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第三王子編
会議と唐揚げ
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仕事終わりの遅い時間、俺たちは隊長室に集まっていた。
王宮と別宮で別れて仕事をしているので、この時間でないと集まれないのだ。
サムが妊娠中で新婚のライルさんには申し訳ない。
応接セットのテーブルには、食堂で買ってきた軽食が並んでいた。
「イヴァンがヤバそうだって言うから、どういう事情かと思ったら、こう言う事ね……?」
俺はそう言ってサンドイッチをかじった。
それをもごもご噛みながら考える。
俺たちは、王子の南の国からの招待について話し合っていた。
隣国が友好の為に、他国の王子を招待するのは珍しい事ではない。
ただ、第三王子の場合、少し複雑な事情があった。
俺は知らなかったのだが、王子はずっと昔から南の国の第一王子から求婚を受けていたらしい。
表立っての正式な求婚ではないのだが、再三、打診を受けていたと言うことだ。
「南の国から正式な招待が届いた。向こうも勝負に出るつもりだ。この訪問で婚約の申し込みをするつもりらしい。」
「うわ~。公の場でやられたら、断れないヤツじゃん、それ。」
俺は苦笑いした。
手段を選ばずとは、こう言う事だろう。
「こちらとしてもそれは避けたいので断っていた。だが向こうは公の場や、リオが断れない状況での求婚をはしないと公約してきた。リオの気持ちを第一にすると。ただとにかく一度南の国を訪れ、国と王太子を知ってもらいたいと。その上で断るなら、今後はもうその話はしないと言ってきている。」
「それはまた本気モードだね~。」
「年齢的にも限界だろ?ここで婚約出来なかったら、正式な形での結婚は立場的に無理だろうからな。」
顔を引き釣らすライルに、ガスパーは何でもないことのように言った。
低姿勢なのは、むしろ確実に仕留めるつもりでいるからだろう。
ここまで言われて断れば、外交摩擦になりかねない。
行くも行かぬも危険極まりないと言うことだ。
イヴァンが不思議そうに口を開いた。
「でも……、一応もう婚約者内定者がいますよね?南の王太子?」
「王族は、第一王太子妃が男性の場合のみ、女性の第二王太子妃を持てる事になっている。だから向こうも急いでいるんだ。」
「なるほどね~。色々切羽詰まってんだ。」
だいたいの事情はわかった。
わかったのだか、引っ掛かっているものがある。
サークは徐にそれを口にした。
「というかさ、そもそも何で王国は第三王子と南の王太子の婚約を断ってるんだ?」
場がしんと静まり返る。
俺の言葉に、全員が白い目を向けた。
え?何で??
当然の疑問だろ!?
非難の目にさらされて、サークはあわあわした。
「うわ~、サーク、最低~。」
「本っ当、お前ってウィル以外には非情な男だよなっ!ムカつくっ!」
「さすがの僕もこれはフォローしかねます。」
口々に言われ、サークは焦った。
確かに王子に想いを寄せられているような立場の自分がそれを言うのは、酷い男のようなものだけれども、今はそこが論点ではないはずだ。
「いや!待ってよ!そう言う意味じゃないんだよっ!!だって!求婚されてるっていつからだよ!?」
「……ちょうど俺とリオが出会った頃だから、5歳ぐらいだな。」
「ほら見ろ!俺と出会うよりずっと前じゃんかっ!!」
ギルが思い出すように言った。
サークは畳み掛けた。
「嫌な話だけど!政治的に考えれば、こう言うのって普通に子供の時に婚約するだろ?政略結婚になるから、幼い時に婚約して仲良くさせておく為に?それに南の国は港もあり温暖な気候で、交易も第一産業も活発で豊かな国だ。だから軍事力も強い。そこの第一王子からの求婚だろ?こっちの第一王子とだったらともかく、ライオネル殿下は第三王子だ。昔から体もあまり強くないから、跡継ぎ候補からは外れてるんだろ?だとしたら、第一王太子妃として南の国に嫁ぐって話は、王国的には歓迎すれど断る理由がないじゃないか?私的な感情抜きにして考えると、そこの疑問にぶつかるんだよ!」
一気に捲し立てたサークは、言い終えて、はあとため息をついた。
冷めたコーヒーを喉に流し込む。
さっきまで茶化していた面子も、これには少し黙った。
ほんの一瞬、ギルとガスパーがちらりと視線を合わせた。
他の皆は気づかなかったが、サークはそれを見ていた。
「……確かにそうなんですよね。実は僕も少し引っ掛かってました。」
「殿下は息子を王太子妃にするのに抵抗があるとか??」
「今時、それは考えにくくないか?いくら王族とはいえ、男性の妻を持つ人はいない訳じゃないだろ?」
俺はそう言いながら、ふたりの様子を見た。
ギルは何も言う気がないのか、目を伏せている。
すると仕方なさそうにガスパーが言った。
「そう言う意味では、サークの言う通りだよ。政治的に考えれば、殿下が求婚を受けて南の国の第一王太子妃になれば、相当有益な話だ。」
「なら、何でずっと断ってんだよ?」
「それは……。」
「表向きの政治的に考えれば、だからだ。サーク。」
ギルが釘を刺すように口を開いた。
お互い何か知っているが、申し合わせてはいないようだ。
「なら、裏で何かあるのか?」
「まあな。」
「何だよ、それは?」
「いずれお前が向き合う事になる問題だ。」
サークはぽかんとした。
は?え!?
