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第八章①②③おまけ
うちのサーク知りませんか?
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用事で王宮を訪れていたガスパーは、ちょうど休憩時間に入った幼馴染に構われていた。
直ぐに帰ると言っているのに、一緒に昼飯を食おうとしつこい。
「いい加減にしろよ!イヴァン!!」
「何だよ~、一つの弁当を分け合った仲だろ?」
「いつの話だ?!いつの?!」
別に一緒に昼飯を食うのが嫌な訳ではないが、ここの所、妙に過保護と言うか子供扱いを受けている気がして腹立たしいのだ。
「……あれ??シルクさんとウィルさん??」
「何してんだ……??あれは??」
ずんずん無視して歩いていると、その先に見慣れた二人を見つけた。
二人とも何かを探しているのか、低い姿勢で物の隙間やカーテン等をめくっている。
ガスパーはイヴァンと顔を見合わせた。
「何してんだ??お前ら??」
「あ!ガスパー!それにイヴァンも!!」
「どうしましたか?何か探しものですか??」
「うん。二人とも、サーク見なかった??」
「……は??」
その言葉に二人はキョトンとした。
ウィルとシルクはしゃがんで物の隙間やら何やらを探している。
なのにサークを探していると言うのだ。
訳がわからなかった。
「主~、いい子だから出ておいで~!」
テーブルのクロスをめくりながら、シルクはそう言って中を探している。
どういう事だ?訳がわからない。
ガスパーとイヴァンは顔を見合わせた。
「………あのよ??サークって、あのサークだよな??」
「サークはサークだよ。俺の婚約者のサークだよ??」
「ええと……僕には見た感じ、お二人は猫の子でも探しているみたいに見えるんですが??」
「いくらサークが目立つほど背が高くないつっても、一応、成人男子だぞ??いくらあいつが馬鹿でも、そんな所に隠れねぇだろ??」
そう言われ、探している方のウィルとシルクは顔を見合わせた。
そしてハッとする。
「ヤバい!俺達も影響受けてる!!」
「危なかった!!忘れてた!!」
そして訳のわからない事を言う。
何が起きているのかさっぱりわからない。
少し慌てふためいていた二人は、呼吸を整えてガスパー達に向き合った。
「二人に会えて良かったよ。」
「うん、俺達、主の事、わかんなくなるところだった。」
「どういう事です??」
「実はグレイさんが散々ボーンさんをからかって、半分パニックになりながら怒ったボーンさんが、グレイさんに小動物になる魔法をかけようとしたんだよ……。」
「それに気づいて止めようとした主を、グレイさんが面白がって魔法にかかるように仕掛けて……。」
「……つまり??それでサークが小動物になっちまったって事か?!」
「そう……主、魔法にかかってびっくりして逃げちゃって……それで探してるんだ……。」
ガスパーはあんぐりと口を開いて固まってしまった。
サークに出会うまで、さして魔法やら魔術やらとはあまり縁のない生活をしてきた。
だからそんな絵本の中の出来事みたいな事が普通に起こる今の生活が、自分でもよく理解できなかったのだ。
イヴァンの方はプッと吹き出すと、おかしそうに笑っている。
ガスパーは頭を掻いた。
「でもそれで何でお前らがサークの事を忘れてたんだよ??」
「ああ、どうもボーンさん、グレイさんをとっちめてやろうと思ったみたいで、はじめからそれは小動物だったと思ってしまうような軽い認識災害も使ったみたいなんだ……。」
「その影響でお二人はサークさんがはじめから小動物だったと思ってしまったんですか??」
「そうみたい~!魔法って凄いね!!俺、気づいて滅茶苦茶びっくりした~!!」
さすがは世界に名だたる大魔法師と言えば良いのか、ホイッと使った魔法の効力が半端ではない。
しかもサークも言っていたが、魔法は魔術と違って「1+1=2」の様な説明のつけやすいものではなく、「悲しみを呼び起こすのと同時に懐かしさを感じる」みたいな抽象さがある。
一つの魔法で様々な効果が出るのがまたややこしくてわかりにくい。
「それで、サークさんは何になってしまったんですか??」
そこで核心をつくように、イヴァンが言った。
そうだ、探そうにもそれがわからなければ探しようがない。
「それが……。」
「わかんないの。」
「は?!わかんない?!」
「うん。俺達が見ている前で、サークは子猫や子犬、ハムスターやリスとか、色んなものに姿を変えたんだよ。」
「ボーンさん自体が何になれって言うんじゃなくて、小動物になれって思ってたから決まってなかったみたい。」
「そのせいか安定しなくて色んな動物になっちゃって、サーク自身、その事にもパニックになったみたいで逃げ出しちゃって……。」
「え?!じゃあ、何になってるのかわかんねぇのに探してんのかよ?!」
「うん……。」
「何か小動物を見なかったかって聞いて回っていたら、さっき、そこの中庭で、妙に哀愁漂うプレーリードッグが立ち上がって日向ぼっこしてたって聞いて。」
「見つけた人も、誰かのペットか献上品として連れられてきたのが逃げ出したんだと思って捕まえようとしてくれたんだけど、逃げられたって。」
ガスパーとイヴァンは顔を見合わせた。
少なくとも、自分たちが歩いてきた方では、小動物の話は聞かなかった。
