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第三王子編
癖っ毛と石鹸
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俺が戻ってきたのは、深夜を過ぎた頃だった。
ギルによれば、王子の方は特に何もなかったそうだ。
夕食も体調が悪いと部屋でとり、王太子も何も言って来なかったそうだ。
お見舞いと称して花束が届けられただけで、他には何もない。
それはもう、不気味なほど静かだったという。
「何か、かえって嫌な感じだ。」
「そうだな。」
俺は魔術本部との話を報告した。
シルクは一緒にいると言ったが、今後、何が起こるかわからなかったので、寝ておけと命じて寝てもらった。
俺とギルはわかったことや今の状況を考慮して、今後の事を少し話し合った。
ギルはこのまま自分が警護に入り、俺は王太子の目に触れないようにした方がいいと言ったが、それは断った。
あまり動きを変えると向こうの動きを加速させるかもしれないし、何より逃げ隠れするのは性に合わなかった。
来るなら来い、返り討ちにしてやる。
俺がそう言うとギルは苦笑した。
お前はそういう男だよな、と。
俺の事はさておき、王子の事だ。
俺を身代わりにとは言ったが、王子を完全に諦めたとは思い難い。
そしてこの状況になったのだから、向こうが何かしてくるとしたらかなり覚悟を決めて強引な手段に出るだろう。
「俺は緊急撤退を視野に入れた方がいいと思う。次、何かあるなら手段は選ばないだろうから。」
「そうだな……。」
「何かあったらすぐに行動できるように準備しておいてくれ。」
「わかった。」
「代わってくれてありがとな。俺は警護に戻るよ。夜中なら向こうもわざわざ俺にちょっかいかけにも来ないだろうし。お前も寝とけよ、ギル。本当、緊急撤退とかになったら、リーダーであるお前に一番負荷がかかるんだから。」
「ああ……。」
反対するかと思ったら、案外、あっさり俺が警護に戻るのを認めた。
俺よりずっと王太子を知っているから、このままでは終わらない事を誰よりもわかっているのかもしれない。
「いっそ、体調不良を理由に帰国したいって、こっちから言うか?」
無表情を変えないギルの中に、相当な重圧を垣間見て俺はそう言った。
ギルはこの一団の総責任者だ。
南の国に対して粗相があっても責任を問われるし、王子に何かあっても責任を問われる。
おまけに密命で、求婚は断って無事に王子を連れて帰らなければならないのだ。
王子の秘密を知っているギルだからこそ、その重さは半端ではないのだろう。
俺の言葉にギルは何も言わず首を横にふった。
こちらの勝手で帰ると言うのも、南の国との関係を保つためには難しいのだろう。
「……大丈夫か?お前?」
椅子に座り、肘をついて俯いているギルの肩に手を置いた。
その手にギルが手を置いたと思った次の瞬間、いきなり引っ張られた。
「……うわっ!?」
俺は体勢を崩し、引っ張られるままストンとギルの膝の上に尻餅をついた。
そのまま腕を回されて固定される。
「おい!」
ムカッとして声を荒げたが、後ろから肩に顔を埋めておとなしくしているので、少し時間をやることにした。
俺はため息をつきじっとしている。
ギルが肩越しで大きく深呼吸をした。
「……何してんだよ?お前?」
「どんな匂いなのかと思ってな……。」
「それで?」
「……よくわからん。」
そりゃな、別に何も匂うわけないし。
王太子が嗅いでいたのは、体臭じゃなくて魔力だしな。
シルクと付き合うようになってから、ぶちギレた時以外は俺に甘えて来ることはなくなっていたので少し驚いた。
こいつって何なんだろうな?
お互いの関係が曖昧すぎて、いつも対応に困る。
「………すまない。」
「何が?」
「お前を守れなかった……。」
「は??何でお前が俺を守らなきゃいけないんだ??気にすんなよ、誰もこうなるなんて予想してなかったんだし。ガスパーも頑張ってくれてるし、魔術本部も釘を刺してくれるから何とかなるさ。お前が気に病む事じゃないだろ?」
「……一番、言われたくない事ばかり言うな。」
「は??」
「俺はお前を守りたかった……のに守れなかった……こうなっても……俺には何も出来ない……。」
「仕方ないだろ?人には得意と不得意があるんだから。全部、自分ができると思うなよ。お前はお前の得意とするところをやればいいんだよ。仲間だろ?」
「仲間と一括りにされるのは嫌だ……。」
「我が儘だし可愛くねぇ。ガスパーは仲間だってだけであんなに喜んでくれたのに……。」
「…………。」
お決まりの黙りである。
まったく、色々変わったようで何も変わらない。
「ほら、そろそろ離せ。警護に戻る。」
俺はそう言って立ち上がった。
ギルは何も言わずに座ったまま俺を見上げる。
何か子供みたいな可愛い顔してるな?
