欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第三王子編

竜の谷の槍使い

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「あ、そうだ、マダム。俺、名前が変わったんです。」

同行者登録を書きながら、サークふと思い出してそう言った。
マダムが呆れたようにため息をついた。

「今度は何をやらかしたんだい?サーク?」

「ええ、実は准男爵の爵位をもらいまして。とは言っても、土地もない形だけの肩書きなんですけどね。いい機会だったんで、名字を変えました。アズマ・サークになったんですよ。」

「……あんたは本当に情報量が多いね。何だって変えたんだい?」

「ハクマの名字は、魔術学校に行くために、形だけ養子になって貸してもらっていたものなんです。」

「ふ~ん。アズマね……。何だっで東なんだい??」

「あははっ!アズマって聞いてすぐ東って言ったのは、マダムで二人目です。実は俺、東の共和国出身なんです。だからアズマにしました。」

「……単純だね?まぁわかったよ、手続きしておいてやるよ。」

マダムはそう言うと、引き出しからさっきとは別の眼鏡を出して何かの書類を書きはじめた。
サークも自分の同行者登録を書き続ける。

「そう言えば、ウィルって剣士でいいのか?」

「そうだね。本当は剣より槍が得意なんだけど。」

「え!?そうなの!?」

「うん。」

「さすが馬上の貴公子……。」

ウィルが長い槍を持っているのは想像できなかったが、考えてみれば騎馬隊にいたのだ。
槍を扱っていても何の不思議もない。

「なら、槍使いかランサーって書いときな。」

俺たちの会話を聞いていたのか、マダムが書類から目を離さずに言った。
それに困ったようにウィルが苦笑した。

「ですがマダム。残念ながら私は今、槍を持っていません。」

「……槍ね、いくつかあるよ。買うかい?」

ちらりとウィルを見て、マダムは奥に入っていった。
大きな木箱を開けて中を確認している。

「ちょっとサーク!手伝いなっ!!」

「え?あ、はい。」

呼ばれてサークはカウンターの中に入り、長くて重い箱を持たさせられる。
それを食堂のテーブルまで運び、中のものを出した。
食堂にいた他の冒険者達もぞろぞろと見に来る。

「へぇ!マダム!良い武器だな!」

「槍使いはあまりいないからね。売れ残りさ。」

5本の槍が並び、皆と一緒にウィルがそれを見ていた。
そのうちの一本をウィルが驚いたような顔で手に取った。

「………これは……っ!」

「お目が高いね?この中で一番いいヤツだ。ナイト・オブ・ザ・ドラコン。別名、竜颯の槍だ。製作者も作られた場所も、製造方法もわからない。謎の多いお宝さ。」

その言葉に俺はハッとした。
ウィルの態度からもわかる。
おそらくこれは、竜の谷で作られたものだ。

「……これ、いくらですか?」

「値段はつけられないね?おそらくふたつとないものだから。」

「そこを何とかっ!!」

あまり物欲を示さないウィルが、その槍を掴んだまま離さずにいる。
きっと今は遠い故郷の品なのだ。
これは何とか手に入れてあげたいとサークは思った。
サークとウィルのふたりを見比べ、マダムがニヤリと笑った。

「そうだね……月々これぐらいでどうだい?」

そう言ってマダムはサークに耳打ちした。
その顔が青ざめる。

「な、何回ですか……?」

「一年。」

「12回っ!?」

「嫌ならいいよ。」

ニヤッと笑ってマダムが言う。
サークは悔しそうにぎろりとマダムをねめた。
くそうっ足元見やがってっ!!
正直12回は痛いが、払えない額じゃない。
だが、少々痛手な額だ。
サークが買うであろうギリギリのラインをマダムは提示したのだ。
何でもお見通しなマダムらしい商売戦略だ。
そんなやり取りを聞いていたウィルが、困ったように笑った。

「サーク、無理しなくていいぞ?他の槍も良いものだから、買えそうなのを買えばいいし。」

何ならここで買わなくても、武器屋に行けば適当な槍があるだろう。
ウィルはそう言った意味も込めて、サークを見た。
それを受けてサークの気持ちも少し揺らぐ。
この槍を買ってあげたいが、減俸3ヶ月を食らった後の身では少し慎重になる。
いずれプレゼントする事にして、今回は諦めるのもひとつの手だ。
だが、マダム相手にサークが敵う訳がない。

「ほ~う、サーク?あんたは奥さんが欲しがっているものも買ってやる甲斐性もないのかい?」

「奥さん??」

その言葉にウィルが不思議そうな顔をした。
マダムはしれっとした顔でサークを見る。
何を言いたいのかはすぐにわかった。
まずい!とサークは慌てたが、一歩遅かった。
マダムは無言で、サークが書いていた同行者登録書を掲げた。

「……同行者……妻、アズマ・ウィリアム……??」

それをその場にいた冒険者の一人が読み上げた。
少しの静寂が辺りを包む。
次の瞬間、かっとウィルが真っ赤になった。
わなわなと震えてサークを睨む。

「……サークっ!!俺はまだアズマじゃないっ!!婚約はしたが!結婚はまだしてないっ!!」

バレてしまった。
どうせウィルは見てないのだしと、ついうっかり、願望のまま上機嫌で書いてしまったのだ。
凄い剣幕で怒られ、サークは開き直った。

「いいじゃん!いずれ結婚するんだし!!また書き直しに来る必要がなくなるじゃんっ!!」

「そう言う問題じゃないっ!!」

真っ赤になったウィルは、恥ずかしさのあまり、我を忘れた。
感情のままに槍を手に構える。
サークはウィルの本気モードにぎょっとした。
え?マジ!?
て言うか、あの長い槍を片手で軽々扱ってるんだけど??
本当に俺の可愛いいウィルさん!?

「……うわっ!?ごめんなさい!!書き直しますっ!!」

結構、マジでヤバそうだと思ったサークはすぐに謝った。
何だかわからなかったが、ウィルとこの槍の組み合わせはまずいと思った。
その言葉にウィルは構えを解いてくれた。

「何でも良いけど、もう、登録しちまったよ。」

だがここでマダムが爆弾を投げてきた。
青ざめる俺、怒り心頭のウィル。

「……サークっ!!」

「うわ~!ごめんなさい~っ!!」

サークはそう叫んで外に逃げ出した。
竜颯の槍を持ったまま、ウィルはそれを追いかける。
冒険者の面々が窓からそれを見ていた。

「あの美人さん、やるねぇ~。まるで体の一部みたいに槍を使ってるよ~。」

「久しぶりに良い槍使いを見たな~。」

「結婚しても、あれは尻に敷かれるな?」

「まぁ、その方が幸せってもんだろ。」

追い回されるサークを見ながら、ほのぼのとそれを見守る。
だがまあ、これで購入は確定だろう。
マダムは他の槍を箱に仕舞うと、面倒そうにため息をついた。

「あの子達はクエストに行く気があるのかねぇ?全く……。」

そう言ってカウンターに戻り、タバコをふかした。
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