欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第三王子編

初日とエスプレッソ

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「あ~やべぇ~。行きたくね~。」

「いや、仕事ですし。」

サークは朝食をつつきながら呟いた。
珍しく食が進まない。
がしがしとフォークで皿をつつき回している。
イヴァンはため息をついた。

「まさか、そこまで手を出してるとは思いませんでしたよ……。」

「手なんか出してねぇ!」

「サークさん、人たらしも大概にしないと、早死にしますよ?」

「俺は何もしていないっ!!」

サークはダンダンと机を叩き、突っ伏した。
全くこの人は……。
イヴァンはまた、ため息をついた。
手を伸ばして、サークの皿からベーコンを取って食べた。

「………ベーコン返せ。」

「吐き出したのでいいですか?」

「ぶちのめす……。」

サークは突っ伏したままそう言った。
イヴァンは冷静にコーヒーを啜って、声をかける。

「食べるなら早くしてください。時間、なくなりますよ?」

「くそっ。」

そう言って顔を起こすと、サークは朝食の残りを機械的に口に押し込んだ。
こんな食べ方もするんだな~この人。
イヴァンはぼんやりとそれを眺めた。

サークは今日から王宮勤務である。
何日も前から色々説明等をしていたが、どうも浮かない顔をしている。
緊張しているのかと思ったら、そうではないようだ。

「まさか殿下まで落としてるとは……。」

「……だから!何もしてないんだよ!俺は!」

「底無し沼ですね~。ハマらないよう、気をつけよう~。」

「何にもしてないのに~っ!!」

サークは頭を抱えてじたばたしている。
が、やがて諦めたように動かなくなると、エスプレッソにアホみたいに砂糖を入れた。
それをガッと一息に空ける。

「行くかっ!!」

変な気合いの入れ方だ。
まぁ、エスプレッソの飲み方としては間違ってないけど。
立ち上がるサークに合わせて、イヴァンも立ち上がる。

王宮勤務初日。
何事もなく終わるといいが……。

荷物とトレーを手に動き出したふたりは、お互いそう思っていた。













「サークっ!!やっと来てくれたんですね!!」

王宮勤務初日なのですぐに王子に挨拶に行くと、サークが口を開く前にそう言われた。
椅子から立ち上がり、王子が駆け寄ってくる。
まずい……。
サークは顔をひきつらせ、イヴァンは冷ややかな目でサークを見ていた。
さっと、その場にひざまづく。

「ご無沙汰しております。我が主、ライオネル殿下。」

上手く逃げたな、とイヴァンは思った。
何しろ王子は、抱きつかんばかりの勢いだったからだ。
サークに合わせて、イヴァンもその場にひざまづく。
王子もサークの対応で少し自分の立場を思い出したようだ。

「本日より、王宮での殿下の警護に加わることになりました。常にお側でお守りする事はできませんが、誠心誠意務めさせて頂きます。どうぞよろしくお願いします。」

さらっと常に側にはいないって言い切ったな、サークさん。
意識的なのか無意識なのか知らないけど、本当、この人にハマったら精神やられそうだ。
イヴァンは王子が少し気の毒に思えた。
しかし……。

「畏まった挨拶は終わりましたか?サーク?」

「え?あ、はい。」

「では、立って下さい。」

「はい……。」

「今日は1日、私の側に立っていて下さいね?」

「え?しかし、これから他の方にもご挨拶に行かねばなりませんし、他の者と警護の打ち合わせもありますので、少しお待ち頂けますか?」

「私は十分待ちました。これは命令です。ではこちらに来てください。」

王子はそう言うとサークの手を引っ張った。
相変わらず、マイペース全開だな?おいっ!!
都合のいい部分しか聞いていなかったような天然対応に、サークは顔をひきつらせた。
助けを求めるようにイヴァンを見る。
イヴァンは何も知りません?とばかりに爽やかな笑みを浮かべた。
こんちくしょうっ!!後で覚えてろっ!!
サークは凄味をもって、その笑顔に答えた。

「では、そう言う事ですので、他の方にはよろしく伝えて下さいね、イヴァン。」

「承諾致しました。殿下。」

王子がキラッキラの笑顔でそう言うと、イヴァンは頭を下げた。
そしてムカつくほど爽やかに笑って、部屋を出て行った。
残されたサークは、恐る恐る振り返る。
王子がにっこりと笑った。

「いつまで私を立たせておくつもりですか?サーク?」

「……失礼致しました。殿下。」

これはもう腹を括るしか無さそうだ。
サークは諦めて王子の後に続いた。
休憩中だったのか、王子は業務机ではなく窓際のテーブルにつく。
そして飲みかけの紅茶を一口、口に含んだ。
サークはそれを一歩下がった位置に立ち、見守る。
この立ち位置って、ギルの場所だったんだよな~と、かつてを思い出す。
そこに立っている自分が何か不思議だった。

「何か飲みますか?サーク?」

「いえ、警護中ですので。」

「相変わらず固いですね?」

「申し訳ございません。」

王子はとても機嫌がよく見える。
まぁ、機嫌がいいに越したことはないのだが、王宮勤務の日はずっとこんな感じなのかな~と思うと少し頭が痛かった。
他の仕事を覚える暇はあるのだろうか……。
そんな事を思う。

「長かったです。」

「え?」

「あなたを私の騎士にしてから、こうして私の側についてくれるまで、長かったです。」

「殿下……。」

「できれば私専属の警護担当になって欲しいですが、やっとここまで来てくれたので、今は許します。」

「ありがとうございます……。」

サークはそう言われ、これは早めに話をしないと、と思った。
言いづらいが、言わないとさらに厄介な事になりかねない。
サークは意を決して声をかけた。

「殿下、少しよろしいでしょうか?実は個人的な事でご報告したい事があるのですが……。」

「婚約された話ですか?」

「え?ご存知でしたか!?」

「ええ。案外、耳に入るんですよ?王宮にいても。」

「そうなんですね……。」

「おめでとう……って言うべきなんでしょうね?サーク。」

「いえ、お気持ちだけで十分です。殿下。」

サークは混乱していた。
知ってた!?
王子は俺が婚約しているのを知ってたのか!?
だとすると、王子のこの対応は何なのだろう?
やはりペットか良くて贔屓の騎士と言うことなのだろうか?

よくわからなかった。
王子は静かにお茶を飲んでいる。
伝えれば何らかの解決になると思っていたサークは、妙な感覚に少しの不安を覚えていた。
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