなに不審そうに俺を見るなよ!!悲しくなるだろうが!!」
「何が悲しくなるだ!!いつもいつも!!大事な事は何も言わないで!!一人で突っ走って事後報告してきた癖にっ!!」
「わ、悪かったと思ってるよ!!」
ムキーッとばかりにガスパーに責められ、俺はアワアワした。
ウィルだけが俺の横でクスクス笑っている。
「それで?サーク??もう隠し事はないのか??」
「酷くない?!ライルまで酷くない?!」
「だから!酷いのはお前だっ!!サークっ!!」
「怒るなよ~。え~?!でも、今、他に秘密にしてる事って言ったら……あ、俺、あの話、王様から直接、教えてもらったわ。ギル、ガスパー、例のあれって、話していいのか??」
俺がライオネル殿下の事をそれとなくほのめかすと、ギルとガスパーは目配せをしあい、それから首を振った。
何だよ、結局は俺がどうしようと秘密はできるじゃんか。
それが何かわからないライルとイヴァンは顔を見合わせる。
「王家の秘密の一つだ。必要に応じで俺が話そう。それでいいな?」
そこに不満の種が芽生えたのを見て、ギルはすぐにそう言った。
秘密にされるのは納得行かなくとも、王家の秘密の一つでは仕方がないと頷くしかない。
それに必要になれば話すと言われたのだから、それでいいだろう。
「で??他には何があるんです??サークさん??」
王家の秘密を教えてもらえなかったイヴァンが、にっこりと俺に聞いた。
それはお前、八つ当たりじゃんかっ!!
「秘密なんてない!!もう隠してる事はない!!」
「本当かよ?!」
「本当!!……あ、でも、俺も今回の旅で初めて知ったんだけどさ、実は俺、完全な人間じゃないみたいだ。」
それを言った瞬間、ガスパーとギルが思いっきりワインを吹いて咽た。
何だよ、きたねぇな?!
だが、いつもはすぐにフォローに回るライルとイヴァンが固まって動かない。
目が点とはこういう顔だろうなって顔で硬直している。
「…………は…っ?!」
「お前……何だって?!」
「だから、俺、どうも完全には人間じゃないらしい。」
「え?!えええぇぇ?!じゃあ!!サークって何なの?!」
「う~ん?まだ良くわかってないんだけどさぁ~。俺自身、自覚した事がないからよくわかんないんだけど、何かボーンさんが言うには、俺、精霊と人間の間に生まれたらしいんだよ??」
「は?!何でそうなるんだよ?!」
「俺、血の魔術が使えるじゃん??それってその特徴らしいんだよ。後、他にもいくつかあってさ~。何か俺のちんこが勃たないのも、そこに原因があるっぽくてさ~。ラバも生殖機能がないだろ??言われてみれば、ぜんぶ辻褄が合うんだよね~。」
俺はそう言いながら、もぐもぐと付け合せのブロッコリーを食べた。
ロールキャベツのソースは美味しいので、パンにつけて食べようと思ってバスケットに手を伸ばす。
「孤児だったのも多分そういう訳で……って、お前ら、どうしたんだよ??」
そこで動いているのが自分だけだとようやく気づいた。
俺が人間じゃないらしい事を知っているウィルは横で笑いを堪えてぷるぷるしながら動かないし、シルクは固まってる皆を観察して面白がってわざと動かずにいる。
他の4人に至っては、完全に白目を向いたようになって、硬直していた。
「……な……っ。」
「な??」
「何でそんな大事を黙ってたぁ~っ!!しかも何だよ!!その!実は魚介アレルギーなんだよね~、的な軽さでのカミングアウトはぁっ!!」
ガスパーがフガァーッとばかりに爆発して立ち上がって叫んだ。
それによって我に返ったのか、皆が口々に聞いてくる。
「え?!えぇぇっ?!サーク?!それで何とも思わないのかよ?!」
「いや、俺も多少はショックだったよ。一時期はウィルに泣きついたし。て言うかガスパー、アレルギーは命に関わる事だから、結構、重大なカミングアウトに入るぞ?!まぁ確かに俺のもちょっと人と違う体質だってだけだから、似たようなもんだけどよ~。」
「体質の問題じゃねぇだろうがっ!!」
「……あ~、サークさんて、どっかズレてると思ってましたけど……なるほど……根本から僕らとはちょっと違ったんですね……なら変な人なのも納得できます……。」
「おい!イヴァンっ!!俺を変人扱いすんなっ!!俺だって今まで知らなかったんだし!普通に皆と育ってきたんだから!多少人以外が混ざってるってだけで!!普通だからな!!俺は!!」
「…………俺は……お前が何であれ……構わない……。」
「あ、うん。お前に構われる程の事でもねぇけど、ありがとな。ギル。」
「え?!何でサーク、そんな冷静なんだよ?!」
「え~??だって、俺がなんであれ、俺は俺だし。ウィルもそれでいいって言ってくれたし~??何よりわかった上で結婚してくれるし~。だから別に生まれが何であってもどうでもいいかなぁって~。」
「信じらんねぇっ!!コイツの感覚が理解できねぇっ!!」
「て言うか、結婚するウィルはともかく、お前らは俺が精霊との間に生まれた人間だったからって、そんなに気にする事でもないだろ??まぁ血の魔術とか使うのは回りと違うけどさぁ~??それこそアレルギーみたいなもんじゃんか??体質だよ、体質。」
バスケットからパンをとって、ロールキャベツのソースをつけてモゴモゴ食べる。
そんな俺をぽかんと眺めて、4人ははぁ~とため息をついた。
「サークは……確かにサークだね……。」
「この期に及んで、もぐもぐされるとは思いませんでした……。」
「もう……いい……お前なんて……知らん……。」
「ふふふっ、思ったより、皆、動揺したね~。」
「普通、するだろう?お前は知っていたようだが、聞いた時に驚かなかったのか??」
「だって俺の主だもん。主が実は人間じゃないってなったからって、俺は誓いを破らないよ??カイナの民の誓いは何よりも重いんだから☆」
シルクはそう言って俺にウインクしてきた。
可愛いけど、なんの為のウインク何だ??それ??
