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第八章①「疑惑と逃亡編」
28日後
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南の国から帰ってきて、約1ヶ月。
状況は膠着状態だった。
ギルとガスパーが頻繁に王宮に呼ばれているが、未だ結論は出ない。
だって出しようがないよな。
こっちは何も悪くないのだから。
一体、何で王国は南の国に毅然とした対応をしないのだろう?
向こうが仕掛けてきて、向こうが無理難題言いがかりをつけていると言うのに。
俺がそう言うと、ガスパーが苛立ちながら教えてくれた。
政治力は王国の方が上だが、軍事力は向こうが上回ってしまったのだと。
今までは中央王国が政治力も軍事力も高かったので、東西南北に対する圧力になりどこも戦争を起こさなかったのだ。
だが経済が豊かな南の国が徐々に軍備を上げていき、ついに上回ってしまったのだ。
政治力が強いなら南の軍備強化も止められなかったのかと聞いたが、海洋に接している為の海の魔物対策だったり、経済が豊かゆえに町の治安を守る為等、細かな理由をつけられ、本当に少しずつ少しずつ増やしていき、気づいたら拮抗状態に陥ったいた。
まぁ、南の国の戦略勝ちと言ったところだ。
そこを様々な交易に目をとられ見抜けなかった南国担当大臣の失策で、さらに拮抗状態での駆け引きに負けた訳だ。
そしてそれをやってのけたのが、かの王太子、グレゴリウス・バフル・ゾル・ティーナンだ。
ただの傲慢な南国男かと思っていたが、そうではないらしい。
ガスパーでさえ、あれは只者ではない野心家だと評した。
ちなみに、王太子にしてやられた当時の南国担当大臣はグリステン公爵だ。
今は解任され別の人が担当らしいが、ガスパー曰く、王太子に対抗できる男じゃないそうだ。
まあ向こうに言われるまま、王子の南の国への訪問を強行させた事からもそれはよくわかる。
とはいえ、ここに繋がるわけね?
あの事件。
あの事件ってのは、俺が騎士を与えられた理由である、王子の襲撃事件だ。
そこにあの王太子が関わっていたかは不明だが、もし関わっていたならば、あいつは俺の平和な外壁警備生活を奪った事になる。
まぁ、あれがあったから今があって、仲間と呼べる奴らが増えて、帰れる場所も増えて、地獄まで同行させる片腕に出会って、最愛の恋人にも出会えたのだから文句はないけれど。
ただそうだったなら酷く気持ちが悪い。
出会うずっと前から、あの王太子が俺の人生に関わっていたという事になるのだから。
と言うか、何でグリステン公爵は王子を襲ったんだ??
誘拐して引き渡すつもりだったのか?
それとも王太子に対する腹いせか?
それとも南国担当大臣だった事と王子襲撃は無関係なのか??
その辺はガスパーは言葉を濁して教えてくれなかった。
まぁ公爵ってのもあって、公には出来ないのだろう。
「サーク、手が止まってる!」
ぺチンと定規で手を叩かれる。
顔を上げると、ライルさんが怖い顔で俺を見下ろしていた。
「すいません、ライルさん。」
ギルとガスパーは会議に捕まっているので、別宮・警護部隊の管理運営は今、俺とライルさんで回している。
ある程度ガスパーのスパルタ教育でこなせるようになっていたので、なんとかふたりで問題なくやっていけている。
考え事をしていたのを注意され、俺が苦笑すると、ライルさんはため息交じりに言った。
「……あのさ、前から気になってたんだけど、何でサークは俺の事ずっとさん付けなんだ??」
「そう言われるとそうですね??」
「サムの事も、隊長の事ですら愛称で呼ぶのに、何で??」
「う~ん?やっぱり始めにここに来た時、めちゃくちゃお世話になったと言うか……俺の先輩って感じが抜けないんですよね~。」
「立場的には今は俺の方が下だけど?」
「臨時の代理ですよ?ライルさんはサムが戻ってきても補佐だから、後々は俺が下ですし。」
「それでも!」
ライルさんがぷうっと膨れっ面をした。
ん~?何だろう?