少しほだされて頭を撫でる。
相変わらず触り心地のいい髪だ。
「お前……シャンプー、何使ってるんだ??」
「石鹸。」
「は??嘘だろ??」
「嘘じゃない。石鹸で洗ってるぞ?」
う~ん。
確かに肌に合えば、純粋な石鹸で洗って中和した方が髪にいいとも言うしな……。
今度、試してみようかな……。
癖っ毛が良くなるかもしれないし。
するすると髪を鋤きながらそんな事を考えていると、ガシッと腕を捕まれた。
「うおっ!何!?」
「いい加減、やめろ……。」
「あ、悪い。」
「……襲われたくなければ早く行け。」
「あ、はい。すみません。」
そう言われて、俺は慌てて部屋を出て王子の警護に向かった。
ギルと代わってくれていたファレルさんにお礼を言ってドアの前に立つと、イヴァンがちらりと俺を見た。
「何かありましたか?」
「ああ、魔術本部が全面的に圧力をかけてくれる事になった。だからいきなりこっちに引き渡されたりはしないと思う。」
「……そっちじゃなくて。」
「は??」
「ん~。ま、いいです。たいしたことじゃ無さそうですし。」
「変なヤツだな?」
イヴァンは意味ありげに笑ったが、多分、聞いても答えないだろう。
俺はおもむろに手を伸ばして、イヴァンの髪を掴んだ。
「痛っ!?何するんですか!?」
「イヴァン、お前、シャンプー何使ってる??」
「はい??」
「癖っ毛仲間として参考にしたい。」
俺はイヴァンの髪をわしわししながら聞いた。
こいつも俺と同じでちょっと癖っ毛だよな~。
ちょっと癖っ毛が一番困るんだよ、本当。
寝癖も直りにくいし。
「ええと~??特にこだわってませんが……??」
「なんだよ、参考にならん。」
「すみません……??」
頭に疑問符をたくさん浮かべるイヴァンをよそに、俺はイヴァンの髪から手を離し、自分の髪の毛をわしわし触った。
う~ん??
どうやったらあんなサラサラヘアーになるんだろう??謎だ。
ギルによれば、王子の方は特に何もなかったそうだ。
夕食も体調が悪いと部屋でとり、王太子も何も言って来なかったそうだ。
お見舞いと称して花束が届けられただけで、他には何もない。
それはもう、不気味なほど静かだったという。
「何か、かえって嫌な感じだ。」
「そうだな。」
俺は魔術本部との話を報告した。
シルクは一緒にいると言ったが、今後、何が起こるかわからなかったので、寝ておけと命じて寝てもらった。
俺とギルはわかったことや今の状況を考慮して、今後の事を少し話し合った。
ギルはこのまま自分が警護に入り、俺は王太子の目に触れないようにした方がいいと言ったが、それは断った。
あまり動きを変えると向こうの動きを加速させるかもしれないし、何より逃げ隠れするのは性に合わなかった。
来るなら来い、返り討ちにしてやる。
俺がそう言うとギルは苦笑した。
お前はそういう男だよな、と。
俺の事はさておき、王子の事だ。
俺を身代わりにとは言ったが、王子を完全に諦めたとは思い難い。
そしてこの状況になったのだから、向こうが何かしてくるとしたらかなり覚悟を決めて強引な手段に出るだろう。
「俺は緊急撤退を視野に入れた方がいいと思う。次、何かあるなら手段は選ばないだろうから。」
「そうだな……。」
「何かあったらすぐに行動できるように準備しておいてくれ。」
「わかった。」
「代わってくれてありがとな。俺は警護に戻るよ。夜中なら向こうもわざわざ俺にちょっかいかけにも来ないだろうし。お前も寝とけよ、ギル。本当、緊急撤退とかになったら、リーダーであるお前に一番負荷がかかるんだから。」
「ああ……。」
反対するかと思ったら、案外、あっさり俺が警護に戻るのを認めた。
俺よりずっと王太子を知っているから、このままでは終わらない事を誰よりもわかっているのかもしれない。
「いっそ、体調不良を理由に帰国したいって、こっちから言うか?」
無表情を変えないギルの中に、相当な重圧を垣間見て俺はそう言った。
ギルはこの一団の総責任者だ。
南の国に対して粗相があっても責任を問われるし、王子に何かあっても責任を問われる。
おまけに密命で、求婚は断って無事に王子を連れて帰らなければならないのだ。
王子の秘密を知っているギルだからこそ、その重さは半端ではないのだろう。
俺の言葉にギルは何も言わず首を横にふった。
こちらの勝手で帰ると言うのも、南の国との関係を保つためには難しいのだろう。
「……大丈夫か?お前?」
椅子に座り、肘をついて俯いているギルの肩に手を置いた。
その手にギルが手を置いたと思った次の瞬間、いきなり引っ張られた。
「……うわっ!?」
俺は体勢を崩し、引っ張られるままストンとギルの膝の上に尻餅をついた。
そのまま腕を回されて固定される。
「おい!」
ムカッとして声を荒げたが、後ろから肩に顔を埋めておとなしくしているので、少し時間をやることにした。
俺はため息をつきじっとしている。
ギルが肩越しで大きく深呼吸をした。
「……何してんだよ?お前?」
「どんな匂いなのかと思ってな……。」
「それで?」
「……よくわからん。」
そりゃな、別に何も匂うわけないし。
王太子が嗅いでいたのは、体臭じゃなくて魔力だしな。
シルクと付き合うようになってから、ぶちギレた時以外は俺に甘えて来ることはなくなっていたので少し驚いた。
こいつって何なんだろうな?
