欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

旅の踊り手

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俺は泣く泣く、一番小さい小規模異空間付きの鞄を買った。
1週間分の食料が入るやつだ。
手持ちの金銭を使うわけにはいかなかったので、商談の末、3ヶ月のローンの他、頭金の現金の代わりに性具の特許1つと交換した。
これなら書類を作ればそのまま支払いできる。
まぁ、特許譲渡の連絡は待ってもらうしかないけど……。

「あ~あ~あ~。マイホームが遠退いていく~~。」

「何!?サークちゃん!家買うつもりなの!?」

「だってそうしないとウィルと一緒に暮らせないし~。」

「やだ~!新婚さんっ!!新居が決まったら、招待してよ~!!」

「誰のせいでその新居が遠退いたと思ってるんですかっ!!まだ槍のローンもあるのに~!!」

「槍??」

「ウィルに結婚指輪の変わりに買ってあげたんです~。謙虚なあいつが珍しく欲しがったから~。」

「え?サークちゃんの恋人って、何者!?」

「多分、竜騎士なんです~。ウィルは~。」

「は??竜騎士!?」

「かなり強くて可愛いんです~。」

「いきなりのろけたわね……。」

えぐえぐ泣きながら、ウィルがどれだけ格好よくて可愛いかをとくと語ろうとしたのだが、書類を作りに行っていたマダムが戻ってきた。
作りたての書類をピラピラさせながら、呆れたように言う。

「全く、性欲研究と性具開発までやってるとは、サーク、あんたの情報量は多すぎて手に負えないよ。確認したけど、その道じゃわりと有名な研究者なんだって!?」

「有名と言うか、やってる人が少ないだけです……。」

「そんなに特許持ってるなら、ケチケチしないで、一番大きいバッグを買やぁいいのに。ケチな男だね、サーク。」

「何、言ってるんですか!!研究ってお金がかかるんですよ!俺は特許があるから、給与からは趣味程度の出費で済んでますが!!補助金とかもないからマイナスなんですよ!!基本!!」

「でもサークちゃん、魔術本部からも少しお給料出てるわよね??後、王子助けた時の報償金もあったでしょ??」

「研究だけじゃなくて!西の砂漠への旅と!ウィルを探す旅!それからシルクとウィルの収入が安定するまでの生活費!おまけにウィルを探しに行くときの無断欠勤でしばらく減給されて!カツカツなんですよ!俺は!!そこに槍のローンとさらに無限バックのローンですよ!!もう!いつマイホームの資金を貯めればいいんだよっ!!」

こんなところでリアルな金銭話をするとは思わなかった。
がっくりと項垂れる俺に、マダムと師匠はのほほんと答える。

「でも魔術本部でも別宮でも役職に就いたじゃない?お給料上がったでしょ??」

「まぁ…はい……。」

「あんたこれから、トート迷宮に行くんだよ?奥の方なんて、まだお宝がガッポガッポ眠ってるんだし、割りのいい魔物だっているし。すぐ巻き返せるだろ?それを持ち帰るためにも、大きいバッグがいいと思うけどね?」

マダムに至っては、更なるセールストーク付きだ。
勘弁してくれ。
いやまぁ……そうなんだけど……。
確かにその通りなんだけど!
無い袖は振れないんだよっ!!

「……特別に、少し支払いに色をつけて、ローンを3ヶ月から半年に変えるだけで手を打ってあげてもいいよ?」

この守銭奴っ!!
足元見やがって!足元見やがってっ!!
俺の気持ちに迷いが出たのを見抜いて、マダムが書類に金額を書いて見せてくる。
あ~!!毎回毎回っ!!支払えなくはない金額、提示しやがってっ!!
俺は机に突っ伏してだんだん叩いた。

「くそうっ!!今に見てろっ!!」

「はいはい。なら大きい方で契約だね。書類書き直して来るから、特許の方のサインしておきな、サーク。」

「マダムはお金に汚すぎるっ!!」

「仕方ないだろ?ババア一人でギルドひとつを運営していくのも大変なんだよ?わかるだろ??」

そうだろうけどさ……何で俺ばっかターゲットにするんだよ……。
カモか!?俺っていいカモなのか!?
も~嫌だ~~っ!!

「……ま、よくわかんないけど、迷宮で頑張りましょ?ね??」

師匠が慰めに声をかけてきたが、俺はそれどころではなかった。










「え?トート迷宮に行くの?サーク??」

「はい。ちょっと訳があって。」

席に戻ると、食事は終わったようで、皆適当に飲んでいる。
俺と師匠は席につき、簡単にトート迷宮遺跡に行く話を伝えた。

「なら俺たちもトートに行くか!?」

「いや、できればシルクが戦っているところは人にあまり見せたくないんですよ。ヤバいんで。」

「……そんなにヤバいのか?」

「ええ。多くの人に見られたら、すぐに噂が回ってしまうと思います。鬼人が出たって。できれば穏便に済ませてもらえるとありがたいです。」

俺の言葉に、3人はまた固まってしまった。
俺は席にいないシルクに目を向ける。
資金難な事を理解しているシルクは、持ち前のトーク力を活かして、あちこちの席に新人の挨拶に行っては、一杯、奢ってもらっているようだ。
流石すぎて何も言えない。

「ねぇ!主~!皆が奢ってくれたから!お礼に踊ってもいい!?」

酔いも回り、そう上機嫌に聞いてきた。
まぁそれがシルクの武器であり、技なのだから構わない。

「いいけど、あんまエロくすんなよ?」

「ん~。わかった!!」

シルクは楽しそうに言うと、楽器を演奏に来ていた流しに声をかけに行った。
散々、強さについて脅したせいか、ヒースが困惑した顔で尋ねてくる。

「……シルクって踊れるのか?」

「ええ、躍り手ですから。」

「シルクちゃんが踊るの見るの初めて!!凄い楽しみ~!!」

「本物ですから。シルクは。本来ならこれで食って行けるヤツですよ。」

そんな事を言っているうちに躍りが始まる。
そう言えば俺も久しぶりに見るな。
グラスを手に取って酒を舐める。
シルクはとても自由に振る舞っていた。
力強く床を蹴り、バネのように高く体が跳ねる。
流れるような腕に滑らかな指が華を添える。
音も立てずに風を切る動きは生命力に溢れている。
別宮で武術指導をさせたけれど、本来のシルクはこういう生き方の方が似合う。
本人も自由が楽しいのか、とても生き生きしている。
やんやと囃し立てていた声は消え、皆がその躍動感に飲まれて行く。

「……いい躍り手だ。」

「ええ……。このまま自由にしてやりたいくらいです。」

いつの間にかマダムが横に立ってそう言った。
俺はシルクを見つめながら、本心からそう答えた。
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