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第八章①「疑惑と逃亡編」
無言の内圧
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シルクが酒に強いものだから、飲ませる常連さんたちも昼間な事を忘れたのかぐいぐい飲んで歌なんか歌い出してる。
それに誘われて、馴染みの客が入ってきては飲んで歌い出す。
街角の目立たないバーは、昼時だと言うのに陽気な酔っぱらい達の歌声と笑い声が響いていた。
それに釣られて、また道行く町人や観光客が入ってくる。
「……何か、お祭り騒ぎになってしまった……。」
料理もいつ誰が頼んだかわからないものがテーブルに並び、馬鹿デカイジョッキがところ狭しと並ぶ。
店はいつの間にかマスターだけでなく、若いバーテンダーのお姉さんと、ボーイのお兄さんが入っていた。
マスターは調理台の前から動けなくなっている。
「シルク。」
「ふぁい??」
俺は歌うおっさん達の声に、足踏みをしながらうずうずしているシルクに声をかけた。
たくさん奢りが入って上機嫌に軽く酔っているようだ。
「踊っても良いが、昼間な事を忘れるなよ?」
苦笑いでそう言うと、シルクはぱぁっと顔を輝かせて立ち上がった。
店も狭くステージもないので、シルクは賑わう人と机の間を流れるようにステップを踏む。
おっさん達もシルクが踊っている事に気がつくと、熱を上げて歌い出した。
いつの間にか、入り口辺りのテーブルに集まっていたおばあちゃん達が、手や机を叩いたり、独特な合いの手を入れて大笑いしている。
町人に混ざっていた観光客は、店のショーでも始まったのかと盛り上がっている。
ここまで来ると、シルクがこの町に初めて来た旅人だと言っても誰も信じなそうだ。
拾った時こうなるようにと思ったが、本当にシルクはどこに流れてもこうやって生きていけそうだ。
「シルク!俺は用を済ませて来るから!ここに居ろ!」
「え!?一緒に……!!」
「いいから!せっかく来たんだ、少しは旅を楽しめ!すぐ戻るから!」
シルクはついてきたそうでもあり、ここに居たそうでもあり、複雑な顔で悩んでいた。
シルクを引き留めようと、おっさん達が歌声を強め、おばあちゃんの一人が立ち上がってシルクの手を取った。
意外な事にこのおばあちゃん、ステップを踏むのが上手い。
シルクの手に捕まりながらだが、楽しそうに踊っている。
シルクが笑って俺を見た。
だから俺は笑って頷いて見せた。
おばあちゃんに合わせて、シルクが踊り出すのを見届け、俺はバーテンダーのお姉さん越しにマスターに声をかけた。
「すみません!ちょっと用事を済ませて来ます!代金はひとまずこれで!また連れを迎えに来るとき、追加分は払います!」
俺が渡した代金を料理を作りながらマスターがチラリと見た。
お姉さんに頷くと、俺にグッドサインを出して見せる。
どうやら大丈夫なようだ。
シルクとおばあちゃんの躍りが見れないのは残念だが、俺はゆっくりはしていられない。
俺は店を出て、この町のギルドに向かった。
ギルドに来て、俺は自分が迂闊だった事に気づいた。
ここの研究施設に直接吸血鬼等を届けられるよう手続きを頼んだのだが、雲行きが怪しい。
シルクがいないからじゃない。
俺がトート迷宮のアタックを、自分の名前でやっていたせいた。
師匠といたのだから、師匠の同行者としておけば良かったのに、ボーンさんの存在に気をとられて、うっかり自分の名前を提出していた。
その為、売買確認や手続きが俺の名前になってしまい、書類を確定しに行ったっきり受付のお兄さんが帰ってこない。
ん~まずいかもしれない。
他の用事もあったんで、うっかり売りに来てしまったが、今はやめた方が良かった。
なんだかんだ、俺は結構、抜けている。
お兄さんが神経質そうなおじさんと戻ってきて、何やら話している。
ん~?ここはこれに頼るしかない。
「あの……?」
「あっ!すみません!まだちょっとかかっててっ!!」
声をかけると、お兄さんは慌ててそう言った。
おじさんの方はじとっとした目で俺を見ている。
掲示はされていないが、どうやらここにもお尋ね者のお知らせは届いているようだ。
「すみません、こちらを見て頂けますか??」
俺はそう言って、マダムから預かったキセルの包みを差し出した。
お兄さんが受け取り、おじさんがそれを開いた。
怪訝そうに眺めていたが、一瞬、え?と言う顔をして、俺に目を向ける。
