「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

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第三章「砂漠の国編」

決戦の朝

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「オーナー、何でこんなデカイ部屋に泊まってるんだ?」

風呂から上がるとシルクは勝手に備え付けのガウンを着て、俺の使っているベッドに寝転んでしまった。
部屋がデカイのは、部屋内に鍵つきのドアがある事を指定したらセミスイートルームになってしまっただけだ。

「お前……帰らない気だな?」

「こんな遅くに踊り子を一人で帰すの?オーナー?」

「……送ってやろうか?踊り子さん?」

「もう!!いいじゃん!こんなデカイ部屋なんだから!」

意地でもベッドから動こうとしないシルク。

まぁでも。
状況から考えて、ここに置いた方がいい。

だから、泊めるのは構わない。
構わないが……。

「そう言うなら!あっちのエキストラベッドに行けよ!何で俺の使ってるメインベッドで寝ようとしてんだよ!!」

「このベッドの方が大きいし、ふわふわしてるから。」

「お前な!!」

「失恋してのろけられた上に、オーナーが優しくしてくれない~っ!!」

「~~~~っ!!」

そう言って泣き真似をするシルク。

くそ……。
それを言われると、微妙に座りが悪い。

俺はベッドの端に座って頭を抱えた。
シルクは足をパタパタさせてこのベッドで寝る気満々だ。
これで無理に下ろそうと揉めても疲れるだけだろう。
俺は大きなため息を一つつく。

「……いつまでもその手が使えると思うなよ?」

何で俺の方がとは思うが、何だかんだ大変だったみたいだしな。
俺は仕方なくエキストラベッドに行こうとした。

しかし、その手をシルクが掴んだ。
今度は何だよ?!
ベッドは譲ってやっただろうが?!
だいぶ遅い時間という事もあり、俺は眠くなって苛立たしげに振り返る。

「おい、シルク!」

「お話しして欲しいな~。」

「子供か!!」

何だそれはと叱ろうとして、止まった。
シルクの顔は、ふざけた口調とは裏腹に、不安と悲しみ、寂しさを隠していた。

そうだな。
コイツは今日、色々な目に合った。
おちゃらけているが、それは素直に弱音を吐けないだけだ。

俺は何も言わず頭を撫でた。
撫でてやると、シルクは横になって目を閉じる。

殴られた傷も目立つ。
まだ魔術師と言う事は話していないから、眠ったら直してやろう。

「今日1日、一人でよく頑張ったな。」

「……うん。」

「殴られた事とかは明日、詳しく聞くから、今日はゆっくり休め。」

「うん……。」

しばらくそうしていると、すうすうと寝息を立ててシルクは眠った。

俺はそれを確認してから魔術を使った。
傷を治したりするのは専門外だが、殴られた傷等が体のあちこちにあったのだ、施せば少しはましになるだろう。

それにしても、金持ちってのはどこの誰だろう?
厄介な相手でなければいいのだが…。

下手な相手だと、シルクはもうこの町にはいられないだろう。

「にしても、よく、逃げて来れたな……。」

一度捕まって屋敷に連れて行かれたのなら、警備もあるのだから、そう簡単には逃げ出せないはずだ。
運が良かったのか、何かあるのか……。

「……オーナーの、匂い……。」

「?!」

シルクが突然喋ったのでびっくりした。
起きたのかと思ったが寝言だった。

というか、匂いって何だよ!?
恥ずかしいだろ!

俺はこっ恥ずかしくなって、急いでエキストラベッドに向かった。









俺とシルクはホテルの部屋で朝食をとった。
いつものように外で食べても良かったが、状況がわからないうちに、シルクを出歩かせるのは危険と思ったからだ。

だが、注文したルームサービスを届けにきたスタッフには何か勘違いされ「昨夜はお楽しみ頂けましたか?」などと言われた。

……シルク、後でぶん殴る。

まぁ夜中にあんだけ騒いで朝、二人分のルームサービスとったらそう思われても仕方ないわな……。

そのスタッフに頼み事をし、朝食を取りながら聞いたシルクの話は、大体昨日聞いた話と同じだった。

一人でステージを終えると、男がしつこく言い寄ってきた。
俺がいないから舐められてると思ったシルクは断固として断り、巻いて帰ろうとした。
だが大勢に取り囲まれてしまい、相手が一人だと思い込み油断していたシルクは連れ去られてしまったらしい。

「逃げて来たって言うが、どこだったか覚えてるのか?」

「うん。だってこの町一の金持ちの家だから、誰だって知ってるよ。」

豪華めのサンドイッチを頬張りながら、シルクは何でもない事のように言う。
コイツ……自分がどういう状況に陥ったか、わかってないな……。
俺は深いため息をついた。

「お前な……この町一の有権者の家から逃げてきたって……。」

俺は頭を抱えた。

シルクは少し話題に成りすぎたようだ。
良かれと思い全面的に売り出したが、店に守られていないピンの踊り子などにはこういう局面が存在するのを失念していた。

もう、この街でシルクが踊るのは難しいだろう。
可哀想だが、別の町に移った方がいい。

「……シルク、お前さ?俺が一緒に行こうと言ったら、一緒にこの町を出る気はあるか?」

急に俺にそう言われ、シルクはぽかんとした後、急に沸騰したように真っ赤になった。
そしてテーブルにあったナプキンを投げつけてくる。

「ちょっ?!」

「なっ何だよ!それ!!俺!昨日フラれたばっかなのに!そんな事言うのか!?」

ぷりぷり怒りだすシルク。
俺は一瞬、何を言われたのかわからなかったが、どうやら身受けする的な捉え方をされた様だ。

「変な意味じゃなくて!!お前、多分この街で踊るのは難しくなると思ったから!!この町が好きで、ここで暮らして行きたいのか、それとも別の町とかに移るのも平気なのかと思って!!」

