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第三王子編
王の腹の中
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「あぁ、フレデリカ女史、すまんがそこの木苺のジャムをとってくれんかの?」
「ロイ~、紅茶まだあるかい?」
「誰かミルクとってくれんか~?」
「ほれ、どうした?サークも熱いうちに食べたらどうだい?」
目の前の光景にため息をついた。
はいはい、もう慣れました。
サークは森の町に来ていた。
王子の南の国への訪問を控え、バタバタする前にと思い、足を運んだ。
そして会議だと言うので円卓に来てみれば、これである。
きっとここは、世界の終わりが来てもこんな感じで過ごすのだろうと思う。
サークは渡されたスコーンを皿の上でふたつに割った。
ジャムが手元になかったので、クロテッドクリームを先に乗せる。
隣のブラハムが、ひょいと手を伸ばして、カシスのジャムを渡してくれた。
口一杯に頬張って、もごもご口を動かす。
本当、のどかだよな。
紅茶を一口含んで味を楽しむ。
「……それで?何があったんですか?」
ごくんと口の中のものを飲み込むと、円卓を囲んで会議ならぬティータイムを楽しむ、魔術本部の重鎮たちに聞いた。
スコーンを楽しんでいた面々は、ぽかんとサークを見た。
「あ、そうだったそうだった。」
「何、大したことじゃない。」
「いや、大したことなんだが、どうにもできん。」
「まぁ、対策はしているが、根本的な解決にはならんの。」
「大本は我らではどうする事もできんからなぁ。」
また謎かけのような会話が始まる。
わかっている面々はこれで通じるのだろうが、とにかくサークは何も知らない。
とは言え、声を荒げても仕方がない。
サークは残り半分のスコーンにイチゴジャムを乗せた。
クロテッドクリームを後から乗せて、口に放り込む。
なんだかんだで、サークもここに馴染んでいた。
「……で、何が起こって、何が解決にはならないんですか?」
口の中のものを飲み込んで、サークはまた聞いた。
紅茶を継ぎ足してくれたロイが、クスクスと笑った。
「……かなり昔の話さ。王の種が盗まれたのは……。」
「王の種??」
「どんなものかは知らないよ。私もその頃はここにいなかったからね。」
「ナーバル議長はその時ここにいらっしゃったんですよね?」
全員の視線が、ナーバルに集まる。
それに気づき、スコーンにクリームを塗る手を止めた。
「……ええ?なんだって??」
………………。
耳の遠いナーバルは聞こえていないようだ。
全員がぷっと吹き出した。
隣に座るフレデリカが聞こえるよう、魔術をかける。
「ナーバル議長は、王の種が盗まれた時、もう魔術本部にいらっしゃったんですよね?」
「あぁ、王の種か…。あれは驚いた……。」
ナーバルがいつもの茶目っ気のある声ではなく、酷く慎重な声を出した。
「突然、各家のホームパートナー達が騒ぎ出したんじゃ……。王の種が盗まれたと言ってな……。ホームパートナーは普通、家の主の必要とする事以外は主張しないものなんじゃが……。他にも精霊の加護を受けているものたちから、精霊が王の種が盗まれたと言っていると報告があってな、わしらは何だかさっぱりじゃったんだが、とにかく何か起きていると思ったよ……。」
あれだけワイワイお茶を楽しんでいた円卓は、今は静まりかえっていた。
じっとナーバルの話を聞いている。
「色々精霊達に話を聞いて調べるとな、世界には精霊の王のような存在があるんじゃが、そのひとつが代替わりをするために変わるものを作った。それが王の種じゃ。」
「種、と言うからには、完全なものではないんですよね?」
「恐らくな。そして誰の仕業かは知らないが、その種が盗まれた。だから精霊達が騒いだのだ。」
精霊の王が種から生まれるとはびっくりだが、種と呼ばれているだけでどんなものかはわからない。
精霊の王とは、恐らくこの前出会った水神や風の主の事だろう。
彼らが生まれる種とは、いったいどんなものだろうと思う。
「……精霊の王のような存在は、地の王、風の王、火の王、水の王の5人いるらしいですね。」
「え?計算がおかしいですよね?四人じゃないんですか?」
「詳しくは知らないけど、水の王は双子の王で、真水と海水のふたりでひとつの王みたいなのよ。」
「また、大地と自然、火と熱などは、同じものだが別々の存在と言う説もある。」
「なるほど……。」
「そして光の王とは、その5人全員でひとりの王とされるらしい。」
「何か複数が1人扱いになるってよくわからないですね……。」
「まぁ、精霊はわしらとは違う理念を持っているからの。こちらの言葉で表すと、理屈に合わなくもなるさ。」
何だかこんがらがる話だ。
世界観も理念も価値観も異なる存在を、自分達の言葉と価値観で表そうとするから無理があるのだろう。
「それで……大昔盗まれた王の種が、今、何か起こしているんですか?」
「その逆だよ、サーク。本当なら王の種が育って新しい王が生まれ、古い王は消えるはずだったのさ。だが種が盗まれた。その為、古い王は消える事が出来ず、ずっと頑張っていたんだ……。」
「まさかと思いますけど……古い王が死にそうなんですか?新しい王が生まれてない状態で?」
可能性があるのはそこだ。
だがもしそうなら、とんでもない話だ。
「その通りだよ、古い王は消える寸前だ。先日、王は危うい状態になった。何とか持ち直したが、長くは持たないだろう。とは言え、私たちの時間と彼らの時間は違う。それが数年後なのか、100年後なのかはわからない。どうにか守って来たが、いずれは消えてしまうだろう。」
「……守ってきた??」
それは古き王をって事だよな?
