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第八章①「疑惑と逃亡編」
早朝の太陽
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ウィルと俺がここで会えたのは、本当に偶然だった。
様々な方面からの手助けがありウィルは投獄される事はなかったそうだが、他の皆同様、監視はされているのであまりここには来ていないと言っていた。
俺だって、トート迷宮でドラゴンゾンビが出なければ血を分ける事もなく、ボーンさんにあんな事を言われる事もなかった。
日にちだってダンジョン内でははっきりしなかったし、一日でもズレていれば俺達は会わなかったのだ。
名残惜しかったが、向こうの状況を簡単に聞き、俺もこちらの事を簡単に話した。
何か連絡があれば、直ぐには受け取れないかも知れないが、マダムに連絡して欲しいと伝える。
音消しの魔術を解いてしまえば、もう話すことも出来ない。
鍵を手にドアに向かったが、振り向いてしまう。
運命の歯車とは良くできてる。
もしもこの鍵でウィルも連れて行けるなら、俺は間違いなく連れ去ってただろうから。
その時させられない事は出来ないようになってるようだ。
振り向いた俺にウィルが駆け寄り、もう一度抱き締め合う。
唇が重なり、求めあい、離れる。
待ってるから。
ウィルが唇だけを動かしてそう言った。
俺は頷いて、ウィルの額にキスを落とす。
ウィルだって戦っている。
だから俺がこの理不尽な策略に負ける訳にはいかないんだ。
ウィルが一歩後ろに下がり、俺は前を向いた。
鍵を回してドアを開ける。
振り向いたら先に進めなそうだったので、俺はあえて振り向かずにドアをくぐって閉めた。
「え!?」
「あ……。」
俺が魔術本部の家からトート迷宮遺跡の管理棟のロッカーのドアを開けて外に出ると、サーニャさんがもうそこにいた。
「………………。」
お互い言葉が出ない。
気まずい沈黙が流れる。
空は白み始めていたが、まだ誰も起きていないと思ったのに迂闊だった。
ヤバい、見られた。
どうしようか考えていると、サーニャさんはあわあわキョロキョロ辺りを見渡す。
「へ!?サークさん!?ロッカー!?何で!?お散歩は!?」
お散歩とは何だろう??
俺の姿がないから散歩に行っていると思ったのだろうか??
「あ~、すみません。落ち込むと暗くて狭いところに潜り込みたくなる癖があって………。」
我ながらどんな言い訳だと思ったが、俺の言葉にサーニャさんはああ!と納得した顔をした。
「わかります~。私も先生に怒られると、よく箱に籠るんです~!!」
にこにことそう言われ、俺は乾いた笑いを浮かべて誤魔化した。
なるほど、さすがは猫系半獣人。
箱好きは猫と一緒らしい。
変な誤解をされた気もするが、とりあえず誤魔化せたから良いとしよう。
「サーニャさんはこんな朝早く、どうしたんですか?」
「ご飯の準備です!今日はサークさんとロナお姉さんがいるので早めに起きました!!」
ロナお姉さん……。
突っ込みたいのは山々だが、ここはスルーしよう。
それにしてもサーニャさんは素直でいい人過ぎる。
ちょっとドジッ子っぽいけど。
何でこの人があの偏屈なボーンさんと要るんだろう??