クスクス笑うウィルが軽く俺に寄りかかった。
そして皆には聞こえないように耳元で囁く。
『サークも随分、受け入れられるようになったんだね、その事。』
『え??』
『だって本当、俺に打ち明けて来た時は、半泣きだったじゃんか??』
『ちょ!!ちょっと!ウィルっ?!』
俺は動揺した。
確かにあの日は俺もどう捉えていいかわからず、グズグズぐずってウィルに甘えた。
思い出すとちょっと恥ずかしい……。
「そこ~!!何!二人でイチャイチャしてるの~!!俺も混ぜて~っ!!」
ニヤッと笑ったシルクが言った。
混ぜるって何だよ?!
完全に脱力している皆の様子を見て、ギルはため息をつきながらベルを鳴らし、人払いしていたダイニングに執事さんとメイドさんを呼んだ。
「若旦那様、お呼びですか?」
「ああ。人払いはもういいから入ってくれ。それから少し早いが、皆にシャーベットを。」
「かしこまりました。」
ギルの執事さんは白ひげのおじいちゃんだ。
シルクが言うには、子供の時からずっとついてるじいやさんなのだそうだ。
親子とは違うが、ギルが凄く心を許しているのがわかるし、何しろ阿吽の呼吸みたいなものがある。
執事さんの指示で、テーブルの上の空いた皿などを片付けるメイドさんと、シャーベットや次の料理を出す準備をするメイドさんに別れる。
何か凄いな~。
俺はこうやって給仕してもらうのには慣れてないけど、そんな俺にもあまり気を使わせる事なく仕事をしている。
ギルの家の使用人の仕事の質の高さは凄いなと思った。
「流石は隊長~、助かる~。何かサークの爆弾投下のせいでお腹いっぱいだったから、口直ししたかったんだよ~。」
そんな中、ライルがクタッとした感じで言った。
流石はライルも貴族だから、給仕される事には慣れているみたいだ。
俺は皿を下げてくれるメイドさんにお礼とか言いながら、ちょっとライルの言葉にびっくりした。
「は??俺のせいなの?!」
「いや、あれだけ大きな爆弾投下されたら、正直、僕は何を食べたかも忘れましたよ……。」
「いやだから、お前らがそこまで気にする事じゃなくないか?!」
「気にすんなって方が無理だろっ!!馬鹿なのか?!お前?!」
苦笑いするイヴァンに反し、ガスパーがまたカリカリし始めた。
そんなに怒るなよ~。
それにしても、何で皆がそこまで俺が人間と精霊の間に生まれたらしい事にショックを受けているんだ??
よくかわからず首をひねる。
「お前は結婚するウィル以外には関係ないと思うようだが、それは違うぞ、サーク……。どこまで向こうが感づいているかはわからんが、それ故にお前はグレッグに欲せられている。その点だけ考えたとしても、お前が思うほど俺達に無関係な話ではない。」
「……なるほどな。」
ギルの言葉に、俺は思い出したくない男の事を思い出した。
ズンと胃の奥が重くなる。
確かに俺が血の魔術を使う事から、精霊との間に生まれた人間だとあいつはわかっているのかもしれない。
わかっていなくとも、あいつは俺の血を欲している。
ヴィオールを殺し、海竜を殺し、それでも足りずに俺の血を求めている。
今回、この国からあいつの息がかかったものは、可能な限り排除した。
だが、恐らく全てではない。
そしてあいつが他の手を残していないとも考えにくい。
今が平和だからと気を抜くな。
隙を見せれば、必ずそこに付け入ってくる。
あいつはそういう男だ。
自分の野望を成し遂げる為には手段なんか選ばない。
「……サーク、大丈夫。お前は一人じゃない。」
難しい顔をして押し黙った俺の手を、ウィルがそっと握ってくれた。
その言葉に微笑み返し、顔を上げた。
そこに集まる皆の顔を真っ直ぐに見る。
あぁ、そうだ。
俺は一人じゃない。
不安な時、手を握ってくれる人がいる。
汚い事すら共に行える相棒がいる。
俺の苦手な部分を先手先手で押さえて道を作っておいてくれる天才もいる。
一人で突っ走り気味な俺のフォローをするように、全体を捉えて指示を出せる男がいる。
迷う時、いつも笑って背中を押してくれる先輩がいる。
何気に器用で頼りになる後輩がいる。
俺は皆の顔を見て頷いた。
一人で抱え込まなくていい。
俺には秘密を共有できる仲間がいるのだ。
だからきっと大丈夫。
一人ではあいつに敵わないかもしれない。
でも俺には皆がいるから、また戦わなくてはならなくなったとしても不安じゃない。
「若旦那様、よろしければシャーベットと共にスパーリングワインなどいかがでしょう??」
テーブルの空いた皿などが片付きシャーベットが運ばれてくると、ギルの執事さんがにっこり笑って酒瓶を持ってきた。
「あぁ、ありがとう、じい。」
「今夜の会食は、先日の裁判の勝訴をお祝いしてのものとお聞きしておりましたので、プレステージのものをご用意いたしました。」
執事さんが手際よくコルクを抜く。
ポンッと言ったひょうきんな音に皆が笑顔をこぼした。
そしてテイスティングでギルが軽く飲んで頷いた。
「これで頼む。」
「かしこまりました。」
執事さんが細長いグラスにスパーリングワインを注ぎ始めると、メイドさんたちがツマミになりそうなドライフルーツを用いたお菓子等をさり気なく置いていく。
何か凄い、ギル宅の執事さんメイドさんたちの立ち振舞とコンビネーションが完璧すぎる。
家を見て色々びびったが、これだけ完璧な使用人に囲まれてたら、感覚おかしくなるよなぁ。
皆がスパーリングワインを楽しみだすと、シルクが自慢気に言った。
「ふふふっ。ギル、カッコイイでしょ?!主?!」
「あ、まぁ……うん。そうだな??」
確かに格好いいかもしれないが、何故それを俺に自慢する??