「……元々は、どこの部屋にいたんだよ??お前ら??」
大きなため息をついた後、ガスパーが面倒そうにそう言った。
持っていた要らない書類の裏にメモを取りはじめる。
簡単な見取り図を描いて、元々いた部屋から小動物の目撃情報を聞きながら印をつけていく。
「俺らが来た方ではまだ小動物の話は聞いてねぇから、こっちの方に向かってんじゃねぇかな??」
「ありがとう!ガスパー!!これで追う方向がわかったよ!!」
「さすが頭脳派~。」
「いや、これは頭脳とか関係ねぇだろ??」
二人に感謝と感心され、ガスパーはムスッと顔を赤くした。
相変わらず褒められても感謝されても素直に喜べないのがガスパーである。
イヴァンはクスッと笑いながら、ふと思いついた事を言った。
「と言うか、その魔法って解いてもらうまでずっと小動物なんですか??」
確か変化の魔法や魔術は遁走術で主に使われるものだ。
長々、自分や相手の姿を変えておくのはとても難しいので時間がたてば戻るものだったと記憶している。
イヴァンの言葉に、ウィルとシルクは困ったように顔を見合わせた。
「1時間位で元に戻るみたいなんだけど……。」
「主、小動物にされちゃったじゃん??だから……。」
言いにくそうにそう言った後、ウィルは持っていた袋の中身を見せてきた。
覗き込むと部隊の制服が入っている。
これはシルクとサークが来ている、武術着タイプの制服だ。
シルクは目の前にいてそれを着ている。
と、言う事は、だ。
「………はっ?!これ?!サークのか?!」
「そう……。」
「え?!着ていたものですか?!」
「うん……。」
「は?!て事は?!」
「そう……主、元に戻った瞬間、真っ裸になるんだよねぇ~。」
見えはしないが、どうやら下の方に下着も入っているようだ。
サーッとガスパーの顔が青くなった。
流石に叶わない片思いとはいえ、好きな相手が理不尽に真っ裸になってしまうという状況を理解して血の気が引いたようだ。
「……かけられたのって!何時だよ!!」
「20分くらい前。」
「なら急いで探さねぇとやべぇだろ?!王宮で真っ裸でいたら!一生、変態のレッテル貼られんぞ?!あいつ!!」
「だから探してるんだって!!」
そう言ってサーク捜索隊は、ガスパーを先頭にいるだろうと憶測を立てた方向に捜索を開始した。
その後を冷静に追いかけながら、イヴァンは苦笑した。
「いくらサークさんでも真っ裸になったらどこかに隠れてるだろうし、そんなに慌てなくてもなぁ。第一、あの人は魔術師なんだし姿隠しするなり何なりすると思うし……。それに結構、皆と変わらず、平気で寮内をパンイチでウロウロする人だから、そこまで気にしなくても大丈夫だと思うけどなぁ……。」
愛や恋といったフィルターもなく、同室としての経験もあるイヴァンにとっては、滅茶苦茶必死にサークを探している三人がむしろ微笑ましく思えてしまった。
「あ!ギルっ!!」
小動物になってしまったサークを探して4人が捜索をしていると、建物の外でふろふろ何かを探しているギルに出会った。
何か小動物を見なかったかとシルクが聞く前に、ギルの方から声をかけてきた。
「ああ、シルク。来てたのか…。所で妙にもっふりした愛嬌のあるタヌキを見なかったか??」
その言葉に全員が顔を見合わせる。
わかってはいないだろうが、ギルの探しているタヌキは恐らくサークだと思われる。
「どこで見たの?!そのタヌキ?!」
「お前達が来た方でふと外を見たら、トボトボ歩いていてな。妙に気になって見ていたら目が合った。そうしたらガチガチに硬直して見るからに冷や汗を垂らし始めて……。そんなに怖いか??俺は??」
ギルがいつもの無表情のまま首を傾げた。
怖いかはわからないが、もう少し表情は出した方がいいんじゃないかと皆、思った。
「それでそのタヌキはどっちに?!」
「ああ、餌でもやろうかと俺が動いた瞬間、取って食われるとでも思ったのか、凄い速さで走り出してな。反射的に追いかけたら、この辺りの茂みに入り込んでしまって……。」
反射的に追いかけたって何だよ、とガスパーが小声でツッコミを入れる。
その独り言が聞こえてしまったイヴァンは苦笑してしまった。
とは言え、隊長まで絡んでくると面倒だなぁとも思う。
他の三人はともかく、隊長はフィルター装着済な上、サークに対してぶっ飛んだ行動をする事がある。
ただでさえややこしい状況なのに、ややこしい人間が絡んでくるのは勘弁願いたい。
「なら、悪いですけど隊長、その茂みにタヌキがいないか、よく探して下さい。」
隊長が探しているのは元々そのタヌキであるし、まだそのタヌキがサークと思われる事は知らない。
ならば下手にタヌキ=サークだとバラさず、この場に留めて置くに限る。
もうすぐ元の姿に戻って真っ裸になるなんて不必要な情報は知られてはならない。
イヴァンはいつも通り爽やかに笑ってそう言い切った。
「……それは構わないが……お前達もあのタヌキを探しているのか??」
「そう~。主を探してるの~。」
イヴァンの健闘も虚しく、シルクが無邪気に言った。
悪気はない、悪気はないのだ。
ただいつも通り、己の恋人に無邪気に素直に甘えただけだ。
だが、事態の悪化を予想できたイヴァンとガスパーとウィルはヒュッと息を飲んだ。
「………サークを…??どういう事だ??」
「うんとねぇ~。」
窓枠に肘をついて甘ったるく話すシルク。
これは恐らく全部話す。
