「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

文字の大きさ
18 / 57
第三章「砂漠の国編」

好一対

しおりを挟む
明け方帰って来たシルクは、物凄く上機嫌で、うふふと笑いながらベッドに入って寝てしまった。
その事に気づきながらも、俺は寝た振りをしていた。

……笑顔が怖い。

何だろう……表現のしようがないけれど、怖い……。
そして日が完全に登ってから体を起こしたが、シルクはニマニマ満足そうにニヤけながら寝ていた。
変に肌艶が良いのも怖い……。

起こす訳にもいかないので、俺は1人で朝食を食べに行った。
店は開いているというより、店先で軽食を数種類売っていて、その辺で勝手に食べる感じだ。
街の様子を見ることも兼ね、適当な柵に腰掛けて食べていると、何人かの軍人にシルクの事を聞かれた。
本当の事は言えないので、朝が弱いんだと伝えておいた。
そしてシルクの分を包んでもらい、持ち帰る。

「……で?どうだった?」

宿に戻ると、シルクは目は覚ましていたが、ベッドでごろごろしていた。
俺がそう声をかけると、シルクは満面の笑みで朝食の包みを受けとる。

「凄かった……。」

うっとり、と言った調子でそう言われる。
ぽ~と夢見心地のシルク。

違う。
そうじゃない。
俺が聞きたいのはそこじゃない。

「いや、そうじゃなくて……。」

そう訂正を入れる俺。
けれどシルクは怒涛の勢いで喋りだした。

「も~!彼!!凄いジェントルマンでさ~!優しいし!欲しい言葉もくれるし!でもいざってなると強引で~!!下積みで鍛えられた精神と肉体!?脱いだら凄いんですって感じ!!かなり雄って感じで激しく求められてさ~!!ちょっと溺れそうになったよ~!!素敵~!!」

「…………。」

「でね~!終わった後も素敵でさ~!硬い胸板で優しく抱き締めてくれて~!!」

「……シルクさん!?シルクさん!!そっちの報告はしなくていいから!!違うから!!」

「え~いいじゃん!!のろけさせてよ~!!」

「勘弁してください……。」

嬉々として、興奮覚めならぬ調子で情事の報告をされ、俺は半泣きだ。

まぁ、うん…。
あなたが楽しかったのならそれでいいです……。

シルクは鼻歌を歌いながら朝食にかぶりついている。

とはいえ、セックスしたいと呪いの呪文のように唱えていた不安定さが憑き物が落ちたように安定したので、これで良かったのだろう……。
俺はそう、自分を納得させる。

食べ終えたシルクはぺろりと指をなめた。
食欲も満たされたので、顔がだいぶ落ち着いていた。

「そんな特に言ってなかったよ~。彼、元々愚痴とか言わないタイプだしさ~。上と下との板挟みで大変な感じかな?最近、他国の兵が来るらしいんだけど、そいつらが我が物顔で威張るから部下の不満が凄いって。俺が踊って少しは気が紛れただろうからありがとうって言われた。」

「他国の兵士?」

「ん~東から来たって言ってたかな?」

「……そうか。」

俺は少し考えた。
東と言われても、どこの国かはわからない。

ただ、王国もここからみれば東だ。
それで2つを結びつけるには情報が頼り無さすぎるし、早合点は危険だ。

「オーナー?」

「ん?いや、何でもない。ありがとう。」

「どういたしまして。」

礼を言うと、シルクはにっこりと笑った。
そして何とも言えない幸せそうな顔をする。

「ふふふっ。」

「なんだよ、のろけはもういいぞ!?」

「違くてさ。」

「ならなんだ?」

「……俺とオーナー、いいコンビだと思わない!?」

ニッと笑っていうシルクの顔を俺は見返した。
言われてみればそうかもしれない。

俺とシルクは最近出会ったばかりだ。
でも昔からの悪友のように、妙に息が合う。
性格や特性は正反対なくらい違うのに、妙に一緒にいて馴染むのだ。

「そうかもな。」

そう言ってニッと笑うとシルクもニッと笑う。
シルクが片手をあげ、俺はパチンとその手を叩いた。

片や、戦闘も可能な元魔術兵。
片や、かつて1人で100人の兵と同じと言われた演舞の躍り手。

だが何よりのシルクの武器は、その身1つで多くの人間を魅了する力だ。
魔術がどんなに強くても、人の心を掴む事は出来ない。

ひょっとして俺は、とんでもないものを拾ったのか?