懐いてる犬が不機嫌に睨んできた顔に見えて、何かちょっと微笑ましい。
「それはつまり??」
「さんは要らないって事だよ!」
「う~ん。」
「ほら、言ってみろ!」
「ライル……さん。」
「サーク……。お前、シバかれたいのか!?」
「いきなりは無理ですよ!」
「ほら!俺にだけ敬語っ!!」
「何で~!?ダメですか~!?」
「ダメっ!!」
「ええぇ~!?」
ライルさんは自分だけさん付けで敬語なのが気に入らないらしい。
そんな事言われてもな~。
「イヴァンだってさん付けで敬語でしょう!?」
「あいつは皆にそうだろ!?サークは俺だけそうじゃんか!!何か仲間はずれにされてるみたいで嫌なんだよ!!」
「敬意を払ってるだけなのに~。」
とはいえ、その感覚も何となくわかる。
ぷうっと脹れているライルを眺めながら、俺は努力はしようと思った。
「わかった。すぐには無理だけど、努力する。」
「はい、なら俺の名前は?」
「………ライル……。」
「良くできました~。なら、この書類も目を通してな、サーク。」
ライルは満足そうににっこり笑った。
そして、ドンと書類の束を置く。
「ええぇっ!?なにこれ!?」
「今回の南の国訪問に関しての経費一覧。めぼしいところはチェックしたから、確認してサインして。」
「あ~も~!いつになったら終わるの~!」
全ての書類仕事が俺のところに来て、やってもやっても終わらない。
だから俺には政治的な事は向かないんだよ~!
サムとの約束だから頑張るけどさ~!
半泣きの俺に、ライルがけらけら笑いながらココアを入れてくれた。
もう本当、やだ。
後で少し気晴らしに鍛錬場に行ってこようと思った。
状況は膠着状態だった。
ギルとガスパーが頻繁に王宮に呼ばれているが、未だ結論は出ない。
だって出しようがないよな。
こっちは何も悪くないのだから。
一体、何で王国は南の国に毅然とした対応をしないのだろう?
向こうが仕掛けてきて、向こうが無理難題言いがかりをつけていると言うのに。
俺がそう言うと、ガスパーが苛立ちながら教えてくれた。
政治力は王国の方が上だが、軍事力は向こうが上回ってしまったのだと。
今までは中央王国が政治力も軍事力も高かったので、東西南北に対する圧力になりどこも戦争を起こさなかったのだ。
だが経済が豊かな南の国が徐々に軍備を上げていき、ついに上回ってしまったのだ。
政治力が強いなら南の軍備強化も止められなかったのかと聞いたが、海洋に接している為の海の魔物対策だったり、経済が豊かゆえに町の治安を守る為等、細かな理由をつけられ、本当に少しずつ少しずつ増やしていき、気づいたら拮抗状態に陥ったいた。
まぁ、南の国の戦略勝ちと言ったところだ。
そこを様々な交易に目をとられ見抜けなかった南国担当大臣の失策で、さらに拮抗状態での駆け引きに負けた訳だ。
そしてそれをやってのけたのが、かの王太子、グレゴリウス・バフル・ゾル・ティーナンだ。
ただの傲慢な南国男かと思っていたが、そうではないらしい。
ガスパーでさえ、あれは只者ではない野心家だと評した。
ちなみに、王太子にしてやられた当時の南国担当大臣はグリステン公爵だ。
今は解任され別の人が担当らしいが、ガスパー曰く、王太子に対抗できる男じゃないそうだ。
まあ向こうに言われるまま、王子の南の国への訪問を強行させた事からもそれはよくわかる。
とはいえ、ここに繋がるわけね?