全部バレる。
そう思った他の三人は、無意識に視線を合わせた。
こうしてはいられない。
バカップルよりも先にサークを見つけないとヤバい事になりかねない。
反射的に体が動いた。
三人は決死の覚悟でサークを捜索し始めた。
「小動物??……あ、そう言えば、ビショップの弟子の子が変な丸々した生き物を抱えて歩いていたって誰か言ってたな??」
血眼になったガスパーとウィルとイヴァンに引きながら、警備の兵士が教えてくれた。
ビショップの弟子の子と言えばアレックだ。
三人はホッと胸を撫で下ろした。
「アレック君か……。流石だなぁ……。気づいてボーンさんの所に連れて行ってくれてるのかな?とにかく良かった……。」
「だな、ひとまずこれで大丈夫だろ。ウィル、お前、服持って早くボーンさんの所に戻れよ。」
「そうだね。」
そんな話をしていると、その兵士が不思議そうに首を傾げる。
「いや??何でも美味しそうだから調理してもらうって言っていたそうだよ??あんな生き物食べれるのかねぇって言われたけど、俺は見てないからわからないって答えたからなぁ。」
その言葉に三人は硬直した。
アレックはボーンさんの弟子である前に、ネコ科の獣人だ。
丸々した小動物を見たら、食べ物と認識しかねない。
現に食べようとしている感満載だ。
「嫌だぁ~!!サークぅ~っ!!」
「ウィルさん!落ち着いて!!」
「と、とにかく調理場に行こう!!なぁ!アレックはどっちの調理場に向かってたんだ?!」
「あ~、多分、職員用の調理場だよ。昼を済ませた奴が見かけたらしいから。」
それを聞いた三人は、またも慌ててその場を後にした。
ブギャーブギャーっ!と聞きなれない鳴き声がする。
慌ててその鳴き声の方に向かうと、調理場の外の裏口の所でアレックが小さなクマのようなものを抱えて調理師と話している。
「いきなり生きてるのは……。鳥ぐらいなら捌けるけど、そいつはちょっとなぁ……。初めて見る生き物だし、肝か何かに毒があったら調理場が汚染されちまうしさぁ。」
「そうか。なら、捌いて持ってきたら調理してくれるか??」
「う~ん??中ではちょっとできないけど、捌いて持ってくるなら、外で焼いて味付けするくらいはやってやるよ。」
「わかった、ありがと。」
その間もそのずんぐりむっくりした生き物は、短い手足をバタバタさせて聞いた事の無い鳴き声で叫びまくっている。
「サークっ!!」
「良かった!まだ食われてない!!」
「そいつを捌く話は無しで!!」
ゼイゼイ言いながらそこに押しかけると、三人は口々に言った。
三人を見たその生き物は安心したのか鳴くのを止め、さっきよりもいっそう、ジタバタもがいて暴れだした。
それを押さえ込んで、アレックがキッと猫目で睨みつける。
「これは俺が見つけだんだ!!だから俺が食う権利がある!!」
「食べちゃ駄目~っ!!」
「アレック君!落ち着いて!それ!!サークさんです!!」
「………あ??」
「だからな、小僧。お前の師匠がグレイ執事長に魔法をかけようとして、庇ったサークがだな……。」
そう言われ、アレックはもっふりした丸い塊を抱き上げ、マジマジと顔を見た。
まん丸い顔の中の小さな目が、涙を浮かべてスンスン泣いている。
その顔をしばらく眺めながらアレックは言った。
「………通りで、見たことないほど魔力の高い生き物だと思ったわ……。にしても………ブッ!!お前!!師匠に魔法かけられたのかよ?!ダセェ~っ!!」
それがサークだとわかると、アレックはゲラゲラと笑い始めた。
そしてからかうように高い高いというか、上に軽くほうり上げてキャッチして遊んでいる。
食べれないとわかるとおもちゃとして遊びだすなんて、悪気はないにしろ猫獣人は恐ろしい。
「はっはっはっ!!怖いか~?!こんにゃろう~!!」
「アレック君!止めて!サーク返して!!」
胴上げよろしく空に投げられてはキャッチされているサークを、ウィルは少し怒って取り返した。
ヒシッとその巨大なクッションみたいな生き物がウィルの胸にしがみついている。
「サーク、怖かったな……もう大丈夫だからな……。」
「……感動の再会なんですけど……妙に赤ちゃんを抱っこしてあやしている様に見えるのは、気のせいかな??」
「いや、確かに見えんな。何しろウォンバットだし……。」
そう、アレックに捕まって食われそうになっていたサークは、今はウォンバットになっていた。
もっふりしたタヌキをへて、丸々したウォンバットになっていたようだ。
確かに丸々して美味しそ……いや、こんなに可愛いのに食べるなんてあってはならない。
「……アレック君は何でウォンバットなんか食べようとしてたんだい??」
「ウォンバットだからじゃない。言ったじゃんか??すげぇ魔力が高いのがわかったから食べようと思ったんだよ。」
「は??食べると魔力って身につくのか??」
「底上げにはなるな、こんだけ強い魔力があると。元々、魔力が使えるだけの強さがある奴に限るけど。」
「………だから強い魔物を倒すと食べる習慣があるんですね?冒険者には。」
「アンタ、詳しいな?貴族の癖に??まぁ冒険者は食材は基本、現地調達って事もあるけどな。魔力以外にも効果のある魔物も多いから、食えるやつは基本、食うな。それに強い魔力の魔物で安全に食べられる奴って少ないんだよ。」
「で、サークは安全に食べられる上、高い魔力があったって訳か。」