「オーナー嫌い!!言い方考えろ!!」

「答えになってないだろ!?」

シルクは真っ赤な顔で手当り次第に物を投げてくる。
しかし食べ物は絶対投げず、口の中に放り込むあたり、ちゃっかりしてるなぁと思う。
そして投げる物もなくなり落ち着いてくると、グイッとグラスの水を飲み干した。

「……出ても平気だよ。ここだってたまたま流れ着いただけだから。俺はどこにも拘らない。どこでだって生きていける。」

荒れた自分がちょっと恥ずかしかったのか、ぷいっとそっぽを向きながらそう言った。
俺はその答えに安心して笑った。

「そっか。じゃあ俺と行こう。」

「……うん。」

「どこかお前が落ち着いて踊れる街を探そう。いいな?」

「わかった。俺、オーナーと行くっ!」

そう言って二ヘヘッとシルクは笑った。
何だか嬉しそうだ。
るんるんと俺の分までフルーツを食いながらニコニコしている。
さっきまでの不機嫌さが嘘みたいに上機嫌だ。
俺は少し呆れてため息をつく。

「お前な~遊びに行くんじゃないんだぞ?今、多分、お前結構ヤバい状況だからな?」

「……そうなのか?」

やっぱりわかっていない。
それでよく、ここまで一人でやってこれたなぁと思う。

とはいえ、シルクがその気なら善は急げだ。
俺は今日の動きを簡単に説明する。

「ここ出たらまず、お前の家に寄る。どうしても持っていかないといけない物だけ持ってこい。下手に部屋の中を片付けたり、荷物が多くても駄目だ。いつも通り、また帰ってくる感じにしとけ。」

「え?行くって今すぐなの!?」

「状況にもよるが、最悪はそうなる。」

最悪というか、多分、そうなる。
少しでも早い方がいい。
下手に時間を食えば、向こうに追手の準備をさせるだけだ。

そんな話をしているうちに、先程のスタッフがやって来た。
少し荒れ放題のテーブルに目を見開いたが、そこはプロ。
平静を保ち、俺に微笑んだ。

「こちらが頼まれていたものでございます。」

「ありがとう。暫くしたら出掛けますので、その際、オーナーと一言二言話したいのですが、お願いできますか?」

「伝えておきます。」

少し多めのチップを渡す。
彼はそれに穏やかな笑みを見せた。
まぁこの惨状と無理を言ってるお詫びだしな。
スタッフが去ると、シルクが興味津々で話しかけてくる。

「ホテル代踏み倒すの!?」

「アホか。それをしないために、今、小細工してるんだろうが!?ホテルには何の非もないのに、迷惑かけられるかよ。」

「オーナーって真面目。」

「常識があるだけだ。馬鹿シルクっ。」

俺はスタッフから受け取ったメモを見た。
そこにはここまでの利用金額が書かれていた。
俺はその代金に多めの色を添えて包み、チップとして部屋にもそれなりの金額を置いた。

「もったいない~。」

「馬鹿な事言ってないで行くぞ?」









「今朝は素敵な目覚めをされたようですね。」

ホテルのオーナーは開口一番、にこやかに言った。
俺は引き攣った笑みを浮かべるしかない。
もういい。
そう思いたいならそう思わせておけば……。

「ああ、ありがとう。」

俺はやけっぱちになって、にっこり笑った。

確かにあの時間に踊り子が訪ねてきて一晩一緒に過ごしたんだから、そう思われても仕方ないけどさぁ~。
俺はちんこも勃たないっての。

そんな俺の考えなど露知らず、にこやかに微笑むオーナー。

「お話があると伺っておりますが?」

「ああ、実は予定より長く滞在することになりそうでして。」

「なるほど、長期ステイですね?」

ピキュン、とばかりにオーナーの目が光る。
俺がシルクのプロデュースをしているのはこの街ではもう有名だし、長期ステイの理由としても最もらしい。
なので俺もそれっぽく振る舞う。

「ああ。ただそうなると、そちらも代金の支払いが心配になると思い、一先ず、今日までの分を包んできました。」

「これはお気遣い頂き、ありがとうございます。長期ステイの件、承知致しました。いってらっしゃいませ。ハクマ様。」

オーナーと受付が恭しく頭を下げた。
こんな辺鄙な街に他国の旅人が来る事は珍しいから、俺はそれなりに上客扱いを受けているからだ。
颯爽と出ていく俺の後ろをシルクがふわふわついてくる。

「オーナーって……金持ちなのか?」

「いや?ただの平民だけど?何か??」

単に王子を守った報奨金とか、魔術本部に属する事になったから気持ちばかり収入が増えたりとか、暫く研究や実験が出来ていないから出費がないとかが重なって、一時的にちょっと蓄えがあるってだけだ。

腑に落ちないと言ったシルクの顔を見て、俺は少し笑ってしまった。
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