「古くからいらっしゃる職員の方に見ていただければ、わかると思うのですが??」
にっこりと付け加えると、おじさんはキセルと俺を2度見3度見し、慌てて奥に走っていった。
残されたお兄さんは頭に疑問符をたくさん浮かべて俺を見たので、やはりにっこり笑う。
しばらくすると慌てた様子で奥からいかにも責任者といった風貌の厳ついおっさんが出てきて、お兄さんを退かしてカウンターに座った。
「……失礼した。ご要望の件はすぐに連絡させます。明日にでもこの書類を持って、直接お渡し下さい。代金もあちらが商品をチェックしてからこちらで支払う形になります。」
そう言いながら、スッとマダムのキセルを返してくる。
俺も黙って受け取り鞄にしまう。
「すみません、俺、ギルドの商業許可書も持ってるんですけど、直接、取引してあちらからそのまま代金を頂きたいのですが。」
「ああ、そうでしたね。商業許可書もお持ちでしたね。ではそのようにあちらに伝えておきます。ギルドへの納金分は、このギルドか所属のギルドにお願い致します。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「それから……。別件の方は、こちらも黙認という形で対応させて頂きますので……どうかご安心下さい。」
別件と言うのは、おそらく国からの追跡の件だ。
黙認と言うことは、気づかなかった事にするのだろう。
それを聞いたお兄さんはえっと慌てていて、おじさんの方はすでに素知らぬ顔をしている。
う~ん?これは信じても良いのだろうか?
本当に大丈夫なのかわからず、チラリとおっさんを見た。
途端、堂々とした雰囲気だったおっさんが、目に見えて青くなり始めた。
「本当です!!決して不利になるような事は何一つ致しません!!私のギルドから!貴方の不利益になるような事は絶対にさせません!!信用して下さいっ!!」
突然おっさんは必死になってそう言った。
慌てていたお兄さんも呆気にとられている。
「……あ、はい。わかりました……。」
驚きすぎて少し引き気味にそう言った俺に、代表者のおっさんはあからさまに胸を撫で下ろす。
マダムって、やっぱり何者なんだ??
キセルを見せただけでこの有り様だ。
ボーンさんもあんなに怖がってたし……。
手助けをしてくれるマダムに感謝しつつ、絶対にマダムは敵に回すまいと俺は思った。
それに誘われて、馴染みの客が入ってきては飲んで歌い出す。
街角の目立たないバーは、昼時だと言うのに陽気な酔っぱらい達の歌声と笑い声が響いていた。
それに釣られて、また道行く町人や観光客が入ってくる。
「……何か、お祭り騒ぎになってしまった……。」
料理もいつ誰が頼んだかわからないものがテーブルに並び、馬鹿デカイジョッキがところ狭しと並ぶ。
店はいつの間にかマスターだけでなく、若いバーテンダーのお姉さんと、ボーイのお兄さんが入っていた。
マスターは調理台の前から動けなくなっている。
「シルク。」
「ふぁい??」
俺は歌うおっさん達の声に、足踏みをしながらうずうずしているシルクに声をかけた。
たくさん奢りが入って上機嫌に軽く酔っているようだ。
「踊っても良いが、昼間な事を忘れるなよ?」
苦笑いでそう言うと、シルクはぱぁっと顔を輝かせて立ち上がった。
店も狭くステージもないので、シルクは賑わう人と机の間を流れるようにステップを踏む。
おっさん達もシルクが踊っている事に気がつくと、熱を上げて歌い出した。
いつの間にか、入り口辺りのテーブルに集まっていたおばあちゃん達が、手や机を叩いたり、独特な合いの手を入れて大笑いしている。
町人に混ざっていた観光客は、店のショーでも始まったのかと盛り上がっている。
ここまで来ると、シルクがこの町に初めて来た旅人だと言っても誰も信じなそうだ。
拾った時こうなるようにと思ったが、本当にシルクはどこに流れてもこうやって生きていけそうだ。
「シルク!俺は用を済ませて来るから!ここに居ろ!」
「え!?一緒に……!!」
「いいから!せっかく来たんだ、少しは旅を楽しめ!すぐ戻るから!」
シルクはついてきたそうでもあり、ここに居たそうでもあり、複雑な顔で悩んでいた。
シルクを引き留めようと、おっさん達が歌声を強め、おばあちゃんの一人が立ち上がってシルクの手を取った。
意外な事にこのおばあちゃん、ステップを踏むのが上手い。
シルクの手に捕まりながらだが、楽しそうに踊っている。
シルクが笑って俺を見た。
だから俺は笑って頷いて見せた。
