欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

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「何で!?どうして!?何でいつもそうなの!?主は~!!」

ギルドの酒場で、俺はシルクに襟首を捕まれ、散々ガタガタいわされた後、絞め殺されんばかりにぎゅう~っと首元に抱きつかれ、呼吸困難になっていた。

「く、苦しい……。」

「主の馬鹿~っ!」

俺はあの後、ボーンさんと用件などを話して、ギルドに帰ってきた。
シルクの方も預かりが終わり、めでたく中級冒険者の称号を貰っていた。
どうでした?とヒースさん、レダさん、トムさんに聞いたが、3人は青い顔をして目を合わせてくれなかった。
何でも、畑を荒らすワイルドババリー(猪型の魔物)の駆除に近くの村に行ったは良かったが、帰りにかなりの数のスケルトンの一団と遭遇した。
その際、シルクが相手の刀を奪って踊ったものだから、手を出すところもなく、その有り様を3人はただぼんやり見ていたらしい。

「あれは……人に見せたらいかんもんだ……。」

「綺麗なのよ……綺麗なんだけど……やってることは…その……尋常じゃないのよ……。」

「………バンビちゃん……。」

「おいっ!」

ヒースさんがまた訳のわからない事を言っていた。
どうやら頬張って食べた俺はリスで、跳ねるように踊ったシルクはバンビと認定されたようだ。
この人の目は、本当、ヤバいフィルターついてるよな??

シルクはと言うと、自分がいないうちにまた俺が勝手に死にかけたものだから、ぷんすか怒っていて、何で~と騒いで俺から離れない。
うっかり口を滑らせた俺が悪いんだけど、ボーンさんのお陰で何ともないのでそろそろ落ち着いて欲しい。

ちなみに師匠はボーンさんたちと別れる時に一緒に別れ、一度魔術本部に行ってくると言っていた。
俺も移動が終わったら、そっちに一度顔を出そうと思う。

「シルクっ!わかった!悪かったからっ!!」

「何でだよ~!!主の馬鹿~っ!!」

駄目だ。話にならない。
シルクにしたら、砂漠でぶっ倒れた俺をひとりで一週間ほど面倒をみたので、トラウマなのかもしれない。
俺は諦めて、シルクにしがみつかれたままヒースさん達にお礼を言い、マダムのところにやって来た。

「お疲れ様です~。」

「全く、あんたが来ると騒がしくなってかなわない。で?アイツには会えたのかい??」

「ええ、しっかり会いましたよ?寡黙なるエアーデと言う割には、がちゃがちゃした人でしたね??」

「あ~。アイツはがちゃがちゃ細かいからね。不必要に頑固だし。ま、元気そうで良かったよ。いつももう歳だから何だって言ってやがったからね。」

「そんな前からそう言ってるんですか??」

「まあね?どう見たって、殺したって死にそうもない癖にさ、笑っちまうだろ??」

「確かに殺しても死ななそうですね~。」

寡黙なるエアーデは俺とマダムに言いたい放題言われて、きっとトート迷宮遺跡の監視棟でくしゃみをしているに違いない。

ちなみに、エアーデとは土の事だ。
大魔法師と呼ばれる人は、国(つまり政府)から認定された人と、ギルドに認定された人と二通りある。
もちろんボーンさんはギルド認定の方で、ギルドでは風・土・火・水の四人の大魔法師を認定している。
他の3人は政府の方でも認定されていて、医療機関や宗教組織、政府関係者の顔も持っている。

ボーンさんの「寡黙」と言うのは、別にお喋りじゃないと言う意味ではなく、世の中に対して何の発信もせず、居るか居ないかもわからない大魔法師のため、そう呼ばれているのだ。