そう思ってシルクを見るが、シルクはまたも何かを思い出したのか、一人でぐふぐふと笑っている。
俺はその顔に恐れ慄いて引いた。

怖い……。
シルクが得体がしれなすぎて怖い……。

……………………。

見なかったことにしよう。
うん。

俺は旅の支度を整え始める。
シルクはニマニマ笑って、奇声をあげながらベッドの上をゴロゴロ転がっていた。

……怖い。






宿を出て、旅路につく。
シルクがすれ違う軍人達に愛想を振り撒いている。
俺はそれを横目で見ながら考えていた。

「さて、どうしたもんだろう?」

「何が~?」

「次の行き先だよ。宮殿のある王都に出て全体の情報収集を1度するか、お前が囲われていた場所に行って痕跡を探すか……。」

ここからはシルクの欠片探しだ。
その為にまず何をすべきかと俺は考えていた。
俺の言葉に、シルクは少しだけ複雑な顔をした。
その顔を見て苦笑し、宥めるように頭を撫でてやる。

「……お前には辛い場所だよな。ごめん。」

「いやいい。いずれ向き合わないといけない事だったから……。それに1人だと不安だけど、今の俺にはオーナーがいるしさ。そっちの方がここから近いし、行こう、オーナー。」

シルクは自分に言い聞かせるようにそう言った。
向けられる信頼の重みを俺は噛み締める。

いずれ向き合わないといけない場所。

シルクは今、そこに行こうとしている。
それがどれだけ重い決断か、少しは俺にもわかるつもりだ。

シルクの重さには全く届かないけれど、俺も近い将来、そうやって向き合わなければならない。
今は逃げているけれど、いずれ向き合わなければならない。

「……いいんだな?」

「うん。」

シルクはそう言って俺にひっついた。
微かに不安の残る手が俺の指に触れた。
何も言わずにその手を1度だけ強く握る。

シルクは強い。
俺なんかとは比べ物にならないほど重いモノを背負っているのに、逃げなかった。

俺はそんなシルクといる事で、自分の不安が和らぐのを感じていた。

「シルクがいてくれて良かったよ。」

「何それ?俺のセリフじゃない!?」

「ん~、まぁそうなんだけどさ。」

「俺はオーナーの側にいるよ。」

「うん。」

「だって愛人だし~。」

ニマッと笑ってそう言われる。
俺は真っ赤になり、慌ててシルクを引き剥がそうとした。
しかしさすがは演舞の踊り手。
俺なんかが太刀打ちできる相手じゃない。
しっかり引っ付いて離れやしない。

「おま…っ!!やめろよ!あれはただの口実だろ!?」

「え~?1度口から出た言葉は戻らないぞ~。オーナー?」

「と言うかさ、お前、いつまで俺の事、オーナーって呼ぶの?」

「だって名前知らないし~?」

「あれ?言ってなかったか?」

「言ってない!教えてもらってない!」

「ごめんごめん。サークだよ。ハクマ・サーク。俺の名前。」

「ふ~ん。サークか~。」

シルクは暫く、俺の名前を口の中で転がしていた。
どう呼ぶか考えているようだ。

「じゃ、オーナーで!」

結局、シルクの口から出てきたのはそれだった。
俺はぽかんとした後、笑ってしまった。

「なんだよ、それ!名前教えた意味ないじゃん!」

「だってオーナーの方がしっくりくるし~。サークって変~。オーナーに似合わない~。」

「お前、酷くない!?人の名前に!!」

「いいの~オーナーはオーナーだからオーナーで!!」

「シルクお前、何言ってるかわかんない。」

馬鹿な事を言いながら笑い合う。
手だけはしっかりと繋いだまま。

こうして俺達はふたりで、シルクの「向き合わないといけない場所」に足を進めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

処理中です...