俺的には、むしろじいやさんの気遣いと所作の方がカッコイイんだけど??
よくわからずにいる俺にシルクはにこにこ笑う。
「返してって言っても、返してあげないからね??」
「……は??ギルは別に俺のもんでもないし、俺とどうこうあった訳でもねぇのに、何言ってんだ??」
まるでかつて恋人だったみたいな言い方をされ、俺は首をひねった。
ウィルがちょっと冷たい視線を俺に送ってくるので勘弁して欲しい。
「そう言えば、サークはいつ、隊長をフッたんだ??」
ライルの言葉に俺は飲もうとしていたスパークリングワインを吹いた。
何?!なんでそうなるの?!
しかもその話、この前も独身寮でした気がすんだけど?!
イヴァンもそう思ったのか肩を震わせている。
「だからっ!!フるも何も!ちょっと俺が一時期付きまとわれてだだけじゃんか?!ライルまで変な言い方すんなよ?!」
「殿下一筋で20年近く来た隊長が、いきなりサークに執着したんだもんなぁ~。あれは何気にびっくりしたよ~。」
「……ふ~ん……そんな頃があったんだ…?」
当時を思い出したのか、しみじみと言うライル。
それに対応して、ウィルの視線と笑顔が氷点下まで下がった。
「……ちょっと?!ウィル?!何もないからね?!ちょっとコイツが!殿下が俺の事「私の騎士」って言い出して相手にしてくれなくなったせいで、俺につきまとってただけで!!」
「そっか~、ずっと付きまとわれてたんだ??しかも、そんなに前から殿下に「私の騎士」って言われてたのか~。」
「ウィル?!殿下とも何もないよ?!」
慌てる俺に対して、ウィルは冷たい笑顔を向けるだけ。
何で?!どうしてこうなった?!
そして不機嫌が臨界点を超えたのか、ダークサイドに落ちる。
にっこり笑ってウィルは言った。
「……王宮抜け出して、わざわざサークに会いに来られてたのに?なのに、何もないのか~??ふ~ん??」
俺は硬直し、ピシッとひび割れた。
皆が不穏な言葉に疑惑の視線を俺に向ける。
「……抜け出して……会いに来た……?!」
「ウィル~それは言っちゃダメ~っ!!」
「……!!おい!サークっ!!まさかそれって!殿下が行方不明になって騒ぎになった時の事か?!」
流石はガスパー、物事のつながりを読むのが上手い……。
ガスパーが答え合わせをした瞬間、ダイニングは氷点下の猛吹雪に見舞われた。
「俺は悪くない!!何もしてないっ!!」
「ほ~う……??何もしていない??……ならば詳しく聞かせて貰おうか……サーク……?」
「……ギ、ギル?!」
「あ~あの時か……。あれは王宮に警備に来ていた僕らは大変だったんですよ~??特に隊長は、大変でしたもんねぇ~。偉方さんに呼び出しくらって説教されて、始末書やら書かされて~。」
「ひいぃぃぃ~っ!!」
ウィルによって過去の思わぬ事件が暴露され、俺は真っ青になった。
ギルは若干鬼神モード入りかけてるし、いつもはフォローしてくれるイヴァンも、その時の苦労が蘇ったのか、めちゃくちゃ爽やかな笑顔を浮かべるだけだ。
「サーク、悪いがそれはフォローしきれない。」
ライルも苦笑いしてお手上げのポーズをしている。
助けを求めるようにガスパーを見るが、穢らわしいものでも見るように俺を一瞥して、フンッと顔を反らせた。
「あ~、主~、四面楚歌~♪」
シルクはニヤニヤしている。
何が楽しいんだよ?!何が?!
「シルク!助けろよ!!」
「え~♪だってが主が悪いんじゃん~♪あちこちで人たらしするから~♪何度も言ってるじゃん??いい加減にしないと痛い目見るよって♪」
「痛い目には十分あってる!!て言うか!俺が垂らしこもうとしてやってんじゃないんだよっ!!」
何故こうなる?!
