欠片の軌跡③〜長い夢

ねぎ(塩ダレ)

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第五章「さすらい編」

再会

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風の神の洞窟神殿を抜け出し、俺はすぐに指先を小刀で切った。
血からアマツバメを1羽作る。
手に止まったそれに俺は伝言を託し、結界を抜けられるよう術をかけてから解き放った。

「頼んだぞ……。」

ここがどこかはわからないが、竜が外に出たのなら、空のどこかに抜け道がある筈だ。
必ず同じ場所を巡る渡り鳥なら、「帰るべき場所」を自ずと探し当てるだろう。

俺は村の方角へ走り出した。
岩山の山道を走るのは容易くはない。
呼吸を整え魔力を体に行き渡らせる。
体もだが、魔力も全快ではないにしろ回復している。
魔術兵だった俺はそれなりに直接戦闘にも対応できるが、それでも魔術師だ。
魔力がすっからかんでは心許ない。
これからお姫様を迎えに行くのに、魔力切れ状態ではいざという時に何もできなくて、何しに来たんだって事になりかねない。
俺は俺を回復させてくれたリアナとラニ、そして風の主に感謝した。

「何者だっ!!」

途中、村人と思われる武装した人々と遭遇した。
傷つける訳にはいかないが、何しろ捕らえようと攻撃してくるのでそれなりに対応するしかない。

「捕らえろ!侵入者だ!!」

そうなれば当然追われる訳だが、おいかけっこをしてる暇は俺にはない。

迎えに来たんだ、あいつを。

気持ちが高ぶる。
魔力探査した訳ではないけれど、ウィルがこの地にいる事を強く感じる。

相手にする時間も惜しい。
早く、早く会いたい。

遠目に村と思われるものが見えてきた。
あそこにいるのか?
わからないが向かうしかない。

俺が崖下を走っていると、前方の崖の上に探し続けたその姿を見た。

「!!」

俺は一瞬、呼吸を忘れた。

どれだけ会いたいと願っただろう?
どれだけの想いを積み上げただろう?

いつものきっちりした部隊の制服じゃない。
家で見るスマートな普段着でもない。

真っ白なローブみたいなものを着ていて、追ってらしい村人達と棒で応戦している。
だからと言って見間違えたりなどしない。

俺のお姫様は、おとなしく待ってたりなんかしないのだ。
その時だと思えば、自分から牢を抜け出して戦ってしまうような最高な人だ。

あの物静かな人が、武器を手に戦っている。
そんな姿もとても綺麗だった。

俺は身体強化して速度を上げだ。


「ウィルっ!!」

「?!」

「ウィル!飛び降りろっ!!」


俺の呼びかけに、ウィルが俺を見た。
時が止まったような一瞬だった。

見開かれた目。

俺たちの運命はまた繋がった。
そう確信できた。

目が合って俺を認識した。
そして考えるよりも早くウィルはその呼びかけに応えた。
俺の声にウィルは迷わなかった。
何の躊躇も見せずに、崖から飛び降りる。

俺は魔術で落下速度を遅くし、両腕を広げた。



「……サークっ!!」



聞きたいと切に願った声が俺の名を呼ぶ。

ずっと待っていたんだ、その時を。

腕の中にどすんと重みが飛び込んだ。
ああ、ちゃんと重さがある。

幻なんかじゃない。

言葉にならない想いが目頭を熱くする。
俺は強くその体を抱き締めた。



「ウィル……っ!!」



懐かしい匂い。
そのぬくもり。

やっと捕まえた。

たくさんの想いがあった。
たくさんの言葉があった。

なのに俺たちはいつも通りで……。



「来るなって言っただろ……っ!!」

「ごめん……。」

「……でも……嬉しい。会いたかった……。」

「うん。会いたかった……。」



俺が勝手に会いに行って怒られるのはいつもの事。
ウィルはいつもそんな俺を怒るけど、その後で嬉しいと言ってくれる。

ああ、会いたかった。

想いが強すぎてお互い言葉が出て来ない。

だが残念なことに、固く抱擁しているどころではない。
非常に心残りだが、ここで捕まったら元もこもない。
俺たちは体を離した。

「サーク、こっちっ!!」

ウィルが俺の手を引いて走り出す。
出口を知っているのかどんどん進む。

手だけはずっと握り締めたまま、俺たちは走った。
前を行くウィルをじっと見つめていて、俺は思わず言った。

「……ウィル、変な事言っていい?」

「なんだ?」

「花嫁さんみたい。」

正直、真っ白な儀式ローブを着たウィルを受け止めた時、不謹慎にもそう思った。
空から花嫁さんが降ってきたって。
だからこのまま連れ去ったら、俺のお嫁さんになってくれるんじゃないかと。
そんな事を思った。
俺の言葉にウィルは真っ赤になる。

