欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

文字の大きさ
39 / 94
第八章①「疑惑と逃亡編」

28日後

しおりを挟む
南の国から帰ってきて、約1ヶ月。
状況は膠着状態だった。

ギルとガスパーが頻繁に王宮に呼ばれているが、未だ結論は出ない。

だって出しようがないよな。
こっちは何も悪くないのだから。

一体、何で王国は南の国に毅然とした対応をしないのだろう?
向こうが仕掛けてきて、向こうが無理難題言いがかりをつけていると言うのに。

俺がそう言うと、ガスパーが苛立ちながら教えてくれた。
政治力は王国の方が上だが、軍事力は向こうが上回ってしまったのだと。

今までは中央王国が政治力も軍事力も高かったので、東西南北に対する圧力になりどこも戦争を起こさなかったのだ。
だが経済が豊かな南の国が徐々に軍備を上げていき、ついに上回ってしまったのだ。

政治力が強いなら南の軍備強化も止められなかったのかと聞いたが、海洋に接している為の海の魔物対策だったり、経済が豊かゆえに町の治安を守る為等、細かな理由をつけられ、本当に少しずつ少しずつ増やしていき、気づいたら拮抗状態に陥ったいた。
まぁ、南の国の戦略勝ちと言ったところだ。
そこを様々な交易に目をとられ見抜けなかった南国担当大臣の失策で、さらに拮抗状態での駆け引きに負けた訳だ。

そしてそれをやってのけたのが、かの王太子、グレゴリウス・バフル・ゾル・ティーナンだ。
ただの傲慢な南国男かと思っていたが、そうではないらしい。
ガスパーでさえ、あれは只者ではない野心家だと評した。

ちなみに、王太子にしてやられた当時の南国担当大臣はグリステン公爵だ。
今は解任され別の人が担当らしいが、ガスパー曰く、王太子に対抗できる男じゃないそうだ。
まあ向こうに言われるまま、王子の南の国への訪問を強行させた事からもそれはよくわかる。

とはいえ、ここに繋がるわけね?
あの事件。

あの事件ってのは、俺が騎士を与えられた理由である、王子の襲撃事件だ。
そこにあの王太子が関わっていたかは不明だが、もし関わっていたならば、あいつは俺の平和な外壁警備生活を奪った事になる。

まぁ、あれがあったから今があって、仲間と呼べる奴らが増えて、帰れる場所も増えて、地獄まで同行させる片腕に出会って、最愛の恋人にも出会えたのだから文句はないけれど。

ただそうだったなら酷く気持ちが悪い。
出会うずっと前から、あの王太子が俺の人生に関わっていたという事になるのだから。

と言うか、何でグリステン公爵は王子を襲ったんだ??

誘拐して引き渡すつもりだったのか?
それとも王太子に対する腹いせか?
それとも南国担当大臣だった事と王子襲撃は無関係なのか??

その辺はガスパーは言葉を濁して教えてくれなかった。
まぁ公爵ってのもあって、公には出来ないのだろう。

「サーク、手が止まってる!」

ぺチンと定規で手を叩かれる。
顔を上げると、ライルさんが怖い顔で俺を見下ろしていた。

「すいません、ライルさん。」

ギルとガスパーは会議に捕まっているので、別宮・警護部隊の管理運営は今、俺とライルさんで回している。
ある程度ガスパーのスパルタ教育でこなせるようになっていたので、なんとかふたりで問題なくやっていけている。

考え事をしていたのを注意され、俺が苦笑すると、ライルさんはため息交じりに言った。

「……あのさ、前から気になってたんだけど、何でサークは俺の事ずっとさん付けなんだ??」

「そう言われるとそうですね??」

「サムの事も、隊長の事ですら愛称で呼ぶのに、何で??」

「う~ん?やっぱり始めにここに来た時、めちゃくちゃお世話になったと言うか……俺の先輩って感じが抜けないんですよね~。」

「立場的には今は俺の方が下だけど?」

「臨時の代理ですよ?ライルさんはサムが戻ってきても補佐だから、後々は俺が下ですし。」

「それでも!」

ライルさんがぷうっと膨れっ面をした。
ん~?何だろう?
懐いてる犬が不機嫌に睨んできた顔に見えて、何かちょっと微笑ましい。

「それはつまり??」

「さんは要らないって事だよ!」

「う~ん。」

「ほら、言ってみろ!」

「ライル……さん。」

「サーク……。お前、シバかれたいのか!?」

「いきなりは無理ですよ!」

「ほら!俺にだけ敬語っ!!」

「何で~!?ダメですか~!?」

「ダメっ!!」

「ええぇ~!?」

ライルさんは自分だけさん付けで敬語なのが気に入らないらしい。
そんな事言われてもな~。

「イヴァンだってさん付けで敬語でしょう!?」

「あいつは皆にそうだろ!?サークは俺だけそうじゃんか!!何か仲間はずれにされてるみたいで嫌なんだよ!!」

「敬意を払ってるだけなのに~。」

とはいえ、その感覚も何となくわかる。
ぷうっと脹れているライルを眺めながら、俺は努力はしようと思った。

「わかった。すぐには無理だけど、努力する。」

「はい、なら俺の名前は?」

「………ライル……。」

「良くできました~。なら、この書類も目を通してな、サーク。」

ライルは満足そうににっこり笑った。
そして、ドンと書類の束を置く。

「ええぇっ!?なにこれ!?」

「今回の南の国訪問に関しての経費一覧。めぼしいところはチェックしたから、確認してサインして。」

「あ~も~!いつになったら終わるの~!」

全ての書類仕事が俺のところに来て、やってもやっても終わらない。

だから俺には政治的な事は向かないんだよ~!
サムとの約束だから頑張るけどさ~!

半泣きの俺に、ライルがけらけら笑いながらココアを入れてくれた。
もう本当、やだ。
後で少し気晴らしに鍛錬場に行ってこようと思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...