俺は何か悪い事をしたのか?!
その時だって今だって、その時できる事を精一杯やってきたのに、何でいつも俺は責められるんだ?!
もう泣きそうだよ!本当!!
「時効だ~!もう時効のはずだ~!!」
「悪いが、サーク……。王族関連の事故・事件には時効は存在しない……。覚悟しろ……。」
「嫌だ~っ!!助けてぇ~っ!!」
こうして楽しいはずの食事会は、何故か俺的にかつてないほどの修羅場と化したのだった……。
それは何故か、ギルの家のディナーに招かれるという形で実現した。
初めて来たが何なんだ??この屋敷は??
これを見て俺はやっと、ギルのどこかトンチンカンな部分が育ちのせいだと理解した。
話に聞いてはいたが、納得した。
こんな家を別宅として持っているような貴族様のお坊ちゃんなら、そりゃ何かズレてるよな。
しかも家にはメイドさんと執事さんがいて、お出迎えから上着の預かりから何から何までついてくれるのだ。
こりゃ、感覚もおかしくなるわ。
常識がないとか思っていたが、こいつの常識と俺の常識がかけ離れて違うだけだ。
食事も普通だとギルは言ったが、これが普通の食事だったら、俺はぶくぶく太った自信があるね。
よくその筋肉質な肉体を維持できてるよ。
モゴモゴ頬張って食べてたら、ウィルが笑ってお行儀よくしなさいって叱ってきた。
うふふ、ちょっと嬉しい。
「そこ~、いちゃつくなよ~。」
ライルが呆れて声をかけてきた。
いいじゃん!
俺達、結婚前のめちゃくちゃラブラブな時期なんだから!!
「それはそうと……本当なのか??」
「ああ。」
「シルクさんはちょっと……何となくまぁそうかなぁと思ってましたけど……。」
「うん、だよね~。でもウィルのこれは本当なのか?!」
「本当です。信じがたい話だとは思いますけど。」
おとぎ話が実は本当で、ここにそこから来た人がいますって言っても中々信じられないよなぁ。
シルクの事はレオンハルドさんも絡んでるから、何となく皆、察していたようだ。
でも流石にウィルの話はおおっぴらに話せないので、紙に書いて読んでもらう形で教えた。
読んた皆は驚いたり、無表情に固まったりとちょっとおかしかった。
でも俺が離職覚悟でウィルを探しに行ったのを皆知ってるし、その後ヴィオールを見てるし、何より今回の裁判で呪いで死にかけた俺をウィルが何かしらの方法で救ったのを目の当たりにしている。
だから信じられない話ではあったが、真実である事はわかってくれたみたいだ。
回り回った紙が帰ってきたので、俺はそれを回収した。
「クッソっ!!こんな大事なら先に言えよ!!馬鹿野郎っ!!何かあるとは思ったが、こんな裏があるとは思わなかったぞ!!予想以上にヤバかったんじゃねぇか!!あの時っ!!」
「悪かったよ、ガスパー。タイミングがなくてさ。」
「でもガスパーのとっさのあの話のお陰で、ヴィオールを必要以上に隠さなくても良くなったから、助かってるよ。」
ウィルはそう言って笑って、テーブルの下で俺の手を握った。
ウィルも皆に話す事になったのを少し不安に思っていたのだろう。
でも受け入れられてほっとした様だった。
「気に入らない~!!」
「は?!何怒ってるんだよ?!シルク?!」
皆はやっと俺が秘密を打ち明けたので、怒ったり呆れたりしていたがそれなりに満足してくれていたのだが、何故かシルクだけがプンスカと頬を膨らませている。
「シルク、ごめんね。言わなくて。」
「ウィルは良いの~!!俺も本当の事、言ってなかったし~!!」
「なら、何で怒ってるんだよ?!お前は?!」
「主!嫌いっ!!大嫌いっ!!俺にまで秘密にしてっ!!」
「何で俺にだけ?!」
いつも通りというか、シルクは俺に腹を立てているようだ。
何なんだよ?!なんでいつもそうやって俺にだけ怒るんだよ?!お前は?!
シルクはツンっと俺から顔を背けた。
そしてギルにひっついて泣き真似をしだす。
「ギル~。俺、もう主が信じられないよ~。」
「……なら、俺だけを信じていればいい。」
「ギルは俺を裏切らない?!」
「俺がお前を裏切った事があるのか?」
「ん~??なくはない。」
甘ったるい会話に全員が砂を吐きかけた中で、シルクは平然と言った。
ガスパーがワインを吹きそうになって噎せている。
俺もびっくりして二度見三度見の勢いで二人を見てしまった。
「なくはないの?!」
「なくはない。」
「……待ってくれ、シルク。それはいつだ?!」
「ギルはねぇ~主が絡むとやばいよねぇ~。俺も主の事になるとギルの事どうでも良くなるから人の事言えないけど。」
「どうでもいいは言いすぎじゃないか?!凹んでんぞ?!そいつ!!」
「あ~、でもわかる~。隊長、サークが絡むとちょっとヤバい時あるね~。フザケてるのかと思ってたけど、目がマジだから、怖っ!て思ってた。」
「そうなんですよね……。隊長にはたまに俺も危機を感じます……。サーク、浮気は駄目だからな?」
「しないから!!俺もコイツ、そういう意味では怖いから!!」
「でも主、何気にギルには油断するんだよねぇ~。他の人にはそういうのないのに。」
「してない!!常にコイツには警戒マックスだぞ?!俺!!」
「……皆に酷い言われような気がするのは、気のせいか??」
「気のせいじゃないよ??ギル。何気にギルが変態なのって、皆、わかってるんだねぇ~。」
「変態……。」
本人は自覚がなかったのか、信じられないと言った表情で固まっている。
そんなギルをシルクはよしよしと撫でている。
「でも俺はそんなギルの変態チックな所もぜんぶひっくるめて、大好きだよ♡俺の本当にヤバい部分も受け入れてくれるのギルだけだもん♡」
そしてムギュッと抱きしめる。
うわぁと皆がちょっと引いた。
ただ一人、そのやり取りにイヴァンだけは困ったように淋しげに笑った。
ああ!もう本当!!