「手伝います。」
「いえいえいえ!そんな訳にはっ!」
「いや、ご厄介になってるのはこっちですし……。朝ごはんの支度はいつもサーニャさんがするんですか??」
「はい!子供の時から、ずっとやってます!」
「子供の時から??サーニャさんはいつからボーンさんと要るんですか??」
「ここに迷い込んだ時からです!私、弟とふたり、小さい時にこのダンジョンの前に迷い出て来ちゃって……。その時、先生が保護してくれたんです。それからずっと一緒です!!」
サーニャさんは明るくそう言った。
いつもは上下関係に怯えているように見えるが、サーニャさんはボーンさんをとても慕っているようだ。
俺はサーニャさんが室内井戸ポンプを押そうとしていたので、変わってポンプを動かした。
「私達、魔力が強かったから先生が鍛えてくれたんですけど、私には魔法を使う才能がなくて。あ、弟はあったんですけどね?なので私は魔術を習って魔術使いになったんです。」
「へぇ、そうだったんですか。」
小さめの水瓶に水が貯まると、俺はスッとそれを持ち上げた。
サーニャさんはちょっとあわあわしていたが、置く場所を教えてくれる。
「弟さんが要るんですか??」
「はい!私と違って!とても優秀な子です!!」
「いや、サーニャさんもとても有能な方だと思いますよ?それにこんな風に誰に言われたでもなく、早起きしてご飯を準備してくれるなんて……。ボーンさん、サーニャさんがお嫁に行ったら死んじゃうんじゃないですか!?」
「……誰が死ぬだって!?」
俺とサーニャさんののどかな会話に、急にぶっきらぼうな声が交じる。
振り向くと、ボーンさんが不機嫌そうに立っていた。
「サーニャ!俺が朝飯は作るから、今日はしっかり寝てろって言っただろうが!!」
「わ~!!ごめんなさい~!!忘れてました~!!」
何故か怒られるサーニャさん。
そして現れたボーンさんの手には、大きめのラピットフッドが3羽握られている。
どうやらボーンさんも早起きして狩りをしてきたようだ。
う~ん。
どうやらサーニャさんの世話好きは育ての親譲りらしい。
何だか微笑ましい光景だ。
ふふふとそれを眺めていると、ボーンさんは俺をぎろりと睨んだ。
「……何、見てやがる!?」
「いえいえ何も??」
「くそっ!お前が外に行ったのかと思って見に行ったら、たまたまいたから捕まえただけだ。別に深い意味なんかねぇ。」
相変わらずツンデレ加減が凄い。
それにしても、どうやらボーンさんにもいないところを見られたらしい。
突っ込まれるかと思ったが、ボーンさんはつっけんどんとラピットフッドを渡してくるだけで何も言わない。
ちなみにラピットフッドとは兎型魔物と野ウサギの合の子が自己繁殖した生き物で、普通の野ウサギより大きく強く、半魔獣だから捕まえるのは大変だか美味しい。
「ええと?これは??」
「あ!?捌けってんだよ!?できねぇのか!?」
「いや、できますしやりますが……。」
「先生、だったら捌いてって言わないと皆わかんないんですよ!」
「はぁ!?獲物渡されて他に何するんだよ!?」
「それでもです!だから誤解されるんですよ!先生は!」
「何だと~っ!」
「きゃ~!!」
はじめは威圧的なドワーフと気の弱い半獣人の上司と部下かと思ったが、そうではないらしい。
何とも微笑ましい関係だと、俺はウサギを捌く準備をしながら眺めていた。
様々な方面からの手助けがありウィルは投獄される事はなかったそうだが、他の皆同様、監視はされているのであまりここには来ていないと言っていた。
俺だって、トート迷宮でドラゴンゾンビが出なければ血を分ける事もなく、ボーンさんにあんな事を言われる事もなかった。
日にちだってダンジョン内でははっきりしなかったし、一日でもズレていれば俺達は会わなかったのだ。
名残惜しかったが、向こうの状況を簡単に聞き、俺もこちらの事を簡単に話した。
何か連絡があれば、直ぐには受け取れないかも知れないが、マダムに連絡して欲しいと伝える。
音消しの魔術を解いてしまえば、もう話すことも出来ない。
鍵を手にドアに向かったが、振り向いてしまう。
運命の歯車とは良くできてる。
もしもこの鍵でウィルも連れて行けるなら、俺は間違いなく連れ去ってただろうから。
その時させられない事は出来ないようになってるようだ。
振り向いた俺にウィルが駆け寄り、もう一度抱き締め合う。
唇が重なり、求めあい、離れる。
待ってるから。
ウィルが唇だけを動かしてそう言った。
俺は頷いて、ウィルの額にキスを落とす。
ウィルだって戦っている。
だから俺がこの理不尽な策略に負ける訳にはいかないんだ。
ウィルが一歩後ろに下がり、俺は前を向いた。
鍵を回してドアを開ける。
振り向いたら先に進めなそうだったので、俺はあえて振り向かずにドアをくぐって閉めた。
「え!?」
「あ……。」
俺が魔術本部の家からトート迷宮遺跡の管理棟のロッカーのドアを開けて外に出ると、サーニャさんがもうそこにいた。
「………………。」
お互い言葉が出ない。
気まずい沈黙が流れる。
空は白み始めていたが、まだ誰も起きていないと思ったのに迂闊だった。
ヤバい、見られた。
どうしようか考えていると、サーニャさんはあわあわキョロキョロ辺りを見渡す。
「へ!?サークさん!?ロッカー!?何で!?お散歩は!?」
お散歩とは何だろう??
