欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第三王子編

できなくはない

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「なぁ……まさかこれか!?」

「だって他にないし。無理そう??」

俺は魔術本部に行こうと詰め所になっている建物の一部屋を訪れた。
ギルが臨時隊長室として使っている、小さな倉庫みたいな場所だ。

部屋には本棚や色々なものが押し込まれている。
隊員の寝床としては使えなかったこの部屋を、ギルは仕事部屋にしたようだった。

魔術本部に行くために、俺がどんな部屋を必要としているかシルクはわかっている。
部屋の中に、鍵つきの扉のある部屋だ。
以前、俺はシルクの前で大きな鍵つきのクローゼットでそれを行って見せた。
だから今回もそういうものだと思っていたのだ。

「……これか……。通れるか!?」

俺の目の前にあるものを見つめる。
ロッカーだ。
個人用の細長いロッカー。
邪魔になってここに放置されていたのだろう。
シルクは中身を全部出しておいてくれたが、入れるか怪しい。
正直、顔が強ばってしまった。

「イケるイケるっ!!ほら見て!!」

シルクはそう言って、ロッカーの中に入ってしまった。
マジか……。
案外、すっぽり入るもんだ。
妙な高揚感を覚え、楽しくなってくる。

「お、おお~。それ、扉閉めれるか?」

「よいしょっ!!ほら!できた!!」

「お、おう……イケる……のか!?」

目の前で起きていることが不思議だ。
いい大人が、細身の個人ロッカーに入ると言う奇行を行っているのだ。
しかも物凄く真剣に。

「ほら!主も試してみて!?」

そう言われて、とりあえず入ってみる。

…………。

おお、イケなくは……ないな??
扉も閉めれるし。

ヤバい、ちょっと楽しい。
細身で体が柔らかいシルクだからできるのかと思ったら、意外に俺もすんなりイケてしまった。
ただ、閉塞感は半端ねぇな!?
これ!?

「うわ~イケるわ、これ……。」

「でしょ!?」

シルクが得意満面に笑うので頭を撫でてやった。
いやでも魔術本部に行くのに、個人ロッカーを使った人はどれくらいいるだろうか……。

多分、俺が初めてだな。
うん。

とはいえ迷っている時間はない。
早く行って素早く帰ってこなければ……。
俺は首から下げている鍵を取り出した。

「主……っ!!」

シルクが後ろから抱きついてきた。
思わずつんのめる。

「うわっ!!危ないな!シルク!?」

「主……。大丈夫、大丈夫だよ?何とかなる。……もし、どうにもならなくてこの国に来ることになっても、俺は主についていくからね?だから大丈夫だよ?」

「シルク……。」

俺は腕をほどいてシルクと向き合った。
ぎゅっと正面からハグをして背中を叩く。

「心配すんな。何とかなる。」

「うん……。」

そうだ。
俺がこの国に来ることになったら、シルクは俺についてくる。

それは、ギルとシルクを引き離す事をさす。

シルクはそれをわかっているのだろう。
それでも俺についてくると言った。
俺は主として、そんな覚悟をシルクにさせてしまった事を悔やんだ。

シルクが見つけた新しい居場所。
その生活。

全てが主である俺に左右されるのだ。
こいつだって、自由に幸せを掴んでいいはずなのに。
それでも、シルクにとってあの誓いは何より重いのだ。
だから主の俺がもっと気遣ってやらなければならない。
これは俺1人の問題じゃないのだ。

「ごめんな、シルク。心配かけて。大丈夫。絶対何とかするから。」

「うん……。」

体を離し、眉をへの字にして笑うシルクの頭を撫でる。
皆が俺に協力してくれる。
だから大丈夫だ。

「戻るまで、誰も部屋に入れるなよ?」

「大丈夫だって!わかってるよ。」

「……行ってくる。」

「うん。行ってらっしゃい。」

俺はそう言ってロッカーと向き合った。
何ともシュールだ。
扉を閉めて鍵穴に鍵を差して回す。
鍵の大きさは合ってないが、不思議なことにちゃんと回るのだ。

ガチャッと扉を開き、中に入り込む。
そして狭い中で後ろ手に扉を閉めた。


「……うわっ!!リリ!?ムク!?」


目の前はもう、森の町の俺の家だ。
扉を閉めて前を向くと、何故かリリとムクが目の前にいて不思議そうに俺を見上げていた。

「サーク、お帰り。」

「サーク、変なところから来たね?あの扉は何の扉??」

う~ん。

ロッカーとは言えない……。
教育上、あれは教えてはいけない気がする…。
純粋無垢な瞳に見つめられ、俺は言葉に詰まってしまった。












「あははっ!!それでロッカーから帰ってきたのかいっ!!サーク!!」

目の前の現実が、とても非現実的だ。
本当、どうしてこの人たちは、いつも底抜けに明るいんだろうか?
俺の呼び掛けに集まってくれた魔術本部の面々は、いつものように俺を取り囲んで爆笑中だ。