シルクはイヴァンにもう少し気を使ってやれよ!!
見てらんないんだよ!!マジで!!
何とかしてやれないのかなぁ~コイツ……。
いいやつなんだよ!!本当!!
そう言えば宮廷魔術師のあの人、イヴァンの好みっぽいよなぁ~。
真面目でしっかりしてるし、ちょっと気が強いし。
ただな、どうなんだろう…う~ん??
「そう言えば、シルク、発情期があるって本当なのか?」
「うん、あるよ。あると言うか、あったと言うか。」
「は??今はねぇのかよ??」
「何かねぇ~、ギルが俺のつがいだったから、ギルの側にいれば自然発生的な発情期は起こんなくなった。でも今回の旅で、離れると起こるって事がわかってびっくりした~。」
「つがい??」
「うん、発情期のある人間にはこの人って人がいるんだよ。その人に会うとその人じゃないと駄目になる。めちゃくちゃその人が欲しくなる。しかもね~♡物凄くいいんだよ~♡もう、この人とエッチする為に俺は生まれたんだな~みたいな~♡俺の場合、匂いに反応するんだけどさ~つがい特有の~……。」
「ストップ!!シルク!ストップっ!!」
ベラベラとシルクが赤裸々な話を平然とし出したもんだから、俺は慌てて止めた。
本当待てよ、お前は!!
イヴァンの気持ちを考えろ!!
そしてエロ耐性のないガスパーが真っ赤になって俯いてぷるぷるしてんだろうが!!
しかし当のシルクはあまりわかっていない。
この程度、シルクにとったらエロにもならんから仕方がないと言えば仕方がないのだが……。
「へ??」
「そこまで詳しく今ここで話すな!!」
「何で??」
「食事中だろうがっ!!発情期の事は俺が今後、研究していくから!詳しく聞きたかったら俺に聞いてくれ!!以上!!この話は終わりっ!!」
俺はそう言って誤魔化した。
シルクはよくわからないようで、頭に疑問符を浮かべている。
ギルの方は何を考えているのか、いつも通り無表情だ。
ライルが苦笑いしてガスパーの背中を擦っている。
イヴァンはというと、何か真面目な顔で遠くを見つめていた。
『おい、大丈夫か?!イヴァン?!』
隣の席の俺はそう小声で声をかけた。
イヴァンは薄く笑って俺に顔を向けた。
『大丈夫です。むしろどうしてあの時フラレたのか納得できました。よくわからないけど、どうしようもなかった事なんですね、あれは……。』
『詳しくすぐに教えてやれなくてすまない……。事情が事情だけに、シルクもあまり人に話したい事じゃなかったからさ……。』
『いえ、知れて良かったです。踏ん切りがついた気がします。』
『ならいいんだけど……。』
『まぁあのまま生々しい話をされたら流石に凹んだと思うんで、止めてもらえて助かりました。』
『いや、普通、お前の立場のヤツがいて、あんな話はしないんだけどな……。』
『ふふふ、オープンなシルクさんらしいですよ、それも。』
そう言ってちょっとぎこちなくイヴァンは笑った。
何かもう本当、ごめんよ、イヴァン……。
俺はそう思いながら、ロールキャベツを口に押し込んだ。
こんな時なのに、旨いよ、ロールキャベツ……。
「……それはそうと、もう、隠しだてはないのか?サーク?」
それまでの話の流れを理解しているのかいないのか、ギルが言った。
相変わらずの無表情だが、じっと俺を見る目は重い。
その言葉を受け、他のやつも俺に目を向けてくる。
何、俺、そんなに信用ないのかよ?!