ここでその話が絡んでくるのかよ!?
だとしたら、大問題だ。
事の大きさに、さすがに焦る。
「だから!それは何なんだよ!いい加減!教えろよっ!!」
「無理だな。」
「サーク、それ以上、突っ込むな。話題にする事も禁じられてんだよ。それ。」
今度はガスパーが牽制を出した。
仕方なく黙るが、一体何だと言うのか……。
王子の態度も気がかりなだけに、不安を募らせた。
「ガスパーと隊長はそれを知ってるの?」
不穏になりつつある雰囲気を和らげるように、ライルが言った。
ガスパーはやれやれといった風に答えた。
「俺は家柄的になんとなく察知してるだけだ。」
「ふ~ん。さすがは代々国王の宰相をしている一族だな?ガスパー?」
からかうようにクスッと笑って言ったイヴァンの言葉に、サークは食べようとしていた唐揚げを膝の上に落とした。
シミにならないよう慌てて拾って皿に乗せる。
「は!?ガスパーの家ってそう言うのなのか!?」
「うるせえな、そうだよ、悪かったな。ちなみにお前、俺の叔父に会ってるぜ。」
「は!?」
「王宮会議ん時だよ。お前の事、いけ好かない小生意気なヤツって言ってたぞ。」
「は!?はあ!?」
いったい誰だ!?
ヴィオールを見せて脅したから、あまり良い印象がないのは当然かもしれない。
がちゃがちゃし始めた場を嗜めるように、ギルが口を開いた。
「とにかくだ。今回の招待を断る事は出来ないと上は判断した。俺達はリオについて警護をすると同時に、この婚約を阻止しなければならない。そして無事にリオを王国に戻す。わかったな?」
有無を言わせないギルの言葉に、互いに顔を見合わせる。
何だかどんどん面倒な事が増えていくな、とサークは思いながら、唐揚げを噛み締めた。
王宮と別宮で別れて仕事をしているので、この時間でないと集まれないのだ。
サムが妊娠中で新婚のライルさんには申し訳ない。
応接セットのテーブルには、食堂で買ってきた軽食が並んでいた。
「イヴァンがヤバそうだって言うから、どういう事情かと思ったら、こう言う事ね……?」
俺はそう言ってサンドイッチをかじった。
それをもごもご噛みながら考える。
俺たちは、王子の南の国からの招待について話し合っていた。
隣国が友好の為に、他国の王子を招待するのは珍しい事ではない。
ただ、第三王子の場合、少し複雑な事情があった。
俺は知らなかったのだが、王子はずっと昔から南の国の第一王子から求婚を受けていたらしい。
表立っての正式な求婚ではないのだが、再三、打診を受けていたと言うことだ。
「南の国から正式な招待が届いた。向こうも勝負に出るつもりだ。この訪問で婚約の申し込みをするつもりらしい。」
「うわ~。公の場でやられたら、断れないヤツじゃん、それ。」
俺は苦笑いした。
手段を選ばずとは、こう言う事だろう。
「こちらとしてもそれは避けたいので断っていた。だが向こうは公の場や、リオが断れない状況での求婚をはしないと公約してきた。リオの気持ちを第一にすると。ただとにかく一度南の国を訪れ、国と王太子を知ってもらいたいと。その上で断るなら、今後はもうその話はしないと言ってきている。」
「それはまた本気モードだね~。」
「年齢的にも限界だろ?ここで婚約出来なかったら、正式な形での結婚は立場的に無理だろうからな。」
顔を引き釣らすライルに、ガスパーは何でもないことのように言った。
低姿勢なのは、むしろ確実に仕留めるつもりでいるからだろう。
ここまで言われて断れば、外交摩擦になりかねない。
行くも行かぬも危険極まりないと言うことだ。
イヴァンが不思議そうに口を開いた。
「でも……、一応もう婚約者内定者がいますよね?南の王太子?」
「王族は、第一王太子妃が男性の場合のみ、女性の第二王太子妃を持てる事になっている。だから向こうも急いでいるんだ。」
「なるほどね~。色々切羽詰まってんだ。」
だいたいの事情はわかった。
わかったのだか、引っ掛かっているものがある。
サークは徐にそれを口にした。
「というかさ、そもそも何で王国は第三王子と南の王太子の婚約を断ってるんだ?」
場がしんと静まり返る。
俺の言葉に、全員が白い目を向けた。
え?何で??