「いや、だって他に方法もなかったですし、時間もなくて……。」

「初めてじゃないかしら?ロッカーを使うなんて?」

「ああ、オービーが牢屋から帰ってきた時以来の面白さだね。」

「いやはや、あれにも驚いたわい。」

そしてゲラゲラと笑う。
それまで緊迫した空気の中にいたので、今一つ、この状況に頭がついていかない。
何か、向こうにある緊張感を足して2で割ってしまいたい。
そしたらどちらも、ちょうどよくなるのに。

「それにしてもさすがだね、サーク。もう王の種に近づいたなんて。」

「いや、王の種に近づいた訳ではないですよ。ただ急に思い出して気になって……。」

「そう言うのは大事なことだ。目で見えるものが全てではない。その中で君が急に頭に浮かんだのなら、見えない何かを君が掴んだって事だよ。」

ロイさんが皆にコーヒーを配りながらそう言った。
さっき話題に上がったオービーさんが、チョコレートを盛り付けた皿を中央に置く。

「オービー、サークはロッカーから帰ってきたそうだよ?」

「聞こえとったよ。サーク、いい鍵の使い方だ。」

「いい使い方ですかね……?」

愉快そうにウインクされ、俺は苦笑いした。
どう考えても教育上よろしくないし、後世に「鍵の使い方」として残せるものではないと思う。
本当、ここでは常識も何もあったものじゃない。

「それで?南の国の王太子がどうしたって?」

「はい。とにかく、彼は第三王子に幼い頃から執着して求婚していました。ですが不思議なことに王国はそれを絶対に阻止したいのです。王子には何か秘密があるようで、探って見たところ物凄い魔力の塊みたいなものを中に持っています。そのせいで存在にブレが生じている程です。」

「なるほど……。」

「王太子が是が否にも王子を欲しがるのはそのせいではないかと思われます。てっきり本当に惚れてるのかと思ってたんですけどね。王太子はどうやら匂いで魔力を感知できるようで、何故か俺の匂いを嗅いだ後、王子を諦める代わりに俺を寄越せと言ってきたんです。ロイヤルシールドのチタニアさんは、俺が血の魔術を使える特殊タイプだからではないかと言っていました。本当のところはわかりませんが、王太子が魔力を感知できて王子や俺を必要としているのは確かだと思います。」

「う~ん。そしてサークはその事を考えている時に、王の種の事を思い出したんだね?」

「はい。どうしてかはわかりません。南の国が王の種に関わりがあるのか、もしくは王子が関わりがあるのかはわかりません。何の関係もないかも知れませんし……。」

「いや、そのタイミングで、王の種の鍵であるサークが思い浮かべたんだ。何らかの関わりがあると思うよ。」

うん、そう言われると思っていた。
やはりこの一件には、王の種が遠からず関わって来るのだろう。
でもだからと言って、今はそれ以上の事はわからなかった。

「……王子の秘密については?」

「よくわかりません。ギルは知っていますが、彼の口からは話せないそうです。国のかなり高い秘密のようです。」

「なるほど……。他に知っている人は?」

「友人が代々家族が宰相をしている一族なのですが、はっきり聞いた訳ではないけれど彼はなんとなく知っていると言っていました。そしてそれがかなり重要な秘密であると認識しています。」

「……そうか。なら現在の王国の宰相は、それが何かおそらく知っているだろうね?」

「知っているとは思いますが……。」

向かいに座っていたロイさんが、徐にそう言って静かにコーヒーを口に運んだ。
俺は手を伸ばしてチョコレートをとって口に入れる。
ビターチョコだった。
それをもごもご口の中で転がす。
ロイさんはカップをトレーに戻すと、にっこり笑った。

「うん。なら私が彼に聞いてみるよ。」

「え!?誰にですか!?」

「ルーイに。」

ルーイ??

俺は王宮会議の時の事を思い出していた。
確かルードビッヒって呼ばれていた、蛇みたいな人だ。
ロイさんとは何か因縁がありそうだったけど、大丈夫なのだろうか!?

「あはは、サーク!考えている事が顔に書いてあるよ?大丈夫だよ。ああ見えて、私たちはとても仲がいいんだ。すぐとはいかないだろうけど、きっと彼は私に教えてくれるよ。……こっそりだけどね?」

何なんだろう?
ロイさんのこの自信は!?
逆に何か不安になる……。

「時間もないようだから私はすぐに行くよ。他の件は、皆、よろしく頼むよ。」

ロイさんはスリーピースのスーツのボタンを留めると、立ち上がって部屋を出ていった。
皆は気にしていないようだが、大丈夫だろうか?本当に??
どうしてか妙にどぎまぎしてしまう。
俺は何故か、ロイさんの無事を祈ってしまった。
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