欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

目から鱗

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そのまま何も言わず、ベッドになだれ込んだ。
お互いを確かめ合うように求めあって、肌を重ねる。
艶かしい吐息と感極まった高い声。
汗ばんで濡れる体が、その全てがただ愛しかった。
時より強欲なまでに求められる事も、全て心地よかった。
事が終わった後、強く絡み合った指先が離れ難さを物語っていた。






「……どうして一緒に来てくれなかったの?」

甘えるようにその膝の上に頭を乗せ、俺はウィルに尋ねた。
ウィルは俺の髪を指に絡めながら小さく笑う。

「俺が一緒に行ったら、サークはここに戻ることを諦めると思った。」

なるほど、と思う。

確かにウィルが一緒だったら、俺は全部捨てたかもしれない。
皆には申し訳ないが、全部捨てて、ウィルと冒険者として放浪して生きる道を選んだ可能性はなくはない。
俺の嫁さんは、俺より俺の行動が読めていたようだ。

「なら、何で泣いてたの?」

「サークが愛しかったから。お前だって、それでここに来たんだろ?」

「うん。会えなくてもウィルを感じたかった。」

「俺もだよ。サーク。」

静かな声が夜と俺にゆっくりと染み込んでくる。
目を閉じて、それを五感の全てで味わう。
不安はどこかに隠れ去り、今は穏やかな幸せで満たされている。

「……何があったんだ?」

「うん、ちょっとね。」

「俺は力になれるか?」

「うん。」

ウィルはただ優しく俺を甘やかす。
こんなに甘やかされたら、俺は駄目人間になってしまう。
いや、もう既に駄目人間だ。
ウィルがいないと何も出来ない。
不安で生きていけない。

「ねぇ、ウィル?」

「ん??」

「もし、俺が人間じゃなかったらどうする?」

「唐突だな?」

「もし、俺がこれは仮の姿だとか言って、本当はヤバい化け物だったらどうする?」

「ん~そうだな~??とりあえず、妊娠してないかの心配をするかな??」

「…………は??」

「だって、行為後だし。」

「は??」

ウィルの意外な返答に、俺はふざけているのかと思った。

行為後と言っても俺は相変わらず勃たないし、生ちん突っ込んで生命の素の半分をウィルに渡した覚えもない。

まぁ確かに化け物ならそれなしでも可能かもしれないけど……。

いやいや、今はそう言う話をしているんじゃない。
顔を見上げると、ウィルはおかしそうに笑っている。
でも馬鹿にしている訳じゃない。

「そんなヤバい化け物だったら、男の俺でも妊娠してるかもしれないだろ?キスだけでそれが可能な化け物かもしれないし。……まぁ、サークとなら嫌ではないけど、さすがに無計画に妊娠するのはちょっと生活に影響が大きいからな。俺も男だから妊娠したって言っても、回りの理解を得るのも難しいだろうし……。」

俺は目をぱちくりさせてウィルを見上げていた。

そんな返答が帰ってくるとは思わなかった。
ウィルが言っているのは、俺が人間かどうかと言う問題をすっ飛ばした、その先の話だ。

それはつまり、俺が人間か否かは重要ではないと言うことだ。
ウィルは優しく俺の髪を撫でた後、軽く額にキスを落とす。

「俺はサークが男だから好きになった訳でも、ましてや人間だから好きになった訳でもないよ。確かに実は違う生き物でしたって言われたらびっくりするけど、だから別れるとは考えないかな?むしろそれを理由に捨てようとするなら困るな??こんなに手塩にかけて、俺なしじゃ生きていけないように仕込んでるのに。」

「……俺、仕込まれてたんだ??」

「そうだぞ?気づいてなかったのか??」

「なかった……。でもめちゃめちゃ仕込まれてる……。俺、ウィルなしじゃ生きていけない……。」

「それは良かった。なら、別の生き物だからとか言って、俺を捨てたりしないな?」

「しないよ!!むしろウィルなしじゃ生きていけないように仕込んでおいて!俺を捨てないでよ!?ウィル!?」

「しないよ。独占はするけど。」

ウィルはなんて事のないように笑った。
何だか、自分が人間か否かを悩んでいたのが馬鹿みたいに思えた。

「……人間じゃないって言われたのか?」

ウィルが優しく俺を撫でる。
その手に俺は自分の手を重ねて目を閉じた。

「そうかもしれないって事を言われた。自分が人間じゃないとか考えた事もなかったから、どう捉えていいのかわからなかった。」

「そっか……。」

「怖いよ、ウィル……。俺、人間じゃないのかな??」

「サークが感じている恐怖を俺はわかってやれないし、変わってもやれない。でも確実に言えるのは、サークはサークだよ。俺が愛したのはサークであって、それが人間であるか否かは関係ない。だってお前、例え人間じゃなくったって、サークのままだろ?それとも、その人格みたいなものもなくなっちゃうのか??」

ウィルの言うことは、何から何まで当たり前なのに斬新だ。

俺はごろりと向きを変え、ウィルの腰に腕を回して抱きついた。
汗ばんだ肌がしっとりと吸い付き、心地いい。

「……なくなんない。何であっても俺は俺のままだよ。」

「ならそれでいいじゃないか。サークがサークなら、俺は別に気にしないし……。あ、でも、エッチできるかとか、妊娠の可能性があるのかはちょっと気になるな??」

「ウィルって……無駄に現実主義??」

「え??だってずっと一緒にいるなら大事なポイントだろ??」

その言葉にはっとした。

ウィルの中には、俺が人間じゃなくても当たり前に一緒にいる未来があって、その為には何が必要かまで何の疑問もなく存在している。
こんなに簡単に答えがあったのだ。

「ウィル……俺が人間じゃなくても、絶対、結婚してね?結婚しなくてもずっと側にいてね?俺、マジでウィルなしじゃ生きていけないから。」

「ふふふ、すっかり俺の術中にハマってくれたね?サーク?」

「うん。ハマったから責任とって?」

「いいよ?そのつもりでやったんだから。」

本気なのか嘘なのかはわからない。

でも何だっていいんだ。
俺はウィルといたい。
ウィルが俺の全てだから。

ウィルが俺が何者か決めてくれた。
だから俺は人間でなくても、何であってもいいんだ。

俺は俺だ。

あまり長居は出来ないけれど、許される時間ギリギリまで、俺はウィルに引っ付いて甘えていた。
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