「そ。だから見た瞬間、こいつは食わないと損だって思った。」
冒険者特有の考え方なのか、獣人だからなのかはわからないが、とにかく食われなくて良かったと胸を撫で下ろす。
当のサークはウィルの胸に抱かれながら、安心したのか頭をグリグリしながら甘えている。
ひとまずサークも捕まり、食べられる事もなくなった事で、ガスパーは気が抜けてどッと疲れが出た顔をする。
その横でイヴァンは不思議に思った事をアレックに聞いた。
「アレック君、サークさんだって事には気づかなかったのかい??」
「ちょうどめちゃくちゃ腹も減ってたしな。旨そう!って思ったら本能の方が強くなって、そこまで気が回らなかった。」
う~ん、本能怖い。
イヴァンは苦笑するしかなかった。
「あ!見つけた~!!主、いたの?!」
そこに建物の外を中心に探していたらしいシルクとギルが走ってきた。
ウィルが生き物を抱いているのを見て、嬉しそうに笑う。
「シルク!見つけた!!もう大丈夫……って?!サーク?!」
シルクにそう報告していると、ウィルの腕の中のウォンバットがぐにゃぐにゃと大きさを変え始めた。
また別の生き物に姿を変えるらしい。
「あ、ウィル。そいつ元に戻るぞ??魔法が解け始めてる。」
「えええええぇぇ?!」
アレックの特に何も気にするでもない言葉に、ウィルは焦った。
元の姿に戻る。
つまり、この場で真っ裸になると言う事だ。
慌てて辺りを伺い、ウィルは茂みの中に駆け込む。
それを見て状況を察したのか、何故かギルが速度を上げる。
嫌な予感しかしない。
ガスパーとイヴァンは青ざめた。
何度かサークの事でネジの外れたギルを見てきたからだ。
「イヴァン!!隊長を止めろ!!」
「うわ?!俺が勝てるかなぁ?!ネジ外れてるし?!」
「勝たなくていいから止めろ!!これ以上のカオスはゴメンだ!!」
とは言え、ここで止めに入れる役がこなせそうなのは自分しかいない。
何でいつも損な役回りなんだろうとイヴァンは思いながら、ギルを止めるべくして立ち向かった。
シルクに至っては、どちらの味方をする訳でもなく、ゲラゲラ笑ってそれを見ている。
「……イヴァン……何故、邪魔をする……。」
「むしろ!何で見たいんですか?!隊長は?!」
「別にサークの真っ裸が見たい訳じゃない……心配していたから、その姿を確認したいだけだ………。」
「だったらちょっと待ってて下さいよ!!着替えが済んだらすぐ会えますから!!」
「それでは意味がないだろう?!」
「どんな意味ですか?!どんな?!」
そんな事を言いながら攻防している。
ガスパーはそれを見守りながら、早くサークが元の姿に戻って着替えを終わらせないかと慌てている。
飽きてきたアレックはその場にしゃがみこんでそれを見ながら、腹減った~とため息をつく。
ガスパーは仕方なく、持っていたカロリーバーをアレックに渡した。
お礼を言ってアレックは受け取り、それを齧り始める。
「ウィル?!まだか?!」
「なんか姿が安定しないんだよ?!ああ!またワラビーに変わった!!」
「……何なんだよ、お前らの関係って、訳わかんねぇなぁ~。」
「早くしてください~っ!!鬼神が目を覚ましそうで怖いです~っ!!」
さすがは未来のロイヤルソードと言うか、イヴァンは鬼の黒騎士を何とか止めていた。
しかし止められた事でスイッチが入ったのか、だんだん殺気がヤバくなってきている。
半泣きになるイヴァンとそれをゲラゲラ笑うシルク。
「どっちも頑張れ~♪」
「シルクさん!!後生だから手伝って下さいよ!!」
「え~??だって俺が手をだしたら勝負がついちゃうじゃん??」
「ついていいじゃないですか?!サークさんを守る為ですよ?!」
「それじゃ修行にならないじゃん!!より強い相手と組み手しないと!!」
「だから~!!今は武術の鍛錬ではないでしょう?!」
「いついかなる時も、鍛錬を忘れたら駄目だぞ?イヴァン??」
「今はそう言う問題じゃないですから~っ!!」
「言いたい事はそれだけか?!イヴァン?!」
「ギャーっ!!」
すでにこの状態で結構、カオスなんだが??
アレックはそう思いながら立ち上がった。
アワアワするガスパーを見かねて、落ち着けと声をかける。
「落ち着けって?!」
「おやつくれたから、助けてやる。」
そう言って祈りを捧げ、切れかかったボーンの魔法を解除してやる。
ズボッと茂みから、サークの頭が顔を出し、そして直ぐに茂みの中に戻った。
サークの顔を見たギルが渾身の力でイヴァンをねじ伏せ、茂みに強行突入した時には、サークはすでに下着とズボンを履いていた。
「隊長、何度も言っていますが、サークは俺のです。」
そしてその前にウィルが立ちふさがっている。
妙な無言の睨み合いの後、ギルは黙って茂みを出た。
「イヴァン~??生きてるか~??」
「生きてますので……棒で突くのは止めてください……シルクさん……。」
役目を終えてひっくり返っている瀕死のイヴァンを、シルクが面白そうにその辺の棒で突いている。
「スイッチ入りかけのギルと張り合うなんて!強くなったねぇ!!偉い偉い!!ちゃんと毎日、走り込みもしてるから、戦闘の粘りが違うよ!イヴァン!!でも、あそこでギルと腕を組んじゃったのはなぁ~。それよりも~……。」
「シルクさん……ご享受は嬉しいのですが……ひとまず起こして頂けますか??」
何故か棒で突き回されながら、戦闘の分析を聞かされるイヴァン。
本当に何だったんだ??これは??
