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第八章①「疑惑と逃亡編」
蒼き月影
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自分が何者か、それは誰が決める?
自分自身?周囲の評価?
考えれば考えるほどその答えは見つからない。
でも、どん底まで突き詰めた時、
俺は俺を何者か、それを誰が決めるかを、
無意識に選んでいた。
「すみません。話したい事は山のようにあるし時間もないのは理解しているんですが……とにかく一眠りさせて下さい。」
Tゲートをくぐって遺跡の入り口に帰ってきた。
その後ボーンさんやサーニャさんの事務所兼寮に招き入れられ、俺が一番始めに口にしたのはそれだった。
やはり迷宮内では気を張っていた部分があったようで、それがなくなった途端、倒れそうな程の眠気に襲われた。
食事を用意してくれていたサーニャさんはあわあわしていて申し訳ない。
辺りは既に暗くなり始め、それがいつの夜なのかも良くわからなかった。
「……少しでも腹に入れてから寝ろ。話は明日の朝でいいが、回復すんのにだってエネルギーがいるんだ。」
ボーンさんはぶっきらぼうにそう言って、俺を無理矢理ダイニングの椅子に座らせた。
サーニャさんが急いで食べやすそうなスープ等を前においてくれる。
「そのスープ、美味しいのよ?」
師匠は何も聞かず、明るく笑っていた。
俺が食べやすいようにパンに野菜やら肉やら挟んで渡してくれる。
俺は目を開いてるのもやっとだったが、腹は減っているようでモゴモゴと口を動かす。
「……何か、食ってる時はガキみてぇで可愛いな?お前??」
ボーンさんが物凄い意外なものを見たとでもいうように言った。
俺はもう眠くて仕方がなかったので、反応すること出来ずただ食べ続ける。
「めちゃくちゃ旨い……。」
久しぶりに食べたまともな食事は、格別に美味しかった。
眠気はピークに達しているが、少し食べたせいで食欲もピークになり、お行儀良くスプーンを使うことも出来ず皿を持ってスープを飲み干した。
それを見たサーニャさんがクスッと笑って、おかわりをよそってくれる。
それもごくごく飲み干した。
思わずゲップが出て、さすがに恥ずかしくて失礼と小声で言うと、師匠とサーニャさんが顔を見合わせ声をあげて笑った。
ボーンさんは呆れたように頬杖をついてそれを見ている。
「本当、これだけ見るとただのガキだな……。」
そう言われた俺はと言うと、腹も満たされ、カクンカクンと船を漕いでいた。
何を言われようと、もう本当に起きてられない。
仕方ないわね~と師匠が笑いながら、魔術で俺を浮かせて応接用のソファーに寝かせた。
おっさんがどこかから毛布を持ってくると、俺にかけてくれた。
「小生意気なガキだと思ったが……まだまだ子供だな……。血の魔術が使える生い立ちなら、苦労してきたろうに……。」
ゴツい手がぽんぽんと頭を撫でてくれる。
それは何となく、俺を拾って義父さんに預けた後も会いに来てくれた、ガンさんをはじめとした傭兵のおっちゃん達を思い出させ、妙に安心した。
その後はスッと眠りに落ちてしまい、何も覚えていない。
自分が何者か、それは普通に生きてきたら、考えたりしない事だ。
俺のように生まれのわからない人間でも、あまり考える事はない。
ましてや自分が人間か否か等、血の魔術が使える俺だって考えた事もなかった。
それを聞かれても俺はわからない。
だってそれ以外の可能性を思い浮かべたこともない。
いくら拾われた場所もわからない孤児だからと言っても、いくら血の魔術が使えたりと人と違うと自分でも思うところがあっても、人間か否かは考えた事もない。
お前は何者だ?
自分が人間ではないかもと言われ、そう問われたら、何と答えたら良いだろう?