当然の疑問だろ!?
非難の目にさらされて、サークはあわあわした。
「うわ~、サーク、最低~。」
「本っ当、お前ってウィル以外には非情な男だよなっ!ムカつくっ!」
「さすがの僕もこれはフォローしかねます。」
口々に言われ、サークは焦った。
確かに王子に想いを寄せられているような立場の自分がそれを言うのは、酷い男のようなものだけれども、今はそこが論点ではないはずだ。
「いや!待ってよ!そう言う意味じゃないんだよっ!!だって!求婚されてるっていつからだよ!?」
「……ちょうど俺とリオが出会った頃だから、5歳ぐらいだな。」
「ほら見ろ!俺と出会うよりずっと前じゃんかっ!!」
ギルが思い出すように言った。
サークは畳み掛けた。
「嫌な話だけど!政治的に考えれば、こう言うのって普通に子供の時に婚約するだろ?政略結婚になるから、幼い時に婚約して仲良くさせておく為に?それに南の国は港もあり温暖な気候で、交易も第一産業も活発で豊かな国だ。だから軍事力も強い。そこの第一王子からの求婚だろ?こっちの第一王子とだったらともかく、ライオネル殿下は第三王子だ。昔から体もあまり強くないから、跡継ぎ候補からは外れてるんだろ?だとしたら、第一王太子妃として南の国に嫁ぐって話は、王国的には歓迎すれど断る理由がないじゃないか?私的な感情抜きにして考えると、そこの疑問にぶつかるんだよ!」
一気に捲し立てたサークは、言い終えて、はあとため息をついた。
冷めたコーヒーを喉に流し込む。
さっきまで茶化していた面子も、これには少し黙った。
ほんの一瞬、ギルとガスパーがちらりと視線を合わせた。
他の皆は気づかなかったが、サークはそれを見ていた。
「……確かにそうなんですよね。実は僕も少し引っ掛かってました。」
「殿下は息子を王太子妃にするのに抵抗があるとか??」
「今時、それは考えにくくないか?いくら王族とはいえ、男性の妻を持つ人はいない訳じゃないだろ?」
俺はそう言いながら、ふたりの様子を見た。
ギルは何も言う気がないのか、目を伏せている。
すると仕方なさそうにガスパーが言った。
「そう言う意味では、サークの言う通りだよ。政治的に考えれば、殿下が求婚を受けて南の国の第一王太子妃になれば、相当有益な話だ。」
「なら、何でずっと断ってんだよ?」
「それは……。」
「表向きの政治的に考えれば、だからだ。サーク。」
ギルが釘を刺すように口を開いた。
お互い何か知っているが、申し合わせてはいないようだ。
「なら、裏で何かあるのか?」
「まあな。」
「何だよ、それは?」
「いずれお前が向き合う事になる問題だ。」
サークはぽかんとした。
は?え!?
ここでその話が絡んでくるのかよ!?
だとしたら、大問題だ。
事の大きさに、さすがに焦る。
「だから!それは何なんだよ!いい加減!教えろよっ!!」
「無理だな。」
「サーク、それ以上、突っ込むな。話題にする事も禁じられてんだよ。それ。」
今度はガスパーが牽制を出した。
仕方なく黙るが、一体何だと言うのか……。
王子の態度も気がかりなだけに、不安を募らせた。
「ガスパーと隊長はそれを知ってるの?」
不穏になりつつある雰囲気を和らげるように、ライルが言った。
ガスパーはやれやれといった風に答えた。
「俺は家柄的になんとなく察知してるだけだ。」
「ふ~ん。さすがは代々国王の宰相をしている一族だな?ガスパー?」
からかうようにクスッと笑って言ったイヴァンの言葉に、サークは食べようとしていた唐揚げを膝の上に落とした。
シミにならないよう慌てて拾って皿に乗せる。
「は!?ガスパーの家ってそう言うのなのか!?」
「うるせえな、そうだよ、悪かったな。ちなみにお前、俺の叔父に会ってるぜ。」
「は!?」
「王宮会議ん時だよ。お前の事、いけ好かない小生意気なヤツって言ってたぞ。」
「は!?はあ!?」
いったい誰だ!?
ヴィオールを見せて脅したから、あまり良い印象がないのは当然かもしれない。
がちゃがちゃし始めた場を嗜めるように、ギルが口を開いた。
「とにかくだ。今回の招待を断る事は出来ないと上は判断した。俺達はリオについて警護をすると同時に、この婚約を阻止しなければならない。そして無事にリオを王国に戻す。わかったな?」
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