ガスパーはぐったりと項垂れた。
横のアレックは興味なさそうにあくびをしている。
「なぁ、蛇の兄ちゃん。」
「蛇って言うんじゃねぇ……。」
「腹減った。こいつらほっといて、飯食いに行こうぜ??」
「そうだな……ランチタイムが終わっちまう……。行くか……。」
疲れ果てたガスパーは、脳天気に食事に誘ってきたアレックに引っ張られながら、食堂に向かったのだった。
直ぐに帰ると言っているのに、一緒に昼飯を食おうとしつこい。
「いい加減にしろよ!イヴァン!!」
「何だよ~、一つの弁当を分け合った仲だろ?」
「いつの話だ?!いつの?!」
別に一緒に昼飯を食うのが嫌な訳ではないが、ここの所、妙に過保護と言うか子供扱いを受けている気がして腹立たしいのだ。
「……あれ??シルクさんとウィルさん??」
「何してんだ……??あれは??」
ずんずん無視して歩いていると、その先に見慣れた二人を見つけた。
二人とも何かを探しているのか、低い姿勢で物の隙間やカーテン等をめくっている。
ガスパーはイヴァンと顔を見合わせた。
「何してんだ??お前ら??」
「あ!ガスパー!それにイヴァンも!!」
「どうしましたか?何か探しものですか??」
「うん。二人とも、サーク見なかった??」
「……は??」
その言葉に二人はキョトンとした。
ウィルとシルクはしゃがんで物の隙間やら何やらを探している。
なのにサークを探していると言うのだ。
訳がわからなかった。
「主~、いい子だから出ておいで~!」
テーブルのクロスをめくりながら、シルクはそう言って中を探している。
どういう事だ?訳がわからない。
ガスパーとイヴァンは顔を見合わせた。
「………あのよ??サークって、あのサークだよな??」
「サークはサークだよ。俺の婚約者のサークだよ??」
「ええと……僕には見た感じ、お二人は猫の子でも探しているみたいに見えるんですが??」
「いくらサークが目立つほど背が高くないつっても、一応、成人男子だぞ??いくらあいつが馬鹿でも、そんな所に隠れねぇだろ??」
そう言われ、探している方のウィルとシルクは顔を見合わせた。
そしてハッとする。
「ヤバい!俺達も影響受けてる!!」
「危なかった!!忘れてた!!」
そして訳のわからない事を言う。
何が起きているのかさっぱりわからない。
少し慌てふためいていた二人は、呼吸を整えてガスパー達に向き合った。
「二人に会えて良かったよ。」
「うん、俺達、主の事、わかんなくなるところだった。」
「どういう事です??」
「実はグレイさんが散々ボーンさんをからかって、半分パニックになりながら怒ったボーンさんが、グレイさんに小動物になる魔法をかけようとしたんだよ……。」
「それに気づいて止めようとした主を、グレイさんが面白がって魔法にかかるように仕掛けて……。」
「……つまり??それでサークが小動物になっちまったって事か?!」
「そう……主、魔法にかかってびっくりして逃げちゃって……それで探してるんだ……。」
ガスパーはあんぐりと口を開いて固まってしまった。
サークに出会うまで、さして魔法やら魔術やらとはあまり縁のない生活をしてきた。
だからそんな絵本の中の出来事みたいな事が普通に起こる今の生活が、自分でもよく理解できなかったのだ。
イヴァンの方はプッと吹き出すと、おかしそうに笑っている。
ガスパーは頭を掻いた。
「でもそれで何でお前らがサークの事を忘れてたんだよ??」
「ああ、どうもボーンさん、グレイさんをとっちめてやろうと思ったみたいで、はじめからそれは小動物だったと思ってしまうような軽い認識災害も使ったみたいなんだ……。」
「その影響でお二人はサークさんがはじめから小動物だったと思ってしまったんですか??」
「そうみたい~!魔法って凄いね!!俺、気づいて滅茶苦茶びっくりした~!!」
さすがは世界に名だたる大魔法師と言えば良いのか、ホイッと使った魔法の効力が半端ではない。
しかもサークも言っていたが、魔法は魔術と違って「1+1=2」の様な説明のつけやすいものではなく、「悲しみを呼び起こすのと同時に懐かしさを感じる」みたいな抽象さがある。
一つの魔法で様々な効果が出るのがまたややこしくてわかりにくい。
「それで、サークさんは何になってしまったんですか??」
そこで核心をつくように、イヴァンが言った。
そうだ、探そうにもそれがわからなければ探しようがない。
「それが……。」
「わかんないの。」
「は?!わかんない?!」
「うん。俺達が見ている前で、サークは子猫や子犬、ハムスターやリスとか、色んなものに姿を変えたんだよ。」
「ボーンさん自体が何になれって言うんじゃなくて、小動物になれって思ってたから決まってなかったみたい。」
「そのせいか安定しなくて色んな動物になっちゃって、サーク自身、その事にもパニックになったみたいで逃げ出しちゃって……。」
「え?!じゃあ、何になってるのかわかんねぇのに探してんのかよ?!」
「うん……。」
「何か小動物を見なかったかって聞いて回っていたら、さっき、そこの中庭で、妙に哀愁漂うプレーリードッグが立ち上がって日向ぼっこしてたって聞いて。」
「見つけた人も、誰かのペットか献上品として連れられてきたのが逃げ出したんだと思って捕まえようとしてくれたんだけど、逃げられたって。」
ガスパーとイヴァンは顔を見合わせた。
少なくとも、自分たちが歩いてきた方では、小動物の話は聞かなかった。
「……元々は、どこの部屋にいたんだよ??お前ら??」
大きなため息をついた後、ガスパーが面倒そうにそう言った。
