欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

宵闇のふたり

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「初めてだよね?主とサシ飲みするの?」

「そうだっけ??」

「そうだよ~。西の砂漠では常に一緒だったけど、わざわざ出掛けて飲みに行くってなかったじゃん。」

「ま~あん時は、それ所じゃなかったしな~。」

町に出ると、シルクが行きたい店があると言うのでそこに入った。
カウンターに座り、俺は食べ物を注文し、シルクは酒を注文した。
バーテンダーがすぐにショットグラスと火のつきそうな度数の酒瓶を置いていった。

「あんま飛ばすなよ?」

「でも弱いの飲んでたら、その分たくさん飲むから主大変だよ?」

「確かにそれも怖いな。」

俺のところには、レモン水で割った軽めのグラスが置かれる。
ショットグラスと乾杯するのも妙だったが、俺がグラスを手に取ると、シルクがもたれ掛かるように寄ってきて、カチンと軽くグラスを合わせた。

「俺の主の功績に。」

「ん~、なら、俺の従者の栄光に。」

「なにそれ?」

シルクはけらけら笑った。

何だか不思議な気分だった。
砂漠でシルクを拾って、ただの踊り子かと思ったら、探していたカイナの民で、演舞の継承者で。
誓いをたてられてここに連れてきた時は、どうやって守ろうか、どうやって居場所を作ろうか、そして、どうやってずっと一緒にいようか凄く考えた。

悩んだ割には、気づけばシルクは自分の居場所を作り、既に国から必要と認められる存在にまでなった。
無理を通した俺との主従関係も、今では当たり前にまわりに認められている。

「何か、悩んだ割にはあっと言う間だったな……。」

「…そだね。」

あの時、何もない俺とシルクで、どうやって生きていくかを考えた。
そして今、問題なくこうしてふたりで並んで飲んでいる。
ひとつひとつ積み上げて、何の心配もないところまで来たのだ。
少し感慨深かった。

「でも、俺は不満だな~。」

「え!?何が!?」

「だって、主、いつも勝手にどっか行っちゃうんだもん。俺の事、相棒だの片腕だのって言うけど、いつも勝手に一人で行っちゃうんだもん。」

「う~ん。その辺はすみません。身勝手な俺を見捨てずに、それでもついてきてくれてありがとう。シルク。」

「しょうがない!だってそんな主を、俺は主に選んじゃったんだもん。主が勝手で俺の事ほっぽらかしてても、それでも俺の主なんだもん。しょうがない!」

「悪かったって!」

「そんな事言っても、どうせまたどっか行っちゃうでしょ?何かあれば?本当、しょうがない!しょうがないから待っててあげるし、必要なら追いかけて追い付くし!俺の主だからしょうがない!」

「う~ん。頼りにしてます。」

「うん。任せて?地獄まで一緒に行くよ。」

シルクはそう言って笑うと、こてんと俺に寄りかかった。
う~ん、これは……しょうがない。

「だからさ……。」

「うん。」

「たまにこうやって、ご褒美ちょうだい?主?」

「飲みに行くのがご褒美になるのか??」

「なるよ?主にはわかんないだろうけど。」

「う~ん。わかった。たまにはふたりで飲みに来ような、これからも。」

「うん。」

シルクはそう言って、しばらく俺にもたれていた。
それが何の時間なのかは俺にはわからない。

ただ、それが何よりの労いになると言うのはわかった。

俺は黙ってスペアリブを片手に掴んで食べる。
少しするとシルクは体を起こした。
そして自分も食べると言って、スペアリブを噛りだした。

「話は変わるんだけどさ~。」

「うん。あれでしょ?」

俺がそう声をかけると、シルクは何か理解していた。
俺がシルクとふたりだけで飲みに行こうと思った、もうひとつの理由だ。
俺は気になる事があり、南の国でシルクにちょっとしたお願いをした。

「そう。何か掴んだか?」

「ん~?どうだろ??」

シルクはそう言って自分の指を舐めた。
ペーパーを渡すと、手についた肉汁を拭き取る。

「何気にガードが固かったんだよね~。あの人達。軽そうに見えてさ~。」

「だろうな。」

「基本エッチしなきゃ教えてくれなそうだったし。そこは軽いんだよね~ノリが。なんなんだろね?あれ?南国の男はエッチ大好きなの??」

「さあ?……それで?」

「ん~、エッチしてないから、たいした事聞けなかったけど、西との繋がりは確かだよ。多分、王子の南の国訪問と西の后妃の王国訪問は申し合わせて被せてきたんだろうね。あんま上の人には接触してないから、そこははっきりと言えないけどさ。」