「で?どうだった?」

「はい、話は通して来ました。まだ会わせる事は諸事情で難しいけど、いずれ連れてくると伝えました。」

「……血の魔術については聞いたかい?」

「ええ……。」

「思ったより冷静だね?」 

「俺は俺ですから。何であってもね。」

「ふ~ん?誰に決めてもらったんだか。」

「そこは秘密です。」

マダムはやはり何でもお見逃しだ。
師匠すらウィルに会った事は知らないのに、何で俺が誰かに決めてもらったとわかるんだろう?謎だ。
でも決めてもらった時の事を思い出して体の奥がむずむずするのを感じる。

変な意味じゃなくて、何か俺って幸せだな~って感じだ。
思わずにっこり笑う俺を、シルクが不満げに見つめる。

「ちょっと!主!俺、話が見えない!!」

「追々話すから。今は手続きしてさっさと出るぞ。」

「????」

俺はマダムに、シルクの同行者手続きをしてもらい、道すがらできそうなクエストも選んでもらった。
選んでもらったクエストを確認して、シルクが不思議そうに言う。

「……北に向かうの??主?南じゃなくて??」

「南に行く前にちょっと寄り道。ここから1日あれば行けるからさ。」

「ま、いいけど。主について行ければ。」

シルクは自分の知らないところで死にかけた事をとても根に持っているようだ。
いやでも、今回のは俺も想定外だったから、そろそろ許して欲しい……。

シルクが中級冒険者になったので、ひとまず身動きが取れるようになった俺は、まず北に行くことにした。

北と言っても、北の領土に行く訳じゃない。
ここから北の方にある王国の中堅都市に行くだけだ。
そこは研究機関が集中していて、今回迷宮から持ち帰った魔物の一部を売りに行く。
そうすれば旅賃も格段に増えるし、他にもやりたい事がある。

「あ、マダム。もしかしたら、俺かシルク宛にここに伝言が届くかも知れません。」

「ふ~ん。考えたね?サーク?……ま、いいさ。ギルドは政府とは一線を置いてる。預かっててやるよ。」

「ありがとうございます。」

マダムは大体の事を察したようにそう言った。

このギルドには未だに俺についての張り紙はない。
あったとしても、おそらくそれをネタに酒を飲まれるだけだ。

本当にウィルを探しに行く時、ここで冒険者になっておいて良かった。
新参ものなら政府への報告が重んじられたかも知れないが、それなりに顔の知れた人間になれば、その人柄によって政府よりも個人が優先される。

ギルドとは、政府組織から一線を引いた国境さえ飛び越えられる1つの国のようなものだ。
王国から追われる事になるとは思わなかったが、お陰でギルドを便りに行動する事が可能だ。本当に有難い。

「すぐ行くの?主??」

「ああ、何かまずいのか?」

「ん~ん?今度は一緒っ!!」

「うん、まぁ。そうだな?」

シルクはにこにことそう言った。
一緒でも死にかける時は死にかけると思うのだが、シルクが満足しているならそれでいい。
引っ付かれたままだと、どうにもならないからな。
そんな俺たちをマダムがじっと見ている。

「気を付けなよ、サーク。このギルドならお前は顔が利くけど、他所のギルドではそうもいかない。」

「はい。わかってます。マダム。」

「なら、これを持ってきな。」

マダムは使っていたキセルを軽く掃除して、高そうな袋に入れて俺に渡してくれた。
あまりに自然な動きだったので思わず受け取ってしまう。

「え?いいんですか??」

「いいんだよ、キセルなんか他にも持ってるし。」

マダムはそう言って、引き出しから別のキセルを取り出しタバコを摘めた。
火をつけてふわりと紫煙を漂わせる。

「ん、たまには違うキセルも悪くないね。……他のギルドで揉めたらそれを見せな。古くから居るようなヤツなら、意味がわかる。」

「……ありがとうございます。マダム。」

マダムは何者なのだろう??
そしてどうして俺にそんなにも目をかけてくれるのだろう??

でも、それを知るのは今じゃない気がした。
いずれ時がくればそうなるのだ。

俺とシルクは、ヒースさん達をはじめギルドの皆に軽く挨拶をし北に向け出発した。
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