持っていた要らない書類の裏にメモを取りはじめる。
簡単な見取り図を描いて、元々いた部屋から小動物の目撃情報を聞きながら印をつけていく。
「俺らが来た方ではまだ小動物の話は聞いてねぇから、こっちの方に向かってんじゃねぇかな??」
「ありがとう!ガスパー!!これで追う方向がわかったよ!!」
「さすが頭脳派~。」
「いや、これは頭脳とか関係ねぇだろ??」
二人に感謝と感心され、ガスパーはムスッと顔を赤くした。
相変わらず褒められても感謝されても素直に喜べないのがガスパーである。
イヴァンはクスッと笑いながら、ふと思いついた事を言った。
「と言うか、その魔法って解いてもらうまでずっと小動物なんですか??」
確か変化の魔法や魔術は遁走術で主に使われるものだ。
長々、自分や相手の姿を変えておくのはとても難しいので時間がたてば戻るものだったと記憶している。
イヴァンの言葉に、ウィルとシルクは困ったように顔を見合わせた。
「1時間位で元に戻るみたいなんだけど……。」
「主、小動物にされちゃったじゃん??だから……。」
言いにくそうにそう言った後、ウィルは持っていた袋の中身を見せてきた。
覗き込むと部隊の制服が入っている。
これはシルクとサークが来ている、武術着タイプの制服だ。
シルクは目の前にいてそれを着ている。
と、言う事は、だ。
「………はっ?!これ?!サークのか?!」
「そう……。」
「え?!着ていたものですか?!」
「うん……。」
「は?!て事は?!」
「そう……主、元に戻った瞬間、真っ裸になるんだよねぇ~。」
見えはしないが、どうやら下の方に下着も入っているようだ。
サーッとガスパーの顔が青くなった。
流石に叶わない片思いとはいえ、好きな相手が理不尽に真っ裸になってしまうという状況を理解して血の気が引いたようだ。
「……かけられたのって!何時だよ!!」
「20分くらい前。」
「なら急いで探さねぇとやべぇだろ?!王宮で真っ裸でいたら!一生、変態のレッテル貼られんぞ?!あいつ!!」
「だから探してるんだって!!」
そう言ってサーク捜索隊は、ガスパーを先頭にいるだろうと憶測を立てた方向に捜索を開始した。
その後を冷静に追いかけながら、イヴァンは苦笑した。
「いくらサークさんでも真っ裸になったらどこかに隠れてるだろうし、そんなに慌てなくてもなぁ。第一、あの人は魔術師なんだし姿隠しするなり何なりすると思うし……。それに結構、皆と変わらず、平気で寮内をパンイチでウロウロする人だから、そこまで気にしなくても大丈夫だと思うけどなぁ……。」
愛や恋といったフィルターもなく、同室としての経験もあるイヴァンにとっては、滅茶苦茶必死にサークを探している三人がむしろ微笑ましく思えてしまった。
「あ!ギルっ!!」
小動物になってしまったサークを探して4人が捜索をしていると、建物の外でふろふろ何かを探しているギルに出会った。
何か小動物を見なかったかとシルクが聞く前に、ギルの方から声をかけてきた。
「ああ、シルク。来てたのか…。所で妙にもっふりした愛嬌のあるタヌキを見なかったか??」
その言葉に全員が顔を見合わせる。
わかってはいないだろうが、ギルの探しているタヌキは恐らくサークだと思われる。
「どこで見たの?!そのタヌキ?!」
「お前達が来た方でふと外を見たら、トボトボ歩いていてな。妙に気になって見ていたら目が合った。そうしたらガチガチに硬直して見るからに冷や汗を垂らし始めて……。そんなに怖いか??俺は??」
ギルがいつもの無表情のまま首を傾げた。
怖いかはわからないが、もう少し表情は出した方がいいんじゃないかと皆、思った。
「それでそのタヌキはどっちに?!」
「ああ、餌でもやろうかと俺が動いた瞬間、取って食われるとでも思ったのか、凄い速さで走り出してな。反射的に追いかけたら、この辺りの茂みに入り込んでしまって……。」
反射的に追いかけたって何だよ、とガスパーが小声でツッコミを入れる。
その独り言が聞こえてしまったイヴァンは苦笑してしまった。
とは言え、隊長まで絡んでくると面倒だなぁとも思う。
他の三人はともかく、隊長はフィルター装着済な上、サークに対してぶっ飛んだ行動をする事がある。
ただでさえややこしい状況なのに、ややこしい人間が絡んでくるのは勘弁願いたい。
「なら、悪いですけど隊長、その茂みにタヌキがいないか、よく探して下さい。」
隊長が探しているのは元々そのタヌキであるし、まだそのタヌキがサークと思われる事は知らない。
ならば下手にタヌキ=サークだとバラさず、この場に留めて置くに限る。
もうすぐ元の姿に戻って真っ裸になるなんて不必要な情報は知られてはならない。
イヴァンはいつも通り爽やかに笑ってそう言い切った。
「……それは構わないが……お前達もあのタヌキを探しているのか??」
「そう~。主を探してるの~。」
イヴァンの健闘も虚しく、シルクが無邪気に言った。
悪気はない、悪気はないのだ。
ただいつも通り、己の恋人に無邪気に素直に甘えただけだ。
だが、事態の悪化を予想できたイヴァンとガスパーとウィルはヒュッと息を飲んだ。
「………サークを…??どういう事だ??」
「うんとねぇ~。」
窓枠に肘をついて甘ったるく話すシルク。
これは恐らく全部話す。
全部バレる。
そう思った他の三人は、無意識に視線を合わせた。
こうしてはいられない。
バカップルよりも先にサークを見つけないとヤバい事になりかねない。
反射的に体が動いた。
三人は決死の覚悟でサークを捜索し始めた。