あの事件。
あの事件ってのは、俺が騎士を与えられた理由である、王子の襲撃事件だ。
そこにあの王太子が関わっていたかは不明だが、もし関わっていたならば、あいつは俺の平和な外壁警備生活を奪った事になる。
まぁ、あれがあったから今があって、仲間と呼べる奴らが増えて、帰れる場所も増えて、地獄まで同行させる片腕に出会って、最愛の恋人にも出会えたのだから文句はないけれど。
ただそうだったなら酷く気持ちが悪い。
出会うずっと前から、あの王太子が俺の人生に関わっていたという事になるのだから。
と言うか、何でグリステン公爵は王子を襲ったんだ??
誘拐して引き渡すつもりだったのか?
それとも王太子に対する腹いせか?
それとも南国担当大臣だった事と王子襲撃は無関係なのか??
その辺はガスパーは言葉を濁して教えてくれなかった。
まぁ公爵ってのもあって、公には出来ないのだろう。
「サーク、手が止まってる!」
ぺチンと定規で手を叩かれる。
顔を上げると、ライルさんが怖い顔で俺を見下ろしていた。
「すいません、ライルさん。」
ギルとガスパーは会議に捕まっているので、別宮・警護部隊の管理運営は今、俺とライルさんで回している。
ある程度ガスパーのスパルタ教育でこなせるようになっていたので、なんとかふたりで問題なくやっていけている。
考え事をしていたのを注意され、俺が苦笑すると、ライルさんはため息交じりに言った。
「……あのさ、前から気になってたんだけど、何でサークは俺の事ずっとさん付けなんだ??」
「そう言われるとそうですね??」
「サムの事も、隊長の事ですら愛称で呼ぶのに、何で??」
「う~ん?やっぱり始めにここに来た時、めちゃくちゃお世話になったと言うか……俺の先輩って感じが抜けないんですよね~。」
「立場的には今は俺の方が下だけど?」
「臨時の代理ですよ?ライルさんはサムが戻ってきても補佐だから、後々は俺が下ですし。」
「それでも!」
ライルさんがぷうっと膨れっ面をした。
ん~?何だろう?
懐いてる犬が不機嫌に睨んできた顔に見えて、何かちょっと微笑ましい。
「それはつまり??」
「さんは要らないって事だよ!」
「う~ん。」
「ほら、言ってみろ!」
「ライル……さん。」
「サーク……。お前、シバかれたいのか!?」
「いきなりは無理ですよ!」
「ほら!俺にだけ敬語っ!!」
「何で~!?ダメですか~!?」
「ダメっ!!」
「ええぇ~!?」
ライルさんは自分だけさん付けで敬語なのが気に入らないらしい。
そんな事言われてもな~。
「イヴァンだってさん付けで敬語でしょう!?」
「あいつは皆にそうだろ!?サークは俺だけそうじゃんか!!何か仲間はずれにされてるみたいで嫌なんだよ!!」
「敬意を払ってるだけなのに~。」
とはいえ、その感覚も何となくわかる。
ぷうっと脹れているライルを眺めながら、俺は努力はしようと思った。
「わかった。すぐには無理だけど、努力する。」
「はい、なら俺の名前は?」
「………ライル……。」
「良くできました~。なら、この書類も目を通してな、サーク。」
ライルは満足そうににっこり笑った。
そして、ドンと書類の束を置く。
「ええぇっ!?なにこれ!?」
「今回の南の国訪問に関しての経費一覧。めぼしいところはチェックしたから、確認してサインして。」
「あ~も~!いつになったら終わるの~!」
全ての書類仕事が俺のところに来て、やってもやっても終わらない。
だから俺には政治的な事は向かないんだよ~!
サムとの約束だから頑張るけどさ~!
半泣きの俺に、ライルがけらけら笑いながらココアを入れてくれた。
もう本当、やだ。
後で少し気晴らしに鍛錬場に行ってこようと思った。
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