俺の姿がないから散歩に行っていると思ったのだろうか??
「あ~、すみません。落ち込むと暗くて狭いところに潜り込みたくなる癖があって………。」
我ながらどんな言い訳だと思ったが、俺の言葉にサーニャさんはああ!と納得した顔をした。
「わかります~。私も先生に怒られると、よく箱に籠るんです~!!」
にこにことそう言われ、俺は乾いた笑いを浮かべて誤魔化した。
なるほど、さすがは猫系半獣人。
箱好きは猫と一緒らしい。
変な誤解をされた気もするが、とりあえず誤魔化せたから良いとしよう。
「サーニャさんはこんな朝早く、どうしたんですか?」
「ご飯の準備です!今日はサークさんとロナお姉さんがいるので早めに起きました!!」
ロナお姉さん……。
突っ込みたいのは山々だが、ここはスルーしよう。
それにしてもサーニャさんは素直でいい人過ぎる。
ちょっとドジッ子っぽいけど。
何でこの人があの偏屈なボーンさんと要るんだろう??
「手伝います。」
「いえいえいえ!そんな訳にはっ!」
「いや、ご厄介になってるのはこっちですし……。朝ごはんの支度はいつもサーニャさんがするんですか??」
「はい!子供の時から、ずっとやってます!」
「子供の時から??サーニャさんはいつからボーンさんと要るんですか??」
「ここに迷い込んだ時からです!私、弟とふたり、小さい時にこのダンジョンの前に迷い出て来ちゃって……。その時、先生が保護してくれたんです。それからずっと一緒です!!」
サーニャさんは明るくそう言った。
いつもは上下関係に怯えているように見えるが、サーニャさんはボーンさんをとても慕っているようだ。
俺はサーニャさんが室内井戸ポンプを押そうとしていたので、変わってポンプを動かした。
「私達、魔力が強かったから先生が鍛えてくれたんですけど、私には魔法を使う才能がなくて。あ、弟はあったんですけどね?なので私は魔術を習って魔術使いになったんです。」
「へぇ、そうだったんですか。」
小さめの水瓶に水が貯まると、俺はスッとそれを持ち上げた。
サーニャさんはちょっとあわあわしていたが、置く場所を教えてくれる。
「弟さんが要るんですか??」
「はい!私と違って!とても優秀な子です!!」
「いや、サーニャさんもとても有能な方だと思いますよ?それにこんな風に誰に言われたでもなく、早起きしてご飯を準備してくれるなんて……。ボーンさん、サーニャさんがお嫁に行ったら死んじゃうんじゃないですか!?」
「……誰が死ぬだって!?」
俺とサーニャさんののどかな会話に、急にぶっきらぼうな声が交じる。
振り向くと、ボーンさんが不機嫌そうに立っていた。
「サーニャ!俺が朝飯は作るから、今日はしっかり寝てろって言っただろうが!!」
「わ~!!ごめんなさい~!!忘れてました~!!」
何故か怒られるサーニャさん。
そして現れたボーンさんの手には、大きめのラピットフッドが3羽握られている。
どうやらボーンさんも早起きして狩りをしてきたようだ。
う~ん。
どうやらサーニャさんの世話好きは育ての親譲りらしい。
何だか微笑ましい光景だ。
ふふふとそれを眺めていると、ボーンさんは俺をぎろりと睨んだ。
「……何、見てやがる!?」
「いえいえ何も??」
「くそっ!お前が外に行ったのかと思って見に行ったら、たまたまいたから捕まえただけだ。別に深い意味なんかねぇ。」
相変わらずツンデレ加減が凄い。
それにしても、どうやらボーンさんにもいないところを見られたらしい。
突っ込まれるかと思ったが、ボーンさんはつっけんどんとラピットフッドを渡してくるだけで何も言わない。
ちなみにラピットフッドとは兎型魔物と野ウサギの合の子が自己繁殖した生き物で、普通の野ウサギより大きく強く、半魔獣だから捕まえるのは大変だか美味しい。
「ええと?これは??」
「あ!?捌けってんだよ!?できねぇのか!?」
「いや、できますしやりますが……。」
「先生、だったら捌いてって言わないと皆わかんないんですよ!」
「はぁ!?獲物渡されて他に何するんだよ!?」
「それでもです!だから誤解されるんですよ!先生は!」
「何だと~っ!」
「きゃ~!!」
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