そう、俺は南の国でシルクに情報収集を頼んだ。
元々気がかりな事の多い国だし、王子の訪問に合わせるような西の国の后妃の訪問も気になったのだ。
あからさまに警備が手薄になるようにされた感じがどうも引っ掛かったのだ。

杞憂ならいいし、そうでないなら情報が欲しい。
シルクはいつも通り、どの程度?と聞いたので、初手の挨拶程度にと答えた。
ただし何か重要事項を掴んだら、度合いの判断は任せると言っておいた。

シルクはショットグラスを舐めながら話す。

「たださ~、何て言うんだろう?対等って感じには思ってないよ。何て言うか属国みたいな捉え方してるみたい。西の国の話をする時は、なんとなく皆、小馬鹿にした感じがあったもん。だから結構、西の国の事は簡単に話してくれたよ。数人から聞いたから西の国との繋がりは確かだと思う。」

「属国ね……。なるほど。」

「でも西の国は西の国で、南の国の事、利用しようと思ってるんだと思うよ。そういうの得意な国だから。」

「言うな?」

「まあね。」

シルクはそこまで話すと、ショットグラスを一気に開けた。
俺は酒瓶を手に取ってグラスに注ぐ。

「悪いな、変な事頼んで。」

「いいよ。その為の俺でしょ?逆にちゃんと使ってくれないと困る。……でも主、いざって時は、躊躇わなくていいんだよ?俺、別にエッチするの平気だし。」

「言っただろ?お前はもう高嶺の華なんだから、安売りするなって。どうしてもそれしかない時が来ない限りは駄目だ。それ以外は、相手にお前の値を上げさせて、魅了しろ。その武器で十分、お前は仕事をこなして行けるはずだ。」

「う~ん、厳しいな~、オーナーは。」

クスクス笑ってシルクが言った。
懐かしい呼び方に俺も笑ってシルクを見た。

あの頃の俺達は今もここにいる。
なんとなく砂漠の匂いがした気がした。

「そう言えば、砂漠の富豪の家で見た、王国の兵士は何だったんだろ……?」

その匂いの雰囲気を感じて俺は思い出した。
ギルに情報を渡してそれっきりだ。
あの偉そうな金持ちは元気だろうか?
結局、あの後、何も販売に行っていないけど、襲っておいて向こうも来るとは思ってないだろうけど。

「あ、それ?なんとなくなら知ってる。」

「へ?何で??」

「ギルがバラバラに言ってた事を何となく繋げると、王国の偉い人が?西の国だか金持ちだかと手を組んで南の国に一泡ふかせようとしたみたいな感じかな?何だかは知らないけど。」

「あ~、そう言うパターンね?」

シルクはギルからも情報収集をしているらしい。
少し笑ってしまったが、だいたいはわかった。

敵の敵は味方みたいなところか。
でも上手くは行かなかったんだな、多分。

それでどっちも立場を悪くしたんだろうな。
仮説だが、何となく大まかな流れが見えた気がした。

「だとすると、本当に南と西は、同盟って言うより複雑な関係だな。どっちもどっちで裏切るつもりで手を組んでるみたいな。胃もたれしそうな関係だな。」

「あ、後、これは嘘か本当かわかんないんだけど、南で兵士が一時期バタバタ死んだらしいんだよ。感染症だったみたいなんだけど、1人だけ、あれは感染症じゃなくて呪いだって言ってる人がいた。ちょっと気になったから覚えてた。」

「呪い?」

「そ、主的には気になる単語でしょ?それも少し前って話だし。」

「…………。」

「それぐらいかな~。」

シルクはそう言うとグラスを空け、ナッツをポンッと口に放り込んだ。
それぐらいとシルクは言うが、情報としてはかなりの価値があったと思う。
全てをそのまま鵜呑みにはできないが、仮説を立てるには十分有意義な情報だ。
のんきな顔で野菜スティックを噛っているシルクを俺は横目で見つめた。

「何か、今更ながら、お前が自分の従者だって事が凄すぎて信じられん……。」

「何、言ってんの??主??」

「うん。ちょっと感動してる。」

「え~?なにそれ~?褒めてる??」

「うん。お前は凄い。本当、凄いよ。」

「え~?やだ、照れるじゃんっ!!」

シルクは何でもないように笑っているが、本当に恐ろしい男を俺は味方につけているのだと、何だか身震いしてしまった。
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