ふと、目が覚めた。
俺が寝かされていたソファーのある客間兼ダイニング。
その部屋には今は誰もおらず、月明かりが蒼く染めている。
その色を見つめて思った。
ウィルに会いたい。
そう思ったら、止めどなくその想いが溢れた。
会いたい。
ウィルに会いたい。
いてくれないと不安になる。
側にいて欲しい。
ただ、黙って側にいてくれるだけでいい。
温もりを感じたい。
俺は首の鍵を取り出し立ち上がった。
会うわけにはいかないのはわかっている。
それでも微かでもウィルを感じたかった。
辺りを見渡すとロッカーがいくつか並んでいる。
それを確認すると一番奥にあった古びたロッカーだけが開き、中は空だった。
俺は出口の魔術をかけ、その扉に鍵をさして回した。
すぐに戻るつもりだったのだ。
魔術本部の家に一度入り、そのまままたドアに鍵をさした。
行く先はもちろん、城下町の研究室兼自宅のアパートだ。
あそこにはまだ、短い間一緒に暮らした物や匂いが残っているはずだ。
それを感じたかった。
ガチャリとアパートの内ドアを開けた。
「………え…っ!?」
アパートの中も、やはり蒼く月の光に照らされていた。
何の音もなく時間が止まった。
その中でベッドに突っ伏すように誰かがいる。
突然開いたドアに驚いて上げた顔は泣いていた。
「………サー……。」
懐かしい声が時間を元通り動かしはじめる。
俺はしーっと口許に指を当て素早く動いた。
考える時間も必要もなかった。
立ち上がったその人を力強く抱き締める。
「…………………っ。」
お互い何も言わない。
ただそこに、その人が確かな質量を持ってそこにいた。
声を出してもしもの事があってはならない。
それに言葉にするには、それを何と言えばいいかわからなかった。
欲しかった温もりが俺を抱き締め返してくれる。
お互いの腕の中に求める相手がいた。
しばらくそのまま抱き締めあっていたが、確かにその人を感じられたことで少し気持ちが落ち着き、俺はやっと急いで音消しの魔術を使った。
「ウィル……もう話していいよ……。」
「遅いだろ……馬鹿……。」
顔を上げ俺を見つめる涙の後が残る顔を、そっと指で拭う。
俺のその手をウィルの手が静かに包んだ。
もう話しても大丈夫なのに俺たちは言葉を発しない。
言葉は音にせず、そのままお互い口移しで伝えた。
何度も何度も啄むように唇を重ねて想いを伝える。
「……サーク……。」
「ウィル、会いたかった……。」
伝えきれなかった想いが、言葉となって漏れた。
そして確かめるようにもう一度深く口付けた。
自分自身?周囲の評価?
考えれば考えるほどその答えは見つからない。
でも、どん底まで突き詰めた時、
俺は俺を何者か、それを誰が決めるかを、
無意識に選んでいた。
「すみません。話したい事は山のようにあるし時間もないのは理解しているんですが……とにかく一眠りさせて下さい。」
Tゲートをくぐって遺跡の入り口に帰ってきた。
その後ボーンさんやサーニャさんの事務所兼寮に招き入れられ、俺が一番始めに口にしたのはそれだった。
やはり迷宮内では気を張っていた部分があったようで、それがなくなった途端、倒れそうな程の眠気に襲われた。
食事を用意してくれていたサーニャさんはあわあわしていて申し訳ない。
辺りは既に暗くなり始め、それがいつの夜なのかも良くわからなかった。
「……少しでも腹に入れてから寝ろ。話は明日の朝でいいが、回復すんのにだってエネルギーがいるんだ。」
ボーンさんはぶっきらぼうにそう言って、俺を無理矢理ダイニングの椅子に座らせた。
サーニャさんが急いで食べやすそうなスープ等を前においてくれる。
「そのスープ、美味しいのよ?」
師匠は何も聞かず、明るく笑っていた。
俺が食べやすいようにパンに野菜やら肉やら挟んで渡してくれる。
俺は目を開いてるのもやっとだったが、腹は減っているようでモゴモゴと口を動かす。
「……何か、食ってる時はガキみてぇで可愛いな?お前??」
ボーンさんが物凄い意外なものを見たとでもいうように言った。
俺はもう眠くて仕方がなかったので、反応すること出来ずただ食べ続ける。
「めちゃくちゃ旨い……。」
久しぶりに食べたまともな食事は、格別に美味しかった。
眠気はピークに達しているが、少し食べたせいで食欲もピークになり、お行儀良くスプーンを使うことも出来ず皿を持ってスープを飲み干した。