「今まで隠し事をしてたのは悪かったよ!だからってそんなに不審そうに俺を見るなよ!!悲しくなるだろうが!!」
「何が悲しくなるだ!!いつもいつも!!大事な事は何も言わないで!!一人で突っ走って事後報告してきた癖にっ!!」
「わ、悪かったと思ってるよ!!」
ムキーッとばかりにガスパーに責められ、俺はアワアワした。
ウィルだけが俺の横でクスクス笑っている。
「それで?サーク??もう隠し事はないのか??」
「酷くない?!ライルまで酷くない?!」
「だから!酷いのはお前だっ!!サークっ!!」
「怒るなよ~。え~?!でも、今、他に秘密にしてる事って言ったら……あ、俺、あの話、王様から直接、教えてもらったわ。ギル、ガスパー、例のあれって、話していいのか??」
俺がライオネル殿下の事をそれとなくほのめかすと、ギルとガスパーは目配せをしあい、それから首を振った。
何だよ、結局は俺がどうしようと秘密はできるじゃんか。
それが何かわからないライルとイヴァンは顔を見合わせる。
「王家の秘密の一つだ。必要に応じで俺が話そう。それでいいな?」
そこに不満の種が芽生えたのを見て、ギルはすぐにそう言った。
秘密にされるのは納得行かなくとも、王家の秘密の一つでは仕方がないと頷くしかない。
それに必要になれば話すと言われたのだから、それでいいだろう。
「で??他には何があるんです??サークさん??」
王家の秘密を教えてもらえなかったイヴァンが、にっこりと俺に聞いた。
それはお前、八つ当たりじゃんかっ!!
「秘密なんてない!!もう隠してる事はない!!」
「本当かよ?!」
「本当!!……あ、でも、俺も今回の旅で初めて知ったんだけどさ、実は俺、完全な人間じゃないみたいだ。」
それを言った瞬間、ガスパーとギルが思いっきりワインを吹いて咽た。
何だよ、きたねぇな?!
だが、いつもはすぐにフォローに回るライルとイヴァンが固まって動かない。
目が点とはこういう顔だろうなって顔で硬直している。
「…………は…っ?!」
「お前……何だって?!」
「だから、俺、どうも完全には人間じゃないらしい。」
「え?!えええぇぇ?!じゃあ!!サークって何なの?!」
「う~ん?まだ良くわかってないんだけどさぁ~。俺自身、自覚した事がないからよくわかんないんだけど、何かボーンさんが言うには、俺、精霊と人間の間に生まれたらしいんだよ??」
「は?!何でそうなるんだよ?!」
「俺、血の魔術が使えるじゃん??それってその特徴らしいんだよ。後、他にもいくつかあってさ~。何か俺のちんこが勃たないのも、そこに原因があるっぽくてさ~。ラバも生殖機能がないだろ??言われてみれば、ぜんぶ辻褄が合うんだよね~。」
俺はそう言いながら、もぐもぐと付け合せのブロッコリーを食べた。
ロールキャベツのソースは美味しいので、パンにつけて食べようと思ってバスケットに手を伸ばす。
「孤児だったのも多分そういう訳で……って、お前ら、どうしたんだよ??」
そこで動いているのが自分だけだとようやく気づいた。
俺が人間じゃないらしい事を知っているウィルは横で笑いを堪えてぷるぷるしながら動かないし、シルクは固まってる皆を観察して面白がってわざと動かずにいる。
他の4人に至っては、完全に白目を向いたようになって、硬直していた。
「……な……っ。」
「な??」
「何でそんな大事を黙ってたぁ~っ!!しかも何だよ!!その!実は魚介アレルギーなんだよね~、的な軽さでのカミングアウトはぁっ!!」
ガスパーがフガァーッとばかりに爆発して立ち上がって叫んだ。
それによって我に返ったのか、皆が口々に聞いてくる。
「え?!えぇぇっ?!サーク?!それで何とも思わないのかよ?!」
「いや、俺も多少はショックだったよ。一時期はウィルに泣きついたし。て言うかガスパー、アレルギーは命に関わる事だから、結構、重大なカミングアウトに入るぞ?!まぁ確かに俺のもちょっと人と違う体質だってだけだから、似たようなもんだけどよ~。」
「体質の問題じゃねぇだろうがっ!!」
「……あ~、サークさんて、どっかズレてると思ってましたけど……なるほど……根本から僕らとはちょっと違ったんですね……なら変な人なのも納得できます……。」
「おい!イヴァンっ!!俺を変人扱いすんなっ!!俺だって今まで知らなかったんだし!普通に皆と育ってきたんだから!多少人以外が混ざってるってだけで!!普通だからな!!俺は!!」
「…………俺は……お前が何であれ……構わない……。」
「あ、うん。お前に構われる程の事でもねぇけど、ありがとな。ギル。」
「え?!何でサーク、そんな冷静なんだよ?!」
「え~??だって、俺がなんであれ、俺は俺だし。ウィルもそれでいいって言ってくれたし~??何よりわかった上で結婚してくれるし~。だから別に生まれが何であってもどうでもいいかなぁって~。」
「信じらんねぇっ!!コイツの感覚が理解できねぇっ!!」
「て言うか、結婚するウィルはともかく、お前らは俺が精霊との間に生まれた人間だったからって、そんなに気にする事でもないだろ??まぁ血の魔術とか使うのは回りと違うけどさぁ~??それこそアレルギーみたいなもんじゃんか??体質だよ、体質。」
バスケットからパンをとって、ロールキャベツのソースをつけてモゴモゴ食べる。
そんな俺をぽかんと眺めて、4人ははぁ~とため息をついた。
「サークは……確かにサークだね……。」
「この期に及んで、もぐもぐされるとは思いませんでした……。」
「もう……いい……お前なんて……知らん……。」
「ふふふっ、思ったより、皆、動揺したね~。」
「普通、するだろう?お前は知っていたようだが、聞いた時に驚かなかったのか??」
「だって俺の主だもん。主が実は人間じゃないってなったからって、俺は誓いを破らないよ??カイナの民の誓いは何よりも重いんだから☆」
シルクはそう言って俺にウインクしてきた。
可愛いけど、なんの為のウインク何だ??それ??