俺の声に皆がクスッと笑った。
「……サーク、君はここがどこだかわかるかい?」
「魔術本部ですね?」
「その魔術本部のある場所がどこかは?」
「う~ん?地図にない場所ではありますね??」
俺はここに来てから、世界地図をくまなく見て、ここがどこか探そうとした。
だが、ここに該当する場所は見つからなかった。
恐らく見つからないように、地図の方が書き換えられているのだと思っていた。
そんな俺に、ナーバル議長がにっこり笑った。
「ここはな、サーク、古き大地の王の懐なんじゃよ……。」
「……はい?」
そう言われたが、頭が追い付かない。
古き王の懐??
どういう事だろう?
「うふふ。いきなりそう言われても困るわよね?……そうね…何て言えば良いのかしら……。王の持っている異空間って言えば良いのかしら……?」
「ええええぇっ!?」
え!?
ここ、異空間だったの!?
驚く俺をブラハムさんが笑う。
「ある意味、大地の王の腹の中とも言えるな。」
「腹の中ですか!?」
何だか混乱してきた。
よくわからないが、とにかくここは本当に現実的世界ではなく、世界から離れた場所と言うことだ。
ある意味冗談ではなく常世って事だ。
そしてそれは、大地の王という精霊の力の中にある空間だと言う。
大地の王の腹の中。
当たり前に行き来していた場所が、そんな場所だと知り、頭の中がぐるぐるする思いだった。
「ロイ~、紅茶まだあるかい?」
「誰かミルクとってくれんか~?」
「ほれ、どうした?サークも熱いうちに食べたらどうだい?」
目の前の光景にため息をついた。
はいはい、もう慣れました。
サークは森の町に来ていた。
王子の南の国への訪問を控え、バタバタする前にと思い、足を運んだ。
そして会議だと言うので円卓に来てみれば、これである。
きっとここは、世界の終わりが来てもこんな感じで過ごすのだろうと思う。
サークは渡されたスコーンを皿の上でふたつに割った。
ジャムが手元になかったので、クロテッドクリームを先に乗せる。
隣のブラハムが、ひょいと手を伸ばして、カシスのジャムを渡してくれた。
口一杯に頬張って、もごもご口を動かす。
本当、のどかだよな。
紅茶を一口含んで味を楽しむ。
「……それで?何があったんですか?」
ごくんと口の中のものを飲み込むと、円卓を囲んで会議ならぬティータイムを楽しむ、魔術本部の重鎮たちに聞いた。
スコーンを楽しんでいた面々は、ぽかんとサークを見た。
「あ、そうだったそうだった。」
「何、大したことじゃない。」
「いや、大したことなんだが、どうにもできん。」
「まぁ、対策はしているが、根本的な解決にはならんの。」
「大本は我らではどうする事もできんからなぁ。」
また謎かけのような会話が始まる。
わかっている面々はこれで通じるのだろうが、とにかくサークは何も知らない。
とは言え、声を荒げても仕方がない。
サークは残り半分のスコーンにイチゴジャムを乗せた。
クロテッドクリームを後から乗せて、口に放り込む。
なんだかんだで、サークもここに馴染んでいた。
「……で、何が起こって、何が解決にはならないんですか?」
口の中のものを飲み込んで、サークはまた聞いた。
紅茶を継ぎ足してくれたロイが、クスクスと笑った。
「……かなり昔の話さ。王の種が盗まれたのは……。」
「王の種??」
「どんなものかは知らないよ。私もその頃はここにいなかったからね。」
「ナーバル議長はその時ここにいらっしゃったんですよね?」
全員の視線が、ナーバルに集まる。
それに気づき、スコーンにクリームを塗る手を止めた。
「……ええ?なんだって??」
………………。
耳の遠いナーバルは聞こえていないようだ。
全員がぷっと吹き出した。
隣に座るフレデリカが聞こえるよう、魔術をかける。
「ナーバル議長は、王の種が盗まれた時、もう魔術本部にいらっしゃったんですよね?」
「あぁ、王の種か…。あれは驚いた……。」
ナーバルがいつもの茶目っ気のある声ではなく、酷く慎重な声を出した。