「小動物??……あ、そう言えば、ビショップの弟子の子が変な丸々した生き物を抱えて歩いていたって誰か言ってたな??」
血眼になったガスパーとウィルとイヴァンに引きながら、警備の兵士が教えてくれた。
ビショップの弟子の子と言えばアレックだ。
三人はホッと胸を撫で下ろした。
「アレック君か……。流石だなぁ……。気づいてボーンさんの所に連れて行ってくれてるのかな?とにかく良かった……。」
「だな、ひとまずこれで大丈夫だろ。ウィル、お前、服持って早くボーンさんの所に戻れよ。」
「そうだね。」
そんな話をしていると、その兵士が不思議そうに首を傾げる。
「いや??何でも美味しそうだから調理してもらうって言っていたそうだよ??あんな生き物食べれるのかねぇって言われたけど、俺は見てないからわからないって答えたからなぁ。」
その言葉に三人は硬直した。
アレックはボーンさんの弟子である前に、ネコ科の獣人だ。
丸々した小動物を見たら、食べ物と認識しかねない。
現に食べようとしている感満載だ。
「嫌だぁ~!!サークぅ~っ!!」
「ウィルさん!落ち着いて!!」
「と、とにかく調理場に行こう!!なぁ!アレックはどっちの調理場に向かってたんだ?!」
「あ~、多分、職員用の調理場だよ。昼を済ませた奴が見かけたらしいから。」
それを聞いた三人は、またも慌ててその場を後にした。
ブギャーブギャーっ!と聞きなれない鳴き声がする。
慌ててその鳴き声の方に向かうと、調理場の外の裏口の所でアレックが小さなクマのようなものを抱えて調理師と話している。
「いきなり生きてるのは……。鳥ぐらいなら捌けるけど、そいつはちょっとなぁ……。初めて見る生き物だし、肝か何かに毒があったら調理場が汚染されちまうしさぁ。」
「そうか。なら、捌いて持ってきたら調理してくれるか??」
「う~ん??中ではちょっとできないけど、捌いて持ってくるなら、外で焼いて味付けするくらいはやってやるよ。」
「わかった、ありがと。」
その間もそのずんぐりむっくりした生き物は、短い手足をバタバタさせて聞いた事の無い鳴き声で叫びまくっている。
「サークっ!!」
「良かった!まだ食われてない!!」
「そいつを捌く話は無しで!!」
ゼイゼイ言いながらそこに押しかけると、三人は口々に言った。
三人を見たその生き物は安心したのか鳴くのを止め、さっきよりもいっそう、ジタバタもがいて暴れだした。
それを押さえ込んで、アレックがキッと猫目で睨みつける。
「これは俺が見つけだんだ!!だから俺が食う権利がある!!」
「食べちゃ駄目~っ!!」
「アレック君!落ち着いて!それ!!サークさんです!!」
「………あ??」
「だからな、小僧。お前の師匠がグレイ執事長に魔法をかけようとして、庇ったサークがだな……。」
そう言われ、アレックはもっふりした丸い塊を抱き上げ、マジマジと顔を見た。
まん丸い顔の中の小さな目が、涙を浮かべてスンスン泣いている。
その顔をしばらく眺めながらアレックは言った。
「………通りで、見たことないほど魔力の高い生き物だと思ったわ……。にしても………ブッ!!お前!!師匠に魔法かけられたのかよ?!ダセェ~っ!!」
それがサークだとわかると、アレックはゲラゲラと笑い始めた。
そしてからかうように高い高いというか、上に軽くほうり上げてキャッチして遊んでいる。
食べれないとわかるとおもちゃとして遊びだすなんて、悪気はないにしろ猫獣人は恐ろしい。
「はっはっはっ!!怖いか~?!こんにゃろう~!!」
「アレック君!止めて!サーク返して!!」
胴上げよろしく空に投げられてはキャッチされているサークを、ウィルは少し怒って取り返した。
ヒシッとその巨大なクッションみたいな生き物がウィルの胸にしがみついている。
「サーク、怖かったな……もう大丈夫だからな……。」
「……感動の再会なんですけど……妙に赤ちゃんを抱っこしてあやしている様に見えるのは、気のせいかな??」
「いや、確かに見えんな。何しろウォンバットだし……。」
そう、アレックに捕まって食われそうになっていたサークは、今はウォンバットになっていた。
もっふりしたタヌキをへて、丸々したウォンバットになっていたようだ。
確かに丸々して美味しそ……いや、こんなに可愛いのに食べるなんてあってはならない。
「……アレック君は何でウォンバットなんか食べようとしてたんだい??」
「ウォンバットだからじゃない。言ったじゃんか??すげぇ魔力が高いのがわかったから食べようと思ったんだよ。」
「は??食べると魔力って身につくのか??」
「底上げにはなるな、こんだけ強い魔力があると。元々、魔力が使えるだけの強さがある奴に限るけど。」
「………だから強い魔物を倒すと食べる習慣があるんですね?冒険者には。」
「アンタ、詳しいな?貴族の癖に??まぁ冒険者は食材は基本、現地調達って事もあるけどな。魔力以外にも効果のある魔物も多いから、食えるやつは基本、食うな。それに強い魔力の魔物で安全に食べられる奴って少ないんだよ。」
「で、サークは安全に食べられる上、高い魔力があったって訳か。」
「そ。だから見た瞬間、こいつは食わないと損だって思った。」
冒険者特有の考え方なのか、獣人だからなのかはわからないが、とにかく食われなくて良かったと胸を撫で下ろす。
当のサークはウィルの胸に抱かれながら、安心したのか頭をグリグリしながら甘えている。
ひとまずサークも捕まり、食べられる事もなくなった事で、ガスパーは気が抜けてどッと疲れが出た顔をする。