「馬鹿!それどころじゃないのに!!」

「だから断ったじゃん。変な事言うよって。」

「~~後で覚えてろ!」

「……覚えてるよ、全部。ウィルの事、全部覚えてるよ。これからもずっと。」

前の事も。
これからの事も。

俺は忘れない。

大切な人だから、全部覚えていたい。

ウィルは腕や首まで真っ赤になっていた。
服が白いものだから、その赤みがとても目立つ。

「ウィル、真っ赤だね。」

「走ってるからだっ!!」

照れてる時は怒りっぽい。
そんなウィルが可愛くて仕方がない。
場違いにも俺はとても幸せだと思った。

時折、阻む村人に遭遇する。

追っ手も増えてきた。
姿隠しも使ってみたが、竜の谷の人々は魔術に長けているようで見つけられてしまった。
あまり手荒な事はしたくない。
ウィルも同じ考えのようだった。
何度となく道を変え、ウィルは次第に難しい顔をし始める。

「まずい……ポータルが全て押さえられた。」

「他に出れる場所は?」

物陰に隠れ、俺はウィルの顔を覗いた。
そして言葉を失った。

「ウィル!?」

びっくりした。
何度も瞬きしてその瞳を覗き込む。
慌てていたので気付かなかった。

「ウィル?!」

「え?」

「何で?!目の色が違う!?」

こんな時なのに俺はウィルの顔を両手で包み、まじまじとその顔を覗き込んだ。

そうなのだ。
ウィルの目の色が違った。

あまりに俺がその目を覗き込むので、ウィルはまた赤くなって困ったように小さく笑った。

「……これが本当の色だよ、サーク。」

「何で今まで違ったんだ?」

「目に色ガラスを入れてた。この目は目立つから……。」

ウィルの眼は驚くほど深い紺色をしていた。
それは本当にラピスラズリの様だった。

「深い青い眼は夜の宝石って言われるんだ。その役目の名でもある。俺ほど深い色は珍しいらしいけどね。」

ウィルの言葉に俺は深く納得する。

確かに夜の宝石だ。

何でそんな言い方をするのかと思っていたが、これを見てしまえば、他に表現のしようがない。

こんなにも静かで美しい夜の様な瞬きを宿した色があるだろうか?
俺はその眼を覗き込み、吸い寄せられるように口付けた。

「っ?!」

ウィルはさすがにこの状況だけにびっくりしていたけど、何も言わなかった。
こんな時に不謹慎だったけど止められなかった。

何度も角度を変えて啄むようにキスをする。
口付けを交わしたままウィルが俺に聞いてくる。

「……サークって、空、飛べるか?」

「う~ん、一か八かで良ければ。」

「それでいいよ。行こう……。」

ウィルはそう言うと、俺の首に腕を回し深い口付けをした。
俺からしておいてなんだけど、さすが状況が状況なので舌を入れるのは我慢していたのでやられてびっくりする。
だというのに、わざと悪戯にチュッと音を立てウィルは顔を離した。

「……酷くない?俺、我慢してたのに……。」

「俺は我慢しない。」

「……後で覚えてろよ?」

「ふふっ。覚えとく。」

クスッと笑った顔がなんだかセクシーで、妙にいたたまれない気分になった。
こんな時に不意打ちしないでよ、ウィル。
本当に、後で覚えてろよ……。

そんな俺の手を引き、またウィルがどこかに向かう。

俺たちは先を急いだ。
ウィルが新たに向かった場所はノーマークだったようで、追われるだけで前には誰もいない。

「どこに向かってるんだ?」

「竜のポータル。」

「竜のポータル?」

「問題は人間用じゃないから飛べないとまずい。」

「うわ~俺、責任重大だな~。」

「……見えてきた。」

見えたのは、開けた崖の割れ目。

まるで大きな飛び込み台のようなその場所の先は、ただ、空が広がっていた。
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