それを見たサーニャさんがクスッと笑って、おかわりをよそってくれる。
それもごくごく飲み干した。
思わずゲップが出て、さすがに恥ずかしくて失礼と小声で言うと、師匠とサーニャさんが顔を見合わせ声をあげて笑った。
ボーンさんは呆れたように頬杖をついてそれを見ている。
「本当、これだけ見るとただのガキだな……。」
そう言われた俺はと言うと、腹も満たされ、カクンカクンと船を漕いでいた。
何を言われようと、もう本当に起きてられない。
仕方ないわね~と師匠が笑いながら、魔術で俺を浮かせて応接用のソファーに寝かせた。
おっさんがどこかから毛布を持ってくると、俺にかけてくれた。
「小生意気なガキだと思ったが……まだまだ子供だな……。血の魔術が使える生い立ちなら、苦労してきたろうに……。」
ゴツい手がぽんぽんと頭を撫でてくれる。
それは何となく、俺を拾って義父さんに預けた後も会いに来てくれた、ガンさんをはじめとした傭兵のおっちゃん達を思い出させ、妙に安心した。
その後はスッと眠りに落ちてしまい、何も覚えていない。
自分が何者か、それは普通に生きてきたら、考えたりしない事だ。
俺のように生まれのわからない人間でも、あまり考える事はない。
ましてや自分が人間か否か等、血の魔術が使える俺だって考えた事もなかった。
それを聞かれても俺はわからない。
だってそれ以外の可能性を思い浮かべたこともない。
いくら拾われた場所もわからない孤児だからと言っても、いくら血の魔術が使えたりと人と違うと自分でも思うところがあっても、人間か否かは考えた事もない。
お前は何者だ?
自分が人間ではないかもと言われ、そう問われたら、何と答えたら良いだろう?
ふと、目が覚めた。
俺が寝かされていたソファーのある客間兼ダイニング。
その部屋には今は誰もおらず、月明かりが蒼く染めている。
その色を見つめて思った。
ウィルに会いたい。
そう思ったら、止めどなくその想いが溢れた。
会いたい。
ウィルに会いたい。
いてくれないと不安になる。
側にいて欲しい。
ただ、黙って側にいてくれるだけでいい。
温もりを感じたい。
俺は首の鍵を取り出し立ち上がった。
会うわけにはいかないのはわかっている。
それでも微かでもウィルを感じたかった。
辺りを見渡すとロッカーがいくつか並んでいる。
それを確認すると一番奥にあった古びたロッカーだけが開き、中は空だった。
俺は出口の魔術をかけ、その扉に鍵をさして回した。
すぐに戻るつもりだったのだ。
魔術本部の家に一度入り、そのまままたドアに鍵をさした。
行く先はもちろん、城下町の研究室兼自宅のアパートだ。
あそこにはまだ、短い間一緒に暮らした物や匂いが残っているはずだ。
それを感じたかった。
ガチャリとアパートの内ドアを開けた。
「………え…っ!?」
アパートの中も、やはり蒼く月の光に照らされていた。
何の音もなく時間が止まった。
その中でベッドに突っ伏すように誰かがいる。
突然開いたドアに驚いて上げた顔は泣いていた。
「………サー……。」
懐かしい声が時間を元通り動かしはじめる。
俺はしーっと口許に指を当て素早く動いた。
考える時間も必要もなかった。
立ち上がったその人を力強く抱き締める。
「…………………っ。」
お互い何も言わない。
ただそこに、その人が確かな質量を持ってそこにいた。
声を出してもしもの事があってはならない。
それに言葉にするには、それを何と言えばいいかわからなかった。
欲しかった温もりが俺を抱き締め返してくれる。
お互いの腕の中に求める相手がいた。
しばらくそのまま抱き締めあっていたが、確かにその人を感じられたことで少し気持ちが落ち着き、俺はやっと急いで音消しの魔術を使った。
「ウィル……もう話していいよ……。」
「遅いだろ……馬鹿……。」
顔を上げ俺を見つめる涙の後が残る顔を、そっと指で拭う。
俺のその手をウィルの手が静かに包んだ。
もう話しても大丈夫なのに俺たちは言葉を発しない。
言葉は音にせず、そのままお互い口移しで伝えた。
何度も何度も啄むように唇を重ねて想いを伝える。
「……サーク……。」
「ウィル、会いたかった……。」
伝えきれなかった想いが、言葉となって漏れた。
そして確かめるようにもう一度深く口付けた。
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