その横でイヴァンは不思議に思った事をアレックに聞いた。
「アレック君、サークさんだって事には気づかなかったのかい??」
「ちょうどめちゃくちゃ腹も減ってたしな。旨そう!って思ったら本能の方が強くなって、そこまで気が回らなかった。」
う~ん、本能怖い。
イヴァンは苦笑するしかなかった。
「あ!見つけた~!!主、いたの?!」
そこに建物の外を中心に探していたらしいシルクとギルが走ってきた。
ウィルが生き物を抱いているのを見て、嬉しそうに笑う。
「シルク!見つけた!!もう大丈夫……って?!サーク?!」
シルクにそう報告していると、ウィルの腕の中のウォンバットがぐにゃぐにゃと大きさを変え始めた。
また別の生き物に姿を変えるらしい。
「あ、ウィル。そいつ元に戻るぞ??魔法が解け始めてる。」
「えええええぇぇ?!」
アレックの特に何も気にするでもない言葉に、ウィルは焦った。
元の姿に戻る。
つまり、この場で真っ裸になると言う事だ。
慌てて辺りを伺い、ウィルは茂みの中に駆け込む。
それを見て状況を察したのか、何故かギルが速度を上げる。
嫌な予感しかしない。
ガスパーとイヴァンは青ざめた。
何度かサークの事でネジの外れたギルを見てきたからだ。
「イヴァン!!隊長を止めろ!!」
「うわ?!俺が勝てるかなぁ?!ネジ外れてるし?!」
「勝たなくていいから止めろ!!これ以上のカオスはゴメンだ!!」
とは言え、ここで止めに入れる役がこなせそうなのは自分しかいない。
何でいつも損な役回りなんだろうとイヴァンは思いながら、ギルを止めるべくして立ち向かった。
シルクに至っては、どちらの味方をする訳でもなく、ゲラゲラ笑ってそれを見ている。
「……イヴァン……何故、邪魔をする……。」
「むしろ!何で見たいんですか?!隊長は?!」
「別にサークの真っ裸が見たい訳じゃない……心配していたから、その姿を確認したいだけだ………。」
「だったらちょっと待ってて下さいよ!!着替えが済んだらすぐ会えますから!!」
「それでは意味がないだろう?!」
「どんな意味ですか?!どんな?!」
そんな事を言いながら攻防している。
ガスパーはそれを見守りながら、早くサークが元の姿に戻って着替えを終わらせないかと慌てている。
飽きてきたアレックはその場にしゃがみこんでそれを見ながら、腹減った~とため息をつく。
ガスパーは仕方なく、持っていたカロリーバーをアレックに渡した。
お礼を言ってアレックは受け取り、それを齧り始める。
「ウィル?!まだか?!」
「なんか姿が安定しないんだよ?!ああ!またワラビーに変わった!!」
「……何なんだよ、お前らの関係って、訳わかんねぇなぁ~。」
「早くしてください~っ!!鬼神が目を覚ましそうで怖いです~っ!!」
さすがは未来のロイヤルソードと言うか、イヴァンは鬼の黒騎士を何とか止めていた。
しかし止められた事でスイッチが入ったのか、だんだん殺気がヤバくなってきている。
半泣きになるイヴァンとそれをゲラゲラ笑うシルク。
「どっちも頑張れ~♪」
「シルクさん!!後生だから手伝って下さいよ!!」
「え~??だって俺が手をだしたら勝負がついちゃうじゃん??」
「ついていいじゃないですか?!サークさんを守る為ですよ?!」
「それじゃ修行にならないじゃん!!より強い相手と組み手しないと!!」
「だから~!!今は武術の鍛錬ではないでしょう?!」
「いついかなる時も、鍛錬を忘れたら駄目だぞ?イヴァン??」
「今はそう言う問題じゃないですから~っ!!」
「言いたい事はそれだけか?!イヴァン?!」
「ギャーっ!!」
すでにこの状態で結構、カオスなんだが??
アレックはそう思いながら立ち上がった。
アワアワするガスパーを見かねて、落ち着けと声をかける。
「落ち着けって?!」
「おやつくれたから、助けてやる。」
そう言って祈りを捧げ、切れかかったボーンの魔法を解除してやる。
ズボッと茂みから、サークの頭が顔を出し、そして直ぐに茂みの中に戻った。
サークの顔を見たギルが渾身の力でイヴァンをねじ伏せ、茂みに強行突入した時には、サークはすでに下着とズボンを履いていた。
「隊長、何度も言っていますが、サークは俺のです。」
そしてその前にウィルが立ちふさがっている。
妙な無言の睨み合いの後、ギルは黙って茂みを出た。
「イヴァン~??生きてるか~??」
「生きてますので……棒で突くのは止めてください……シルクさん……。」
役目を終えてひっくり返っている瀕死のイヴァンを、シルクが面白そうにその辺の棒で突いている。
「スイッチ入りかけのギルと張り合うなんて!強くなったねぇ!!偉い偉い!!ちゃんと毎日、走り込みもしてるから、戦闘の粘りが違うよ!イヴァン!!でも、あそこでギルと腕を組んじゃったのはなぁ~。それよりも~……。」
「シルクさん……ご享受は嬉しいのですが……ひとまず起こして頂けますか??」
何故か棒で突き回されながら、戦闘の分析を聞かされるイヴァン。
本当に何だったんだ??これは??
ガスパーはぐったりと項垂れた。
横のアレックは興味なさそうにあくびをしている。
「なぁ、蛇の兄ちゃん。」
「蛇って言うんじゃねぇ……。」
「腹減った。こいつらほっといて、飯食いに行こうぜ??」
「そうだな……ランチタイムが終わっちまう……。行くか……。」
疲れ果てたガスパーは、脳天気に食事に誘ってきたアレックに引っ張られながら、食堂に向かったのだった。
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