クスクス笑うウィルが軽く俺に寄りかかった。
そして皆には聞こえないように耳元で囁く。
『サークも随分、受け入れられるようになったんだね、その事。』
『え??』
『だって本当、俺に打ち明けて来た時は、半泣きだったじゃんか??』
『ちょ!!ちょっと!ウィルっ?!』
俺は動揺した。
確かにあの日は俺もどう捉えていいかわからず、グズグズぐずってウィルに甘えた。
思い出すとちょっと恥ずかしい……。
「そこ~!!何!二人でイチャイチャしてるの~!!俺も混ぜて~っ!!」
ニヤッと笑ったシルクが言った。
混ぜるって何だよ?!
完全に脱力している皆の様子を見て、ギルはため息をつきながらベルを鳴らし、人払いしていたダイニングに執事さんとメイドさんを呼んだ。
「若旦那様、お呼びですか?」
「ああ。人払いはもういいから入ってくれ。それから少し早いが、皆にシャーベットを。」
「かしこまりました。」
ギルの執事さんは白ひげのおじいちゃんだ。
シルクが言うには、子供の時からずっとついてるじいやさんなのだそうだ。
親子とは違うが、ギルが凄く心を許しているのがわかるし、何しろ阿吽の呼吸みたいなものがある。
執事さんの指示で、テーブルの上の空いた皿などを片付けるメイドさんと、シャーベットや次の料理を出す準備をするメイドさんに別れる。
何か凄いな~。
俺はこうやって給仕してもらうのには慣れてないけど、そんな俺にもあまり気を使わせる事なく仕事をしている。
ギルの家の使用人の仕事の質の高さは凄いなと思った。
「流石は隊長~、助かる~。何かサークの爆弾投下のせいでお腹いっぱいだったから、口直ししたかったんだよ~。」
そんな中、ライルがクタッとした感じで言った。
流石はライルも貴族だから、給仕される事には慣れているみたいだ。
俺は皿を下げてくれるメイドさんにお礼とか言いながら、ちょっとライルの言葉にびっくりした。
「は??俺のせいなの?!」
「いや、あれだけ大きな爆弾投下されたら、正直、僕は何を食べたかも忘れましたよ……。」
「いやだから、お前らがそこまで気にする事じゃなくないか?!」
「気にすんなって方が無理だろっ!!馬鹿なのか?!お前?!」
苦笑いするイヴァンに反し、ガスパーがまたカリカリし始めた。
そんなに怒るなよ~。
それにしても、何で皆がそこまで俺が人間と精霊の間に生まれたらしい事にショックを受けているんだ??
よくかわからず首をひねる。
「お前は結婚するウィル以外には関係ないと思うようだが、それは違うぞ、サーク……。どこまで向こうが感づいているかはわからんが、それ故にお前はグレッグに欲せられている。その点だけ考えたとしても、お前が思うほど俺達に無関係な話ではない。」
「……なるほどな。」
ギルの言葉に、俺は思い出したくない男の事を思い出した。
ズンと胃の奥が重くなる。
確かに俺が血の魔術を使う事から、精霊との間に生まれた人間だとあいつはわかっているのかもしれない。
わかっていなくとも、あいつは俺の血を欲している。
ヴィオールを殺し、海竜を殺し、それでも足りずに俺の血を求めている。
今回、この国からあいつの息がかかったものは、可能な限り排除した。
だが、恐らく全てではない。
そしてあいつが他の手を残していないとも考えにくい。
今が平和だからと気を抜くな。
隙を見せれば、必ずそこに付け入ってくる。
あいつはそういう男だ。
自分の野望を成し遂げる為には手段なんか選ばない。
「……サーク、大丈夫。お前は一人じゃない。」
難しい顔をして押し黙った俺の手を、ウィルがそっと握ってくれた。
その言葉に微笑み返し、顔を上げた。
そこに集まる皆の顔を真っ直ぐに見る。
あぁ、そうだ。
俺は一人じゃない。
不安な時、手を握ってくれる人がいる。
汚い事すら共に行える相棒がいる。
俺の苦手な部分を先手先手で押さえて道を作っておいてくれる天才もいる。
一人で突っ走り気味な俺のフォローをするように、全体を捉えて指示を出せる男がいる。
迷う時、いつも笑って背中を押してくれる先輩がいる。
何気に器用で頼りになる後輩がいる。
俺は皆の顔を見て頷いた。
一人で抱え込まなくていい。
俺には秘密を共有できる仲間がいるのだ。
だからきっと大丈夫。
一人ではあいつに敵わないかもしれない。
でも俺には皆がいるから、また戦わなくてはならなくなったとしても不安じゃない。
「若旦那様、よろしければシャーベットと共にスパーリングワインなどいかがでしょう??」
テーブルの空いた皿などが片付きシャーベットが運ばれてくると、ギルの執事さんがにっこり笑って酒瓶を持ってきた。
「あぁ、ありがとう、じい。」
「今夜の会食は、先日の裁判の勝訴をお祝いしてのものとお聞きしておりましたので、プレステージのものをご用意いたしました。」
執事さんが手際よくコルクを抜く。
ポンッと言ったひょうきんな音に皆が笑顔をこぼした。
そしてテイスティングでギルが軽く飲んで頷いた。
「これで頼む。」
「かしこまりました。」
執事さんが細長いグラスにスパーリングワインを注ぎ始めると、メイドさんたちがツマミになりそうなドライフルーツを用いたお菓子等をさり気なく置いていく。
何か凄い、ギル宅の執事さんメイドさんたちの立ち振舞とコンビネーションが完璧すぎる。
家を見て色々びびったが、これだけ完璧な使用人に囲まれてたら、感覚おかしくなるよなぁ。
皆がスパーリングワインを楽しみだすと、シルクが自慢気に言った。
「ふふふっ。ギル、カッコイイでしょ?!主?!」
「あ、まぁ……うん。そうだな??」
確かに格好いいかもしれないが、何故それを俺に自慢する??