「突然、各家のホームパートナー達が騒ぎ出したんじゃ……。王の種が盗まれたと言ってな……。ホームパートナーは普通、家の主の必要とする事以外は主張しないものなんじゃが……。他にも精霊の加護を受けているものたちから、精霊が王の種が盗まれたと言っていると報告があってな、わしらは何だかさっぱりじゃったんだが、とにかく何か起きていると思ったよ……。」
あれだけワイワイお茶を楽しんでいた円卓は、今は静まりかえっていた。
じっとナーバルの話を聞いている。
「色々精霊達に話を聞いて調べるとな、世界には精霊の王のような存在があるんじゃが、そのひとつが代替わりをするために変わるものを作った。それが王の種じゃ。」
「種、と言うからには、完全なものではないんですよね?」
「恐らくな。そして誰の仕業かは知らないが、その種が盗まれた。だから精霊達が騒いだのだ。」
精霊の王が種から生まれるとはびっくりだが、種と呼ばれているだけでどんなものかはわからない。
精霊の王とは、恐らくこの前出会った水神や風の主の事だろう。
彼らが生まれる種とは、いったいどんなものだろうと思う。
「……精霊の王のような存在は、地の王、風の王、火の王、水の王の5人いるらしいですね。」
「え?計算がおかしいですよね?四人じゃないんですか?」
「詳しくは知らないけど、水の王は双子の王で、真水と海水のふたりでひとつの王みたいなのよ。」
「また、大地と自然、火と熱などは、同じものだが別々の存在と言う説もある。」
「なるほど……。」
「そして光の王とは、その5人全員でひとりの王とされるらしい。」
「何か複数が1人扱いになるってよくわからないですね……。」
「まぁ、精霊はわしらとは違う理念を持っているからの。こちらの言葉で表すと、理屈に合わなくもなるさ。」
何だかこんがらがる話だ。
世界観も理念も価値観も異なる存在を、自分達の言葉と価値観で表そうとするから無理があるのだろう。
「それで……大昔盗まれた王の種が、今、何か起こしているんですか?」
「その逆だよ、サーク。本当なら王の種が育って新しい王が生まれ、古い王は消えるはずだったのさ。だが種が盗まれた。その為、古い王は消える事が出来ず、ずっと頑張っていたんだ……。」
「まさかと思いますけど……古い王が死にそうなんですか?新しい王が生まれてない状態で?」
可能性があるのはそこだ。
だがもしそうなら、とんでもない話だ。
「その通りだよ、古い王は消える寸前だ。先日、王は危うい状態になった。何とか持ち直したが、長くは持たないだろう。とは言え、私たちの時間と彼らの時間は違う。それが数年後なのか、100年後なのかはわからない。どうにか守って来たが、いずれは消えてしまうだろう。」
「……守ってきた??」
それは古き王をって事だよな?
俺の声に皆がクスッと笑った。
「……サーク、君はここがどこだかわかるかい?」
「魔術本部ですね?」
「その魔術本部のある場所がどこかは?」
「う~ん?地図にない場所ではありますね??」
俺はここに来てから、世界地図をくまなく見て、ここがどこか探そうとした。
だが、ここに該当する場所は見つからなかった。
恐らく見つからないように、地図の方が書き換えられているのだと思っていた。
そんな俺に、ナーバル議長がにっこり笑った。
「ここはな、サーク、古き大地の王の懐なんじゃよ……。」
「……はい?」
そう言われたが、頭が追い付かない。
古き王の懐??
どういう事だろう?
「うふふ。いきなりそう言われても困るわよね?……そうね…何て言えば良いのかしら……。王の持っている異空間って言えば良いのかしら……?」
「ええええぇっ!?」
え!?
ここ、異空間だったの!?
驚く俺をブラハムさんが笑う。
「ある意味、大地の王の腹の中とも言えるな。」
「腹の中ですか!?」
何だか混乱してきた。
よくわからないが、とにかくここは本当に現実的世界ではなく、世界から離れた場所と言うことだ。
ある意味冗談ではなく常世って事だ。
そしてそれは、大地の王という精霊の力の中にある空間だと言う。
大地の王の腹の中。
当たり前に行き来していた場所が、そんな場所だと知り、頭の中がぐるぐるする思いだった。
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