おばあちゃんに合わせて、シルクが踊り出すのを見届け、俺はバーテンダーのお姉さん越しにマスターに声をかけた。
「すみません!ちょっと用事を済ませて来ます!代金はひとまずこれで!また連れを迎えに来るとき、追加分は払います!」
俺が渡した代金を料理を作りながらマスターがチラリと見た。
お姉さんに頷くと、俺にグッドサインを出して見せる。
どうやら大丈夫なようだ。
シルクとおばあちゃんの躍りが見れないのは残念だが、俺はゆっくりはしていられない。
俺は店を出て、この町のギルドに向かった。
ギルドに来て、俺は自分が迂闊だった事に気づいた。
ここの研究施設に直接吸血鬼等を届けられるよう手続きを頼んだのだが、雲行きが怪しい。
シルクがいないからじゃない。
俺がトート迷宮のアタックを、自分の名前でやっていたせいた。
師匠といたのだから、師匠の同行者としておけば良かったのに、ボーンさんの存在に気をとられて、うっかり自分の名前を提出していた。
その為、売買確認や手続きが俺の名前になってしまい、書類を確定しに行ったっきり受付のお兄さんが帰ってこない。
ん~まずいかもしれない。
他の用事もあったんで、うっかり売りに来てしまったが、今はやめた方が良かった。
なんだかんだ、俺は結構、抜けている。
お兄さんが神経質そうなおじさんと戻ってきて、何やら話している。
ん~?ここはこれに頼るしかない。
「あの……?」
「あっ!すみません!まだちょっとかかっててっ!!」
声をかけると、お兄さんは慌ててそう言った。
おじさんの方はじとっとした目で俺を見ている。
掲示はされていないが、どうやらここにもお尋ね者のお知らせは届いているようだ。
「すみません、こちらを見て頂けますか??」
俺はそう言って、マダムから預かったキセルの包みを差し出した。
お兄さんが受け取り、おじさんがそれを開いた。
怪訝そうに眺めていたが、一瞬、え?と言う顔をして、俺に目を向ける。
「古くからいらっしゃる職員の方に見ていただければ、わかると思うのですが??」
にっこりと付け加えると、おじさんはキセルと俺を2度見3度見し、慌てて奥に走っていった。
残されたお兄さんは頭に疑問符をたくさん浮かべて俺を見たので、やはりにっこり笑う。
しばらくすると慌てた様子で奥からいかにも責任者といった風貌の厳ついおっさんが出てきて、お兄さんを退かしてカウンターに座った。
「……失礼した。ご要望の件はすぐに連絡させます。明日にでもこの書類を持って、直接お渡し下さい。代金もあちらが商品をチェックしてからこちらで支払う形になります。」
そう言いながら、スッとマダムのキセルを返してくる。
俺も黙って受け取り鞄にしまう。
「すみません、俺、ギルドの商業許可書も持ってるんですけど、直接、取引してあちらからそのまま代金を頂きたいのですが。」
「ああ、そうでしたね。商業許可書もお持ちでしたね。ではそのようにあちらに伝えておきます。ギルドへの納金分は、このギルドか所属のギルドにお願い致します。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「それから……。別件の方は、こちらも黙認という形で対応させて頂きますので……どうかご安心下さい。」
別件と言うのは、おそらく国からの追跡の件だ。
黙認と言うことは、気づかなかった事にするのだろう。
それを聞いたお兄さんはえっと慌てていて、おじさんの方はすでに素知らぬ顔をしている。
う~ん?これは信じても良いのだろうか?
本当に大丈夫なのかわからず、チラリとおっさんを見た。
途端、堂々とした雰囲気だったおっさんが、目に見えて青くなり始めた。
「本当です!!決して不利になるような事は何一つ致しません!!私のギルドから!貴方の不利益になるような事は絶対にさせません!!信用して下さいっ!!」
突然おっさんは必死になってそう言った。
慌てていたお兄さんも呆気にとられている。
「……あ、はい。わかりました……。」
驚きすぎて少し引き気味にそう言った俺に、代表者のおっさんはあからさまに胸を撫で下ろす。
マダムって、やっぱり何者なんだ??
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ボーンさんもあんなに怖がってたし……。
手助けをしてくれるマダムに感謝しつつ、絶対にマダムは敵に回すまいと俺は思った。
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