お互いの関係が曖昧すぎて、いつも対応に困る。
「………すまない。」
「何が?」
「お前を守れなかった……。」
「は??何でお前が俺を守らなきゃいけないんだ??気にすんなよ、誰もこうなるなんて予想してなかったんだし。ガスパーも頑張ってくれてるし、魔術本部も釘を刺してくれるから何とかなるさ。お前が気に病む事じゃないだろ?」
「……一番、言われたくない事ばかり言うな。」
「は??」
「俺はお前を守りたかった……のに守れなかった……こうなっても……俺には何も出来ない……。」
「仕方ないだろ?人には得意と不得意があるんだから。全部、自分ができると思うなよ。お前はお前の得意とするところをやればいいんだよ。仲間だろ?」
「仲間と一括りにされるのは嫌だ……。」
「我が儘だし可愛くねぇ。ガスパーは仲間だってだけであんなに喜んでくれたのに……。」
「…………。」
お決まりの黙りである。
まったく、色々変わったようで何も変わらない。
「ほら、そろそろ離せ。警護に戻る。」
俺はそう言って立ち上がった。
ギルは何も言わずに座ったまま俺を見上げる。
何か子供みたいな可愛い顔してるな?
少しほだされて頭を撫でる。
相変わらず触り心地のいい髪だ。
「お前……シャンプー、何使ってるんだ??」
「石鹸。」
「は??嘘だろ??」
「嘘じゃない。石鹸で洗ってるぞ?」
う~ん。
確かに肌に合えば、純粋な石鹸で洗って中和した方が髪にいいとも言うしな……。
今度、試してみようかな……。
癖っ毛が良くなるかもしれないし。
するすると髪を鋤きながらそんな事を考えていると、ガシッと腕を捕まれた。
「うおっ!何!?」
「いい加減、やめろ……。」
「あ、悪い。」
「……襲われたくなければ早く行け。」
「あ、はい。すみません。」
そう言われて、俺は慌てて部屋を出て王子の警護に向かった。
ギルと代わってくれていたファレルさんにお礼を言ってドアの前に立つと、イヴァンがちらりと俺を見た。
「何かありましたか?」
「ああ、魔術本部が全面的に圧力をかけてくれる事になった。だからいきなりこっちに引き渡されたりはしないと思う。」
「……そっちじゃなくて。」
「は??」
「ん~。ま、いいです。たいしたことじゃ無さそうですし。」
「変なヤツだな?」
イヴァンは意味ありげに笑ったが、多分、聞いても答えないだろう。
俺はおもむろに手を伸ばして、イヴァンの髪を掴んだ。
「痛っ!?何するんですか!?」
「イヴァン、お前、シャンプー何使ってる??」
「はい??」
「癖っ毛仲間として参考にしたい。」
俺はイヴァンの髪をわしわししながら聞いた。
こいつも俺と同じでちょっと癖っ毛だよな~。
ちょっと癖っ毛が一番困るんだよ、本当。
寝癖も直りにくいし。
「ええと~??特にこだわってませんが……??」
「なんだよ、参考にならん。」
「すみません……??」
頭に疑問符をたくさん浮かべるイヴァンをよそに、俺はイヴァンの髪から手を離し、自分の髪の毛をわしわし触った。
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