俺的には、むしろじいやさんの気遣いと所作の方がカッコイイんだけど??
よくわからずにいる俺にシルクはにこにこ笑う。
「返してって言っても、返してあげないからね??」
「……は??ギルは別に俺のもんでもないし、俺とどうこうあった訳でもねぇのに、何言ってんだ??」
まるでかつて恋人だったみたいな言い方をされ、俺は首をひねった。
ウィルがちょっと冷たい視線を俺に送ってくるので勘弁して欲しい。
「そう言えば、サークはいつ、隊長をフッたんだ??」
ライルの言葉に俺は飲もうとしていたスパークリングワインを吹いた。
何?!なんでそうなるの?!
しかもその話、この前も独身寮でした気がすんだけど?!
イヴァンもそう思ったのか肩を震わせている。
「だからっ!!フるも何も!ちょっと俺が一時期付きまとわれてだだけじゃんか?!ライルまで変な言い方すんなよ?!」
「殿下一筋で20年近く来た隊長が、いきなりサークに執着したんだもんなぁ~。あれは何気にびっくりしたよ~。」
「……ふ~ん……そんな頃があったんだ…?」
当時を思い出したのか、しみじみと言うライル。
それに対応して、ウィルの視線と笑顔が氷点下まで下がった。
「……ちょっと?!ウィル?!何もないからね?!ちょっとコイツが!殿下が俺の事「私の騎士」って言い出して相手にしてくれなくなったせいで、俺につきまとってただけで!!」
「そっか~、ずっと付きまとわれてたんだ??しかも、そんなに前から殿下に「私の騎士」って言われてたのか~。」
「ウィル?!殿下とも何もないよ?!」
慌てる俺に対して、ウィルは冷たい笑顔を向けるだけ。
何で?!どうしてこうなった?!
そして不機嫌が臨界点を超えたのか、ダークサイドに落ちる。
にっこり笑ってウィルは言った。
「……王宮抜け出して、わざわざサークに会いに来られてたのに?なのに、何もないのか~??ふ~ん??」
俺は硬直し、ピシッとひび割れた。
皆が不穏な言葉に疑惑の視線を俺に向ける。
「……抜け出して……会いに来た……?!」
「ウィル~それは言っちゃダメ~っ!!」
「……!!おい!サークっ!!まさかそれって!殿下が行方不明になって騒ぎになった時の事か?!」
流石はガスパー、物事のつながりを読むのが上手い……。
ガスパーが答え合わせをした瞬間、ダイニングは氷点下の猛吹雪に見舞われた。
「俺は悪くない!!何もしてないっ!!」
「ほ~う……??何もしていない??……ならば詳しく聞かせて貰おうか……サーク……?」
「……ギ、ギル?!」
「あ~あの時か……。あれは王宮に警備に来ていた僕らは大変だったんですよ~??特に隊長は、大変でしたもんねぇ~。偉方さんに呼び出しくらって説教されて、始末書やら書かされて~。」
「ひいぃぃぃ~っ!!」
ウィルによって過去の思わぬ事件が暴露され、俺は真っ青になった。
ギルは若干鬼神モード入りかけてるし、いつもはフォローしてくれるイヴァンも、その時の苦労が蘇ったのか、めちゃくちゃ爽やかな笑顔を浮かべるだけだ。
「サーク、悪いがそれはフォローしきれない。」
ライルも苦笑いしてお手上げのポーズをしている。
助けを求めるようにガスパーを見るが、穢らわしいものでも見るように俺を一瞥して、フンッと顔を反らせた。
「あ~、主~、四面楚歌~♪」
シルクはニヤニヤしている。
何が楽しいんだよ?!何が?!
「シルク!助けろよ!!」
「え~♪だってが主が悪いんじゃん~♪あちこちで人たらしするから~♪何度も言ってるじゃん??いい加減にしないと痛い目見るよって♪」
「痛い目には十分あってる!!て言うか!俺が垂らしこもうとしてやってんじゃないんだよっ!!」
何故こうなる?!
俺は何か悪い事をしたのか?!
その時だって今だって、その時できる事を精一杯やってきたのに、何でいつも俺は責められるんだ?!
もう泣きそうだよ!本当!!
「時効だ~!もう時効のはずだ~!!」
「悪いが、サーク……。王族関連の事故・事件には時効は存在しない……。覚悟しろ……。」
「嫌だ~っ!!助けてぇ~っ!!」
こうして楽しいはずの食事会は、何故か俺的にかつてないほどの修羅場と化したのだった……。
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